GOD EATER ~RED・GODDESS~ (真王)
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エイジスへ

「・・・っ」

スミカが目を覚ます。
どこかの建物の中のようだ。

(ここは?確か睡眠ガスを吸って・・・)
「ギ、メガサメタ?」
「っ!?」

人らしからぬ声が聞こえ、身構えるスミカ。
その声の正体はリンドウを死に追いやったあのアラガミだった。

「おまえっ!!リンドウさんをどうした!」
「アンナオトコナドシラン。スレチガイニソコノシロイヤツガトオッタガソレモシラン」

白いやつと聞いて周りを見渡すとシオがスミカの隣ですやすやと眠っていた。

(シオちゃん・・・リンドウさんと会ったことが?)
「ワレハオマエガホシイ。ワレハオマエノスベテガホシイ」
「・・・この強欲者め・・・乙女を奪っただけに飽きたらずまだほしいわけ?」
「ワレハオマエノスベテヲウバウ。オマエノソンザイスベテヲウバウ」

明らかにストーカー行為なやり方。

「・・・認めたくないけど助けられたみたいね」
「ダレカガオマエヲツレダスキガシタ。ダカラオマエトソコノシロイノヲゴウダツシタ」
「アナグラに入ったですって?どうやって・・・」
「ワレニフカノウハナイ」

ああ、こいつこう見えてなかなかの『ハッキング使い』なのよねぇ。

「ん~・・・」
「あ、おきた?」

シオちゃんがおきた。

「ん~?すみか、ここどこ?」
「しらないわよ」
「ツカイステノクウボノナカダ」

使い捨ての空母・・・それ『愚者の空母』ってこと!?

「マサカトオモッテキクガアノシマニイクンジャナイダロウナ?」
「エイジス島ね。あそこで仲間が待っているの」
「ナカマ?ソレハソコノシロイノトドウゾクノヤツカ?」

シオちゃんと同族?
・・・じゃああの島にいるのは・・・

「いえ、私たちゴッドイーターの仲間よ。シオちゃん、一緒にソーマのところへ迎えにいこ?」
「おー、そーまにあいたい!」

スミカとシオは一緒に外に出てエイジスに向かった。

「・・・ニテイル。ダカラキサマガニクタラシイ」







エイジス

「長い………実に長い道のりだったよ…」

そこにはヨハネス・シックザールと、彼に対峙するソーマ、アリサ、コウタ、サクヤ。そして天井には巨大な女神像があった。

計画が始まってから今までのことを思い返しているのか、まるで学生時代を思い浮かべる人のような表情になる。

「年月をかけた捕喰管理により、ノヴァの母体を育成しながら…世界中を駆けずり回り、使用に耐えうる宇宙船をかき集め…選ばれし千人を運ぶ計画は今、この時を持って成就した!」

シックザールが手を天高く挙げた時、彼の後ろで満天の星が輝く夜空にいくつもの線が伸びていく。

宇宙船はとうとう打ち上げられてしまった。

あの中には計画に賛同したブレンダン、カレル、シュンも乗っているはずだ。

計画に賛同した人間たちは、残された人々の犠牲を払って、次世代に生き残る選択をした…。

その理由は様々だが………今、地球を離れて行く彼らは何を思っているのだろう…。

「優秀な人だけが出て行った世界。だけど残された人々は地獄の日々。よほど悲劇のストーリーに縁がないのね」
「スミカ!?」
「シオ!?」
「無事だったんだな!」

スミカがシオを抱えて現れた。

「残念だよ、スミカ=グレン君……キミほどの優秀な存在が、まさか私に楯突くとは……」

「…………」
「キミとてわかっているはずだ、「アーク計画」なくして人類救済の道はないと。日々アラガミに怯え、なす術なく補喰されていく人類。たとえ如何なる神機使いでも、世界全てのアラガミを滅ぼす事は不可能。ならば一度終末補喰により地球をリセットさせ、やり直す他ないのではないか?」
「…………」

スミカは答えない。肯定も反論もせず……ただ黙って、ヨハネスの言葉に耳を傾けていた。

「今からでも遅くはない、その特異点をこちらに引き渡すのだ。さすれば、キミの愛する恋人や友人達にも……チケットを渡してやる」
「冗談キツいぜ、そんなもんスミカが欲しがると思ってるのか?」
「スミカを見くびらないでください!!」
「私は彼に訊いているのだよ、さあスミカ君……返答はどうかな?」
「…………」

