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本編
唸れ! 必殺ライドキック!
 アナウンスにより、一試合目の選手以外は控え室へと戻っていく。
 幸助の出番は順調に進行しても午後だ。
 午前中の試合は用意された個室で見ることができ、昼食や飲み物も大会側が用意する。なので幸助は出番まで個室に篭るつもりだ。
 部屋に戻ると早速、試合前の様子が映し出されていた。
 第一試合は、魔力吸収のギフト持ちと速度強化のギフト持ちの戦いだ。
 魔力吸収はその名の通り、魔力を取り込むことができる。ただし使われた魔法の効果を無効化するには三段階目まで育てなければならず、それ以前の成長段階だと効果を減少させ、減らしたことで余った魔力を取り込むことになる。
 速度強化は肉体的行動速度の強化のみならず、思考も高速化される。成長の一段階目で肉体的には五%増し、思考は一秒で三秒分の思考ができる。最終的には肉体速度二十%増し、思考は一秒で十秒分の思考が可能となる能力だ。
 この試合は速度強化のギフト持ちが勝った。魔法を使わずに攻めたので、相手のギフトは無駄になっていたのだ。
 この勝利は、アナウンスがもたらした情報を覚えていたおかげだろう。

 順調に試合は進み、昼の休憩を挟み、幸助の出番がくる。
 午前中にあったボルドスとリタイの試合は、リタイの勝ちで終わっていた。ボルドスは少々やけくそながらも果敢に攻め、何度も強烈な攻撃を当てていた。だがリタイはそれらを気にせず反撃し、ボルドスを下したのだった。
 リタイの装備はブレストプレートと薄い鉄板が張られた硬革の手甲と足甲だ。それらでボルドスの攻撃を受けきれるはずはなく、なんらかのギフト持ちなのだろうと簡単に推測できる。

「さてっいよいよ謎のベールを脱ぎます! ライド・ワンとシェディンの入場!」

 通路で待機していた二人は、アナウンスの呼びかけで舞台へと上がり、向き合う。
 多くが謎とされていたライドの戦いがとうとう見れるとあって、会場の雰囲気は盛り上がっている。

「これで負けたら俺はかませ犬もいいとこだ。
 そんなのはまっぴらだからな、この勝負勝たせてもらうっ」

 びしっと幸助を指差しシェディンが宣言する。
 観客まで届くような声ではないが、仕草で挑発に近いことをしたのだろうと判断した観客達は湧き、それぞれ勝手な声援をシェディンに送る。
 シェディンに対し幸助は無言で、くいくいっと人差し指と中指を招くように動かす。

「どうやら始まる前から両者挑発しているようです!
 皆様も待ちきれないでしょう。私もです!
 これよりライド対シェディンの試合を始めます……開始!」

 開始の合図で動いたのは幸助だ。まずは様子見とそれなりの速度で殴りかかる。それなりといっても幸助の主観であって、周囲から見れば大会上位といえる速度だ。
 それをシェディンは、焦らずに体を少しだけ動かし避ける。続けて放たれた蹴りも、軽いバックステップで避けた。

「高速で動くライドとそれを軽やかに避けるシェディン!
 ここからどう動くのでしょうか!」

 アナウンスの解説を聞き流しながら幸助は、攻撃し続ける。攻撃は真っ正直なものだけではなく、フェイントも入れられている。だがそれすらシェディンは避け続けている。ただし避けるだけで精一杯なのか、反撃はいまだない。
 動き続けながら、幸助は考える。

(これが未来予測なのか)

 それはシェディンのギフトの名前だ。
 アナウンスにより紹介された時に、ギフトのことも言っていたのだ。といっても詳しいことは言っていない。なので情報収集も兼ねて攻め続けている。
 これでわかったことは、シェディンは幸助の攻撃をただ見て避けているだけではなく、体各部の動きなど正確な情報をもとにして避けているということ。
 最初に攻撃した時で例えると、幸助が一歩前に進んだ時には既に横に動き出していた。初動のわずかな動きを見切ったのだろう。
 過程から情報を集め、予測しきって結果に反応し、フェイントの有無すら見抜いている。
 もう一つわかったことがある。それは遠くから見ているアナウンスや観客からは余裕があるように見えているのだが、近くでシェディンの表情を見ている幸助には、集中している様子がわかり、余裕があるようには見えていない。

