GOD EATER ~RED・GODDESS~ (真王)
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あの娘が登場します
アラガミ少女とスミカと
「なんか、博士が俺達に任務を依頼するのって珍しいよな〜…」
コウタがヘリから降りつつボソッと呟いた。
「仕方ないと思うよ?今は支部長に留守を任されてるんだから…」
スミカはコウタに続いてヘリから降りながら言う。
「それにしても、最近この辺りの討伐任務が多い気がするのよね〜…」
サクヤがふう、と溜め息をつきながら言うと…。
「アラガミがこの一帯に集まってきているんでしょうか?」
アリサが風になびく髪を押さえながら答える。
スミカたち第一部隊は、サカキの依頼で鎮魂の廃寺に来ていた。討伐目標はシユウ一体…正直今の第一部隊には相手にもならないが、依頼されてしまっては仕方がないというものだ。
「ぶっちゃけシユウなんて楽勝なんだよな〜」
コウタが頭の後ろで手を組んで文句を言った。
「あ、じゃあ、あとは任せるから行ってらっしゃいコウタ」
ニッコリ笑って手を振るサクヤ。
「えっ?」
「そうですね!私たちはここで待ってますからね、コウタ」
それにアリサも同調する。
「ちょっ…」
「はい、携帯電話。ミッション完了したら報告ヨロシク!」
携帯電話を差し出すスミカ。
「わ〜!!冗談!俺一人じゃ心許ないです!!」
コウタが冷たい仕打ちに堪えられなくなり、若干涙声で叫ぶ。
「ふふっ…、本当コウタをからかうのは面白いわね!」
サクヤの少々サドスティックな発言にコウタがガックリと肩を落とす。
「じゃあ、みんな!肩の力も抜けたことだし、そろそろ行こう!」
スミカの合図にアリサとサクヤは頷くが、コウタは口を3にして不機嫌そうな表情だった。
数分後、地に倒れ伏したシユウとそれを囲む第一部隊の姿があった。
「じゃあ、見張りお願いします」
スミカがサクヤ達に頼むと、シユウに向き直り神機を構える。そのまま捕喰しようとした、その時…。
「それ、ちょっと待った!」
聞き慣れた声が聞こえ、振り返る。すると近くにある階段から、サカキとソーマが歩いてきたのだ。
サカキがいきなり戦場に出てきたことに第一部隊は驚きの声を上げる。
「えっ!?」
「博士!なんでこんなとこに!?」
サクヤとコウタはサカキに詰め寄るが…。
「説明はあとだ。とにかく、そのアラガミはそのままにして、ちょっとこっちに来てくれるかな?」
サカキが背を向けて歩きだしたので、仕方なく後ろについていく。
「ここで待機していよう」
サカキが止まったのは、先程倒したシユウが見えて、なおかつこちらが隠れることができる階段の上段あたりの位置だった。
「一体何を?」
スミカが尋ねるとサカキは…。
「ちょっと待っていれば、いずれわかる」
などと言われてしまったので、待機するしかなかった。
それから約20分…サカキが常に持ち歩いている懐中時計を取り出し、時間を確認した。
そして時計を服の中に戻した時…。
「!来たよ〜!」
静かな声でテンションを上げるサカキ。
スミカたちはサカキの声でシユウを見ると、人間が一人…ペタペタとシユウに向かって歩いていくのが見えた。
そのままシユウの背に登り…なんと肉を食いちぎり始めた。それを咀嚼して飲み込んでいく。
スミカたちが今度はサカキを見ると…。
「ごー」
GOサインが出たので、全員一斉に飛び出し、そのシユウと人間を取り囲んだ。
物音に気づいて、人間はゆっくりと振り返る…いや、人間にしては肌が白過ぎるうえ、アラガミを食していた…とても人間とは言い難い。しかし、確かにその身体は人間に他ならない形を形成していた。
(この子もしかして・・・)
一見すると女の子のように見えるそれとしばし対峙していると、口を開いた。
「オナカ…スイ…タ…ヨ?」
「ひいっ!」
コウタが情けない声を上げて神機を向ける。
そしてサカキが出てきた。
「いやあ、ご苦労様!」
