デッサン講座

編著 関根英二;ルボー主宰
●関係法(色価編)と色調(トーン)──
 今回は関係法の色価編を解説していきます。
 前の比例法では色価(バルール)とそれらの構成の技法を基本として学びましたが、この関係法では色調(トーン)という次元でバルールをとらえていきます。
 このトーンは、おそらくバルールよりも日常的になっていてなじみやすいと思います。それだけにその意味が感覚的で漠としたものになっているようです。
 バルールは「ある色面の相対的な値」つまり分量です。それに対してトーンは色価というだけではなく、「ある色場の力と特性」という位相(性質)を含んだものです。したがって「あるトーンのバルールはどれだけか」「あるトーンはどんなバルールの、どんな組成に成っているか」が問われます。つまりトーンはバルールより次元が高いわけです。「強い明るさ」は場を構成する条件(その組成や周辺との相対性)に強い対比を含み、「柔らかい明るさ」は弱い対比の条件にある色場なのです。
 具体的な例でいえば、このモチーフとなる石膏像は白っぽいあるトーンが主となる場ですが、その照明を増減すると、個々のバルールと対比がつくるトーンが変わっていきます。
 今回から始まる「関係法」は、トーンの関係、トーンの系列の関係、トーンの対比の関係が主題です。点関係法、線関係法、面関係法の三つがありますが、いずれもそうした「色の場」を内容とする実践的な方法です。したがって前の比例法では色価の基準(9段階のグレイ・スケール)を画像に基準値として設けましたが、点関係法では最も暗いN1と最も明るいN9そして中間のN5があれば充分です。この関係法では、場の特性に即したトーン(色調)の規準となるポイントが低明度(A)、高明度(C)、中明度(B)の各領域に選ばれ、基準値(N1,N5, N9)によって価値づけられます。つまり像それ自体に基準調がつくられるのです。この基準調の系列をトーナル・スケールといいます。
 トーナル・スケールは点関係法では暗・中・明の三つ、線関係法では暗と中、中と明の補完を加えて5色に成るスケールとなります。また面関係法ではこれらの規準値が対比の元として働き、対比場の規準となっていきます。
 さて関係法は、あくまでもモチーフの場の実際に沿った方法ですから、例えば対象の主たる(支配的)色調といえば、その面の大小、個数、位置、形式そして組成及び周辺の条件など、あらゆる相対性を含んでいます。色価を色面として見ること「面とり」をしっかりさせることが重要です。



●点関係法(色価)── 方法の体系
 
色調の相互作用場(基調・内調・主調・作用調)
 主題は多様なトーンの織りなす場ですが、それらを構成している元は暗と明という二つの基調の対比です。そしてその響きあいをつなぐ中間調(半調ドミ・トーンdemi-tonという)が加わって、全体場の多様なリズムを形づくっているのです。
 点関係法はこうした暗・中・明の「いくつかのトーンの場」を、その要(ポイント)となる色調によって構成していこうとするものです。
 美術体系の方法のしくみは「ものの見方、構成のしかた」ですから、ものが変わるだけで、いつも同じです。点関係法の形象編で実践した「いくつかの要点の集まり」にはじまる論理がそのまま「いくつかの色調の集まり」となります。
つまり、形象の場合の点が色調となり、線は調列、面は色領(色調の領分)と対比の場となります。したがって形の場合でいえば、要素である点や線という次元が変わるだけでその論理と体系はまったく同じなのです。

<方法の要約>
(1) いくつかの点の集まり─基調の対比、リズムの外延
(2) それらの種類と相関性─中間調(半調)と全体性
(3)それらの具体的組成─全体の組成・各部の組成、その主調
(4) それら相互の作用場─色調の対比がつくるリズムの全体場


点関係法(1)──基調の対比;短調(低明度A)と長調(高明度C)の相対性

 まず、比例法で学んだ基準値のN1・N9を像に選び形成しておきます。次に主題の場の明暗を代表するような対照的な色調の主要部を大らかに面とりし、N1とN9によって価値づけます。全体の色調の相対性を基づけるこの短調(暗), 長調(明)の二つを基調といいます。この基調はあくまでもトーンとしての色価ですから対象の最低明度(N1), 最高明度(N9)となることは希です。
 このモチーフでは暗調は、N1となる右上部の暗さを除けばほとんど中明度に近い暗さであり、高明度調もN8程度が主となっています。
 二つの基調(A, C)を規準として、暗・明それぞれ系統別に各部のトーンを形成していきます。
 まず暗調に類すると見られる各部を基調に近いものから面とりし、端的に形成していきます。
次いで明るい色調の系列を面とり形成していって全体の明暗のバランスを大づかみにします。二つの基調からの展開によって、その対象となるトーンの場がしだいにそれらの中間に進んでいきます。
 この方法1)と次の2)ではあくまでも全体のトーンの概括です。したがって要素的な細部の色価(バルール)にとらわれず、大らかに面とりしその色調を形成していきます。いわば全体場の明暗の対比を大づかみにとらえるのです。
 例えば図にみるように像の胸部は高明度調のやわらかい色調の集まりですが、それらを一括したバルールで形成していきます。



