その真名は
「エミヤ」
。その名が示す通り、主人公・衛宮士郎の未来の姿。
かつて誓った「正義の味方になる」という理想をひたすら追い求め、厳しい鍛錬と戦いを超えていった成れの果て。
「正義の味方」であり続ける為に、死ぬ運命にあった百人程の人間を救う力を世界と契約し得た代償として死後英霊となり、霊長側の抑止力の一端である「守護者」として世界に行使されるようになった存在。
英霊となった時点で魂は輪廻の輪や時間軸といったこの世の法則から外れており、また命を救われて以来生涯持ち続けた凛のペンダントが英霊召喚時に召喚者である凛との触媒となって「生前の自分が生きていた時代」に召喚された。
尤も心のあり方があまりにも違いすぎてしまった為、同一人物とも言い切れない存在である。
「世界にたった二羽しかいない、同じ種類の鳥」という表現が最も近いらしい。
士郎は本編の3つのルートのトゥルーエンディングにたどり着くまでに心のあり方が変化するが、
アーチャーはどのトゥルーエンディングを経た士郎でもないという考察がファンでは多数派である。
特徴的な赤い外套は赤原礼装という名前があり聖骸布(聖人の遺体を包んだ布)を材料にしている。この聖骸布は どこかのシスターに貰ったもの……だとロマンがあるなぁ(byシナリオ担当)。
見習い魔術師であった衛宮士郎の未来の姿である為、正確には弓兵でも剣士でもなく魔術師そのもの。
幾つもの宝具を使うように見えて、実際のところは一つしか持たない。
その宝具は、術者の心象世界で現実を塗り潰す禁呪とされる大魔術「 固有結界」。
彼の唯一の「武器」であり、心象世界でもある固有結界の名は『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』。
その特性は視認したあらゆる剣の解析と複製(但し性能は一段階劣化する)、そして貯蔵。
その結界の特性から
錬鉄の英霊
とも呼ばれる。
剣以外も解析と複製・貯蔵は可能だが、エクスカリバーの鞘(アヴァロン)との長年の融合により「起源」及び「魔術特性」が【剣】になりつつある為、結界に登録・収められるものは白兵戦に用いられる武具に限定される。
また 一部の規格外な剣は解析できない場合もある。
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アーチャーの固有結界の起動の詠唱文
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I am the bone of my sword.
体は剣で出来ている。
Steel is my body, and fire is my blood.
血潮は鉄で 心は硝子。
I have created over a thousand blades.
幾たびの戦場を越えて不敗。
Unknown to Death.
ただの一度も敗走はなく、
Nor known to Life.
ただの一度も理解されない。
Have withstood pain to create many weapons.
彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。
Yet, those hands will never hold anything.
故に、生涯に意味はなく。
So as I pray "unlimited blade works."
その体は、きっと剣で出来ていた。
この世界において自己流魔術を使う場合の呪文詠唱は、魔術師の体内の擬似神経「魔術回路」を効率よく起動・作動させ、自らを作り変える『決り文句』、自己暗示のための物という側面が強い。
簡単に言えば ポエムと同じである。
その為同じ魔術でも術者の人間性により呪文詠唱は異なっており、衛宮士郎と英霊エミヤですら同じ固有結界でも呪文詠唱の細部が異なっている。
アーチャーの呪文の場合は、自らを表すと同時に誓った言葉と守るべき理想の為に全てを捨てて冷徹に戦い続け、ひたすら人に都合よく使われ、ひたすら人に裏切られ、それでも傷つく素振りを見せず、血の通わない道具の様に、ひたすら理想を最期まで守り通すように自らを律する為の韻も含めている。
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彼が用いる魔術・能力は全てこの固有結界の片鱗であり、彼が使う「干将・莫耶」を始めとする幾つもの宝具も全てこの「心をカタチにする魔術」である固有結界の副産物として「投影(術者のイメージを魔力で一時的に実体化させる魔術)」を行うことで創り出した複製なので、厳密には宝具そのものではないのである。
盾などの防具の投影も可能だが、魔力を剣の数倍消費する。
本編中の士郎と異なりセイバーとの繋がりが消えている為、アヴァロンの存在は知っているが投影は不可能。
聖剣エクスカリバーそのものも、神造兵装であるゆえに複製不可能である。
但し似たような機能とランクの剣は投影可能らしい。
それでも使い手の魔力運用の差故に、エクスカリバーが一刀両断したライダーの宝具にも届かないそうだが。
