社説

主権回復の日/沖縄の痛みを受け止めて

 安倍晋三首相の国家観が強くにじみ出た記念日の設定であり、イベントの実施と言っていいだろう。
 安倍政権は4月28日を「主権回復の日」とし、政府主催の記念式典を行うことを決めた。天皇、皇后両陛下も出席する。
 1952年のサンフランシスコ講和条約が発効し、日本が7年に及ぶ占領統治から独立を回復した「節目の日」である。
 自民党が昨年の衆院選公約に掲げており、決定は当然の流れに映る。ただ、今年が節目ということでもなく、政権が優先的に取り組む課題かどうか、得心が行かない。
 多くの国民も唐突さを感じているに違いないし、何より、沖縄が強い忌避の感情を示しているからだ。
 政権が独立を祝うこの日は、沖縄、奄美、小笠原が米政権下に組み入れられた日でもあり、多くの沖縄県民は「国から切り離された『屈辱の日』」と受け止めている。
 日本が主権を回復してもなお、沖縄の差別された状況は72年5月15日の本土復帰まで続いた。祝う気分になれようはずもない。仲井真弘多知事は式典への出席を見送る。
 地元紙の調査で、県内41市町村長の8割が式典に反対し、賛成はいなかった。
 差別は今も解消されていない。小さな県に在日米軍基地の74%が集中。米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設計画、オスプレイの強制配備に反対する地元の意向は無視され、「沖縄の主権」は奪われたままだ。
 辺野古移設が暗礁に乗り上げる中、神経を逆なですることを承知で押し切った首相の対応に、多くの県民は今後も郷土を差別し、犠牲を強い続ける「意思表示」と怒る。
 「国の未来を切り開いていく覚悟を新たにすることが重要」(安倍首相)との認識に違和感はない。ただ、政権が沖縄への配慮を置き去りに、強引に推し進める手法ははなはだ疑問だ。
 憲法改正に向けた環境整備の一環とみる向きがある。「主権回復」に絡める形で、現憲法を被占領下での「押し付けられた憲法」との認識を広め、改憲機運を高めようというわけだ。
 保守の支持層を意識した「安倍カラー」の一手とも解釈される。もっとも、地方は中央の決定に従うものとする「地方軽視」の統治観の表れと受け止められれば、共感を得られるはずはなく、改憲機運の盛り上げにもマイナスに作用するだろう。
 沖縄に理解してもらえるよう方策を尽くすべきで、場合によっては主権回復の日を沖縄返還が実現した「5月15日」にしたっていいではないか。もっとも、北方領土の状況も視野に置いておかなければいけない。
 最低限、「主権回復の日」を「沖縄の痛みを共有する日」と位置付けるぐらいの配慮を求めたい。
 中央と地方の関係をあらためて問い直し、国のありようを見つめ直す契機にしなければ、記念日を定めた意義は乏しい。

2013年04月12日金曜日

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