GOD EATER ~RED・GODDESS~ (真王)
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新型のリーダー
アリサのトラウマ克服から一夜明け…スミカ達第一部隊はツバキに呼び出され、エントランスに集まっていた。
「なぁ、急に集まれって呼ばれて来たけど…一体何なの?」
コウタはアリサに尋ねるが…。
「知らないです…知っていても、あなたには教えませんけど」
アリサに冷たくあしらわれ、コウタはうなだれる。
「サクヤさん、何か知ってます?」
アリサはそんなコウタを無視して、サクヤに聞いてみる。
「なんにも聞いてないわ…それにしても、全員招集っていうのも珍しいわね…」
サクヤの言う通り、ソーマまで来ており…まさに第一部隊が全員集合している状態なのだ。
と、そこへツバキがやってきた。
「どうやら全員いるようだな…本日、執行部から正式な辞令が降りた。今回の任務の完了を持って、スミカ=グレン…貴官をフェンリル極東支部、保守局第一部隊の隊長に任命する。これからはお前がリーダーだ…よろしく頼むぞ」
ツバキの放った言葉を、スミカが、サクヤ達が、回りで立ち聞きしていたゴッドイーター達が信じられなかった。
(隊長?私が?)
スミカが呆然としている中、コウタは呑気にスミカの出世に驚く。
「すっ…すげぇ…!出世じゃん!大出世じゃん!!こういうの、なんて言うんだっけ?…『下剋上』!?」
「それ…裏切りですよ?」
アリサはコウタに冷静につっこんだ後、スミカに向き直る。
「改めて、よろしくお願いします!ね、サクヤさん!…サクヤ…さん?」
サクヤがアリサに全く反応しなかったので、アリサは不安げに顔を覗き込む。
「えっ?ええ…そうね。リーダー…か…なんだかずいぶん頼もしくなっちゃったわね〜。君になら、背中を預けられるよ…これからもよろしくね!」
「いや~、はははは」
いきなりの隊長任命とあって、コウタ達の言葉にスミカは空笑い。しかし勝手にはしゃぐコウタ達にツバキが反応する。
「はやとちりするな。正式に任命されるのは、『今回の任務の完了後』だ。それに…確かにリーダーともなれば、相応の権限が与えられる。しかし同等の、重く大きな義務も負ってもらう」
ツバキは真剣な面持ちでスミカを見ながら話す。
「神機使いとしての職分だけではない…チームの部隊員を無事に生きて帰還させるという義務だ」
そして皆に向き直り…。
「死ぬなよ。全員生きて帰れ。これは命令だ」
かつてのリーダーに言われ続けた…大切な命令…。
命令を出した本人は戻ってこなかったが…それでも彼はリーダーとして、自らを犠牲にし、部隊員を生かす道を選んだ。ゴッドイーターとして、人として…彼の選択は尊敬に値する。
「さあ!」
ツバキの声に全員がはっ、と我にかえる。
「いつまでボサッとしている!任務に向かえ!」
ツバキに叱咤された第一部隊は、鉄塔の森に来ていた。
ちなみにメンバーはスミカ、サクヤ、アリサ、コウタである。
ソーマは別の任務があるとのことで外れた。
スミカのリーダー就任を左右する今回のミッション…ターゲットは『ザイゴート』三体と『サリエル』だ。
サリエルとは、人と蝶を融合させたようなアラガミで、美しさに見とれて深手を負った情けない神機使いも何人かおり、発生地は地中海沿岸と見られている。
…ちなみにペイラー榊は、サリエルはザイゴートの進化種ではないかと考えているようだ。
理由としては、サリエルの頭にある邪眼と、ザイゴートの目玉の構成成分がほとんど合致していることや、どちらも人間の女性の身体を表した部分がある等、共通点が多いから…ということらしい。
「じゃあ、リーダー?作戦を」
サクヤはスミカにニコニコしながら言った。
「まだリーダーじゃないですよ」
スミカが照れながら訂正する。
「よっ!リーダー!ヒューヒュー!」
スミカの反応を見たコウタが茶化す。
「コウタは静かにしてて下さい!…でも、この任務が無事終われば…あなたはもう、私たちのリーダーです」
コウタをたしなめてスミカに向き直ったアリサは微笑んで言った。
「そうよ?どの道あなたはこれから皆を引っ張っていくんだから!練習、練習!」
サクヤはアリサの話に乗っかり、スミカを促す。
「…そうですね………ゴホン、では、ブリーフィングを始める」
いつまでもモタモタしてられないと、スミカは表情と口調を真剣なものに変えてブリーフィングを始めた。
自然とアリサ達も、姿勢を正しスミカの話を聞く。
「観察班からの報告では、サリエルは低速でこちらに向かっているとのこと。先にザイゴートを叩こう。私とコウタ君、アリサちゃんとサクヤさんのペアに別れて索敵、ザイゴートを各個撃破した後合流し、やってきたサリエルと交戦、殲滅します」
「様になってるわね。私はそれでいいわよ」
「そうですね!私も、無駄のない作戦で良いと思います」
「俺もOKだぜ!」
