GOD EATER ~RED・GODDESS~ (真王)
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スミカのアラガミ化二回目だ
ウロヴォロスとアラガミスミカ
ヘリの窓から見える風景は、雨と共に視界の外へとただただ流れ続けていく。
これから、今まで味わったことのない死闘を経験するというのに…なぜか心はひどく落ち着いていた。
窓の外をぼんやりと眺める瞳には、濁った空と平原、ヘリの窓についた雨粒が映るが、どれも彼の気を逸らすには至らなかった。
雨を切り、風を切り…フェンリルの紋章を刻んだヘリは、スミカを乗せて一つの『神』の元へと向かう。
平原の覇者「ウロヴォロス」…雨宮リンドウが討伐して以来の出現となったが、竜巻をおこすとされるその力は依然として猛威を振るっている。
この暴君を討伐する者として今回、スミカに白羽の矢が立った。
この日彼女は、海外出張から戻ってきたシックザールに呼び出され、「特務」の遂行を言い渡されていた。
半端な実力のゴッドイーターでは何人束になろうと敵わないとされるウロヴォロス…例え、極東支部の主力である第一部隊が全員で立ち向かったとしても、一人二人は死者が出ると考えたシックザールは、この個体を特務目標とした。
海外にいる間も、第一部隊の隊長として戦うスミカの活躍を耳にしていた彼は、「例え単身でも、困難なこの任務を遂行することができる」…そう判断したようだ。
「あれ?スミカさん、これから任務ですか?」
スミカがエントランスに設置されているターミナルで、神機のチェックをしていたのを見たアリサが尋ねた。
「えっ?まあね…」
スミカは急に後ろから声をかけられたので一瞬驚くが、すぐに平静になる。
「緊急で入ったミッションでね…すぐに出撃しなくちゃならないんだ」
「そうですか………じゃあスミカさん!私も一緒に出ます!」
「・・・」
アリサの突然の申し出にスミカは困ったような表情を浮かべる。
「二人で出撃すれば、早く終わるでしょうし…それに…その………二人での戦い方の再確認もしたいですし…」
語尾に近づくにつれて段々声が小さくなっていき、それにともなってアリサの頬も少しずつ紅くなっていく。
「アリサちゃんの気遣いはうれしいけど、支部長が『一人で』任務してくれってことだから」
「あ…そう、ですか………わかりました…それなら、仕方ないですね…」
アリサの表情が暗くなったのを見て、「どうしたんだろう」と思い声をかけようとした時、出発の時刻が迫っているというアラームが鳴った。
「じゃあ、行ってくるよアリサちゃん!なるべく早く帰れるようにする」
「…はい!気をつけて下さいね…」
アリサに頷いて踵を返し、出撃ゲートへと歩いていくスミカ。その後ろ姿をアリサが静かに見守っていた。
スミカは頬杖をついて出発前の出来事に思いを馳せ、その後シックザールに言われた言葉の数々を思い出した。
『特務には基本的に、一つの原則が設けられている。それは、「全ての特務を私が直轄で管理する」…というものだ』
『特務遂行中に得られた物品も、その例外ではない』
『特務は最高機密の任務であるというその特性上、ほとんどが「単身で」臨むこととなっている』
『困難な任務になるが…成功したあかつきには、入手困難な物品と、相応の金額を提供させてもらう』
『以前、特務を遂行していたリンドウ君…彼も、よく私に尽くしてくれた…彼ほどの男を失ったのは、大きな損失だった…』
『…とうとうお前も呼ばれたのか…これだけは言っておく…アイツには深入りするな』
最後に、支部長室を出た時に腕を組んで壁にもたれていたソーマから受けた忠告を脳内で再生して、スミカは現実復帰した。
ぼやけていた視界が鮮明度を増し、窓の外の世界を脳に伝える。
「………ここだね…」
ヘリが少しずつ下降し、やがて車輪が地面に触れる。
扉がスライドして開かれると、スミカは雨に打たれながら神機を担いで平原に降り立った。
待機地点まで来ると、そこから離れた場所に巨大な竜巻が発生しているのが見えた。
以前来た時よりも風が強いのはそのせいだろう。
「ヒドイ…」
ポツリと呟くその声は風に流され消えていく。
しばらく風景に見入っていたが、やがてスミカは更に歩みを進め、スタート地点にたどり着く。
「ミッション開始時刻までまだ時間があるな」と神機、そして携行品の最終確認をしていたその時だった。
「グガアァァァァ!!!」
「っ!!」
地面がビリビリと震えるほどの咆哮に、スミカは思わず身構えた。
そして………平原の中央にある小山の影から、ついにウロヴォロスがその姿を現した。
まさに「山のような」と言っても過言ではない巨体、「全長約10メートル」という記述を目にしたが、簡単に「10メートル」と言われても中々想像できるものではない。
あの巨体からどれほどの威力の攻撃が繰り出されるのか………考えただけでゾッとする。
(ウロヴォロス相手は初めてだけど・・・あの力は極力出さないようにしよう)
キッとウロヴォロスを見据え、神機をしっかりと握る。
(さあ…いくよ!)
