デッサン講座

編著 関根英二;ルボー主宰
<色価バルール>─色価(面)とそれらの関係構造
 ──色価の見かた、構成のしかたの最も基本的な比例法の(1)(前回)によって、対象の暗い系統、明るい系統が綜合され、ひとつの画像が構成されています。
 今回は「基準系列による色価の把握」の方法(2)から(4)までの講座ですが、前回述べたように、方法個々の特性をしっかりマスターするには、まずひとつずつ踏みしめて下さい。実際の制作では方法(1)から(4)までを相補的な一体系としてすゝめますから、例えば(2)を実践し、(3)を実践しようとする時、画面はすでに白紙の状態ではないのですが、形の場合同様、そうした前の方法の成果をひとつの提示(仮説)として受けて、これを批判し、問い直すという探求の精神で(2)(3)(4)と方法を実践するのが良いでしょう。その後に、さらに実践的に、(1)(2)(3)(4)を一連の体系とすることも出来ますが、これは後に述べます。


比例法(2)──色価の種類と相関性;中間色(低明度と高明度の交わり)と体系性
 暗と明、二つの基色に始まる、低明度系と高明度系が交わる中明度のN5を半調(demi-ton)と呼びます。さらに低明度系と中明度系との境界にN3の基準値、中明度系と高明度系の境界のN7の基準値があります。
 これら三つの基準値は色調の全体をつらぬく、いわば骨組みを成しています。この N5, N3, N7からその同類の色価を展開していくのが比例法(2)の内容です。
 まず中明度のN5の基準値(トルソの腹部─)によって、これと同類に列すると見られる色価を大域的に求め、面とり形成していきます。─N5よりやゝ暗い(N4寄り)、やゝ明るい(N6寄り)色価が面とり形成されます。
 次いで、中明度と低明度の境界N3を基準に、これの近似値を求め、面とり形成し、さらに中明度と高明度の境界の基準値N7の同類を求め、面とり形成します。
 こうして、ドゥミトーンのN5、暗い系統のN3、明い系統のN7という三つの関節の補完と系列化によって、低・中・高明度系(これをA,B,Cと呼ぶ)と、それぞれの序列(123,456,789)の大域的な位階秩序が出来たわけです。 

比例法(3)──色域と具体的組成;系列各部の個性的拡充と全体の統一
 モチーフの場を構成する色価の種類と相関性が方法(2)によって概括されました。
 さて、色調の全体は、N3以下の低明度系、N7以上の高明度系、そして中明度の領域に三分することが出来ます。そしてこれら三つの色域のそれぞれがさらに、より暗い色域、より明るい色域、そして中間調と三分していけます。─この系統性と序列性の三分法が比例法(3)です。
a)系統性──低明度系はN3以下の領域です。これに属する各部を面とりし、N3で形成します。高明度系に属するN7以上の各部を面とりし、これらはN9(白)のまゝです。残る領域は中明度(N4〜N6)となり、これはN6で形成します。こうして場の全体が低・中・高明度系の、いずれも一番明るい色価、つまりN3, N9, N6で形成されました。──前述したように、実際の画面は方法の(1)(2)によってすでに無数の色価によって拡充されているわけですが、全体を見直すつもりでこの方法を実践して下さい。
b)序列性──低明度領域(N3で形成されている)の組成;N1に類する領分を面とり形成し、次にN3を面とり、残る領域はN2形成する。高明度領域(生地─白)の組成;N7を面とり形成し、N9を面とり、残る領域はN8で形成します。中明度領域(N6の組成);N4を面とり形成し、N6を面とり、残る領域をN5で形成します。 

