医療における即興
テーマ:学会・研究会今日は写真がなくて残念だが、面白い講演会に行ってきた。
水曜日恒例のMedical Center Hourの連続講演だが、
今日のテーマは、
Improvisation: What does it have to do with practicing medicine?
(「即興 ― それは医療の実践と何の関係があるの?」)
講師は、シャーロッツビル在住の即興演奏家(ヴァイオリニスト)でFree Playの理論家でもある
Stephen Nachmanovitch 氏(名字はナッハマノーヴィチと読むらしい)。
まず最初に、ヴァージニア大学音楽学部のLoren Ludwig氏のヴィオラ・デ・ガンバと
ナッハマノーヴィチ氏のヴァイオリンとで即興演奏。
その後、「即興とは何か?」をめぐって講演と議論。
ナッハマノーヴィチはウィリアム・ブレイクについての論文で博士号をとり、
日本でも有名な文化人類学者・哲学者のグレゴリー・ベイトソンを師と仰いでいるようだ。
医療において、医師やナースは、データや一般化された人間やその身体・心理ではなく、
個別の患者と向き合っており、そこで行われていることの本質は、科学的な一般原理に
基づいた一定の手続きを個々の症例に適応するというよりは、その場その場の即興的
かつ創造的なやりとり(対話)に近い、という内容。
会場からの質問は、医師や臨床心理士からのものが多かったが、
「即興と言っても、実際にはいろんな形式(音楽の場合で言えば、クラシックやジャズ、民族音楽
などのさまざまなジャンルの形式)をふまえて、それを元に変形させているだけだろう?」
とか、
「医療ではミスは許されない。患者とのやりとりには即興という面がもちろんあるが、
それだけで両者の本質が同じだというのは言い過ぎではないか?」
というようなものであった。
それに対してナッハマノーヴィチが、
「improvisation(即興)とrandomness(無秩序)、creativity(創造性)とoriginality(独創性)
を混同しがちだが、これらははっきり区別しなければいけない。実際、クラシック音楽の
演奏などで、コンクールを受けようという若い音楽家たちは、少しでもミスをしちゃいけない
という意識にがんじがらめになっているかもしれないが、たとえ楽譜の通り弾こうとして
いても、実際には自分の弾いている楽器の音を聴きながら、それと対話しながら演奏して
いる。だから実は、そこでは即興をやっているんだ。ジャンルによって、形式へのしばりや
即興の度合いというのは違っても、そこで「何が起こっているか」はおんなじだ。
ただそのことを意識できているかどうか、の違いがあるにすぎない」
というようなことを言っていたのが印象的であった。
(これは音楽を演奏する際の私の実感から言っても大いに納得できた)