デッサン講座

編著 関根英二;ルボー主宰
●関係法について──
 前回までの講座で、対象の形と色調の読みかたとそれを画面に構成する技法の、基本中の基本である「比例法」を解説しました。この実践を通じて、あらゆる造形表現の基礎となる構成感覚と構成力がつくられていきます。つまり構図や形象についての空間感覚と明暗や対比・配色についての色彩感覚が組織されていくわけです。美術体系のデッサン技法はこれからより直観的なものとなっていきますが、その実践にはこの比例法がまず基礎となっているのです。
 さて、今回からはじまる関係法は、空間の大小や色価の測定を重ねていくのではなく、各部の空間的関係と色価相互の関係(相対性)を読むことが主となります。この方法の体系には、点関係法・線関係法・面関係法という三つが、形と色のそれぞれにあります。 このように方法の系列はしだいに高次元になっていきますが、方法それ自体は比例法といつも同じです。たとえば比例法(形の場合)の「いくつかの分量の集まり」が「いくつかの点(位置)の集まり」となり、さらに線や面の集まりとなることで、より直観的で実践的なものとなっていくのです。
 講座はまず関係法の第一の点関係法から始まりますが、形象編、色価編の順で解説していきます。

●点関係法(形象)──方法の体系
 対象の形を「いくつかの主要なポイントの集まり」と見て、それらの配置や組成をとらえていこうとするのが点関係法です。 
 ここで言う「点」は像の形象特性を成しているポイントです。これには比例法の基づけとなった、大枠を成している限界点も含まれます。形はそれらの点を結んで形成されるのです。こうした像の個性をつくる大きさや構造をとらえる基準となるような点を"基点"といいます。
 比例法では分量比の測定によって点(位置)を求めましたが、点関係法は、全体を構成する主たる点と点の位置関係を見ていって像の形象を成す線を綜合するのです。そこでまず方法に入る前に、画面に垂直・水平(V,H)の中心線をひき、基準系をつくっておきましょう。次に対象の全体を画面いっぱいに、中央に位置づけます。これは比例法で学んだ基準設定で、垂直系・水平系の比を測定して主なポイントを位置づけておきます。この大きな枠組の測定は、これから始まる関係法のすべてに必要な条件です。

<方法の要約>
(1) いくつかの点の集まり─外延的全体
(2) それらの種類と相関性─内包的全体
(3)それらの具体的組成─組成的全体
(4) それら相互の作用場─作用的全体




点関係法(1)──基点と基準線(V,H)による方法

 像の外郭部(枠組)を成しているような主要ないくつかのポイントを、まず測定によって位置づけます。これらを外(延)点と呼びます。この外点を基点として垂直線V・水平線Hを上下あるいは左右に伸ばして他の各部の点を位置づけていきます。ある点から基準線をひくことによって、この基点の系の近傍にこれに類すると見られる点を枚挙的にとらえていくわけです。
 こうして位置づけられた主要ないくつかの点を結んで、像の大まかな形象を形成します。この方法は、つまり「1(基点)を知って10を識る」論法ですから、まず「1」となる基点がしっかりしていなければなりません。又基点と同じ線上にある点は稀で、多くはその近傍のやゝ右とか左とかとなりますが、そのずれがどれだけかは分量の感覚によっています。
  順序は、あくまでも大局的なポイントからはじめ、垂直(V)系と水平(H)系のそれぞれを系統別に進めていきます。



点関係法(2)──基準系(V,Hの複合)による方法
 対象となる像の外延を画面いっぱいに、中央に構図することによって画像と画面に共通する垂直V・水平Hの中心線が交わる基準系ができています。この方法はその画面の基準系(公準系)による方法です。
 画面の中心点(原点)から上下(V系)左右(H系)の両端点との第2階中点に、直交する(中心線と平行する)系を設けると八つの第2階の基準系と中点が生まれます。つまり格子が出来たわけです。
 さて、この基準系によって中心点の近傍の点、第2階中点の近傍の点を位置づけていきます。そしてさらにはそれらの補完的ポイントへと対象範囲をひろげていきます。
 この基準系によって、像を形づくる主要な各部の相関性がとらえられ、全体の骨格(位階秩序)が与えられます。

