デッサン講座

構成力をつくるデッサン技法の体系──
編著 関根英二;ルボー主宰
 第2回は基本技法の体系全体を外観しましたが、今回から基本技法の実際を具体的に解説していきます。「対象の見かた構成のしかた」の最も基本的な方法である「比例法」に入ります。
 この比例法には、形象(ストリュクチュール)と色価(バルール)の技法が含まれ、それぞれ四つの方法がありますが、今回は「形象の見かた構成の方法」で、そのうちの(1)の方法までを解説します。(2)(3)(4)は次回まとめて展開します。



●デッサンのはじめ


a. 画面
 本体系ではデッサンを始める時に、まず左図のような対角線・中心線を形成しますが、ここでは省略して、画面構成の基準系となる中心線を軽く描いておいて下さい。
b. 対象と画面と主体
 形象をつくる各部の大きさ(分量)を見る時に使う測り棒は、目盛りのついたものもありますが、細い棒状のものなら何でも結構です。
 対象と主体と画面の配置──まずモチーフに正対し、画面は右側に(右利き)腕を軽く伸ばして描ける程度の距離に置きます。
 姿勢は視野を広くするために大切です。腰を入れ背筋をまっすぐにし、腕を大らかに使えるように画面との距離を適当にとります。そして測り棒を持った左腕はかるく伸ばします。
 画面と眼──視野比の条件から、凝視点は中心のやゝ上に置きます。これがいわば画面の重心です。
c. 構図の基本────
 主題を選び、画面いっぱいに置く
 主題を選ぶということは、例えば、静物や風景では「何と何を」「どこからどこまで」を画面に入れるかを決めることです。
 この基本では、モチーフの全体が構図の対象です。つまり「主題を画面いっぱいに置く」が構図の基本なのです。
 まず測り棒を対象にあてて、大まかなタテ・ヨコの比をとらえます。

 この像の場合、画面の比(1:1.3)に対してタテ長ですから、タテを画面いっぱいに置いて、そのタテに対するヨコの比をとらえます。これを基準値あるいは基準系といいます。
 対象のある部分を抽象したり、フレームを限定することは、少なくとも基本ではありません。




 像のタテ最大の長さを、ヨコ最大の長さと比較し、その比例を読みとりますが、この例ではタテ10に対してヨコ約5.5となります。
 タテ10に対してヨコ5.5の長方形が主題となる 像の大枠です。 その限界を上下・左右にメモします。
 この長方形は画面の中央に置くことで、像の中心と画面の中心とが対応します。
 ものの形象(空間的特性)をとらえるには、いろいろな方法がありますが、まず第一に分量と比例(これをプロポーションという)についての見かたが必要です。 そこで、対象を成す主要な分量の比例関係をとらえるための方法を学んでいきます。  この測り棒などを使って対象の各部の比を見る方法は最もひろく知られていますが、何をどう測るかということになると、従来、経験的な手法のレベルでした。
 この比例法はそれを「ものの見かた、構成のしかた」として四つの方法になる体系としたものです。

比例法 ── 形象の見かた、構成のしかた(1)(2)(3)(4)

(1) 全体の枠組(これを外延量という)、全体を成している大局的な分量比をタテはタテ、ヨコはヨコと系統別にとらえていく。これは空間感覚をつくる方法として最も基本的なものです。
ものが構造的に堅固な(外延がゆらがない)ものの把握に適した方法といえます。
(2) 次は全体の骨組(内包量)です。全体はタテの長さとヨコの長さの集まりの統一です。
そのタテとヨコを別々にではなく、一つのものさし(統一単位系という)で測定し、それらを
垂直水平の中心線によって、上下にあるいは左右に按分していく方法です。
 外延が不確定な、例えば風に小枝がゆれる樹木あるいは動体などはその主幹となる分量比を基準系として全体を統一していきます。
(3) 主要部を規準(ものさし)として、具体的な全体の組織、主要各部の分量のしくみをとらえていきます。
 この方法では垂直水平という基準系にとらわれず、現実的に主要部あるいは大きな部分を規準体として周辺(従属部)との構造関係を組織していく ──
 ヴィーナスを八頭身などというのはこの考え方の例です。運動体などの場合も、その中の
 ある不動の主要部を規準体としてこれとの比で周辺各部に展開していきます。
(4) 分量の相互作用、つまりタテ系の延びに対するヨコ系の大きさ、直線的な部分と曲線的な部分、あるいは左と右、上部と下部などの比のありかたを相互的に見ていきます。
 この四つの方法の内容は、一口に言うと──
(1) いくつかの分量の集まり ─── 外延的統一
(2) それらの種類と脈絡   ─── 内包的統一
(3) それらの具体的しくみ  ─── 組成的統一
(4) それら相互の作用場   ─── 機能的統一

