デッサン講座

編著 関根英二;ルボー主宰

色価(バルール)と方法
 前回の基準設定によって、画像の中に低明度から高明度までの色価の基準(グレイ・スケール)ができています。これで対象の色調を画像のバルールとして構成する態勢ができたわけです。
 今回は対象の色調をどう読むか、そのしくみをどう画面に構成するか、という方法の最も基本的な「比例法」に入ります。
 比例というともっぱら形の問題と考えられがちですが、色価も相対値ですからまさに比なのです。この事実を理解すれば、前回の形象をとらえた「比例法」が、そのまゝ色価の見方、色価の構成の方法となるわけです。その意味で形についての概念と色価についてのそれとの対称性をみて置きましょう。
形象性=分量と関係構造 ←→ 色調=色価(面)と関係構造
分量=相対量(大小) ←→ 色価=相対色度(明暗)
垂直系 ←→ 低明度(暗)系統:水平系←→ 高明度(明)系統
タテ・ヨコの最大値←→ 黒(N1)、白(N9)
 このように形のことばと色のことばが対応すれば、形の比例法の四つの方法の体系に色価の概念を代入すれば、色価の方法となります。
 つまり、形の方法(1)の、「いくつかの分量の集まり」の分量が色価にかわるだけで、(2)(3)(4)はまったく同文です。(2)それらの種類と脈絡、(3)それらの具体的組成、(4)それら相互の作用場、となります。─対象の色調の外延的統一、内包的統一、組成的統一、作用的統一の体系となるわけです。
 したがって形の見方・構成の方法を体系的に体得すれば、バルールもまったく同じ方法的な実践が可能になるのです。
 注意したいのは、バルールを見るのも形成するのも「面」を忘れないことです。面として見ることは、無限的な色の連続を、有限の単位にして、その拡がりや形状を色と同時に見ていくのです。これが色と形が綜合された「色面」です。
 分量(長さ)の関係構造は平面的な形をつくり、色面の関係構造は多面・立体的な場をつくるのです。これによって形の感覚と色の感覚とが一体となって進化していくのです。



 <色価>バルール──色面の値とそれらになる関係構造

比例法/色価 対象は、多様な色調の織りなすフォルム(形態)の場です。その色調の働きによって、その像の白さやボリューム(質量感)などを見せているのです。
 この方法は、そうしたモチーフの場を、画像の黒(N1)から白(N9)の基準値によってとらえていく最もシンプルなすゝめ方です。
 比例法には(1)から(4)の4つの方法があり、(1)から(4)への方法の流れは、前回のグレイ・スケールの形成の手順(右図)と対応しています。つまり、まず黒・白という基色に始まる方法(1)、それらの半調であるN5に始まる(2)、低・中・高明度という色域による(3)、そして低明度と高明度、そして中明度の相互作用を見て全体性をとらえようとする(4)の方法──の全体です。

● 方法の体系概観──基準系列による色価の見方と構成の方法
いくつかの色価の集まり
低明度と高明度を系統別に
拡張する。

それらの種類と相関性
中明度から展開する。

それらの具体的組成
低・中・高明度の色域の
拡充と統一
それら相互の作用場
低・中・高明度域の相互作用
 ● 比例法の体系はこれらの四方法ですが、今回は方法の(1)を解説します。
 これらの(1)から(4)までの方法は、いずれも独自性があって、どの一方法だけでも一つのデッサンを構成できます。それと同時に、方法(1)の実践から(2)へ、(2)から(3)、そして(4)へと必然的なつながりをなしてもいます。──これが比例法の体系です。
 基本としては、個々の方法の特性を実践的に踏みしめて、その後に全体を一体系として実践するのが望ましいと思います。
 さて、デッサンの全体を通じて、あくまでも大局的しくみから局所へ、が順序です。つまり色価も面(空間のしくみ)も大から小への順序です。
 バルールの形成も、個々の部分的な色面の完成度にとらわれず、大らかでダイナミックなすゝめかたをしていきます。──シンプルに、強く大きく、全的に、の精神です。
 一つの色面には、実は多様な要素が含まれています。そうした無限の場をあえて一つの色面と見なすことが価値づける、ということなのです。
 そして方法の体系は(1)から(4)まですべて「全体性」です。──つねにモチーフの統一、画面構成の綜合であることが、デッサンで学ぶべきところです。