スミカはウロヴォロスへ向かって飛び出した。
向こうもスミカに気づき咆哮を上げるが、それに気圧されることもなく駆けていく。
近づいていくに連れてどんどん大きくなっていく巨体目掛けて、スミカは剣を振るった。
「でぇいやぁ!」
ズバッ!
「ヴォォオオオオオ!!」
痛みで悲鳴を上げるウロヴォロス。
ウロヴォロスの右腕の触手が、地面に突き刺さる。
その瞬間、スミカの足元から触手が槍のように突き出してきた。
第六感が働き回避するが、触手は次々とスミカを串刺しにしようと地面から突き出してくる。
これでは近づけない、遠距離から攻撃をしようとした瞬間。
「っ、ぐ―――!!?」
左腕に走る衝撃と痛み。
後ろに跳躍し、自分の左腕に視線を送ると……そこには、深い裂傷が生まれていた。
「…………」
肉の一部が削ぎ落とされ、血が雨に濡れた大地に落ちる。
決して浅くない、むしろ深い類の傷だ、常人ならば激痛と失血で喚き散らす程の。
しかし……スミカは痛みで顔をしかめる事もせず、ウロヴォロスと向き合う。
「ヴォォォォォッ!!」
「っ、く―――!」
複眼が怪しく光る。
何か来ると判断したスミカは、急ぎその場から離れようとして。
「ぎ、っ―――!?」
スミカの右腕に、ウロヴォロスの触手が貫通した。
そして……十数もの複眼から高熱のビームが放たれる―――!
「ぐっ――あぁぁぁぁぁぁっ!!?」
ビームに呑み込まれ、スミカの身体が壁に叩きつけられた。
「ぅ、あ……ぐ、っ」
肉の焼ける嫌な臭い、身体の所々が炭化している。
「はっ、は、ぁ……」
――ウロヴォロスが迫る
「…………」
めり込んだ身体を強引に抜け出させ、痛む身体に力を込めた。
(……やるしかないね)
どぐりと、身体が震える。
体内のオラクル細胞を意図的に活性化、左腕を変形させる。
それに伴い、オラクル細胞が肉体の修復を開始、完治には遠いが炭化した部分が元の肉の色に戻った。
しかし――それによりスミカの中で急速にエネルギーが消耗、人間としてではなく……アラガミとしての胃袋が、餌をよこせと騒ぎ立てる。
「アラガミモード、いくよ!」
「ヴォォォォォッ!!」
ウロヴォロスの触手が伸び、スミカを串刺しにしようと迫る。
「………好都合だ」
短く呟き、スミカは刃状に変形させた左腕を振るい、触手を薙ぎ払う。
斬り裂かれた触手は宙に飛び――その一つにスミカは喰らいつく。
味わう事はせず、急速なエネルギー不足を解消する為に、噛み砕き体内へ。
すると、ある程度ではあるものの、スミカのエネルギーが回復した。
「………まだよ、もっと私によこしなさい!」
どこか楽しげな口調で呟き、スミカはウロヴォロスへと走る。
「ヴォォォォォッ!!」
まるで鞭のように、ウロヴォロスは触手をしならせスミカに叩き込んでいく。
だがスミカはその悉くを避け、斬り裂き、弾き飛ばす。
その余波は地面を削り、幾つものクレーターを生み出していく。
「―――はぁああああああッ!!!」
人間とは違う、野獣のような雄叫びを上げながら、スミカは神機と左腕の剣をウロヴォロスの複眼に叩き込む。
