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9月に東証マザーズに新規上場を果たし、ソーシャル事業も好調なKLabが、スマートフォンアプリ開発の強化のため、業界不問でエンジニアを100名採用するという。その背景、必要な技術人材像、育成・教育体制などをレポートする。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/貝沼)作成日:11.12.14
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KLabのソーシャルゲーム事業が好調だ。2011年10月に発表された前期(2011年8月期)決算によれば、売上高は約57億円で前々期の91%増。営業利益率も前々期が5.1%だったのが、前期は17%と大幅な伸びを示している。
好業績を牽引するのが、「Mobage」「GREE」「mixi」 、ニコニコアプリなどのSNSに提供するソーシャルゲームだ。同社の事業は、クラウド&ライセンス(高負荷分散サーバ「DSAS」サービス)、システム・インテグレーション、ソーシャルアプリケーション開発という3つの軸があるが、その構成比は2010年と2011年では様変わりだ。前年に27%だったソーシャル事業が、2011年は63%と大幅に伸張。同社製ソーシャルゲームの登録ユーザーも2011年6月には1000万人を突破した。ソーシャル事業は、完全に同社のメイン事業として育っている。
この1年は「Mobage」「GREE」「mixi」などのソーシャルプラットフォームがスマートフォンの伸張に合わせてマーケットを拡大した年。それらのプラットフォームに向けて全方位的にアプリを提供しているKLabは、ソーシャル市場拡大の波に乗り、それを先頭集団の一つとして滑走していることになる。
10月の業績発表に続いて、12月には早くも今期第1四半期(2011.9.1〜11.30)の業績予想を上方修正。第一クォーターだけで36億円の売上を見込むとした。修正理由は、ソーシャル事業の予想を上回る伸びだ。既存のソーシャルゲームが堅調に推移していることに加え、「キャプテン翼〜つくろうドリームチーム〜モバイル」や「恋してキャバ嬢GP」など前期末に投入した新規タイトルが急速に売上を拡大したため、としている。
同社は通期の業績見通しは発表していないが、その理由は「主力事業であるソーシャルゲーム関連市場は、引き続き急速に成長しており、今後の市場規模を予測することが難しい」(「業績予想の修正に関するお知らせ」)からだ。変化の激しい市場に対応するため、業績予想を通期・半期ではなく、四半期に絞らざるを得ないという「嬉しい悲鳴」が聞こえてくる。
ソーシャル事業の急速な伸張は、人材採用計画の大幅な見直しにもつながる。開発部を管掌し、採用計画を立案する立場にある天羽公平・取締役はこう語る。 KLabの2011年1月末現在の従業員数が229名(2011年8月末現在:283名)だから、100名といえばその40%以上にあたる。来年には社員の半分近くが入社1年以内のニューカマーという状況が生まれることになる。国内ソーシャルゲーム市場がスマートフォンに移行することを見越して、同社は既存のフィーチャーフォン向けタイトルをスマートフォンのWebゲームとして移植する作業をすでに終えている。しかしこれは単に、それが流行だからなのではない。 同社のソーシャルゲームには、前年リリースしたタイトルが1年経ってもすべて現役で収益を上げ続けているという特徴がある。また新作タイトルのほとんどで初期ARPU(ユーザー1人当たりの月間売上高)が1年間で2倍近くに向上したという実績も注目に値する。つまりKLabはフィーチャーフォンにおけるヒットゲームのノウハウを、スマートフォンにも移植しようとしているのだ。 ヒットを生み出し続ける理由として挙げられるのが、「恋してキャバ嬢」に見られる有名読者モデルやテレビ番組とのタイアップ、「キャプテン翼」に見られる人気キャラクターや版権の導入といった、マーケティングのうまさだ。しかしそれだけではない。短期的なPDCAサイクルを回しながら、常にゲームシステムや運用方法を改良していく独自の開発プロセスの構築や、「天才非依存型」と呼ばれる、ノウハウやTIPSを全社で共有する開発組織のあり方も、ヒットゲームを生み出す一因だ。 また、アプリケーション・フレームワークを自社独自に開発する一方で、国内のソーシャル・プラットフォーマーでも採用されている高負荷分散サーバー技術(DSAS Hosting for Social)を自前開発していることも強み。これらの高度な技術力や開発体制が高売上・高収益の背景にあるのだ。 |
KLab株式会社
取締役(開発部管掌役員) 天羽 公平氏 |

エンジニア大量増員の背景としてもう一つ挙げられるのが、今後の海外事業展開だ。スマートフォン向けアプリ開発は、AppleのApp StoreやAndoroidマーケットといったプラットフォーム自体が最初から国際的に展開されているという意味で、そもそもがグローバルを視野に入れた事業にならざるを得ない。国内のソーシャルゲームプラットフォーマーも、海外SNSとの事業提携や企業買収を通して、内外のプラットフォームを統合し、世界に羽ばたこうとしている。
