第1話
剣……それは古くから使われている手元用武器の1つ。日本の場合は日本刀を指す場合もある。
主に対象を刃の部分で切断するための刃物である。狭義では刃が左右両方にある両刃のものを指し、この場合片刃のものは刀というが、これらをひっくるめて剣という場合も多い。
剣の歴史については、新石器時代から使われていたとされ、木剣や石を削って作られた剣があったという。その後金属を加工する技術が生まれ発展していくと、銅や青銅、鉄を使った剣が製造されていき、やがて現在に至る。銃が発達する前は兵士の基本装備の一つだった。
剣や刀は男にとっては一種のロマンである。魔剣、妖刀などもファンタジー要素が入った作品では高確率で出てくるほど浸透した武器である。刃物……といえば普通の人にとっては危険な物という認識が強いだろう。しかし、それはあくまで使い手に問題があるのであっては物と言うのは本来職人の手による作品、芸術品と言っても過言ではない。
「というわけで本来、刀や剣と言うものはとても素晴らしい物なのだ。わかったかね」
「……それ、もう何回目だよ」
俺が刀剣の素晴らしさについて語っていると目の前の友人はうんざりしたように言う。
「んーと、ざっと759回目?」
「そんなに話してる自覚あんなら自重しろっつうの」
「馬鹿め、素晴らしい話と言うのは何度話しても良い物なのだよ。それじゃあ、次は……」
「ああもうやめやめ!俺は、てめえの話を聞きたくてINしてんじゃねえんだよ!」
俺が次の話をしようとすると、友人は手をバタバタ振り話を遮る。
「こちとら、夕方からはレポートまとめなきゃなんねーんだ。てめえのくだらねえ話に付き合ってる暇はねえんだよ」
そういうと友人は近くに立てかけていた杖を掴むと席を立つ。
「おおう、もうこんな時間か。刀剣類について話しているとあっという間だな」
「まったく……普段のお前は常識人なのに刃物が絡むと変人に早変わりなんだもんなあ」
「まあ、そう言うなファルコンよ。お前も刀剣についての素晴らしさが分かれば俺の気持ちも」
「変人になるくらいなら分かりたくねーよ。それじゃ、俺はダンジョンで素材集めてくるわ。お前も来るか?」
「いや、俺は俺で別のとこ行きたいからな。ほら、最近実装されたあのダンジョン」
「ああ、剣を扱うジョブだけがいけるダンジョンだっけか。それぞれの扱う武器で行けるダンジョンが違うってのも面白いよな。ま、俺もそのうち行ってみようかな。それじゃあ、明日学校でな」
そう言い残し、友人はその場から一瞬で姿を消す。
Another World VR技術が発達してきたこの世界で現在最も人気のあるVRMMOである。
職業の多さはもちろん、スキルや武器防具なども豊富で自由度の高いゲームである。VR専用のヘッドギアも出た当初に比べ格段に安くなり学生にも買えるようになってきた。
先ほどのファルコンも、俺の学友である。もちろん、バリバリの日本人でファルコンなんて名前ではないのだが、ゲーム内で本名はアレなのでPC名で呼んでいる。ちなみに、彼のジョブは大魔導師 ( スペルマスター ) 、魔力、魔法の威力共にトップクラスのジョブだ。
そうそう、俺の名は草薙 ( くさなぎ ) 大和 ( やまと ) ごく一般的な……いや、刀剣などの刃物が大好きな大学2年生である。PC名は考えるのがめんどかったんで普通にヤマトだ。
実家の先祖が侍だったためか、蔵には高そうな鎧や刀が置いてある。昔、蔵でかくれんぼをしていた時に刀を見つけ悪戯心に刀を抜いたら、天窓から入る日光で輝く刀身に魅了されたのだ。もっとも、その後親に勝手に抜くなとこっぴどく怒られたが……
それ以来、俺は刀に限らず短剣や西洋剣など実在の刀剣から魔剣や妖刀などと呼ばれるファンタジー武器まで無類の刃物好きになった。俺の自室にも模造刀が何本かある。本当はより本物に近い美術刀が欲しいのだが高価なので、卒業したら本格的に金を貯めて買う予定だ。
もちろん、刀剣が好きならばそれを振り回してみたいというのもある。しかし、分別は有るのでそんなものを振り回したら危険極まりないのは理解しているため妄想にとどめている。そんなある日、友人のファルコンにこのゲームに誘われたのだ。そんなに刃物が好きならゲーム内で好きなだけ振り回してみないかと。
最初、所詮ゲームには本物の良さは再現できないと馬鹿にして断っていたがあまりにも友人が勧めるため、少しだけならとやってみたが馬鹿にしてた自分が恥ずかしくなるほどの再現度だった。
剣に関しては残念ながら本物を手に取ったことが無いため比較できないが刀に関しては現実と遜色ない出来栄えだった。手にかかる程よい重み、太陽の光反射して煌く美しい刀身。どれをとっても完璧だった。しかも、このAWには魔剣や妖刀も存在するという。
そんな情報を聞いて、俺はどんどんAWにハマって行った。
