枯山水 5月例会報告
参加者 中川経治先生はじめ20名
場所 東京凌霜クラブ
講師 前田 和秀氏 (41回生) 潟Vンシ 取締役社長
演題 大型アクリルパネル使用の水族館―現状と将来―
前田和秀氏は三菱レイヨンに入社以来一貫してアクリル樹脂の営業を担当され、国内外の大型アクリルパネルの開発・製作のリーディングカンパニーとして関与されました。現在もアクリルパネルの製作・据付を行う潟Vンシを経営されています。国内外の有名な大型水槽の多くは同社グループが手がけたものと言えそうです。
現在の水族館の大型水槽はガラスでは作ることが出来ず、アクリルパネルで作られているそうです。
そもそも大型水槽が何でできているか、どうやって作るのかなどこれまで考えてみたこともありませんでしたが、オフレコの話しもあり、面白いエピソード満載で予想以上に大変興味深い講演でした。
以下 概要のみ報告します。 (水上 進 記)
日本の水族館の水槽としては明治15年に上野動物園にできたガラス製の観魚室が最初。世界で最初にアクリルパネルを採用したのは1966年の上野動物園水族館大水槽で、このときは3枚のアクリル板を重合接着した70mm厚のパネルを枠にはめ込んで製作したもの。
以後数々の水族館の水槽がアクリルパネルで造られてきて、最近では水槽が大型化するにつれ厚みが増してきた。沖縄ちゅら海(美ら海)水族館では600mm、シンガポールでは700mm、さらに計画中のものは800mmなど、ますます大型化しているそうです。
パネルの接合は接着剤により行うが、アクリルモノマーを使用した接着剤(アクリルシラップ)を開発し、1974年沖縄海洋博覧会から使用している。この接着剤により品質が安定するようになった。接着方法は2枚のアクリル板の間に、ごみ・虫など入らぬように注意しながら接着剤を流し込んで積み重ね、加熱炉でアニールして接着剤の重合度を高める。そして、できた部材を現地で組み立てる際にもアクリルシラップで接着し、アニールするが、一定温度範囲に保つのに苦労するそうです。またアニール条件を間違うと接着部に泡が発生し、白濁したり割れたりすることもあるので、慎重に行う必要がある。
最近の水槽は大型化しているだけでなく、形も変わった形が増えて難しくなっている。1979年には世界初のトンネル水槽をフロリダのシーワールドに納入。1988年の和歌山県の串本海中公園のトンネル水槽は、世界初のシームレス水槽。その他、斜めに傾斜した水槽にトンネルを通すなど、コンピューターを駆使してようやく加工できる形状の要求が増えている。しかし、値段は聞いて驚くほど安いものでした。(もっと高く売れれば外貨も稼げるのに)
今回の東日本大震災では多くの水族館が被災したが、アクリル水槽で壊れたものは無かったそうです。もともと水圧に耐えるよう設計されているので、構造物としての必要強度の10倍以上の強度を有しているとのことです。
水槽以外にもいろいろ興味ある用途に採用されていて、深海探査船、深海6500の窓などなるほどというものから、潜水艇のソナーのレンズや宇宙望遠鏡のレンズのようにびっくりするようなものまで多くの実例を紹介されました。
現在大型の水槽パネルを製作しているのは アメリカのレイノルズ社、四国高松の日プラ社と 前田氏の菱晃(三菱レイヨンから移管)―シンシグループの3社のみだそうです。
(前述の講演内容から見ると先駆的な技術はすべてシンシグループによるもので、真にリーディングカンパニーといえそうです。)
なお現在、内外の大型水槽の計画が目白押しの状態、さらに2020年頃には国内の大型水槽のリニューアル時期になるそうで、将来も明るそうで、他の業界もあやかりたいものです。(ただし値段は別)
講師の前田和秀氏[41回生]