(試してみないとわからないけど、この速度以上だと反応しきれないのかも)

 試しに少しだけ速度を上げると、シェディンが着ている硬革の鎧に攻撃がかする。
 考えがあっているとわかった幸助は、笑みを浮かべ自重することを止めた。
 動きを止めた幸助は大きく後ろに跳ぶ。それをシェディンは見送った。
 ギフトが予知ならば追撃に動けたのかもしれないが、シェディンのギフトは初動、視線、これまでの動きといった細かな情報を集めて判断する未来予測。予測外の動きには対応しきれないのだ。下がるということはわかっていたが、なにを狙って下がったのかはわからず、警戒から追わなかった。
 今度はシェディンが様子見となる。
 幻の仮面の下、幸助の口が動く。仁王立ちから意味のない構えを取った幸助の右足に、光の粒が集まっていく。
 それをアナウンスは見逃さなかった。

「ライドの足が光に染まっていく! これは大技の前兆なのでしょうか!?」

 この光は幻でしかなく、当然の如く光っている以外はなにも効果はない。
 しかしアナウンスの言葉と同じ判断を下したシェディンは、発動を阻止しようと突っ込んでくる。
 それを幸助は大きく前方に跳んで避ける。そして空中にいる間に、カッと光が強い輝きを放った。
 今度は渦巻くように青光の粒を撒き散らす様子が見え、会場の誰もがなんらかの技が完成したと捉えた。
 着地した幸助は止まらずにシェディンへと今日一番の速度で近づき、飛び蹴りを放つ。
 この時幸助は小声でライドキックと呟いていた。
 来るとわかっていても反応できなかったシェディンは、胸部にまともに蹴りを受ける。
 その瞬間、眼に痛いほどの強い閃光と会場内に収まり切らない爆音と舞台を覆い隠す煙が、舞台上で同時に発生する。もちろんその全てが幸助の演出だ。
 度肝を抜く光景に、会場は静まり返る。
 シェディンは舞台から落ち、倒れて動かない。

「……だ、誰か!? シェディンの安否を!」

 我に返ったアナウンスがシェディンの様子を見るように指示を出す。
 アナウンスの声で観客も我に返り、ざわざわとどよめきがそこかしこから聞こえてくる。
 幸助の演出によって、彼らはシェディンが死んだかもしれないと考えたのだ。演出過剰だったのだ。
 待機していた看護要員が急いでシェディンに駆け寄る。怪我具合、脈、呼吸を調べて出した判断をアナウンスに伝える。
 それを聞いてアナウンスのほっとした溜息が会場に響いた。

「診断を伝えます。
 胸部の骨にひびが入っているくらいで、命に別状はないとのことです!
 というわけで勝者っライド!」

 途端に大きな歓声が上がる。
 さすがは推薦を受けただけはあると、誰もが納得し今後に期待している。
 拍手や声援に片手を上げて応え、次はライドパンチにしようかと考えながら幸助は控え室に戻る。
 この後の試合もつつがなく終わり、トーナメント一回戦は終わる。
 今日一番の試合は、皆の度肝を抜いた幸助の試合だった。ほかに滅多に戦う様子を見せない妖精族シルフの戦いや、獣人対獣化のギフト持ちといった興味深い試合もあったのだが、ライドキックのインパクトに全部持っていかれたのだった。
 ちなみに宿に帰った幸助はエリスにどういった技なのか聞かれ、演出を加えたなんの変哲もない飛び蹴りと答え、呆れられていた。

 次の日の試合は二回戦と三回戦があり、そのどちらも幸助は苦戦することなく勝ち上がる。
 二回戦では身体制御のギフト持ちと戦い、三回戦では二刀流のハイゴブリンと戦った。ハイゴブリンは小柄なゴブリンとは違い、二メートル近い体躯を持つ。
 身体制御のギフトは、体を思ったとおりに動かせるといったもの。成長させると、関節や慣性や重力すらも無視する動きができる。ただし肉体にかかる負担は完全には軽減されず、無茶な動きをすれば自爆もありうるギフトだ。
 試合では相手が自爆覚悟で勝負をしかけ、対する幸助もそういった動きができると学び、同じとまではいかないがこれまで以上の動きで対抗した。中々アクロバティックな試合となり観客が大いに楽しめた試合となった。
 ハイゴブリン戦では全ての攻撃を避け、隙をついて近づいてハイゴブリンを掴み、片手で舞台外へと投げて勝った。
 今までの試合に比べると地味な試合だったが、速いだけではなく筋力も高いと知らしめた試合だった。