AWには、当然ジョブによって装備できる武器が違う。剣なら剣士 ( ソードマン ) 。大剣なら撃剣士 ( グランドソード ) 、双剣なら双剣士 ( ツインソード ) と、大分類なら同じ剣でもこのように細分化されている。当然、俺は刀剣は全て使いたい為どの職にするか長時間迷う事となる。何か良い物は無いかと友人に相談すれば召剣士 ( ソードサモナー ) を紹介された。
召剣士は、その名の通り剣を召喚して戦う変則スタイルだ。その特性上分類が剣(刀)となっているものは全て装備することが出来る。最初は1種類(選択制)だけだがレベルが上がるにつれて装備できる武器が増えていくのだ。当然、俺は現在カンストしておりすべての刀剣を装備できる。まあ、おかげで俺のアイテムボックスは課金して最大限のスロット数でその半数が刀剣で埋まっているという現状があるが後悔はしていない。
んで、ソードサモナーだが当然デメリットもある。まず、全種類と聞くと万能のように思えるが実際はただの器用貧乏である。他の専門職に比べると多くの武器を使える分火力が低い。実際、ソードサモナーをPTに入れるよりだったら専門職を入れた方がずっと効率がいい。
武器には熟練度があり専門職は1種類の為比較的早く熟練度が上がるがソードサモナーは装備する武器の分だけ上げなければいけないため時間がかかる。まあ、俺はそれでも全部熟練度マックスにしましたがね(ドヤァ)
あとデメリットと言えばソードサモナーは防御力がそれほど高くない。通常、刀剣を扱う職と言うのは接近戦が多くなるため防御も固くなる。しかし、ソードサモナーは召喚して剣を射出したりと中距離でも戦えてしまうため他のジョブとのバランスも考え全体的に中途半端になっている。このジョブをやるのは、よっぽどの物好きしか居ないとは友人の談。ならば、なぜ勧めたと問えばお前は変人だから大丈夫だと返ってきた。まあ、実際大丈夫でしたがね!
んで、AWでは、ジョブの他に種族もステータスに関係してくる。人間は平均的、獣人はパワー、スピード エルフ、魔族は魔力とこんな感じだ。
普通の近接職ならば人間かパワータイプの獣人を選ぶところなのだが、ソードサモナーは剣を召喚するのに魔力を消費する為、必然的に魔力の高い種族を選ぶこととなる。尚且つ、近接でも戦う事があるため、獣人ほどではないがスピードに恩恵のあるエルフを俺は選択した。
VRMMOでは基本、自分の見た目は大きくいじれない。やろうと思えばできるのだがあまりにかけ離れると能面みたいな不自然な顔になる。実際、俺もエルフっぽく耳が尖っただけであとは、日本人らしい黒髪に平凡な顔つきだ。
とまあ、長ったらしい説明はこの辺にしておこう。
「ふむ、こんなもんかな」
俺は、新しく実装されたダンジョンで敵を狩りつつ趣味の刀剣集めに勤しんでいた。自慢では無いがAWの刀剣類は、ほとんどコンプしている。おかげで倉庫も拡張しさらに複数の倉庫を持っている状態だ。そんな集めてどうすんだと友人に聞かれたから眺めて1日中ニヤニヤしてるって言ったらドン引きされた。Why?
「そろそろ、腹も減ったし一旦ログアウトして……っておろ?」
時間は、18時を回ったところでいざログアウトしようとすると運営からメールが来ていた。腹も減っていたが運営からのメールが気になったので俺は先にそれを開くことにする。
おめでとうございます!
ヤマト様は、この度カテゴリー『剣』『刀』のコンプリート率が95%を越えました。それを祝しまして、シークレットクエスト『7本の魔剣』を受ける権利を得られました。つきましては、当クエストを受けるためのキーアイテムを送付いたします。これからもAWをご愛顧のほどよろしくお願いいたします。
追記:公平を期すため、この情報は他言無用でお願いいたします。あくまで、このクエストはご自身の実力のみで達成された方のみにお知らせしております。
「シークレットクエスト?」
そんな噂は聞いたことが無いが、他言無用ってことは他にもいるかもしれないな。クエの名前から察するに7本の武器を探し出すってとこか?シークレット言うくらいなのだからきっと素晴らしい報酬が待っている事なのだろう。添付されていたアイテムを見るとキーアイテム『異界への招待状』と書かれていた。これが、シークレットクエストを受けるためのアイテムなのだろう。使用条件を見れば、このアイテムを使用した時点でクエが開始されるらしい。
腹は減ってはいるが、とりあえずどういうクエか気になったので俺はそのアイテムを使用する。
「『7本の魔剣』を開始いたしますか?一度キャンセルすれば二度と受けることはできません」
なるほど、一回限りのクエか。まあ、最初から受ける気だったので俺は迷わず『YES』を選択する。その瞬間、俺の意識はそこで途切れたのだった。
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