三人の了承を得たスミカは、安堵した後先頭に立つ。
「…じゃあ、行くよ!ミッションスタート!そしてよけろ!!」
「へ?」
スミカの合図で、第一部隊はコウタ君を除いて散開する。
スミカは銃形態にしてコウタ君の後ろにいるザイゴートを打ち抜く。
「いきなりおいでなすったわよ」
スミカ達の目の前にはザイゴート二体とサリエルがいた。
「アリサ!剣が使えるあなたは、前線で陽動をお願い!私はバックアップに回るわ!」
「はい!」
「コウタ君!後ろを頼むわ!」
「任せとけって、リーダー!」
「だから『リーダー』は早いって!」
二人はサリエルに向かって突進する。サリエルはひらりと横に回りながら、脚のような部分の下から光球を出す。
それは少しの間滞空した後、スミカに向かって物凄いスピードで飛んでいった。
「おっとっ!」
スミカはそれを横にスライドしてかわす。
「はあっ!てやっ!」
その間にアリサは、サリエルを背中から斬りつけて着地した。
サリエルは背中の痛みに苦悶の声を上げるが、すぐに反撃に出る。
頭の瞳からレーザーを上に向けて4本発射した。一度上に上がったレーザーは急に角度を下に下げ、雨のようにアリサに降りかかる。
「ふっ!」
タイミングを見極めて、アリサはレーザーの雨から逃れた。
二人がレーザーに手間取っている間、サクヤとコウタはバレットを撃ち込み続ける。
すると、サリエルの瞳が妖しく光りだした。どうやら怒らせてしまったようだ。
サリエルはコウタに狙いを定めて、地面を滑るように滑空し、体当たりを仕掛けた。
「あぶねっ!!」
S字に曲がりながらの突進は避けづらかったのか、ギリギリでコウタはかわした。
しかしサリエルの攻撃はまだ終わらなかった。両腕をぎゅっと身体に寄せ、まるで何かの力を溜め込むような動作をした。
そして、縮こませた両腕を天に向かって突き出した直後、サリエルを中心に地面から巨大なエネルギー波の柱がせりあがる。
「ぐうあぁぁぁ!!!」
それをもろに食らったコウタは後ろに吹き飛ばされた。
「し…まっ…た…」
コウタが地面に倒れ込む。
「コウタ君!!…アリサちゃん!サクヤさん!フォロー!」
『了解!!』
アリサとサクヤがスミカと、倒れているコウタの前に出た。
「よくもやってくれましたね!!」
怒りが込み上げたアリサは斬りかかり、サクヤがフォローでレーザーを撃ち込む。
「あ、あ…ぐ…」
コウタはすでに虫の息だったが、その命の灯が消えることはない。
「しっかりして…」
スミカはコウタに触れると、意識を集中する。
すると、体力や生気が吸い取られ、自分の身体がズシリと重くなった感覚を覚える。
ゴッドイーターは互いの身体の壁すら超越する。
スミカが行ったのは『リンクエイド』という、神機使い同士のみで行える応急治療法だ。使う神機使いにもよるが、理論上、体力のだいたい半分程度を他の神機使いに分け与えることが出来る。
「あ、スミカ…ゴメンな…」
「まだいける?」
スミカは疲労を隠してコウタに聞いた。
「ああ…何とか…」
そう言ってコウタは立ち上がる。
「なら……お仕事再開!」
スミカも立ち上がり、神機を構えてサリエルに向かって行く。
コウタは体力を回復する回復錠と、オラクルバレットを撃つ度に消費する「オラクル」を補給するOアンプルを飲んで、戦線に復帰する。
「このっ…!」
アリサは斬撃を与えていくがあまり削りきれていない。
するとサリエルが、瞳からレーザーを4本発射した。今度は対象者を追尾するホーミングレーザーのようで、曲がりながらアリサに向かって飛んでいく。しかし…。
ガァン!!
スミカが装甲を展開し、それを防ぐ。
「スミカさん!」
「いい加減に……」
そう言ったスミカはサリエルの正面に飛び上がり、
「墜ちろ!!」
踵落しで、無理矢理地面に落とす。
「アリサちゃん!」
「っ!はい!」
スミカの力に驚いていたアリサは我にかえり、神機を構える。
「喰っちゃえ!!」
「隙ありです!!」
二つの神機がサリエルの肉を引きちぎり、スミカとアリサは一気にバーストする。
「リンクバーストいくよ!!」
二人は神機を変型させてコウタとサクヤに向けて二発ずつ撃ち渡す。
「いくわよ!!」
「おし来たぁぁぁ!!」
そして今度は互いに向けて…。
「いくよ!」
「どうぞ!」
リンクバーストを発動した四人は一気に仕掛けた。
スミカの剣撃でサリエルのスカートと脚が破壊され、サクヤとコウタの射撃で頭が破壊される。
「決める!!」
再びスミカが神機を銃に変型させて、アリサ、コウタ、サクヤとともに濃縮アラガミバレットを放った。
光の奔流に飲み込まれ…後に残ったのは、無数の風穴が開けられたサリエルの死骸だった。
スミカが神機を剣形態に戻して、目標の沈黙を確認した後…ポケットから各隊長に支給される携帯電話を取り出す。
ヒバリに電話をかけ、一言。
「ミッション完了…帰投します」
それは、新たなリーダー誕生の報告となった。