 次の日はいよいよ最終日。
 四回戦では簡略のギフトを使うアーマセラ流剣士と戦い、ライドキックを囮にして煙幕を作り出し、稼いだ時間で拳に幻を纏わせライドパンチで勝ちを得た。
 簡略のギフト効果は、動作の省略を可能にするというもの。極めると準備動作なしで魔法を使うことも可能になる。今まで極めた者がいないので、神の証言でそうなるとわかっているだけだが。
 この剣士は極めていたわけではなかったが、剣を振る際に動作の一部を省略し、相手が防御や回避するタイミングをずらしていた。
 幸助は攻撃を受けても大事にはならなかったので、タイミングをずらされても気にせず攻撃を受けていた。
 これまでの試合によって、力が強く、速く、堅いといった三拍子揃ったステータスだと判明し、優勝候補じゃないかと囁かれている。

 そして準決勝。誰もが今大会一番の試合だと確信していた。
 ライド対リタイの試合だ。
 両者は舞台に立ち、向かい合って試合開始の合図を待っている。
 リタイは不適な笑みを浮かべて、幸助を見ている。これからの戦いが楽しみで仕方ないのだ。

「いよいよこの時がやってきました! 前評判でも事実上の決勝戦と噂されており、私も同意見です!
 小耳に挟みましたが、賭けの割合はほぼ五分。二度の優勝経験を持つということで、リタイに賭けた人がやや多めということです。
 皆さんっ待ちきれないでしょう。私もそうです!
 なので早速いきましょう」

 ここでアナウンスは大きく息を吸い込んで、気合と期待を込めて開始を告げた。

「試合、開始っ!」

 動いたのは幸助。リタイはこれまでの試合と同じように待ちの態勢だ。
 幸助の拳がリタイへと真っ直ぐ突き進む。それをリタイは、腕を交差させたクロスガードで受ける。ボルドス戦を見て、生半可な力は意味がないとわかっているので、わりと遠慮なく力を込めている。
 ガヅンっと肉体と肉体がぶつかったとは思えない音が響く。これを本当の試合開始の合図を捉えた者も多い。
 一瞬止まったあと幸助は、その場で連続して殴っていく。それをリタイは時に避け、受け流し、防御していく。有効打と呼べるものはないが、これまでの試合相手ならば防御されても十分なダメージを与えられた攻撃だ。
 だがリタイは平然とした表情を浮かべている。

「驚いた。少しダメージが入ってきてる」

 驚いた様子を少しも見せないで言う。

(物理ダメージに対して絶対的な防御を持つギフトなのかな?)

 そう考えた幸助は、ならば魔法だとリタイから離れる。
 それをリタイは追わず、いまだに待ちの態勢を崩さない。
 ライド・ワンに遠距離攻撃は似合わないと考えた幸助は、ちょっとした工夫で魔法をぶつけることにする。普段ならばやらないことだが、自重を忘れた幸助はむしろノリノリで行う。
 まずは握った右の拳を頭上に掲げる。次に左手で、右手の拳から肘までをゆっくりと撫で下ろす。なんらかの技の準備のように見せて、実は袖を下ろしているだけだ。最後に小声で、火炎球の魔法を使い、掲げた右拳の位置の出現させた。燃える拳の完成だ。
 初めてやることなので、火傷くらいはするだろうと思っていたのだが、実際のところチリっともせず、熱いだけだった。その熱さも少し沸かしすぎた風呂と同じくらいで、我慢できるものだ。実際は普通の炎の温度と同じくらいなのだが、耐魔の高さで我慢できるようになっている。

(いくぞ! 炎の正拳突き、変則ライドパンチ!)

 勢いのついた攻撃を、リタイはその場から動かずどっしりと構え、再びクロスガードで受けた。
 炎が両者を巻き込んで広がり消えていく。
 炎の向こうにあるリタイの余裕の表情を見て、幸助は魔法も駄目なのかと驚いた。
 これまででわかったことは、防御系のギフトということのみだ。

(これは対人での全力で相手したほうがいいのか?)