物凄いテンションの高さだ。こんなにウキウキしているサカキをスミカは初めて見た。
「やっと姿を現してくれたね〜!ソーマもここまで連れて来てくれてありがとう!君のおかげで、ここに居合わすことができたよ!」
「礼などいい…どういうことか説明してもらおうか…」
サカキの言葉を聞いたソーマは、苛立たしげに聞き返す。
「いや、『彼女』がなかなか姿を見せてくれないから、暫くこの辺一帯の『餌』を根絶やしにしてみたのさ!どんな偏食家でも、空腹には耐えられないだろう?」
サカキの言い分を聞いたソーマは口が半開きになっていたが、すぐに厳しい表情に戻した。
「チっ…悪知恵だけは一流だな…」
スミカはようやく納得した。この辺の任務が増えた理由を。
(またこの人の企みか…なんかいいように使われてるな〜私達…)
「ええ〜と博士…こ、この子は…??」
コウタが、急に現れたたくさんの人間をキョロキョロと見回す女の子に視線を向ける。
「そうだね、立ち話もなんだし…私のラボで話すとしようか」
そう言ったサカキは女の子の方へ歩いていく。
「ずっとお預けにしていて済まなかった。君も…一緒に来てくれるね?」
「イタダキマス!」
サカキの言葉を聞いた女の子は、頭をペコッと下げて文脈がおかしい返事を返す。
「あ?」
それにソーマが声を漏らす。
「イタダキ…マシタ?」
女の子は身体をゆっくりと左右に振って言い直した。
(どっちも違う気がするわよ)
『……ええええぇぇぇぇーーーー!!?』
サカキの部屋に大絶叫が響き渡る。声を張り上げたのはソーマとスミカ以外の第一部隊で、みんなかなりのオーバーリアクションで、驚きの感情を表現している。
あれから女の子を『サカキ特製段ボール郵送用』に詰め込み、ヘリに載せて持ち帰った後、サカキの研究室に運んで封を切ったらいきなり衝撃発言を受けたのだ。
「あの…今なんて…!?」
サクヤが驚きのポーズを変えずにサカキに聞き返し、サカキは表情を変えずに答えた。
「ふむ、何度でも言おう。これは『アラガミ』だよ」
「ちょっ!まっ!あぶっ…!」
「えっ…!?あっ…」
目の前の女の子がいきなり「アラガミだ」と言われたら慌てても仕方ない。
コウタとアリサは完全にテンパっていた。
「まあ、落ち着きなよ…これは君達を捕喰したりはしない」
サカキが溜め息をついてアリサ達に言うと、構えを解いてようやく落ち着いた。
「知っての通り全てのアラガミはね、『偏食』という特性を有しているんだ」
「アラガミが固体独自に持っている捕喰の傾向…私たちの神機にも、利用されている性質ですね…」
「その通り!まあ、君達神機使いにとっては常識だろうね」
アリサとサカキの会話に、コウタがソーマに聞いてみる。
「……知ってた?」
「当たり前だ…」
一蹴された。
「このアラガミの偏食は、より高次のアラガミに向けられているようだね…つまり、我々はすでに食物の範疇に入っていないんだよ」
サカキの説明は続く。
「誤解されがちだが、アラガミは他の生物の特徴を持って誕生するのではない…あれは捕喰を通して、凄まじいスピードで進化しているようなものなのだ。結果として、ごく短い期間に、多種多様な進化の可能性が凝縮される。それがアラガミという存在だ」
「つまりこの子は…」
サクヤはこの女の子の進化について予測がたった。
「うん、これは我々と同じ『とりあえずの進化の袋小路』に迷い込んだもの…ヒトに近しい進化を辿ったアラガミだよ」
サカキの言葉にソーマが反応する。
「人間に近い…アラガミだと…?」
「そう、先程少し調べてみたのだが…頭部神経節に相当する部分が、まるで人間の脳のように機能しているみたいでね。学習能力もすこぶる高いと見える…実に興味深いね」
「先生!」
いつも講義中寝ているのに、珍しく挙手をしたコウタ。
「はい、コウタくん!」
機嫌を良くしたサカキは「先生」みたいに振る舞う。
「大体のことはわかったというか…まあ、あんまよくわからなかったんですけどー…コイツのゴハンー、とかイタダキマスーとかって、何なんですかね?」