宝石のように輝くウロヴォロスの複眼が、鈍く硬い音を響かせ砕け散った。
「ヴォガァァァォォォォッ!!!」
怒りか、それとも痛みによる苦しみの声が、ウロヴォロスが悲鳴を上げる。
それと同時に活性化するウロヴォロス、だがスミカは相手が次の行動に移る前に懐に飛び込み――その脚に神機の刃を食い込ませた。
さすがに切断には至らないものの、刀身は八割程まで食い込んでおり、更にスミカはその脚の一部を喰い千切り口に含む。
「ヴォォォォォ……!」
先程よりも弱々しい声、今の一撃はウロヴォロスにとっても小さいダメージではないらしい。
それでも倒れないのはさすがと言うべきか、尤も……スミカはこのまま攻撃の手を緩めるつもりはない。
――がりがりぐちゃぐちゃもぐもぐ
「ギィィィィヤァァァァァァッ!!!」
ただひたすらに、神機を食い込ませた脚を喰らっていくスミカ。
一心不乱に、己の糧とするために。
――やがて、ウロヴォロスの巨体が地面に倒れ込む
だが無理もない、半分近く神機で斬り裂かれ、更にスミカによって喰われたのだ、そんな脚で自らの巨体を支えられるはずもない。
「ヴォォォォォッ!!」
活性化した事によって不気味な発光を見せる触手を地面に突き刺すウロヴォロス。
またも見えない地中からスミカを襲う触手達。
しかし……今度は一つたりともスミカに届きはしなかった。
アラガミとしての超人的な肉体強化をフルに用いて、地中に這う触手の音や感覚を察知しているので、スミカにとっては見えているようなものだ。
まるで未来予知を行っているかのように攻撃を避け、スミカはそのままウロヴォロスの複眼部分へ。
そして、勢いそのままに神機の刀身を複眼へと突き刺した―――!
「ヴォォォォォッ!!?」
暴れるウロヴォロス、しかしスミカは神機を手に掴んだまま、左腕の剣を一文字に振るい、再び複眼に裂傷を負わせた。
(終わらせてあげる!!)
神機を抜き取り、真上に跳躍。
刹那、先程までスミカが居た場所を薙ぎ払うように触手が通り過ぎる。
それにより、絶対的なまでの隙を見せるウロヴォロス、そして……。
「ウセロ!!!」
落下スピードをプラスさせた渾身の斬撃が――ウロヴォロスの頭部を斬り割った……。
「――カ、ッ……ッ」
ビクビクと痙攣を繰り返し、やがてウロヴォロスはそのまま事切れる。
「……はぁ、はぁ、はぁ」
苦しげに息を吐きながら、左腕を元に戻すスミカ。
降りしきる雨に、身体の血が適当に洗い流されていく。
それでもスミカは生き残った………勝ったのだ………たった一人で………。
スミカの神機には今、ウロヴォロスの大きなコアが収められている。
それは完全なる勝利の証だった。
スミカは支部長に連絡・・・する動作はせず、
(おなかすいたな)
空腹を訴え、ウロヴォロスを喰らい始める。
食べた感想は、
「・・・美味」
ある程度食べた後、スミカは携帯電話を取り出すと、秘匿回線に接続した。
『私だ』
「こちらスミカ…特務目標の討伐に成功…帰投します」
『そうか…ご苦労だった』
必要最低限のことを伝えると、スミカは片足を引きずりながらヘリの着陸地点へ向かった。