 再度離れて思考する。
 その隙をついてリタイが手に持った無骨な剣を叩きつけてくる。切れ味よりも重さと頑丈さを優先した剣だ。これまでの対戦相手は、これを使ってのカウンターもどきで沈んできた。カウンターと呼べないのは、相手の攻撃を受けた後、隙のできた相手に攻撃を仕掛けていたからだ。まさに肉を斬らせて骨を断つ、この諺が似合う戦い方だ。
 この攻撃を幸助は全部は避けずに、いくつか受けていく。

(攻撃力は特出したものはないね。
 厄介なのは防御面か)

 上段からの袈裟斬りを左腕でガードし、そのまま一歩踏み出して掌打をリタイの胸に当てる。
 ダメージはないが、勢いは消しきれず背後へと移動させられるリタイ。
 もっと強く殴るなりすればダメージは与えられるかもしれないが、それじゃあ盛り上がりに欠けると考えている幸助。ヒーローごっこに夢中になり始めていた、いやとっくになっていた。
 その様子を悩んでいると勘違いしたか、リタイが口を開き、ギフトの効果を説明し始める。

「普通の攻撃じゃあ俺にダメージは与えられないぞ。
 俺のギフトはダメージ減少。ありとあらゆるダメージを減らすことができる。
 可能性があるとすれば、あの光る蹴りくらいだ」

 ギフトのおかげでただでさえ防御力が高いのに、きっちりと防御しているので受けるダメージが最小限となっているのだ。
 説明したのは、ばらしても問題がないからだろう。
 この場での対処法は高い攻撃力を準備するくらいだ。こういった大会でなければ、罠や毒などの搦め手が使えるのだろう。

「あれでこい。
 俺も相応の技で迎え撃とう。
 ルビダシア家当主用に準備していた技で、今ここで使うことになろうとは思ってなかったがな」
(そっちがその気なら使おうじゃないか。
 ただし演出に付き合ってもらうけど)

 幸助は構えを取り、幻で足を光らせる。リタイは剣を両手で持ち、左下段に構える。口元が動き、なにかしらの魔法の準備をしている。
 どちらともなく一歩踏み出す。
 幸助はそのまま真っ直ぐ進み、飛び蹴りを放つ。リタイもある程度走ると、飛び上がり剣を振り上げる。そして自身の背後に爆発の魔法を使い、その衝撃で勢いを増す。ダメージ軽減できるリタイならではの加速法だ。

(ライドキック!)
「一刀大両断っ!」

 幸助の飛び蹴りと、リタイの勢いののった振り下ろしがぶつかり合う。
 今までと同じように閃光と爆音と煙が発生する。
 そのすぐあとに煙をまとった幸助が吹っ飛び、床に倒れ込む様子が見えた。
 倒れた幸助へと、走り寄ったリタイが追撃する。スイングされた剣に再度吹っ飛ばされて、舞台端まで転がっていく。
 リタイは大ダメージを与えただろうと考え、観客も同じ考えだ。実のところ、大したダメージは入っていない。ゲンオウの神討ちの方が痛かった。
 一度窮地に陥って、そこからの逆転劇、そのためだけにぶつかり合いで負けたのだ。
 よろよろと立ち上がる演技をする幸助に、リタイは近づいて連続して剣を振るう。

「ラッシュラッシュ! リタイに形勢が傾いた!
 なんとかライドは防いでいるが、このまま勝負は決まるのか!? もしくは逆転するのか!?」

 アナウンスが加速した状況を興奮して話していく。
 ある程度防いだり、食らったりした幸助はもういいかと距離を取り、突風の魔法でリタイの接近を妨げる。
 大きく肩で息をする演技をしつつ構えをとった幸助を見て、リタイは進むことを止め、その場に踏みとどまる。

「最後の賭けに出たか!
 いいだろう、その一撃耐えてみせよう。そして俺の勝利を観客に見せつけてやる!」

 演技に気づかず最後の悪あがきと勘違いしたリタイは、腕を交差させ防御の型を取る。
 それに幸助は幻の仮面の下でにやりと笑みを浮かべ、いままでとは違う幻を創造する。

「これは!? 虎か!? ライドの足元に虎を模した紋様が描かれております! ライドの大技なのでしょうか!?
 さらに今まで青かった光は赤くなり、そして片足ではなく両足が光に染まっていく!」

 飛翔魔法を使った幸助はジャンプしたかのように飛び上がる。頂点に達したとき、体を錐揉み回転させてリタイへと突っ込んでいった。
 突き出した右足の先から、赤い光の帯が現れ、回転に沿って渦巻いていく。

「竜巻だ! 赤光の竜巻がリタイ目掛けて突き進む!」
(これぞハリケーンライドキック!)