「ゴハーン!」
女の子が元気良く言った。そして身構えるコウタ。
「コイツが言うとシャレにならないんですけど…」
そしてサカキは口を開く。
「言った通り、アラガミの『偏食』傾向の基本として、自らの形質と似たようなものは食べないんだ。ただ…そうは言っても、さっきみたいに本当にお腹がすいたときは…不味かろうとなんでもガブリっ…だろうけどね」
サカキの脅しにソーマとスミカ以外がまた身構える。
「まあ、それは例外さ…。アラガミってのは知っての通り、彼らの俗称だけど、実際にいくつもの個体が我々人間がイメージする『神ヶ』の意匠を取り込んだ例が各地で報告されているんだ」
サカキは再び説明を始める。
「一体彼らが何を考えて、そんな生態を取っているのか…どんな過程で『神』をかたるに至ったのか…実に興味深いじゃないか」
(確かに…これは、ちょっと面白いかも…)
アラガミの少女を見てスミカは思う。
「…………」
「スミカ、近づいたら危ないですよ!」
おもむろに少女に近づくスミカにアリサは声を掛けるが、それには構わず彼は少女に屈み込みそっと頬を触れる。
「――――」
刹那、不可思議な鼓動がスミカの内側から聞こえた。
(……共鳴、してる)
「スミカ……?」
見つめ合うスミカと少女に、アリサは怪訝そうな表情を見せた。
(どうして……?)
――少女が、スミカに微笑んでいる
先程まで、無表情できょろきょろと辺りを眺めていたというのに。
まるで心を開いているかのようだ、何となく……気に入らない。
相手はアラガミ、けれど見た目は可憐な少女だから、アリサとしては微妙な気分だ。
「おや、早速仲良くなれたみたいだねスミカ君」
「そうでしょうか?」
まあ、少なくとも警戒はしていないようだ、ニコニコと笑みを浮かべ抱きついて……。
「ちょ、何してるんですか!!」
「わっ!!」
スミカに抱きついてきた少女を、アリサは慌てて引き剥がす。
「アリサちゃん、そんな乱暴なやり方で引き剥がさなくても……」
「うっ……だ、だって危ないじゃないですか、食べられちゃうかもしれませんよ!?」
「この子に限ってそれはないよ」
にっこりと笑みを浮かべるスミカ。
「……オナカ、スイ…タ……」
「あっ……」
「なぁ―――!?」
少女が言葉を放った、それに対して驚くよりも早く。
少女が、スミカの指をガジガジと噛み始めた。
「な、何をしてるんですか!?」
「おぉ、随分と懐かれたようだねスミカ君」
「博士、くだらない事言ってないで早くなんとかしてください!!」
「大丈夫だよアリサちゃん、ほら」
「えっ……?」
もう一度少女を見やるアリサ。
すると彼女は、スミカの指を噛むのを止め、チュパチュパと吸い始めていた。
「うぁ………」
おもわず、アリサは顔を赤く染める。
あどけない少女の姿だからこそ、目の前の光景はひどく官能的に映った。
「甘えたいだけなんだよ、きっと」
「そ、そうでしょうか……?」
ダメだ、まともに直視できない。アリサはあからさまに視線を逸らす。
「でも、どうしてスミカにはこんなにも懐いているのかしら?」
「…………」
サクヤの疑問に、スミカはある答えを告げようとするが……口を紡ぐ。
確証は無いし、何より……これを話せば必然的に自分の秘密を話さなければならなくなる。
だからスミカは何も答えず、誤魔化すように少女の頭を撫でた。
―――だが
「きっと、自分に限らなく近い存在だからじゃないかな?」
サカキの言葉が、場を凍らせた。
しかし、当然ながら事情を知らないスミカ以外の第一部隊は首を傾げるのみ。
「博士、それどういう意味?」
「スミカが……このアラガミと限らなく近い存在?」
「ちょっと待ってください!!意味の分からないことを――」
「あのミッションを終えてから、スミカ君の戦績が急激に伸び始めた事に気づいてね。いくら偏食因子の適合率がソーマ並に高いといっても、説明にはなり得ない。それで極秘裏に調べてみたら……彼女の身体は、アラガミと同じようにオラクル細胞が集まって形成されているというのがわかったんだ」
