GOD EATER ~RED・GODDESS~ (真王)
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少女の名前
アナグラは今日も、ゴッドイーターとその親族、従業員で賑わっていた。…しかし、その中に第一部隊の姿が見当たらない。
それもそのはず。スミカたちはミッション以外の大半の時間を、先日連れて来たアラガミの少女の面倒を見ることに費やしていたのだ。
なぜそこまでするのかというと、一言で言うならば『興味深い』から。
アラガミの少女の学習スピードは、同い年くらいの子供達のそれを遥かに凌駕していた。
以前サカキが言ったように、文字通り『スポンジが水を吸うように』いろんなことを覚えるから面白くて仕方がない。
コウタやアリサは、小さい妹ができたような気分で喜んでいたし、サクヤも楽しそうだった。
サカキに至ってはこの数日間で何回『興味深い』と言ったのかわかったものではない。
そんなある日、ソーマ以外の第一部隊はサカキに呼ばれて研究室に来ていた。
なんの話かというと…。
「名前…ですか…」
アリサが呟く。サカキに呼び出された用件は、『アラガミの少女に名前をつける』というものだった。
「ああ…いつまでも『この子』扱いじゃ、何かと不便だからね。どうもこの手の名付けは得意じゃなくてね〜…代わりに素敵な名前を考えて欲しいんだが…どうかな?」
とサカキが言うと…。
「どうかなー」
女の子が繰り返す。
スミカがチラリとコウタを見ると、何やらニヤけていた。
「フ…俺、ネーミングセンスには自信があるんだよね〜…」
「嫌な予感しかしないんですけど…」
自信満々に言うコウタと、訝しげな表情のアリサ。
「そうだな〜…例えば……『ノラミ』とか!」
沈黙する研究室。やがてアリサが口を開き一言。
「………ドン引きです………」
「なんだよ!じゃあ他にいいのがあるのかよ!!」
とコウタは不満そうに叫ぶ。
「なっ、なんで私がそんなこと…」
アリサは顔を紅くして背ける。
「へーんだ!自分のセンスを晒すのが恐いんだな〜」
「そ、そんなわけないでしょ〜!?え、え〜と…」
コウタに言われてどもるアリサ。
彼女の頭の中ではいろんな名前が飛び交っていた。
しかしその思考はアラガミの少女によって止められた。
「『シオ』!」
少女の声にすかさずアリサは便乗した。
「そ、そう!それ!ちょうど同じ名前を考えてたんです〜」
「うそつけ!!え〜…でもやっぱ『ノラミ』でしょ!」
「『シオ』!」
コウタがアリサの苦し紛れの言い訳にツッコんで少女に『ノラミ』を推すが、少女は『シオ』の一点張りだった。
「それ、あなたの名前?」
サクヤが尋ねたら、シオと名乗った少女は「そうだよ〜」
と返した。
「どうやら…ここに居ない『誰か』が、先に名付け親になってしまったみたいだね」
(なるほど、彼ね)
「え…それって…」
サカキの言葉を聞き、その意味を理解したコウタはもう一度少女に推してみる。
「なあ…なあ…やっぱ『ノラミ』の方がよくない…?」
「ヤダ」
可愛く一蹴。
「んだよチキショー!!」
コウタの絶望に似た叫びが研究室にこだました。
それを横目で見てたスミカは、屈んでシオに聞いてみた。
「ソーマが名前を付けてくれたの?」
言葉を選び、シオに解るように丁寧に話す。
「そうだよ〜!そーま、『シオ』っていってた!」
元気に答えたシオ。彼女の話によると、研究室にソーマと二人きりだった時に、彼がそう呼んでたらしい。
どうやらそれをそのまま気に入ったようだ。
とりあえず名前は決まったので第一部隊は部屋を出た。
「『シオ』かあ…ソーマ、いいネーミングセンスね〜」
「そうですね、俺もいい名前だと思います」
スミカとサクヤが話しているのをコウタとアリサが後ろで気まずそうに聞いていた。
「コウタとは大違いね」
クスっと笑ったサクヤ。それにコウタが落ち込む。
「………じゃあちなみにサクヤさんはなんて名前考えてたんスか?」
コウタが尋ねるとサクヤは顎に人差し指を当て…。
「私は雪が積もった場所で会ったから『ユキ』とか?」
「シンプルっスね…」
「シンプルイズベストよ!」
サクヤが片手をグッと握りしめ、自信を持って言う。
「じゃあ、スミカさんはどんな名前を…?」
サクヤとコウタのやり取りを聞いたアリサは話をスミカに振った。
「ん〜……私は『プルルート』かな?」
…やはり自分たちの方がセンスが少しズレている…コウタはともかくアリサはそう自覚した。
そういえば…と、コウタはスミカに尋ねた。
「なあ、スミカ。名前で思い出したんだけどさ…『スミカ=グレン』って、けっこう変わった名前だよな?」
「あ…それ、私も聞こうと思ってたんです!」
アリサも話に加わる。
「スミカ=グレンって名前は師匠からもらったんだよ」
「スミカの師匠から?」
「うん、私の髪をイメージして紅蓮って師匠は言ったんだ」
「へ~、スミカの師匠ってどんな人なんだ?」
「ん~・・・なんでも昔は大剣豪とかどうとか自慢してたけど私よくわかんないや。でも覚えていることといえば師匠の・・・」
一時間後・・・
「・・・と師匠とに真っ向勝負で・・・みんなどうしたの?」
「いや、あまりにも長いから足が・・・」
三人の足ががくがくだ。
「ごめんごめん、久しぶりに師匠の話をしちゃったら長く成っちゃった。それじゃあ私は部屋に戻るね。・・・そしてありがとう(ボソッ)」
最後の言葉がよく聞こえなかった。