点関係法(2)──トーンの種類と相関性;暗・中・明の系統性・体系性
 暗と明、二つの基調のつなぎ目である半調B(ドミ・トーン)の価値づけのために基準値N5をモチーフの中に選び形成しておきます。
 半調Bの主たる色調を選び、これを規準としてこれに類する系列を大域的にとらえていきます。
 このB調は多くの場合、暗と明の中点であるよりは いずれかに偏していて、これが全体の低・中・高明度調の系統比を性格づけているのです(図)。
 こうしたA,B,C三系統の支配的な色調を大域的な主調といいます。この主調色のありかたによって全体のトーンが概括できます。つまり高明度調が主となるか、あるいは中明度、低明度が主となる構成場かという全体の骨格が形成されるのです。
 このモチーフでは柔らかい明るさの拡がりが大きく、これが主調色となって、低・中明度の領域がそれをささえるトーンをつくっています。
 次にAとB、BとCのトーンのつなぎ目の第2階中間調のポイントとなる色調の部分をそれぞれ形成し、その同系類の色調をとらえていきます。
 こうして全体を構成するトーンの位階秩序ができていきます。

点関係法(3)──主調と組成;全体の組成/各部の組成
 ドミナンス(dominance)といいますが、形でなら重点です。
 そうした具体的な場の個性を成す主と従のしくみは、実はその空間性によっています。つまりその色調が占める分量や個数、方位、その組成・周辺とのしくみなど、いわば形の要因が色調の主と従をつくっているわけです。これらのうち分量・個数・方位は方法1)2)で大まかにとらえています。
この3)の方法はそうした全体の個性的組成と、それを構成している各部の個性的組成をとらえて全体を組織統一しようとするものです。
a)全体場のしくみ主要各部のトーンの組成
 まず2)の展開です。主要各部の主調と周辺の従属調のしくみ(組成)をとらえていきます。つまり像を主たる各部(上・中・下など)に分化し、それら各部のトーン相互の具体的なしくみをとらえ、統一していきます。
 低明度調の領域と中明度調の領域のしくみ、中明度調と高明度調の組成、そして大きなコントラストをつくっている低明度調と高明度調の具体的なしくみを、それぞれ拡充していきます。
 ある場は暗さと明るさが画然と対比し、またある場はその対比をつなぐドミ・トーン(中間調)があります。こうした組成によって上・中・下各部の個性と相対性の全体が統一されていきます。
b)各部の個性的組成をとらえる。A.B.C各部の組成
 トーンの実際は、暗・中・明それぞれが独自のしくみをもっています。例えば図に見るように中明度調の場でも一様な等質的なしくみもあれば、強い変化をその内部に持つものもあります。これが個性的組成です。そうした各部の色調を成すしくみ(主と従)を、構成していきます。これら個々の個性的な組成を進めていくと、しだいにその周辺とのしくみに展開されていくことになります。
 方法のa)とb)によって全体の主調と従属的色調を組成し、統一します。

点関係法(4)──トーンとリズムの作用場;大対比・中対比・小対比
  相互作用というのは明暗の働きあいです。各部の個性的なトーンと対比が作るリズムはあくまでも相対的なしくみによっています。強いリズムを成すトーンは弱いリズムによって支えられています。それら強いリズムと弱いリズムは互いに働き合い、力を及ぼし合っているのです。そうした対比と類比(小対比)が全体のリズムを形成しているわけです。
 このモチーフの場合は、大きくは左に高明度調、右に低・中明度調が支配的ですが、その明暗の強いリズムをつくる大対比は多く上部に展開され、中・下部は明暗をつなぐドミ・トーンが対比を柔らかくしています。上部の対比のしくみと中・下部の対比のしくみがつくる相対性(つまり、対比の対比)をとらえていくのがこの方法です。
 こうしたトーンの相互作用が像の個性的なバランスをつくり、像の各部と全体の「形態特性」をなしているのです。この形態(フォルム)というのは単なる「形(ストリュクチュール)」ではなく色と形を綜合したものです。したがってトーンが面とりされ、色面が組織されてはじめてフォルムが構成されるわけです。
 この4)の方法は「いくつかの対比がつくるリズム、それらの種類と連関、それらの組成、それらの相互作用の全体場」となり、方法の体系1)2)3)4)と同相になります。  以上の1)から4)の実践によって、トーンとリズムの構成場としての全体が綜合されます。

●次回は「線関係法/形象」へ進めます。
下記(ブルー)のシリーズを公開しています。
第1回;素描技法を体系的に学ぶ
第2回-前編-;デッサン技法全体の概観
第2回-後編-;デッサン技法全体の概観
第3回;<比例法>形象(前編)
第4回;<比例法>形象(後編)
第5回;<色価>バルール
第6回;<比例法>色価(前編)
第7回;<比例法>色価(後編)
第8回;<点関係法>形象

第9回;<点関係法>色価-top

第10回;<線関係法>形象
第11回;<線関係法>色価
第12回;<面関係法>形象
第13回;<面関係法>色価
第14回;<体制法;概観>
第15回;<線体制法>
第16回;<面体制法>
第17回;<構成法;概観>
第18回;<点構成法>


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