シュタインとの婚姻の話を進めるため、
私はシュタイン王国へと招かれて行くことになった。
新しいワンピースに着替えて城の外に出ると、そこにはジルの姿がある。
「ジル……」
ジル「私はこちらで片付けることがありますので、すぐには向かえませんが、」
ジル「ユーリがシュタインでも変わらずあなたの側にいますので、安心してください」
ジルの言葉に、私はしっかりと頷き答えた。
「はい……」
(ジルがいないと、不安な部分もまだたくさんある。でも……)
そして側に控えていたユーリに視線をむけると、笑みを浮かべる。
「よろしくね、ユーリ」
(ユーリがいてくれるというだけで、心強い)
ユーリ「……うん」
けれど答えるユーリの声に、どこか元気がない。
私はその顔を覗きこみ、尋ねた。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
すると驚いたように目を瞬かせたユーリが、いつもの笑みを浮かべる。
ユーリ「心配してくれてありがとう。大丈夫だよ」
そして私は馬車に乗りこみ、シュタインへと向かうことになった。
ふと窓の外を眺めると、そこには城下の市場が見える。
(ここをゼノ様と歩いただなんて、何だか信じられないな……)
窓枠に手をつくと短く息をつき、その時のことを思い出していった。
それはゼノ様に頼まれ城下を案内していた時のこと…―。
ゼノ「随分、活気があるな」
感心した様子で呟き、ゼノ様が辺りを見渡している。
「…………」
(こんなところにゼノ様が立っていらっしゃるなんて、)
(やっぱり、変な感じがする)
道を歩く人々もみな、ゼノ様に注目しているようだった。
(そうだよね。こんな綺麗な方、城下にはなかなかいないから)
さらにゼノ様から溢れる気品や威厳は、隠しきれるものではなかった。
(みんな、びっくりしているだろうな……)
考えていると、私はふと気づき辺りを見回す。
「あれ?アランは……?」
先程まで私の後ろについていてくれた、アランの姿がない。
ゼノ「アルバートも姿が見えないな」
同じように振り返るゼノ様が、呟いた。
ゼノ「はぐれたのか」
(こんな人混みだから、仕方がないかも……)
私は少し道を外れた路地裏を指さし、ゼノ様に言う。
「あそこで少し待ちましょう。人も少ないし、この道もよく見えますから」
私としては見つからなくてもいいんだけど(・∀・`)
そうして私はゼノ様と共に、アランとアルバートを待つことになった。
市場の喧騒に紛れ、私たちはただ黙ったまま立っていた。
ふと見上げると、ゼノ様はまだ興味深そうに人々を眺めている。
ゼノ「…………」
(ずっと黙っていらっしゃるけど……)
(なんだかゼノ様が、楽しそうで良かった)
楽しそうなゼノ様萌え(*ノωノ)♡
不思議と居心地の悪くない沈黙に、私は口元をほころばせた。
すると、その時…―。
路地裏の奥から、元気よく子どもたちが走って来る。
何のためらいもなく近づいてくるその様子に、思わず動けずにいた。
(あ……ぶつかる)
思った瞬間、肩を引き寄せられる。
「……っ」
きゃーーー(///∇//)
驚き見上げると、すぐ近くにゼノ様の顔が見えた。
肩先にわずかに触れた指先の力に鼓動が大きく跳ね、私は息を呑む。
「あ、ありがとうございます……」
慌てて言うと、ゼノ様の手はするりと肩から離れていった。
ゼノ「ああ……」
子どもたちの後ろ姿を見つめたまま、ゼノ様が呟く。
その視線を追い、私はふっと笑みをこぼした。
(こんな風に、ウィスタリアの元気なところを見せられてよかった)
考えていると、いつのまにかゼノ様が私のことを見おろしている。
ゼノ「……お前はよく笑うな」
「え?」
思わず声をあげると、ゼノ様の視線が再び道の方へと向いた。
ゼノ「良い環境で育ったのだな」
「……ゼノ様?」
(どういう、意味だろう……)
その時、道の方から私たちを呼ぶアランとアルバートの声が響いてきた。
いいところで邪魔してー(・ω・´)メッ←
ユーリ「○○様……○○様」
ユーリの呼び声に、私ははっと顔を上げた。
「……っ」
ユーリ「もうすぐシュタインに着くけど……大丈夫?」
いつの間にかユーリが、私の顔を覗きこんでいる。
(考え事をしていたから、気が付かなかった……)
窓の外の景色はいつの間にか代わり、シュタイン城を映していた。
ふと視線を向けると、ユーリもどこか不安そうに眉じりを下げている。
(ユーリに、心配をかけるわけにもいかないよね)
私は首を横に振り、笑みを浮かべてみせた。
「……うん、大丈夫」
ワンピースの上に手を置き、私はゆっくりと頷く。
そして顔を上げると、もう一度窓の外を見つめた。
(少しずつでもいい)
(ゼノ様のことを、わかっていけたらいいな……)
End