 迫り来る赤い塊のプレッシャーに、これは早まったかとリタイは冷や汗が流れた。
 すぐにリタイの交差させた腕に、幸助の蹴りが命中する。
 幸助の回転は止まらず、受けているリタイは少しずつずり下がっていく。その表情に余裕はない。
 回転は十秒ほど続いたのち止まる。右足の光も消えうせた。

「耐えたっ耐えたぞ!」

 にやりと笑みを浮かべ、久しぶりに感じる大きな痛み耐えつつリタイは吠えた。
 観客も最後の攻撃を耐え切られ、これで幸助の負けかと考える。
 それらの考えを裏切り、幸助はリタイの腕を踏み台にして再度飛び上がる。

(こんなこともあろうかと!)
「ライド再び飛び上がったぁっ! 攻撃はまだ終わりではなかったのでしょうか!?」

 飛び上がった幸助は前転するようにくるくると回り、リタイ目掛け落ちる。

「これはまさか!?」

 アナウンスがこの後の結果を予測し、声を張り上げる。

(ライド踵落とし!)
「そのまさかだった! 決まったっ踵落としだぁーっ!」

 まだ光を放っている左足での、回転で勢いをつけた踵落としがリタイの肩に命中する。
 風が吹き煙が晴れた舞台上では地面に倒れ伏すリタイと、そのそばに立つ幸助という図が見える。
 風にたなびく赤いマフラー、激戦を乗り越えてしかと地に立つその姿に憧れを持った者も少なくなかった。
 一撃目でギフト効果を突き抜けてダメージを受けていたリタイは、一撃目よりは弱いとはいえ、しっかりとダメージを与えてきた二撃目に耐え切れなかったのだ。

「審判確認を!」

 たっぷり十五秒ほど待って、リタイが少しも動かないことを確認したアナウンスは舞台外にいる審判に呼びかけ、状況を確認してもらう。
 審判は幸助を三メートル以上下がらせ、リタイの状態を確認する。
 立ち上がった審判は腕を交差させ、リタイが気絶していることを示した。

「決まった! 決まりました!
 優勝は、じゃなかった決勝進出はライドで決定だぁーっ!」

 大きな歓声と拍手が会場を包む。会場外からも盛り上がっている声が聞こえてくる。
 アナウンスが間違えたように、観客も幸助の優勝を疑っていない。中にはさらなる大番狂わせを期待している者もいるが、それは少数だった。
 決勝戦は休憩を挟んで一時間と三十分後……のはずだったが、相手が辞退し幸助の優勝が決まった。
 辞退した選手は準決勝戦を見て、自分ではライドにもリタイにも勝てないと思い知ったのだった。けれどもこれからさらなる修行を自身に課して、次は勝つと気合を入れている。
 観客もその判断を責めることはなく、仕方ないなと納得している者がほとんどだった。
 リタイを破り優勝したことで、ライドの名はカルホード大陸に広く鳴り響くことになる。
 こののち、カルホード大陸とセブシック大陸の人間がライダーの話をして、選手として実際にいるライドと演劇として想像上のライドの話題の食い違いに、首を傾げるなんてことも起こったりする。

 リタイが目覚めてから表彰式が始まる。
 舞台上には、幸助、リタイ、決勝進出を辞退した選手、その選手に負けた選手と大会関係者たちが並んでいる。
 それぞれに、大会責任者の老人から祝いの言葉と賞金が手渡される。優勝した幸助には閃貨五枚、以下三枚、一枚、金貨五枚と減っていく。
 トーナメントに出場したボルドスにも賞金は出て、負けて控え室に帰ったとき金貨一枚が手渡されていた。
 幸助は賞金のほかに優勝旗も渡されたが、これは大会側で保管してくれるので荷物にはならい。
 表彰式が終わってあとは帰るだけと思っていた幸助だが、大会責任者が選手に打ち上げに参加するよう呼びかける。

(参加していいものなのかな、これ。
 参加しないとルビダシア家に迷惑かかるかもしれんけど、参加したらしたで面倒事発生とかしないか?)

