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焦点:原発再稼働へ規制委が新基準、過酷事故対策は「大穴」と批判も

ロイター 4月10日(水)21時35分配信

焦点:原発再稼働へ規制委が新基準、過酷事故対策は「大穴」と批判も

4月10日、全国50基の原発のうち再稼働できるものとそうでないものを選別する新しい規制基準案を原子力規制委員会が了承した。写真は東京電力福島第1原発で3月撮影(2013年 ロイター/Issei Kato)

[東京 10日 ロイター] 全国50基の原発のうち再稼働できるものとそうでないものを選別する新しい規制基準案を原子力規制委員会が10日、了承した。

7月に新基準が施行されると古い原発は再開が難しくなり、原子炉建屋などの直下に活断層があることを否定できなければ廃炉に追い込まれる一方で、基準を満たしたプラントは再稼働への展望が開けてくる。

原子力規制委は「世界最高レベルの安全を確保する」(田中俊一委員長)と意気込むが、東京電力<9501.T>福島第1原発の国会事故調査委員会の委員を務めた有識者からは、過酷事故対策への備えは「大穴」との批判が聞かれる。昨年9月の規制委発足から7カ月間という作業期間の短さも影響し、国民にくすぶる「原発への不信と不安」を払しょくする内容との評価を得るかどうかは未知数だ。

<対策不十分と国会事故調委員>

「日本の原発の深層防護は現時点で大変不十分だ。世界最高水準の原子力安全対策が整っているとは言えない」──。国会事故調の委員を務めた石橋克彦・神戸大名誉教授は今月、衆議院の原子力問題調査特別委員会で新規制基準についてこう断言した。深層防護とは、多段階で原発防護を実現する規制体系で、国際原子力機関(IAEA)は、第4段階で過酷事故対策を、第5段階で放射性物質が外部環境に放出された際の対策を求めている。

石橋氏は衆院特別委で、「PWR(加圧水型軽水炉)へのフィルター付きベント設置を5年間も猶予する方針だが、深層防護第4層(段階)に大穴があく」と新基準の方針を批判した。「5年間の猶予」とは、設置を求めるものの再稼働時点では必須要件とはしない施設が対象で、新基準では「特定安全施設」と呼ぶ。

緊急時に原子炉格納容器の圧力を下げるために蒸気を外に放出する際に放射性物質を取り除くフィルターベントは、新規制基準から法的に必須となった過酷事故対策で求められる装置の一つ。新基準では、福島原発と同型のBWR(沸騰水型軽水炉)では再稼働時点で要求する一方で、PWRには構造の違いを理由に猶予が認められた。緊急時に原子炉から離れた場所で制御する「第2制御室」も特定安全施設となった。原発に厳しい立場を取る地震学者として著名な石橋氏は、新基準における第2制御室の扱いについても衆院特別委で批判した。

<規制策定、7カ月の突貫作業>

石橋氏の批判に田中委員長が反応した。新基準案を了承した10日の規制委定例会合で田中氏は、「先日、国会事故調査委員会のメンバーから、規制基準についていろいろ意見が出されているが、十分理解しているとは思わない」と発言。会合後の記者会見で田中委員長は、設置までに5年の猶予を認めた施設があることについて、「手続きを踏まえて5年くらいはかかる。基本的な安全対策はできているが、より安全な対策として5年という仕分けだ」と説明した。田中氏は新基準が世界最高レベルの厳しさを備えているかについては、「厳しすぎるのではないかという意見も(海外から)来ている」と反論した。

ただ、過酷事故対策の規制基準策定は、「普通に考えれば5年かかる」(規制委の更田豊志委員)とされる。法律の制約上、規制委の発足から7カ月間という短期で新規制基準策定を求められたため、仕上がりの精度には疑問の余地を残した。

原発メーカーの米ゼネラル・エレクトリック<GE.N>でエンジニアとして長年勤務した経験を持つ原子力コンサルタントの佐藤暁氏は3月、ロイターの取材に応じ、日本の原子力規制について、「いい品物(原子炉など)を作れば安全だと、(原発黎明期の)40年前からそうした発想だった」と、ハード偏重の思想があると指摘。同氏は、新基準の不備の一例としてテロ対策を挙げた。「福島事故はテロリストに重大なヒントを与えた。外部電源を落として、内部の安全施設を完全に不能にしたら、7、8時間で原子炉圧力容器の底が抜ける。欧州の対テロ関係者にはそう受け止められた」。

新基準では、テロ対策について「航空機衝突等のテロリズムによりプラントが大規模に損傷した場合に注水等を行う機能」を新たに要求しているが、ソフト面を含めた包括的なテロ対策についての詳細は不明だ。テロ対策について、田中委員長は「7月までに間に合わなければいけないものではない」(3月の会見)と語るに止めている。

<推進派から強まる圧力>

原子力問題特有のリスク・コミュニケーションの難しさから、規制委の孤立ぶりも目立つ。定例会合に集まる反原発派からは、たびたび激しいヤジにさらされる一方で、日本原子力発電敦賀原発2号機について「原子炉建屋直下に活断層がある可能性を否定できない」との判断を下すと、推進側からは「暴走する規制委員会」などと猛烈なバッシングが飛ぶ。原発に対する立ち位置によって規制委に対する見解は正反対だが、より強い圧力をかける力を持つのは推進派のほうだ。

経産省幹部は、規制委の役割について「再稼働できる原発とそうでない原発の仕分けを行うことだ」と語り、滞りのない再稼働審査に期待を示す。新基準では、原発の運転期間は原則40年とし、規制委の認可を条件に20年を上限に1回に限り延長が認められているが、電力業界からは40年制限に対し「技術的、科学的な根拠で基準を示してほしい」(関西電力<9503.T>の八木誠社長)との要望が聞かれる。

(ロイターニュース、浜田健太郎;編集 吉瀬邦彦)

最終更新:4月10日(水)21時35分

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