比例法(4)──相互作用場;領域相互の対比と類比の綜合


●対比のクラス
 大対比──低明度系:高明度系。明度差が9段階のグレイ・スケールで5〜8度。
 中対比──低明度系:中明度系、中明度系:高明度系。 明度差3〜5。
 小対比──系統内(同類)の対比。 明度差(0)〜2。
 これらの対比は、その接合のしかた(境界領域のありかた)によって断絶・断続、連関・連結・連続などといった状況を構成しています。
 暗い色調と明るい色調が接する大対比では相互に個性を強めあいます。例えばこのモチーフの首や胸の部分、右下の台座の角などがそれです。これらの部分は、他の暗い部分よりも強い暗さとして感じられます。これが対比の効果です。
 (4)の方法は、(3)で拡充された低・中・高明度の領域相互の働き合いをとらえるものです。つまり低明度の領域と高明度の領域の対比、あるいは低明度領と中明度領、中明度領と高明度領のつくる対比の力などを、その境界のありかたに見ていきます。
 そもそも「色価」というものは相対的な値です。ある明るさ(白さ)は暗さ(黒さ)と出会ってよりその特性を強めます。したがって強い白さや明るさは大きな対比によって、また柔らかい白さや明るさは類比(小対比)する色価との組成によって現象するのです。
 こうした対比(コントラスト)のありかたによって、たとえば同じ色価がより明るくも暗くも見えるのです。したがってわずか9段階のグレイ・スケールによる構成が、無数の色調をかもし、モチーフの実在感・質感あるいは質量感などを成しているのです。
──これがバルールの面白さであり、デッサンによって学ぶべき「配色の妙」といえるでしょう。


 方法の順序はまず低明度が交わる大対比の各部を選び、それぞれのの色価の比(色差)をとらえます。次いで中対比の各部を価値づけ、そして色差の小さい同系類の対比へ、とすゝめていきます。これによって低・中・高明度の各領域相互のひゞき合い、その力の働き合いをとらえていくわけです。
 この「強い対比から弱い対比へ」という順序が大切です。とかく水彩や油彩となっても同様ですが、一般に「弱い対比からだんだん強く」という誤った傾向が見られます。が、まず強く踏み出し、それがやがて構成的に綜合されていくのが正しいすゝめかたです。─シンプルに強く、大きく、全的に、が創造的なデッサンの原則です。

●比例法の体系を実践的に純化する──
 方法の(1)から(4)までの全体は、対象の見かた、その構成のしかたの一つのシステムです。
 (1)(2)(3)(4)は、形の方法もそうでしたが、これを実践する個性によって、肌に合うのもあれば不得意な方法もあると思います。しかし、それぞれモチーフの特性によって、
あるケースでは(2)が、またあるケースでは(3)が適用し易い、ということも考えられます。この意味でどんなモチーフにも自在であるように、個々の方法はしっかり踏みしめ、その上で(1)から(4)への必然性(体系性)を体得して下さい。
● シンプルな一体系としての実践
いくつかの色価の集まり
低明度と高明度を系統別に
拡張する。

それらの種類と相関性
中明度から展開する。

それらの具体的組成
低・中・高明度の色域の
拡充と統一
それら相互の作用場
低・中・高明度域の相互作用
 まず最も暗いカ所(N1の基準値)からN2,3‥‥と暗い順にそれぞれの基準値に沿ってN5(中明度)まで形成していく。
 次に最も明るいN9のカ所から明るさの順にN8,N7‥‥とすゝみ、N5まで形成したところで次の方法(2)に移る。

 中明度(demi-ton)のN5によって、これに類する(同じ、やゝ暗い又はやゝ明るい)領域を大域的に求め形成する。
 この中明度のN5とN1との中間のN3、及びN5とN9との中間のN7とから、それぞれに類する色価を展開する。方法(3)へ──

 全体を低明度(N3以下)、高明度(N7以上)中明度(N4〜6)の三領域に区画し、そのバランスを見る。
 三つの領域のしくみを、それぞれ三つの色価(より暗い、より明るい、中間調)の組合せとして拡充する。方法(4)へ──

 暗い領域と明るい領域とがつくる強い対比(L)のしくみをとらえ、次に暗い領域と半調の領域、半調の領域と明るい領域、など中対比(M)のしくみをとらえていき、さらに暗・中・明それぞれの小対比(S)のしくみをとらえる。こうして全体のバランスが綜合される。

 ● このように(1)から(4)までを一つの流れ(一体系)としてすゝめるのが実践的な比例法です。

●次回は「関係法」へ進めます。
下記(ブルー)のシリーズを公開しています。
第1回;素描技法を体系的に学ぶ
第2回-前編-;デッサン技法全体の概観
第2回-後編-;デッサン技法全体の概観
第3回;<比例法>形象(前編)
第4回;<比例法>形象(後編)
第5回;<色価>バルール
第6回;<比例法>色価(前編)
第7回;<比例法>色価(後編)-top
第8回;<点関係法>形象

第9回;<点関係法>色価

第10回;<線関係法>形象
第11回;<線関係法>色価
第12回;<面関係法>形象
第13回;<面関係法>色価
第14回;<体制法;概観>
第15回;<線体制法>
第16回;<面体制法>
第17回;<構成法;概観>
第18回;<点構成法>


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