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作中使用した武具
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干将・莫耶
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古代中国の名工「干将」が製作し、自身と妻「莫耶」の名を与えた陰陽の夫婦剣。宝具としてのランクはC-。
因みに莫耶は『封神演義』の登場人物、黄天化の
宝貝
「莫邪宝剣」として有名。
紀元前の話である為、いつの時期に書かれた本を元にしているかで完成までの経緯が異なり、例えば『 うしおと とら』では干将夫妻の「髪の毛と爪」を炉に投じたことになっているが、Fateにおいては莫耶が
命そのもの
を捧げたことになっている(『うしとら』的には「獣の槍」の設定に近い)。
真名解放せずとも効果を発揮するタイプの宝具。かなり頑丈な上、片方を手放してももう片方を持っていれば勝手に戻ってくる。
巫術、式典用の魔術兵装としての側面も持ち、揃えて装備すると対魔術と対物理が向上する。それでもセイバーの剣に砕かれること多々。恐るべしセイバー。
アーチャーのいかなる趣向か、刀身には魔よけと思われる下記の言葉が刻まれている。
鶴翼不欠落 心技至泰山 心技渡黄河 唯名納別天 両雄倶別命 ――――両雄、共命別。
アーチャーはこの剣の特性と、複数同じ物を複製可能な自身の能力を利用した連続投影により、双剣の斬撃を三連続で重ね当てする必殺剣「鶴翼三連」を使用する。
かっこいいのだが『unlimited codes』では演出を重視しすぎたせいで ロマン技である…。
また、刀身を強化して巨大化させた「干将・莫耶オーバー・エッジ」というものもあり、アニメ版にて壊れた幻想と併用することで バーサーカーを二回殺す威力を見せた。
余談であるが、これを使用する時何故かアーチャーは 某ガンダムっぽい決めポーズを取っている。
原作では描かれなかったアーチャーVSバーサーカーを描いたこの回は
全体的に残念な出来のアニメ版では数少ない
名シーンなのであるが、 唐突に出た場違い極まりないこのポーズには多くの視聴者が噴き出した。
筋力は全サーヴァント中二番目に低いアーチャーであるが、そんな彼でもこの剣で鉄塊を粉砕することくらいは余裕らしい。
因みに、オリジナルの干将莫耶が聖杯戦争に登場した場合、ダゴンっぽい異界の邪神や ゴルゴン最終形態Lv100もズンバラリンとする強力な対怪異専用宝具として活躍したとのこと。
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偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)
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ドリルのように捩れた螺旋状の刃を持つ剣で、 形状としては寧ろランスに近い。
ランサーと同じアイルランドの神話の英雄フェルグスが用いた魔剣と同名だが、偽やⅡとついている通り本来のカラドボルグと全く同一ではなく、矢としても使えるようにアーチャーが調整したもの。
真名を開放することで、空間すらねじ切る強力な貫通力を有している。
因みに、この剣の本来の持ち主であるフェルグスとの「一勝一敗」の誓いから、ウルスターゆかりの者に使われるとクー・フーリンは、生前に彼に勝利しているため1度は負けなけらばならないという彼の天敵でもある。
まぁウルスターゆかりの者が誰も登場しないため、あまり意味の無い天敵設定であるが。 *2
余談だが、伝承上の本来のカラドボルグは
「一瞬で無限に伸びる魔剣」
であり、向かいの丘の頂3つを文字通り切り落としたというチート武器。
その名は「稲妻」を意味し、 王者の剣・カリバーンと語源を同じとする。
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熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)
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七つの光の花弁で構成された結界宝具。トロイアの大英雄アイアスの使った盾が伝説の中で昇華された物。
単純に強力な防御壁(特に最後の7枚目の花弁)である他、「飛び道具に対する絶対防御」と言う概念を持った概念武装。
アーチャーの投影できる中では最強の防具だが、専門外である盾の宝具なので、投影するのに他の武器より大量の魔力を消費する。
士郎も作中で何度か投影するシーンがあるが、魔力のバックアップなしで彼が単体で投影した時は魔力不足のためか花弁が4枚の不完全版であった。
本来はあくまで飛び道具用であり、また原作の描写からするに万全な状態でも単体では「約束された勝利の剣」を防げない筈なのだが、
『UnlimitedCode』では「天地乖離す開闢の星」だろうと防ぎ、『EXTRA』では飛び道具ですらない「刺し穿つ死棘の槍」を防ぐという超宝具と化している。格ゲー&RPG補正ってレベルじゃねえぞ!