「ええっ!?」
「ス、スミカが……アラガミ!?」
「…………」
コウタとサクヤの視線を受け、スミカは観念したような表情をする。
「さすが観察者。よく私の秘密を調べられましたね。話してあげる。私の秘密を」
意を決して、彼女は話し始めた。
あのミッションで、プリティヴィ・マータに瀕死の重傷を負わされた事
捕喰される寸前、身体に変化が起こしアラガミを文字通り喰らった事
幼き頃にある人型のアラガミによって変えられたこと
師匠によってスミカは今の自分がいたこと
一つ一つ言葉を選ぶように、ゆっくりと話した。
「……スミカ、どうして話してくれなかったんだよ? オレ達の事、信じられないのか?」
「…………」
押し黙るスミカに、コウタはキッと顔を上げスミカの両肩を強く掴んだ。
「オレ達親友だろ!?困ってたら遠慮なく話せよな!!」
「コウタ君……」
「そりゃあ…そんな事、おいそれと言えないのはわかるよ。けどさ、たとえ身体の半分がアラガミだろうとスミカはスミカだろ?だったら、そんな事気にしなくていいんだ。もっと頼れ!!」
真摯な瞳、嘘などまったくない言葉。
それは当たり前だ、コウタにとってスミカは親友なのだから。
もちろん驚きはした、けれどそんなもの意味はない。
どんな事があっても、スミカは親友であり……仲間なのだから。
「コウタの言う通りよ、あなたはもっと誰かに甘える事を覚えなさい。少なくとも、このメンバーはあなたの味方なんだから」
「サクヤさん……」
おもわず、涙ぐみそうになるのをどうにか堪える。
「いやー、第一部隊の絆が深まって結構結構。ところで、そろそろ本題に入ってもいいかな?」
「本題?」
首を傾げるスミカ達に、サカキはニンマリと笑みを浮かべる。
「さっきも言ったように、この子はとても希少なケースなんだ。故に私はここに連れてきた、研究する為にね。そこで……君達はこの事を黙っていてもらいたいんだ」
その言葉に、スミカ達は驚きを隠せない。
人類の敵、アラガミを前線基地であるアナグラに匿えと言っているのだ。驚きを隠せないのも無理はない。
「ですが…教官と支部長には報告しなければ…」
するとサカキは神妙な面持ちでサクヤの方を向き、声を冷静なものに変える。
「サクヤくん…君は天下に名だたる人類の守護者ゴッドイーターが、その前線拠点であるアナグラに秘密裏にアラガミを連れ込んだと、そう報告するつもりなんだね?」
「それは…しかし、一体何のために?」
「言っただろう?これは貴重なケースのサンプルなんだ。あくまで観察者としての私個人の調査研究対象さ。大丈夫、この部屋は他の区画とは通信インフラや、セキュリティ関係も独立させてあるんだ」
そして、サカキはサクヤにしか聞こえない声で(ソーマと1番近くにいたスミカには聞こえたが)言った。
「君だって…今やってる個人的な活動にも、余計なツッコミを入れられたくはないだろう?」
「!」
サクヤの表情が変わった。本日何度目かわからない驚きの表情だ。
(…?なにするつもりなの?サクヤさん…)
するとスミカの思考をサカキが断ち切る。
「そう!我々はすでに共犯なんだ!覚えておいてほしいね」
「イタダキマス!」
少女が急に割って入ると、サカキはそれを流して続ける。
「彼女とも仲良くしてやってくれ。ソーマ、君も…よろしく頼むよ?」
サカキにそう言われたソーマは、いきなり声を荒げた。
「ふざけるな!!人間のまね事をしていようと…バケモノはバケモノだ…」
やがてソーマは先に研究室を出て行った。
コウタはソーマの背中を目で追ったあと、もう一度少女に目を向ける。
見ると少女はどこか寂しげな表情で、ソーマが出て行った扉を見つめていた。
(…さて、人が神となるか、神が人となるか、競争の始まりだ…)
観察者の立場として、非常に面白い研究対象を見つけたサカキは、一人楽しげだった。