の四つの次元の綜合だといえます。これらを方法の系列としてイメージして下さい。そしてこの論理はこれから先の色価の方法にも共通し、より高次元の多様な方法にも一貫して働きます。
 これが美術体系の「体系」たるのゆえんなのです。
比例法(1)いくつかの分量の集まり─── 外延的統一

 「比例法」第1の方法は、対象のおおまかな形象の外延(枠組)を、分量の関係としてとらえていきます。  タテ最大の長さV、とヨコ最大の長さH、をそれぞれ基準系として、主要な部分の分量をタテ・ヨコ系統別に、より大きい部分から測定していきます。図bcのように、タテ系Vヨコ系Hを平行移動させて、外延限界から対局的なポイントまでの分量を概括していきます。
 それらのポイントの高さ、あるいは幅は、図dのように画面にマークします。
 そのマークが垂直系・水平系の大局的なポイントをとらえ+の形になったら、それらの点によって、図aのようにおおまかなアウトラインを結んでいきます。
 この線は大局的な形象の概括ですから、細かいニュアンスにとらわれず、また短絡に点を結ぶのでもなく、大らかに像を形成しようとします。
 いずれにしてもこの測り棒を用いて測定した分量比は、あくまでも対象の概括の域を出ませんが、慣れると精度も高いものになっていきます。

デッサン制作過程
 「比例法」には、これに続く3つの方法があり、それぞれ独自性があって、どの一つの方法でも対象の形をとらえることができます。同時に(1)から(2)へ、(2)から(3)へと方法の系列は必然的なつながりもある体系を成しています。
 この4つの方法は実践的には、画因(モチーフ)の種類に即してそれぞれ適用されていきます。 例えばある情況では(1)の方法よりも(3)の方法、あるいは(4)の方法が適用し易い、といったこともあるでしょう。またある個性にとっては方法(1)よりも(3)の方が肌に合っている、ということも考えられます。しかし「基本」としては「いかなるモチーフによる、いかなる表現」にも対応しなければならないことから、方法の全体を体系的に学びます。
 いずれにしても、この「比例法」は、空間感覚をつくり、直観力と構成力をつくることを目的とする方法論です。これに熟達すると棒など無しに直観的に対象の形象を読みとるようになります。
 デッサンは「ものをそれらしく描写することだ」と勘違いして5年10年試行錯誤している例を多く見ますが、これでは近代以後の構成的な世界の展開は望むべくもありません。これと「基本のデッサン」とはまったく次元の異なるものです。基本としてのデッサンは「特定のモチーフによる構成表現を通じて、創造的な眼と精神と手をつくることなのです」。
 つまり「一を知って十を識る」が基本の内容です。
● デッサンの方法は「対象の読みかた、その記しかた」つまり造形の「読み書き」にほかなりません。
 したがって対象を読む眼(感覚と知性)が豊かになれば、その描きかたも豊かになっていきます。



●次回は「比例法/色価-前編」へ進めます。
下記(ブルー)のシリーズを公開しています。
第1回;素描技法を体系的に学ぶ
第2回-前編-;デッサン技法全体の概観
第2回-後編-;デッサン技法全体の概観
第3回;<比例法>形象(前編)-top
第4回;<比例法>形象(後編)
第5回;<色価>バルール
第6回;<比例法>色価(前編)
第7回;<比例法>色価(後編)
第8回;<点関係法>形象

第9回;<点関係法>色価

第10回;<線関係法>形象
第11回;<線関係法>色価
第12回;<面関係法>形象
第13回;<面関係法>色価
第14回;<体制法;概観
第15回;<線体制法>
第16回;<面体制法>

第17回;<構成法;概観>
第18回;<点構成法>



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