GOD EATER ~RED・GODDESS~ (真王)
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ソーマの悪夢

ソーマは海の中にいるような感覚を覚えた。身体が水の中で少しずつ浮かんで行く感覚を…。

目を閉じて、身体を丸めて動かない様子はまるで胎児のようだ。

目を開こうとするが、なぜだかうまくいかない…。

しばらくその無気力な時間に身を任せていると、頭の中にかつて聞いた声が流れ出す。


『気分はどうだ?』


これは…あいつの…。


『うん…体調もいいし…早く生まれてきてね…サカキは?』


この声は…お袋…?


『安産のお守りが贈られてきたが…音信不通のままだ…』


『そう…私たちが計画を強行したのを、まだ怒って…』


『今は、考えるな…体に障るぞ…』


『そのお守りは、あなたが持っていて頂戴…明日はよろしくね…』


『あなたは…この世界に福音をもたらすの…アラガミから皆を…守ってあげて…』


…勝手に決めるな…。


『お前は全てのアラガミを滅ぼすために生まれてきた…いいな、あれらを殲滅しろ!』


…勝手に決めるな…。


『基礎代謝が、普通の子供のそれと比べて異様なまでに高いですね』


『あの子…8針縫うような怪我をしても、次の日には傷が修復してるの…人間じゃないわ…』


『しっ…聴力も高いから、余計なこと言ったらドクターに怒られるわよ?』


…医務室のクソッタレども…。


『あいつと同じ分隊になったやつで、今生き残ってるやつっているの?』


…黙れ…。


『あの人とは、できるだけ組みたくないな〜』


…黙れ…。


『最近だとリンドウさんだろ…?洒落になってねえよ…』


…黙れ…。


浮上していくソーマの身体は光に包まれていく。


『ねえねえ、ドクターから聞いたんだけど、あなたのお母さん、あなたのせいで…』








「クソっ!!」
「わっ!!ちょ、ちょっと…驚かさないでくださいよ!」

ソーマの顔を覗き込んでいたアリサはびっくりした。

(…夢か…)

スミカたち第一部隊は、任務でここ、鎮魂の寺院に来ていた。

作戦が開始されるまでの間、ソーマは待機地点で眠っていたのだ。

夢だと分かるとソーマの苛立ちは段々薄れていく。

「うなされてたみたいだけど、大丈夫?」

様子がおかしかったので、コウタがソーマに声をかける。

「…ああ…」
「おっ!今日はやけに素直だな〜!」

意外にソーマが普通に受け答えしたものだからコウタが面白がって茶化す。

「うるさい!黙れ…」

ソーマの反応を見てコウタが笑顔になる。

「…いつも通りだね!大丈夫でしょ!」

座って壁に背を預けていたソーマは立ち上がると、神機を持ち直して位置につく。

「本当に大丈夫?ソーマ」

スミカが改めてソーマに尋ねた。

「…大丈夫だと言ってるだろ…」

静かな怒気を漂わせてソーマが言ったのを見て、スミカは表情を切り替えた。

「そう…よし!作戦開始時刻だ!ミッションスタート!索敵開始!」

スタートと同時にスミカたちは散り散りになる。

今日はボルグ・カムランの討伐任務だ。

サソリのような長い尻尾を持ち、騎士のようなよろいを着たような姿のアラガミ。
防御力は高く、相手の体勢を崩して攻撃するという特徴を持つ。

ソーマは雪を踏み締めながら夢のことを思い出していた。

(………クソっ!頭に響きやがる…!)

ソーマは服の中からイヤホンを取り出すと耳につけて音楽を流し始める。

戦場に立つ人間にとって聴覚を殺すことは自殺行為に等しいが、ソーマはほかのゴッドイーターと違って五感が鋭敏すぎる。

そのことから感じる苛立ちや鬱憤を紛らわせるためにワザとやっているのだ。

少し進むと、こちらに背を向けてあぐらをかき、仏像をかじっているボルグ・カムランを見つけた。

「………」

スミカはブリーフィング時に、「目標を発見次第信号弾を使うように」と言っていたが、そんな命令をソーマが守るはずもなく、ボルグ・カムランに音を立てずに近づいて神機を構える。