スミカは答えない。

「おい、スミカ……何で黙ってるんだよ!?」
「貴方、まさかここまで来て……」

コウタとサクヤが抗議の声を上げる。

すると、スミカはぽつりと。

「くっだらない問題ね」

切り捨てるような返答をした。

「なんだと?」
「アラガミの終末捕食?確かにそれが成功すれば地球はリセットされる」
「ならば――」
「でも、それで全てなかった事にしたら……無念を抱いたまま死んでいった人達やずっと地球で暮らしていた人たちも歩んできた歴史も全て無に変える。数多くの屍を見捨てていった私達が、そんな安易な道に逃げたら……その無念は一体どこに行く?」

助けられなかった同胞や家族。

更に、今まで切り捨ててきた弱く罪なき者達。

それらを忘れ、新しく平和な逃げ道を歩むなど……スミカにはできなかった。

「そんな事を望むわけにはいかないんです、助けられなかった人達を忘れて、のうのうと生きてしまったら……今まで死んでいった人達はどうなるんです?私達は、まだこの世界に生きていられる私達は、犠牲になった人達を忘れずに生きていかねばならない義務がある。それから逃げて、忘れたまま生きるなんて……できるわけがない」

それが――スミカが出した答え。

沢山の後悔と挫折、そして傷と向かい合い、手に入れた誇れる答えだった。

「―――――」

ヨハネスは反論しない、だが……その瞳には確かな侮蔑と落胆の色が。

「正しさも間違いもどっちでもない。私が選ぶ道は『力なき人たちを助ける』それだけよ」

「………あくまでも、平行線のようだな」

パチンと指を鳴らすヨハネス。

機械音を響かせながら、下から何かが現れていく。

すると、エイジスの床の縁から大きな卵のような物体が競り上がってきた。

「それは定められた星のサイクル…言わば、神の定めたもうた摂理!」

やがて、蕾が一気に花開くようにその殻が取り払われる。

「そして…その摂理の頂点に立つものは、来たるべき新たな世界にあっても…『人間』であるべきなのだ!」

中から現れたのは、肉体は人間の女性のそれに近い生命体…そして、それを包むように抱き込む、下半身の無いフェンリルの紋章が顔に刻まれた、たくましい腕を持つ生命体だった。

言い表すならば、女神と男神…二体一対のアラガミである。

「そう!人間は…いや、我々こそが…!」

シックザールは拳を握りしめ、演説の終わりを告げる言葉を放つ。

「『神を喰らう者』なのだ!!」

そこまで言うとシックザールは、クレーンを操作して二つの生命体の真上に移動した。

クレーンが止まると、彼はそのまま飛び降りる。

すると、男神の頭部から神機の捕喰形態のような黒い口が彼を飲み込んだ。

そして、人形のように佇んでいたそのアラガミは、彼の命を原動力として動き出した。

「人が神となるか、神が人となるか…この勝負、とっても興味深かったけど…負けを認めるよ」

姿を変えた旧友に言葉を紡ぐサカキ。

「今や君はアラガミと変わらない…でも君は、それも承知の上なのだろうね…」

サカキは最後にスミカたちを見ると、その場を立ち去りながら言葉を残していった。

「科学者が信仰に頼るとは皮肉なことだが…今は君たちを信じよう…『ゴッドイーター』達よ」
「…すぐに終わらせてくる…」

ソーマは神機を担ぐ。

「リンドウ…見てる?やっとここまでたどり着いたわ…ここにいる皆のおかげよ……あなたの無念、私が晴らす!」

サクヤは、今は亡き想い人を思い浮かべて口を開いた。

「俺…これまでずっと、家族や皆が安心して暮らせる場所を誰かが作ってくれるのをずっと待ってたんだ!でも気づいたら簡単なことだった…自分がその居場所になればいいんだって!それを作るために、俺戦うよ!」

決意に満ちたコウタの表情…そこにもう迷いは無い。

「私も、みんながいてくれたから気づけたんです!こんな自分でも、誰かを守れるんだって…」

多くの人に支えられて立ち上がり、スミカの命を助けたあの市街地での任務に思いを馳せるアリサ。

「お喋りはここまでだ…お前ら、背中は預けたぜ…!」

他人を信用せず、自分に近寄る人間を常に拒絶してきたソーマは、ついに心の壁を取り去った。

彼の成長に微笑んだスミカたちは、アラガミに自らの命を載せたシックザールを見据える。

「降り注ぐ雨を…溢れ出した贖罪の泉を止めることなどできん!」

女神と男神が宙に浮き出し、シックザールの声が響き渡る。

「その嵐の中…ただ一つの舟板を手にするのは………この私だ!!」

ついに、星の行く末を賭けた決戦の火蓋が切って落とされた。