日本政府と台湾が尖閣諸島周辺海域での漁業権をめぐる取り決め(協定)を締結した。日本側の排他的経済水域(EEZ)に属する一部海域で台湾漁船の操業を認めた。県内漁船とのトラブルが頻発していた海域であり、一定のルール作りへ合意した点は評価できるが、台湾側に大きく譲った内容であり、決して素直には喜べない。
県内漁業団体は日中の中間線を基本に線を引くよう求めてきたが、協定は日本と台湾の間に広がる東シナ海の北緯27度以南に、日本のEEZの一部を共同で管理する水域を設定した。尖閣諸島から12カイリの領海に台湾漁船が入ることは認めない。その外側での操業を認めた形だ。
台湾側は2003年に尖閣を含めた日本のEEZの内側(東側)に「暫定執法線」という独自の境界線を敷き、日本が認めていない尖閣周辺や宮古、八重山諸島の北側などで操業してきた。両者の主張が重なるこの海域はクロマグロなどの好漁場として知られる。近年は台湾漁船数が県内漁船をはるかに上回っており、はえ縄の切断や盗難などの被害も多発。県内漁船はトラブルを懸念して出漁を控えることが多いという。
今回の共同管理水域は、台湾の暫定執法線よりもさらに久米島や宮古島よりに近づいた。台湾漁船はすでに独自の境界線も越えて操業していると報告されており、協定は現状を追認したものと言えよう。当然ながら県内漁業関係者からは不満や懸念の声が出ており、仲井真弘多知事は「台湾側に大幅に譲歩した内容で極めて遺憾」との抗議談話を出した。
尖閣問題では台湾も領有権を主張しているが、交渉は領有権問題を棚上げとし、漁業権で日本は台湾に譲った。尖閣をめぐる中国と台湾の連携を分断する狙いがあるが、譲歩の代償を沖縄が払わされた構図だ。ただ台湾側に立てば、尖閣周辺の海は沖縄の先人と同様に、領土や領海の概念が成立する近代の以前から、生活の糧として存在していた。日本がEEZ規定を定めた条約を批准し、生活圏の海から「追い出された」との認識があるという。
日台は今後具体的な操業ルールを協議するが、県内水産業が損害を被る事態があってはならない。共存共栄できる豊かな海を目指し、今後も地元関係者の声を尊重し、問題があれば内容を柔軟に見直す姿勢で協議に臨むべきだ。
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