ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
inside
【第799回】 2013年4月12日
著者・コラム紹介バックナンバー
週刊ダイヤモンド編集部

福島県内の子どもの内部被ばく検出人数はゼロ
国内から初、食事による内部被ばく影響論文

previous page
2

 これらの結果から何がわかるのか。放射性物質に汚染されている食品を定常的に摂取し続けていないと内部被ばくの数値が上がることはない。原発事故後、土壌の放射性物質汚染の高い地域で流通している食物は、ほとんど汚染が無かったということが、改めて実証されたということだ。さらに「ごくわずかに出た例外的に内部被ばくの値が高い人でも、その後の問診や実際に食べたものの測定などの相談を行うことで、何が原因で高くなったかの特定と改善ができている」(早野教授)。事故後数年経っても住民の内部被ばくの数値が上がり続けたチェルノブイリ事故と異なり、福島では食品の検査や出荷制限などの措置が実際に県内に居住している住民の内部被ばくを食い止めることに効果があったということだ。

 この結果は、国際的にも大きなインパクトを持つ。というのも、チェルノブイリ事故後、放射性物質による土壌汚染と、その地域に居住する住民の内部被ばくには相関関係があると考えられてきたからだ。チェルノブイリ事故後のデータをそのまま福島に当てはめて、土壌汚染の濃度から住民の年間の内部被ばく量を推定すると、郡山市居住者でセシウム134、137計で5ミリシーベルトに達することも事前には予測されていた。だが、実際の測定値はこの仮定値をはるかに下回った。

 実は、原発事故後2年が経過したにもかかわらず、事故の放射性物質拡散の影響が住民の被ばくにどの程度影響を与えているかについて国際的に認められる研究論文は日本からほとんど出ていない。WHO(世界保健機構)がこれまで2回同様の論文を発表しているものの、実測のデータに基づいたものではなく、被害を過剰に仮定した前提のものでしかなかった。この論文はこの夏に取りまとめられるUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)のレポートで参照されることが決まっており、福島の実態に基づいた新たな常識として国際的に認知されることが期待される。

 牛肉の全頭検査、コメの全袋検査など、福島県内で震災後これまでに検査された食品の検査件数は国の管轄で行われ厚生労働省に報告されているもののみでも40万件以上に上るが、そのうちそもそも装置の検出限界値を超えて放射性物質が検出されるものはおよそ10%。さらに出荷制限のキログラム当たり100ベクレルにひっかかるものは2%しかない。さらに、県やJA、漁協などで自主的に行われている検査を加えると、膨大な数の検査がなされ、そのほとんどが検出限界値以下という結果が出ている。だが、福島県内や関東での内部被ばくについての不安はいまだに根強く残るのが現状である。

今回の論文で示された実際の内部被ばくの状況が非常に低いという事実が国際的に認知されることになれば、福島県産食品に対する風評や福島県内に居住することについての住民の不安をいくばくかでも払拭することにつながるのではないか。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

週刊ダイヤモンド

previous page
2
Special topics
ダイヤモンド・オンライン 関連記事


DOLSpecial

週刊ダイヤモンド最新号

実は強いぞ!日本の農業

目次

Prologue 「農業は成長産業」と見つけたり

[Diagram] ひと目でわかる 日本農業の現状・展望・TPP

Part 1 企業が生む付加価値

規制緩和により3年で1000社超の企業参入

「農」と「販」を結び合わせる モスフードサービス/カゴメ

企業の技術とノウハウで支える 伊藤園/カルビー

[Column] 広がる“農業ITシステム”

農業生産者を育てろ ローソン/サイゼリヤ/東山農園

[Column] 植物工場が秘める大きな可能性

Part 2 農業企業家が拓く

大規模化、効率化、複合化…独自戦略で突き進む

[Column] 輸出障壁は関税より植物検疫

高齢者に代わって東京でも若手就農者が続々

[Column] 青年就農給付金7年で1050万円は厚遇か

 

週刊ダイヤモンド
2013年4月13日号
定価690円(税込)

 

underline
週刊ダイヤモンド
昨日のランキング
直近1時間のランキング

週刊ダイヤモンド1冊購読

話題の記事

週刊ダイヤモンド編集部


inside

産業界・企業を取り巻くニュースの深層を掘り下げて独自取材。『週刊ダイヤモンド』の機動力を活かした的確でホットな情報が満載。

「inside」

⇒バックナンバー一覧