その為、ファンからは「ローアイアスという名のアヴァロン」などと揶揄されることも。
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赤原猟犬(フルンディング)
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猛獣の牙を彷彿とさせる奇妙に捩れた刀身を持つ黒い剣。
イギリスの叙事詩『 ベオウルフ』で主人公べオウルフが合戦や怪物退治の際使用したとされる。
hollowにて長距離狙撃に使用、射出時には赤い魔力の光を放つ。
アーチャーが健在である限り、何度弾かれようと何度でも標的を襲う能力を持つ。
剣の宝具にこのような能力があるとは思えないので、この武器もアーチャーがアレンジしたものだと思われる。
「ベオウルフはこの剣を使って失敗する事がなかった」と言う伝承から来ているのかもしれない。
本当は失敗する事が無かったどころか初使用で全然役に立たなくてすぐに元の持ち主に返したんだけど
宝具を弓矢として使うこと全てに言えるのだが
- 魔力を溜めることで威力が増し、最大まで溜めればセイバーですら防ぎきれないほどの威力を誇る。
- 最大まで溜めた場合の弓矢の速度はマッハ11(4kmの距離を秒にも満たない間に飛んでいる)にまで上昇する
EXTRAでは、筋力(または耐久)を低下させる追加効果を持ったスキルとして比較的初期から使える。使い勝手が非常に良く、最後までお世話になるスキルである。
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他に、英雄ローランが持っていたとされる聖剣デュランダルなど、多数の宝具を投影して使用している。
更にアーチャーは、投影した宝具を破壊して強力な爆弾にする「壊れた幻想(ブロークンファンタズム)」という技を使用する。
この技自体は他のサーヴァントにも使用可能なのだが、切り札の宝具を使い捨てにする行為である為普通はまず行わない(無数の宝具を持つギルガメッシュですら、このような使い方はしていない)。 *3
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『固有結界』として世界に展開した場合は、自分の周囲を「全ての“剣”の要素」に満たされた空間へと変えるという結界になる。
今まで登録してきた剣全てが大地に突き刺さった状態であり、それらを瞬時に手元にたぐり寄せたり、浮遊させて相手の方向に飛ばして飛び武器にすることもできる。
また、魔力は大きく消費するものの、武具を新たに投影する際に容易く行えるように成るという効果もある。
「アーチャーになった衛宮士郎」は聖杯戦争を生き抜いた後も「誰にも悲しんで欲しくない」という願いと、「出来るだけ多くの人間を救う」という理想を叶える為に誓った「 正義の味方」を目指し続けた。
元々争いのない世界を夢見た訳でもなく、ただ自分の知りうる限りの世界では誰にも涙してほしくなかっただけで、それくらいならばちっぽけな自分にでも叶えられる理想と思っていた彼だったが、人を救えば救うほど視野と救いたい人間が広がっていった結果、「正義の味方」に全てを救う事はできず、誰かを救う為には誰かを犠牲にしなければならないという現実に直面し、全てを救おうとして全てを無くしてしまうのならせめて 少数を切り捨てて多数を救う、「より多くの人々を助けるために、少数の誰かを犠牲にする」という、理想を守る為に願いに反し続ける「正義の味方」としての生き方しかできなくなってしまう。
自分と少数を切り捨てながら多数を救う「正義の味方」をひたすら貫き続けた結果、何千もの人間の命や、世界の危機などを救ったが、自分をも切り捨てる彼は、「救った人間」が多くなればなるほど多くなる「救えなかった人間」への想いからそのうち理想を語ることもできず人間らしさを表に出さなくなり、ただ理想のために人を救うだけの都合の良い存在として利用され欺かれ続け、最後は救った筈の誰かの裏切りで命を落とす。
それでも最後まで人間を恨まず、殺されたことにも後悔は無かった彼が生前世界と契約していたのは、自分では力が足りないが「英霊」ならば全てを救う事はできると信じ、人類を救う道具になるならそれもいいと考えたからであるのだが、英霊となった彼の役割「守護者」とは、意思もカタチも持たない「力の一端」として、
人間を救うのではなく人間全体に害をなす人間とその害を被った人間を殺戮
し「なかったこと」にすることで人類全体の存続を行う掃除屋であった。
英霊となってからの無限の時間の中、守りたかったはずの人間の殺戮を強要されながら人間の醜さ愚かさを見せ付けられた結果、自分の理想の矛盾と人間を救い続けることの無意味さ、誰かの為にしか生きられない自分の歪み、そして生前自分が行ってきたことが規模が小さいだけで『掃除屋』と何も変わらなかったことを思い知った。
生前も死後も誰も救えなかったその理想と自分に絶望して、そうなる前の過去の自分を自分自身で抹殺することによる自身の消滅だけを希望にして存在し続ける。
その目的とは裏腹に、どのルートでも衛宮士郎に道を示している。あるEDでは自らも答えを得て消えていく。
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答えを得たUBWルートでの終盤の活躍
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主人公である士郎との死闘が終わった直後にギルガメッシュの乱入から士郎を庇い死亡した…と思いきや、実は生きており最終決戦で陰から士郎と凛を助けた後に消えていく。
…が、少し検証してみるとここに至るまでのアーチャーの行動は色々と凄まじい事になっている。
まずは凛との契約を切って再契約したキャスターが死んだことによりマスターがおらず魔力供給が行われない状態から固有結界を発動する。
その後魔力残量が約1割の状態で士郎と投影合戦を行った後ギルガメッシュに串刺しにされ瓦礫の下敷きとなる。
そんなボロボロの状態なのにも関わらず最終決戦に駆けつけギルガメッシュから士郎を守るためローアイアスを投影する。
そして凛を聖杯の中から救うために数十本にも及ぶ武器の投影を行い、最後に士郎を道連れにしようとするギルガメッシュを狙撃しとどめをさした。
尚、なぜマスターも依り代もいない状態で現界できていたかというと、アーチャーというクラスは単独行動というスキルを保持しこいつの場合は二日間は魔力供給がない状態でも現界できるレベルだからである。え?そういう問題ではない?