比例法(1)──基色(暗・明)の相対性。バルール全体の枠組み



「いくつかの色価の集まり──」
 モチーフ(対象となる像)の色調の全体を基づけているのは、二つの基色、つまり画像としてみればN1(黒)とN9(白)です。これがバルールの大枠です。
 したがって全体の色調は、N1にはじまる暗い部類と、N9を頂点とする明るい色調の部類とになっています。
 そこで画像に形成した基準値によって、暗い系統、明るい系統の各部を系統別に面とり形成していきます。これは形の場合に、垂直・水平の系統別にその分量関係を測定したのと同じです。
●まず基色(N1)に類する部分を面とりし、基準値(左図)によって形成します。
 次いでN2,N3,N4と暗い方からそれぞれの基準値に列する色価を面とりし、形成します。無論どの色価も基準値とまったく等価とは限りませんから、あくまでもそれに類する、ということであるし、面とりするということはそこでくゝるということですから概括です。
 この図の対象は低明度系の部分が少なく、ほとんどが高明度系で占められていますから、N1,2,3とすゝめていくとしだいに中明度系にうつっていきます。
○次は高明度系列です。基色(N9)の基準値からN8,N7と順序的に、それぞれの基準値によってそれに類する明るい部分を面とりし、形成していきます。
 こうして、暗い色調と、明るい色調からの展開とによって、やがて低明度域と高明度域が結ばれ、交わっていき、対象を構成しているバルールの全体が綜合されていきます。
 色価とともに「面とり」がしっかりしていれば、画像は多面の統一体となって一つの形態(フォルム)をなしていくのです。
●細かいところにとらわれないように眼を細めて全体を見ながらすゝめます。丸みを出そう立体感を出そうなどと考えないこと、一つ一つの色価(面)を拡充していけば立体感は結果として構成されるのです。
 さて、デッサンの技法というのは、ひたすら描くことによって上達するものだ、という通念がありますが、数よりも「いかに描くか」の問題なのです。そしていかに描くか、は「どう見るか、どうすゝめるか」という方法がまずあって、それを具体化する描きかたつまり技術と綜合されていなくてははじまりません。
 したがってデッサン技法は「モチーフが何と何による、どんなしくみであるか」を読みとる直観力をつくること、それを的確に記す技術を体得することが内容です。いわゆる表現はその結果として、おのずから「もの言う」のです。
 比例法の@は、形象の方法と同様最も基本的なもので、この実践を通して色価と形を正確に読み、筋の通った構成のすゝめかたを体得していきます。その意味で今回は第1の方法を解説し(2)(3)(4)、は次回の講座とします。

●次回は「比例法/色価-後編」へ進めます。
下記(ブルー)のシリーズを公開しています。
第1回;素描技法を体系的に学ぶ
第2回-前編-;デッサン技法全体の概観
第2回-後編-;デッサン技法全体の概観
第3回;<比例法>形象(前編)
第4回;<比例法>形象(後編)
第5回;<色価>バルール
第6回;<比例法>色価(前編)-top
第7回;<比例法>色価(後編)
第8回;<点関係法>形象

第9回;<点関係法>色価

第10回;<線関係法>形象
第11回;<線関係法>色価
第12回;<面関係法>形象
第13回;<面関係法>色価
第14回;<体制法;概観
第15回;<線体制法>
第16回;<面体制法>

第17回;<構成法;概観>
第18回;<点構成法>


Copyright(c)2010 美術研究所ルボー. All Rights Reserved.