ソーマの巨大な剣が振り下ろされ、ドン!!という鈍い音が辺りに響く。

背中からチャージクラッシュをモロに食らったボルグ・カムランは、地面に叩きつけられダウンした。

ソーマはもう一度神機を構えて、今度はボルグ・カムランを捕喰する。

バーストしたソーマは重い一撃を次々と入れていき、ボルグ・カムランは痛みに悶え逃げ出した。

それを追おうとしたとき、ボルグ・カムランの顔に正面からバレットが飛んできて命中した。

怯んだボルグ・カムランは尻餅をつく。

ソーマが見ると、そこには銃を構えたスミカが立っていた。

「近い場所で索敵しといてよかったよ」

どうやらソーマが信号弾を使わないことを予想して、あえて近い場所で索敵していたようだ。

「チっ…」

ソーマは舌打ちすると、再びボルグ・カムランに斬りかかる。

スミカも神機を剣に変型させてボルグ・カムランに向かって行く…。








「あれっ!?もう終わってるし!」
「いつの間に…」

発砲音を聞き付けたコウタとアリサが合流したときには、スミカの神機がボルグ・カムランを捕喰して素材を回収していた。

「やっぱり刀身を強化したのが大きいかな?」

この日、スミカがいつも装備しているロングブレード刀身「バスタード」は、破壊力を上昇させたを持つ「鉄槐刀」に強化されていた。

「…よし、ミッション完了!帰投する」

素材回収を終えたスミカの合図で、第一部隊は引き上げる。

「にしてもスミカ…いつの間に神機強化したんだよ?」

ヘリに向かう途中スミカにコウタが尋ねた。

「昨日だよ?。ぶっ飛ばしやすさと破壊力に特化させてたんだ」

最後に、ソーマが削ってくれたこともあるけど…と付け加え、スミカたちはヘリに乗りこんだ。








「あ、スミカさん!お疲れ様です」

ヒバリがカウンターにやってきたスミカに労いの言葉をかける。

「ミッション完遂しました。確認お願いします」
「………はい、確認が取れましたのでこちらの書類に必要事項を記入して提出してください」
「ありがとうございます」

もはや決まり文句と化した一連の会話を終え、スミカは書類を受け取って休憩スペースへ向かった。

休憩スペースではアリサとコウタがソファに座って、自販機で買ったジュースを飲んでいた。

「あ、スミカ!」

やって来たスミカにコウタが手を振って声をかけた。

スミカは二人が座っているソファに腰掛けて、早速報告書を片付けはじめた。

「にしてもさ〜…やっぱりソーマって気難しいヤツだよな〜…」

いきなりソーマの話題を取り出したコウタはふう、とため息をついた。

「おっ!なんだなんだ?ソーマの話か?」

そこに突然割って入ってきたのはシュンだ。

「まあソーマは『死神』って呼ばれてるくらい不吉なヤツだからな〜」

こちらから聞いてもいない情報を口にする。

「…死…神?」

アリサが怪訝な顔で聞き返す。

「おう、何故『死神』なんて呼ばれてるかって〜とな?まず、あいつの側にはやたらとアラガミが寄ってくんだよ」
「マジで!?」

コウタが驚きの声を上げる。

「おう、やっぱ死神ってウワサは本物だぜ…」

シュンが声を低くして話すが、突然スミカの静かな声が沈んだ空気を断ち切る。

「アラガミがよりやすいなら・・・アラガミを自分に引き付けるように動いて、皆の負担を減らしてくれてるだけじゃないの?」
「えっ………?」
「………」
「………」

スミカが報告書に書き込むカリカリという音以外、何も音はしなかった。

人の悪口はついつい聞いてしまうのか、周りで盗み聞きしていた人間もいたのだが…彼ら全員を含めてコウタ、アリサ、シュンはポカンとスミカを見つめていた。

今までそんな風に考えたことがなかったのだろうか、人のウワサに流されソーマのことをロクに見ていなかったことが窺える。

「じゃ…じゃあソーマのチャージクラッシュが、バーストもしてないのに普通のやつより早く出せるのはなんでだよ!」

スミカの言葉を受けてシュンが反論する。

「リッカに聞いたけど、ソーマの神機にはチャージクラッシュの溜め時間を短縮する、特殊な機構が組み込まれてるんだってさ」

報告書から目を離さずに淡々と喋るスミカ。

「………」

再び何も言えなくなるシュン。

「なら!リンドウさんが死んだのは…」

シュンの言葉にアリサがびくっと反応した。

「人のせいにするな。それにリンドウさんが死んだと誰が決めた?これ以上仲間を侮辱するなら、喧嘩売ってあげてもいいわよ?」

微笑んだままそう言ったスミカの瞳には、強い意志が宿っていた。

「なっ…なんだよ…」

シュンはそそくさと立ち上がって行ってしまった。

それを受けて周りで聞いてた人間も我に返り、慌てて自分たちの会話に戻る。

「スミカさん…」
「スミカ…」
「………よし、出来た」
『え?』

スミカは報告書を持って立ち上がる。

「これ、提出してくるよ」

スミカはそう言ってカウンターのヒバリの元へ向かった。

「………」

スミカの言葉の数々を、ソーマは柱の影にもたれて聞いていた。

(チっ…)

ソーマは姿勢を直すと、自室へと歩いていった