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正義の味方を続ける内にその行動様式が歪んだという点は ロールシャッハと似ていなくもないが、悪への憎悪で歪んだ彼に対し、エミヤは人を救うという事に対する矛盾から歪んだという点で決定的な差異があると言える。
そもそも悪を許せない為にヒーローになった彼と、人を助けたくて正義の味方を目指したエミヤとは出発点からして違う。
亡き義父の教えを胸に正義の味方を志したという点では、 スパイダーマンとも似ている面があるのだが、此方の場合『大いなる力には、大いなる責任が伴う』という言葉通り、自分にできる精一杯の事を続けている彼に対し、エミヤは『全ての人を救う』という、およそ実行不可能な理想を抱いてしまった点で、やはり決定的に異なる。
また、年少時のトラウマによって強迫観念的に正義に突き動かされているという点は バットマンと同じであり、特別な才能を持たないものの自らを極限まで鍛え抜いている、という点も共通している。
しかしエミヤが甘んじて絞首台に送られたのに対し、『DKR』のバットマンは理想を阻む者を躊躇無く打ち倒している。
或いはエミヤに超人的な意思の力、自分に見合った理想、そしてそれらを貫き徹す傲慢さが伴っていれば彼の人生は大きく変わっていたかもしれないが、「壊れた」が故に正義の味方を目指した結果という事を鑑みる限り、ある意味でこの結末は妥当なものであったのかもしれない。
しかし自分の正義を貫いた結果、全員が悩み、苦しみ、葛藤し、ロールシャッハとエミヤは磨耗してしまった事を鑑みると、やはり「正義の味方」などというものは、 やなせたかし先生の言われたように、
「決してカッコいいものではなく、そのために自分が必ず深く傷つくもの」
なのだろう。
生まれ持った才能の違いはどうやっても覆せないのか、こんなに筋肉隆々な姿なのに筋力は英霊でもない優男のアサシン以下である。
おまけに未来の英霊である彼は召喚された土地の人間の間の知名度による能力向上が現代では一切なく、「守護者」に取り込まれた英雄である為セイバーを初めとする他の著名な大英雄に比べれば「英霊」としての格は数段劣るが、鍛えぬいた能力を最大限活用することで状況や相性によっては彼らと互角以上に戦う。
尚、衛宮士郎であった時の記憶は生前及び死後の過酷な記憶で「磨耗」してしまい、殆ど残っていない。
召喚直後も「遠坂凛」という名称すら磨耗している為自分を召喚した少女が誰だかわかっていなかったり、かつて聖杯戦争で戦った(はず)のギルガメッシュを見ても人間だと勘違いするほどである。
それでもセイバーや、養父との誓いの言葉、凛の存在自体は大切なモノとして彼の心に深く刻まれていたわけではあるが。
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摩耗…?
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と、原作では述べられていたのだが、派生作品では凛によってテムズ川に落とされたなんてどうでもよさそうなことを覚えていたり、 ワカメ慎二や言峰のことを覚えていたりする。…結構残ってないか記憶?
因みにマテリアルブックに記載されている彼の『天敵』は 遠坂凛、 間桐桜、 イリヤ。生前彼女達にどれだけ酷い目に遭わされたのやら。
藤ねえがスルーされているのは、それだけ彼女を大切に思っていたから、だろうか。
UBWルートにて、藤ねえに対する想いの深さがうかがえるシーンがある。
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余談だが、彼と衛宮士郎のテーマ曲であるBGM『EMIYA』は『主人公の勝利フラグ』の別名で広まっているが、stay night本編(対士郎戦)、hollow ataraxia(対士郎&セイバー組戦)、アニメ版(対バーサーカー戦)と、実はこれが鳴ってた戦闘では負けるという
彼にとっての敗北フラグである
という事実は意外と知られていない。
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