朝日新聞が共通番号制度反対のキャンペーンを始めた。4月4日に記事「共通番号、消えぬ不安 利便向上の半面、不正利用も 法案、国会審議入り」が掲載されたのに続き、4月5日には松浦記者の署名入り論評「マイナンバー 住民票コードで十分だ」。翌4月6日には「共通番号制 反対の声」と題して日本弁護士連合会などが反対しているとの記事。「プライバシー侵害につながる」というのが、これらの記事に一貫する主張である。
住民基本台帳カードの交付は2003年に開始された。総務省の発表によると、しかし、12年12月末現在の累計交付枚数は714万枚に過ぎない。これは、プライバシー保護を優先する余り、最初に住基カードの用途が絞り込まれ、それでも「売り」として残った転出入手続きが簡素化されるという利便が国民に評価されなかったからである。総務省統計局の発表をもとに計算すると、国民一人ひとりは25年ごとに転出入するに過ぎないのだから。

教訓は明らかだ。利便が向上すると国民が期待しないから住基カードは普及しなかった。その反省に立って、社会保障・税・災害対策の行政事務で、共通番号をベースに、情報提供ネットワークシステムを通じて連携し、国民の利便を向上するようにしたのである。プライバシー保護は大切だが、それを強調しすぎると、再び利用範囲が制限されて役に立たないシステムが出来てしまう恐れがある。

記事によると、日本弁護士連合会の清水勉氏は「コンピュータで簡単にデータ検索ができる時代に、個人情報を集めやすくするキー番号を作ることが問題だ」と強調しているという。試みに「清水勉」でグーグル検索すると清水弁護士がトップに出るが、古紙回収業を営む福井県福井市の清水勉商店は清水弁護士が経営しているものなのだろうか。清水弁護士のように著名でない市井の人々について、コンピュータで検索して集めた情報は信頼できるのだろうか。

人口減少社会に突入したわが国では、これから公務員の数も減少していくので、行政事務はできる限り効率化する必要がある。行政機関間での情報連携を進める共通番号は、効率化の第一歩である。特定個人情報の保護のために「特定個人情報保護委員会」が設けられ、清水弁護士が指摘する「悪意で情報を流す職員」に対する4年以内の懲役も規定されている。

「駄目なものはダメ」とばかりに批判を続ける朝日新聞には、これから先の社会をどう維持し、発展していくかについての展望が欠如している。

共通番号は、ぜひとも進めるべき施策である。

山田肇 −東洋大学経済学部−