 どうしようか考え込んだ幸助は、エリスに指示を仰ごうと急いでトイレに向かい、そこで変身を解いて、エリスたちがいるはずの指定席に向かう。
 アナウンスが帰る者たちに注意事項を伝えている。その内容は街から東に一日行った場所にラフドワームという魔物の女王がいて、徒歩や馬車での移動をしばらく止めるというものだった。

 ラフドワームというのは、以前ウィアーレの兄の依頼で行った遺跡にいたミミズの魔物の亜種だ。あっちは人も食う肉食で、こちらはミミズと同じように土を食べる。ただし土を肥えさせるミミズ違って、土の栄養をすべて吸収してしまう害獣指定されている魔物だ。
 その女王は一般的に体長七メートル、四つ首二つ尾という巨体で、特殊な攻撃はしないがしぶとさが並外れている。過去には六つ首五つ尾という女王もいて、街一つを滅ぼしたという記録が残っている。

 指定席に向う途中で、幸助は運良くエリスとウィアーレに鉢合わせする。大会が終わって見るものもなくなったので、帰ろうとしていたのだ。

「あ、コースケさん! すごかったですよ!」
「どうした、なにか急いでいる様子じゃな?」

 通行の邪魔にならないように、それと話す内容を聞かれないようにするため、二人と通路の端で話す。
 幸助はざっと事情を話して、どうすればいいのか聞く。
 相談されたエリスは少し考え込む。

「参加して、早めに帰りなさい。
 そうすれば、ルビダシア家の顔を潰すことにはならないでしょう。
 それと喋る場合は変声の魔法を使いなさい。喋らないですむならその方がいいがの」
「わかった。じゃあ、控え室に戻るよ」
「ちょっと待って。怪我とかない? それだけ聞きたい」

 押されていたことはエリスから演技だと教えてもらったが、それでも心配だったウィアーレ。
 そのウィアーレに擦り傷くらいだと笑みを浮かべて答え、幸助は人の気配のない廊下で変装し、控え室に戻る。

「あ、ライドさん」

 控え室に戻ると大会関係者がいて、困ったような表情からほっとした表情へと変えた。

「これから移動しますので、ついてきてください」

 幸助は頷いて、先に進む大会関係者のあとをついていく。
 会場の前に数台の馬車が用意されており、それに選手と大会関係者が乗ることになっている。
 幸助の乗ることになっている馬車まで案内した大会関係者は、少し待つように告げて去っていった。移動する者が全員揃ってから出発する予定なのだ。
 全員が揃い出発するまでそう時間はかからなかったのだが、姿に特徴がありすぎる幸助は目立ちまくっていた。出発する時に、馬車が動かしづらかったほどに人が集まっていた。
 気後れしているのか、近づいてきたり話しかけてきたりはしないのだが、指差したりひそひそと話す声が聞こえたりと幸助は少しだけ煩わしく感じていた。

 馬車はゆっくりと進み、十分と少しかけて目的地である街の代表者の屋敷に到着した。
 打ち上げ会場は屋敷の庭で、いくつものテーブルが並び、そこに食べ物と飲み物が並んでいる。朝から準備していたため、早めに大会が終わってもなんとか会場設営は客が到着する前に終わった。
 ほとんどの客は庭で自由に過ごし始める。今回の大会について話し合ったりする者もいれば、目をつけた選手にうちに来ないかと声をかけている貴族もいる。
 会場にはボルドスの姿もあった。トーナメント一回戦で負けたボルドスはあまり注目はされていなかったようで、気楽そうに打ち上げを楽しんでいるように見えた。
 幸助も声をかけられたが、簡単な受け答えだけをしておいた。一応誘いはない。すでにルビダシア家に属しているのだろうと思われているからだ。それでも自身の家に招きたいと思っている者は多い。
 料理を食べて空腹を満たした幸助は、ゲンオウかナガレを探す。長居するつもりはないと、一言言っておく必要があるからだ。
 その場から動かずに、一分ほど会場を見渡し、ほかの貴族と話しているゲンオウとそばにいるシズクとナガレを見つけた。

「ライドさん」

 近づく幸助に気づいたナガレがシズクを連れて近づいてきた。
 ゲンオウと話している貴族がちらりと幸助に視線を向け、すぐにゲンオウへと戻す。

「お疲れ様でした。それと優勝おめでとうございます。優勝すると思っていましたよ。
 ただ私たちが予想していた戦い方ではなかったことには驚きましたが」
「観客と自分が楽しめるように戦ったから」

