9月1日の防災の日を前に首都圏ネットワークでは首都圏を襲う巨大災害への備えについてシリーズでお伝えします。
1回目は富士山の噴火災害です。
去年3月の巨大地震以降、専門家は国内の火山が噴火する危険が以前より高まったと指摘しています。
特に富士山が噴火して首都圏に大量の火山灰が降り注げば大都市がかつて経験したことがない事態に追い込まれる可能性が出ています。
日本の最高峰、富士山は、平安時代のころまでは数十年おきに噴火を繰り返してきました。
前回、およそ300年前の江戸時代に富士山が噴火したときに書き残された絵図です。
「宝永の噴火」と呼ばれ、巨大地震が発生したおよそ1か月後に起きたとされています。
火山噴火予知連絡会の会長で東京大学の藤井敏嗣名誉教授は去年3月、マグニチュード9の東日本大震災が起きたことを受けて富士山の大規模な噴火を懸念しています。
藤井敏嗣名誉教授は「今までに世界で20世紀以来起こっているマグニチュード9の地震の場合は、数年以内に近くの火山の噴火を伴っている。宝永の噴火並みかそれ以上の噴火を覚悟しないといけない」と話します。
仮に「宝永の噴火」がいま起きたらどのような影響が出るのか。
気象庁のデータを基に気象研究所がシミュレーションしました。
噴煙は上空2万メートル以上まで到達。
火山灰は西風に乗って首都圏を覆います。
鉄道や道路にも影響は及び日常の生活に大きな支障が出るとみられています。
「宝永の噴火」のように半月ほど続けば火山灰は風向きによっては東京の都心で5センチから7センチ、積もると想定されています。
その火山灰でいま、深刻な影響が懸念されているのが首都圏を支える電力です。
最近、増えているガスタービン式の火力発電所は火山灰によってその能力が大きく落ちるとみられているのです。
外から取り入れた空気は圧縮されて燃焼器を通り、高圧のガスとなって勢いよくタービンを回し、発電します。
発電機には空気の通り道にチリやホコリを取り除くフィルターが取り付けられています。
大量の火山灰でフィルターが詰まると、空気が入らず、発電能力が落ちます。
さらに細かい火山灰はフィルターを通過し、1000度を超える高熱でいったん溶けます。
冷えて固まるときにタービンや周辺の部品にこびりつき、一層能力が落ちることも想定されます。
発電機メーカーの研究員は「火山灰が降り注いだことですぐに発電量がゼロになるということは考えにくいが、発電量は落ちることはあるのでよく注意する必要がある」と話します。
東京電力の管内でいま稼働している火力発電所は15か所。
火山灰の影響を受けるとみられるガスタービン式の発電所は東京湾岸だけで8か所あります。
去年の震災後、電力の大半を火力発電に頼るようになっている中、大量の火山灰が首都圏に大規模な停電を引き起こすおそれが出ています。
さらに影響は停電に備えて導入が増えている病院や企業の自家発電機にも及びます。
東京・練馬区の練馬総合病院ではことし3月、新たに3基の自家発電機を屋上に設置しました。
この自家発電機もガスタービン式の発電機とほぼ同じ構造です。
屋上に設置してあるため火山灰の影響を直接、受けることになります。
練馬総合病院の飯田修平院長は「大噴火は想定外ですね。本当に大噴火が起こってしまったら何も出来ない。やっかいというよりも手の打ちようがない」と話していました。
ひとたび爆発的な噴火が起きれば首都圏を覆うおそれのある富士山の火山灰。
その備えを考えるときがきています。
火山噴火予知連絡会の会長で東京大学の藤井敏嗣名誉教授は「300年休んでいるというのは爆発的な噴火も覚悟しないといけない。そのことを想定しながら国、都と各自治体、他の県も含めて、どういう対策がとれるのかということをあらかじめ検討していくことが必要だし、いざ起こったときに協力して対応せざるを得ないと思いますね」と話していました。
富士山が大規模に噴火した場合ですが、東京電力はNHKの取材に対して東京湾沿いにあるすべてのガスタービン式の火力発電所で運転を続けられない可能性があることを認めています。
そのうえで想定される火山灰の量など、国から具体的なデータが示されれば必要に応じて対策を検討したいとしています。