これらの結果から何がわかるのか。放射性物質に汚染されている食品を定常的に摂取し続けていないと内部被ばくの数値が上がることはない。原発事故後、土壌の放射性物質汚染の高い地域で流通している食物は、ほとんど汚染が無かったということが、改めて実証されたということだ。さらに「ごくわずかに出た例外的に内部被ばくの値が高い人でも、その後の問診や実際に食べたものの測定などの相談を行うことで、何が原因で高くなったかの特定と改善ができている」(早野教授)。事故後数年経っても住民の内部被ばくの数値が上がり続けたチェルノブイリ事故と異なり、福島では食品の検査や出荷制限などの措置が実際に県内に居住している住民の内部被ばくを食い止めることに効果があったということだ。
この結果は、国際的にも大きなインパクトを持つ。というのも、チェルノブイリ事故後、放射性物質による土壌汚染と、その地域に居住する住民の内部被ばくには相関関係があると考えられてきたからだ。チェルノブイリ事故後のデータをそのまま福島に当てはめて、土壌汚染の濃度から住民の年間の内部被ばく量を推定すると、郡山市居住者でセシウム134、137計で5ミリシーベルトに達することも事前には予測されていた。だが、実際の測定値はこの仮定値をはるかに下回った。
実は、原発事故後2年が経過したにもかかわらず、事故の放射性物質拡散の影響が住民の被ばくにどの程度影響を与えているかについて国際的に認められる研究論文は日本からほとんど出ていない。WHO(世界保健機構)がこれまで2回同様の論文を発表しているものの、実測のデータに基づいたものではなく、被害を過剰に仮定した前提のものでしかなかった。この論文はこの夏に取りまとめられるUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)のレポートで参照されることが決まっており、福島の実態に基づいた新たな常識として国際的に認知されることが期待される。
牛肉の全頭検査、コメの全袋検査など、福島県内で震災後これまでに検査された食品の検査件数は国の管轄で行われ厚生労働省に報告されているもののみでも40万件以上に上るが、そのうちそもそも装置の検出限界値を超えて放射性物質が検出されるものはおよそ10%。さらに出荷制限のキログラム当たり100ベクレルにひっかかるものは2%しかない。さらに、県やJA、漁協などで自主的に行われている検査を加えると、膨大な数の検査がなされ、そのほとんどが検出限界値以下という結果が出ている。だが、福島県内や関東での内部被ばくについての不安はいまだに根強く残るのが現状である。
今回の論文で示された実際の内部被ばくの状況が非常に低いという事実が国際的に認知されることになれば、福島県産食品に対する風評や福島県内に居住することについての住民の不安をいくばくかでも払拭することにつながるのではないか。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)