 付き合う対戦相手のことまでは考えていなかった。

「すごかったよー」

 幸助の戦いをエンターテイメントとして楽しめたシズクは、満足そうに笑っている。
 その様子を見て、楽しんでもらえてよかったと幸助も笑みを浮かべる。幻のおかげで見えないが。
 もっとも真剣に戦いに臨んでいて、エンターテイメントに巻き込まれた選手にとってはたまったものではないだろう。

「この打ち上げ最後まで付き合わないから。ある程度時間が経ったら帰るよ。
 これを言うために探してた」
「そうですか。いえ、それがいいでしょうね」

 目立つ気がないと聞いているので、それも仕方ないと考える。

「それでは今日でお別れですね。
 次に会えるのはいつになるかしら」
「会えなくなるの?」
「会えなくなるなんてことはないと思うけど、簡単には会えないだろうね」
「二年後の次の大会で会えるのを楽しみにしておきましょうね、お嬢様」

 そのシズクの言葉に幸助は首を傾げた。

「次の大会? 参加しないよ?」
「え? 参加しないんですか?」

 きょとんとした顔になるナガレ。次も変装して参加するのだろうと思っていたのだ。

「今回も参加するために来たわけじゃないし。
 一度大会を見て満足できたから、もう来ないんじゃないかな」
「そ、そうなんですか。だとしたら次に会えるのは本当にいつになるのか」
「まあ、一度くらいはコウマに行ってみたいと考えてるし、その時に会えると思うよ」
「ほんとにコウマに来るの?」

 聞いてくるシズクに頷きを返す。
 それを聞いてシズクは懐から布を取り出す。触り心地の良さげな材質の布で、綺麗な紫色に染められており、端にワンポイントとして白の花びらが一枚浮いている。

「でしたらこれを。
 ルビダシア家の家紋が入ったハンカチです。当家に来たとき門番に、私の名と共に渡してもらえれば屋敷に入ることができますよ」

 広げられた布の中央に薄紫の家紋が描かれている。

「行くのはいつになるかわからないけど、それでもいいの?」
「ええ、どうぞ」
「ありがたく、借りることにするよ」

 用件を伝え、用事がなくなった幸助はゲンオウに一言挨拶した後、もう一度軽くなにか食べようとテーブルに向かった。満足したら帰るつもりでいる。
 新たに運ばれてきた料理を食べている時に、大会責任者が無事に大会が終わったことなどの挨拶をしていたが、幸助はそれを聞いてもすぐに忘れた。
 料理を食べている間に、何名かの貴族や選手に話しかけられ簡単に受け答えをする。
 そしてある程度の時間も経ち、料理にも満足した幸助は会場をこっそりと抜け出した。
 その幸助をつける者たちがいる。会場内では多くの視線にまぎれて特定の気配は気づけなかったが、今いる場所は高級住宅街と言っていい場所で人通りは少なく、つける者がいればすぐに気づくことができた。
 幸助は小路に入り、物陰に隠れる。足元にあった小石を別の小路へと投げて、そっちに行ったようにみせかける。
 小路に入ってきた男は音を頼りに、そちらへと小走りで向っていった。
 その男を追ってさらに男が小路に入っていく。周囲にはほかにも追ってらしき気配がある。
 その男たちを逆につけてみようかとも思った幸助だが、関わらないでおこうと思いなおし、転移の準備を始める。変装を解いて歩いて帰っても、つけてこられるかもしれないと思い、ここから直接宿に帰ることにしたのだ。
 幸助がその場からいなくなった後、しばらく周囲をさがしていた男たちは完全に見失ったと判断し、帰っていった。
 彼らはライドに興味を抱いた貴族たちが、少しでも情報を得るために出した偵察役だ。
 情報を得られなかった貴族たちは、ライドという正体不明の強者がいるというのみを持って自国に帰る。そしてそれぞれの王に伝えた。

 次の日、幸助たちはボルドスたちと会い、ラフドワーム退治に参加するという彼らに別れを告げて、その日のうちに三人は南回りで東へと向う馬車に乗り出発する。
 寄道しながらセブシック行きの船が出ている港へ向かう予定だ。


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