点関係法(3)──場の主部を成す点が生む規準系による方法
 主題の場の個性に即して、その主部(あるいは本体)と従属的な各部に規準系をつくり、これによって主要部と周辺各部のしくみを統一拡充します。
 たとえば、任意の2点を結ぶ直線は規準線となり、これに平行する線を作ることも可能です。さらにその中点に直交する規準系をつくることも出来ます。この規準系によってその周辺や系の延長上の各点を位置づけられるわけです。つまり、この方法は(1)の基点と基準線、(2)の直交する公準系の実際化で、垂直・水平線にはとらわれません。
 さて、まず対象の個性的全体を、主部と従属部の組合せと見ます。その主部を構成している各部(ポイント)を結ぶことによって現実的な規準系が出来ます。(図)
 この像では上体の軸の傾きに沿った線とこれに直交する両腕の端点・胸部を通る系が規準系となって周辺各部の組成に展開されていきます。  
 また静物や風景のように、いくつかの個性的なものの集まりの場合もそれらを一個の全体と見なせば、基本的には同じです。全体を貫く主たる支配的な規準系(これを価値体系という)をつくり、これによって従属的な各個の規準系を組織統一していくのです。

点関係法(4)──力点の相互作用による方法
 像の個性を成すポイントは上下左右にそれぞれの特性をもって相互作用しています。これらのポイントを作用(力)点と呼びます。図のように三点以上の関係は曲線系をつくり、この系の近傍の各点を位置づけます。
 こうした曲線系の端点や屈折点は作用力をもった特(異)点であり、力点となります。二点が直線を延長できたように、曲線系もその端点から作用線を伸ばせるのです。
 たとえば像の上部や両腕の頂点、胸部や腹部あるいは腰部などの各点は、この像の個性的な形相に支配的な役割を負う特点であり作用点です。これらの力点の作用力は、それを構成する系の成分と相対性に負っています。つまりある力点が、どれだけの個性的な点の組成に支えられているか、どれだけ異なる系との相互作用に成っているか、によっているといえます。
 そうした各部の力点の相互作用が、像の力感や動勢を形成しているのです。こうした全体をつくる力点の相対性、つまり上下・左右の力点の強さ(特質)、その配置、それらの力点の周辺のしくみ、力点相互の力の連関性などを価値づけ綜合していきます。これが第四の方法です。
● 以上の(1)〜(4)の実践によって、点の関係がつくる外郭線や各部の形象特性を統一します。
 四つの方法は比例法と同様それぞれ独自性がありますから、個々を踏みしめて体得してください。そののちに実践的に、全体を一系列の方法として進めるのがよいでしょう。
 つまり、(1)の方法で大域的な枠組を成す要所々々をとらえたら(2)に進み、大きな骨格を成す点を位置づけたら(3)に移って主部と従属部の価値構造を組成し、そして(4)の各部のポイント相互の働き合いを綜合する、といった流れに沿って実践的なペースをつくります。

●次回は「点関係法/色価」へ進めます。
下記(ブルー)のシリーズを公開しています。
第1回;素描技法を体系的に学ぶ
第2回-前編-;デッサン技法全体の概観
第2回-後編-;デッサン技法全体の概観
第3回;<比例法>形象(前編)
第4回;<比例法>形象(後編)
第5回;<色価>バルール
第6回;<比例法>色価(前編)
第7回;<比例法>色価(後編)
第8回;<点関係法>形象-top

第9回;<点関係法>色価

第10回;<線関係法>形象
第11回;<線関係法>色価
第12回;<面関係法>形象
第13回;<面関係法>色価
第14回;<体制法;概観>
第15回;<線体制法>
第16回;<面体制法>
第17回;<構成法;概観>
第18回;<点構成法>


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