国内市場を堅固に打ち固めつつ、海外展開を図るKLabの事業戦略もそれに即したものといえる。すでに2011年7月に同社は、中国のモバイルゲーム企業PiP社と業務提携し、ゲームの相互提供を開始しようとしている。PiP社はSymbian、Android、iPhoneなど各種モバイル端末に対応したマルチプラットフォームのMMOPRGゲームをリリースし、中国のゲームショーで最優秀モバイルネットゲーム賞を受賞した実績がある。そのタイトルが日本のプラットフォームに移植されると同時に、KLabのソーシャルゲームが中国で展開される可能性が出てきたのだ。
「ワールドワイド」「スマートフォン」「アプリ開発」の3つがクロスする領域が、同社の今後の収益拡大において、極めて重要な役割を果たすことは間違いない。
「海外に関しては現在は仕込み中。今期中には収益化の土台を固めたい」と、天羽氏もその意気込みを語る。
「手始めに、日本でヒットしたタイトルから世界観がグローバルに通用するものをいくつか選んで、海外のモバイルゲームのプラットフォーム、あるいはApp Store、Androidマーケットへリリースすることを考えています。まずは英語圏を対象にリリースしていきます」
アプリのローカライゼーションだけならそれほど困難ではないが、App StoreやAndroidマーケットでの展開となると、それぞれのプラットフォームに合わせたネイティブ・アプリケーション開発が不可欠になる。現在はワンソースを複数のプラットフォームに容易に対応させることができるゲームエンジンなどもあるが、やはり一定量は手作業での書き換えが必要になる。
こうしたスマートフォン=グローバル市場でのアプリ開発のためには、即戦力となるスマートフォン向けWebアプリやネイティブアプリ開発経験者が欲しいところ。しかし、その経験者の数は社会的に少なく、しかもいまこの分野は凄まじい人材争奪戦が展開されていて、KLabといえども十分な質と量を確保できる保証はない。
そのため人材採用に当たって同社は「ポテンシャル採用」を強く打ち出している。「ポテンシャル」の意味は、「知識や経験ではなく、考えることができるかどうか」ということだ。
「これまでのKLabですと、Webアプリケーションの開発経験というのを必須条件にしていました。しかし今後は、カーナビやデジカメなどの組み込み系ソフト開発の経験でもOKということです。あるいは、Webゲームは書いたことはないが、コンソール・ゲームの開発をしたことがあるとか、業務系のアプリケーションを開発したことがあるとか、そういった人でも大丈夫。スマートフォンアプリはこの1年で立ちあがったような技術なので、そもそも人がいないことはよく分かっています。ただ、異業種だったとしてもこれまでの開発経験でよいパフォーマンスを出している人なら、スムーズに順応できると判断しています。また、現に当社ではそういった人が活躍しています」(天羽氏)
組み込みソフトの開発者は、OSやハードウェア回りの知識もあるため、スマートフォン・デバイスの機能を生かしたアプリ開発には十分な適性があるといわれる。ソーシャル業界の他社も、徐々にこうした「エンベディッド技術者」に関心を寄せ始めた。
あるいはJavaなどで業務用のWebアプリを書いていたような人たちはどうだろう。
「OKですね。Javaのスキルは、 C、C++、C#、PHP、Ruby、Python、Perlなどの技術と共にあったほうがいいです。ソーシャルゲームはアプリだけで完結するものではなく、サーバーとのやりとりが必須です。また、ソーシャルグラフを活用して他のユーザーとつながる部分も組み込まなくてはいけません。そのとりまとめをしているのがアプリケーションサーバーなんですが、そうしたサーバーサイドの設計・実装ということもやっていただきたいと考えています。まずはなんでも、慣れていただくのが先ですね」
天羽氏の話を聞いていると、かなり間口は広いことが分かる。求める要件を列挙すると以下のようになるだろう。
歓迎する経験
■ソフトウェアやミドルウェア、ハードウェアの開発経験
■以下の開発経験
- デジカメやカーナビなどの組み込みソフト - 業務アプリ - ソーシャルゲーム - スマートフォンアプリ - Webアプリ
■さらに以下の経験があればベター
- パフォーマンスチューニング - Linuxオペレーション - ネットワークプログラミング
■歓迎する言語・ツール
- C, C++, C#, Java, PHP, Ruby, Python, Perl - LAMP - RDB - memcachedなどのKVS
「これらを業務でこなしていればそれにこしたことはありませんが、 余暇の時間に自宅サーバーで経験を積んできたとか、その経験を自分のブログで発表したことがあるとか、そういう方でも大歓迎です」と天羽氏。
つまり一言でいえばこれは「業界不問」宣言だ。成長分野のWebアプリ・スマートフォン・ソーシャルゲームの世界へ人材を呼び込み、KLabならではの組織力と技術力で彼らの技術力を高度に底上げする。国内外のソーシャルプラットフォームで勝負するための強固な布陣がこうして作られることになる。
このレポートに関連する求人情報です
KLab株式会社(クラブ)
◆ ソーシャル事業 ◆クラウド・ライセンス事業 ◆SI事業 ◆人材サービス事業(有料職業紹介許可番号 13-ユ-303684) ★主にWeb、モバイル分野における「企画力」と「技術力」の最先端企業として発展。★2011年9月27日東京証券取引所・マザーズ上場。続きを見る
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