セキュリティ

改めて感じる個人情報/プライバシー保護意識の大きな落差

2013/04/12
神近 博三=ITpro

 エイプリルフールの2013年4月1日、個人情報/プライバシーの保護に関連した2つのニュースが飛び込んできた。1つは、NTTグループが計画していたインターネット利用実態調査が中止されたというニュース(関連記事)。もう1つは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する佐賀県武雄市の「武雄市図書館」がオープンしたというニュースである(関連記事)。

 NTTグループの調査は、NTT東西地域会社のインターネット接続サービス「フレッツ光」およびNTTドコモのユーザーを対象に、Webの閲覧情報や利用端末情報を調べようとするもので、「今後のお客さまサービスの向上に向けた多様な端末環境におけるブロードバンドのご利用状況の客観的把握」と「多様な端末環境における情報収集技術の開発と検証」を目的としていた(NTTグループの発表資料より引用)。

 中止になった理由は「取得する情報の範囲が不明確でプライバシー侵害ではないか」という批判の声が、Twitterなどのネットを中心に盛り上がったことだ。モニターとなることを同意したユーザーは、自分のパソコンやスマホにログ情報を自動収集する専用アプリをインストールするのだが、この専用アプリはWebの閲覧履歴として、サイトのURLだけでなくWebブラウザーの表示画面まで収集してしまう。このためNTTがその気になれば、ネットで送信されるクレジットカード番号や各種のID、パスワードのような機密情報まで収集することができる。他人に見られたくない情報を収集対象から除外することもできるが、そのためにはモニターが自分自身で専用アプリにそのように設定しなければならない。

 個人情報保護法の第15条には「個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的をできる限り特定しなければならない」とある。その意味で、「ブロードバンドのご利用状況の客観的把握」「多様な端末環境における情報収集技術の開発と検証」といった目的に対して、今回の専用アプリのログ収集情報の範囲はアバウトすぎる。ネットでも批判されていたように、NTTは明らかに不用意だったと言えるだろう。

CCCが管理指定者として市立の図書館を運営

 もう1つのニュース、武雄市図書館はCCCが武雄市の管理指定者として運営するものだ。こちらもネットで批判の声が上がっていたが、予定通り4月1日に開館した。

 批判は主に3つある。1つは、図書館利用者の個人情報を民間企業であるCCCが管理することで、貸出履歴などの流出を危惧する声。あとの2つは、CCC経営のレンタルビデオ店や書店が図書館に併設されるため、近隣のレンタルビデオ店や書店にとって民業圧迫になるという批判。そして、著作物の無償貸し出しが許される根拠となる図書館法に定められた“図書館”に、レンタルビデオ店やカフェを併設した武雄市図書館は該当しないのではないかという批判である。

 ここでは1つ目の個人情報/プライバシー保護に関連した批判に話を絞る。武雄市図書館では専用の図書利用カードに加えて、CCCのポイントカードであるTカード兼用の図書利用カードを発行できる。ここでTカードの個人情報と図書館での貸出履歴をひも付けすれば、CCCは誰がどのような本を読んでいるかを知ることができる。こうした批判に対して、武雄市の樋渡啓祐市長は2012年5月のブログで、「個人情報保護法に定められた個人情報とは、特定の個人を識別できる情報であり、図書の貸出履歴は個人情報にはあたらない」という主旨の反論をしている。

 なお2013年4月10日現在、CCCのサイトで公開されている「Tカードでの武雄市図書館利用に関する規約(2013年4月1日付)」の第3条(個人情報の取り扱い)を見ると、「図書館利用者の個人情報及び図書等の貸出履歴等の利用情報については、図書館が図書館運営を円滑に行い、図書館利用者の利便性を向上する目的においてのみ利用します。ID紐付登録を行った場合でもCCC及びTPJ(Tポイント・ジャパン)に対し当該個人情報及び利用情報は提供しません」となっており、図書館利用者の個人情報や貸出履歴の利用には厳しい制限が付けられている。

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