2006-09-15 06:24:40

エリック・J・キャッセルの講演

テーマ:学会・研究会

Cassellの訳書

 昨日は、またまたちょっと確率の低い出会いがあった。


 これから毎水曜日の昼休みの時間(12:30~13:30)に

 大学のMedical Schoolで、Medical Humanitiesの連続講演

 が始まるのだが、その第1回目ということで、行ってみた。


 (Medical Humanitiesというのはあまり日本にはなじみの

 ない言葉かもしれないが、訳すと「医療人文学」あるいは

 「医療人間学」、要するに医療を人文科学や社会科学の

 観点から考える、つまり、医療を人間の営みとして、社会

 との接点の中で考えるという、幅の広い学問領域の総称)

 

 その第1回目の講演者として、ニューヨークからやってきたのは、Eric J. Cassell、「病気」ではなく

「病む人」こそが医療の核になければいけないと説く、いわゆる「全人医療」の旗手の一人である。

彼の30年近く前の著書、The Healer's Artは『癒し人のわざ』という題で日本語訳も出ている(写真)。


 Medical Schoolの4年生には、これが必修の講義にもなっているようだが、聴講自由なので、会場の

ホールには200人ほどの人々が集まり、ほぼ満員。医学部の教授や大学病院の医師らしい人の姿も

ちらほら見かける。大学病院の食堂から食べ物の皿をそのまま持ち込んで、ランチを食べながら聞いて

いる医学生もいて、日本ではまず見かけぬ光景。

 

 講演は、医師と患者のやりとりを物真似でユーモラスに表現しながら、何度も場内を爆笑させつつ、

根本の主張がきっちり印象に残る、芸達者のそれ。(日本で言うと、河合隼雄氏と徳永進氏を足して

2で割って、それをアメリカナイズしたような感じか・・・この形容で想像できますか?)


前置きが長くなったが、確率の低い話はここから。


キャッセルの本は、私が去年書いた論文(「「病いの知」の可能性」)にも引用したが、その論文の

英語版を来年にかけて書こうとしているために、訳書をアメリカにも持ってきていた。

この本も古いし、訳者である土居健郎(『甘えの構造』で有名な精神分析家)がずいぶん昔から

キャッセルのことをエッセイなどに書いていたので、まだご本人が生きている、とは思っていなかった

のである。


また、土居健郎の思想については、実は昨年、東京で行われた宗教学の国際会議のパネルで、

私が研究対象として発表したもので、実は恐れている9月末締め切り・・・の原稿という

のは、その時の発表をアレンジしたもの(になる予定)なのである!


これも何かの縁とばかり、

講演終了後、質問者の長い列に並んで、キャッセル氏に挨拶。

ぼくが自己紹介を終わらぬうちに、ぼくの手に持っている訳書(写真)に目をとめた

キャッセル氏は大喜び!!


後ろにも質問者が並んでいたので、短い話しかできなかったが、

キャッセル氏は土居本人にニューヨークで会ったということで、「彼はとってもナイスだ」

「彼の、あの・・・何て言ったっけ?、日本語で・・・えっ、「Amae」、ああ、それだ!!

あの理論は、医師と患者の関係の核にあるものをたいへん見事に表現している」と

話してくれた。


ぼくがアメリカにあの訳書を持って行ったのも、日本にいる間にし残した仕事がたまたま

土居に関するものだったのも、偶然のことだっただけに、これもまた不思議な出会い

であった。

 

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