GOD EATER ~RED・GODDESS~ (真王)
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アリサと特訓

日が傾いて、影が長くなった頃…スミカとアリサは『愚者の空母』に来ていた。

かつて…アラガミが出現し、世界が混乱を始めた隙を狙って、武器や貴金類を狙っていた二つの武装集団がいた。

そして、彼らが空母の上で争っていたところにアラガミが現れ、両者は壊滅…皆殺しとなったのである。

一際大きく開いた穴はアラガミに喰われてできたものであり、人間の愚かさを今も示し続けている。

船が座礁した今となってはアラガミの徘徊ルートの一つになっており、度々出動要請がかかる。

「アリサちゃん、大丈夫?」

スミカはアリサの表情を窺いながら気遣う。

「は…はい…」

アリサは神機を握る手に力を込める。

…やはりまだ恐れているみたい、肩が震え、顔色がすぐれない。

「やっぱりまだ、ちょっと怖い…?」

スミカは神機を肩に担いで聞く。

「……すいません」

アリサは正直に言った。

「まあ、しょうがないよ。焦らずがんばろう?」

スミカは明るい声でアリサを元気づける。

「…はい!」

アリサはスミカに微笑み返した。

と、その時。

「グオォォォォォ……!」
「きゃあっ!!」

遠くから聞こえてきたアラガミの声に驚き、アリサはスミカの左腕に両手を絡めてしがみつく。

女の子が怖がる姿を見てほほえましいなと思う余裕はなかった。

………とにかく腕が痛い。

「・・・アリサちゃん、腕が痛いよ」
「へ?あ!ゴメンナサイ!」

パッとはなして謝る。
でもこのままじゃ戦闘に支障が出るから・・・

「あ…アリサ!あの雲、羊の群れに見えない?」

スミカが空を指差してアリサに言った。

「えっ?」

急にスミカに全く関係ないことを言われるアリサ。
言われてスミカの指差す方を見ると、夕暮れに朱く染まった羊雲が浮かんでいた。

「………あ…」

アリサはようやくスミカが言いたいことがわかった。

『混乱しちまった時はな、空を見るんだ。そんで動物に似た雲を見つけてみろ、落ち着くぞ?』
「………そうですね…じゃあアレは、その羊を束ねる牧羊犬…でしょうか?」

アリサが指差す方を見ると、確かにそれらしき雲が浮かんでいる。

「そうかもね…あ、あっちは・・・フランクフルトかな?」

雲の中に横長いのとそれにくっついた細いのが見えた。

「ではあれは・・・に、肉でしょうか?」
「正しくは骨付き肉でした~」

と言ってスミカはアリサの頭を撫でる。

「ちょっ…!もう、子供扱いしないで下さい!」

夕焼けで分かりづらいが、頬を赤く染めてアリサはスミカの手をどかす。

「ぷっ…!ふふ…ははは…」

アリサとのやり取りで笑い出すスミカ。

「わ、笑わないでくださいよスミカさん!」

アリサはスミカの反応を見て怒ったあと、呆れ笑いになり、いつの間にか自分も笑っていた。

「ふふ…落ち着いた?」
「ええ、おかげ様で…」

スミカがようやく笑いの波が収まって聞くと、アリサが笑顔で答えた。

「そうか…。もうそろそろ行くよ」
「…はい!」

アリサはようやく肩の力を抜けたようだ。

「じゃあブリーフィングを始めよう。今日の任務では、私が前線に出て陽動、アリサにはバックアップをしてもらうことにする」
「了解!」
「ただ…」
「?」
「バックアップとは言ったけど…フォローは、本当に必要な時だけにして。何度も言ったけど、焦らずに一歩ずつ強くなることが大事なの。だから今日アリサには、『自身の防衛を優先すること』と、『実戦における立ち回り方を再習得すること』…この二つをやってほしい」
「でも…それじゃスミカさんが…」

アリサの言うとおり、スミカの指示を守って行動した場合、今日スミカは何の後ろ盾もなく戦うことになる。

「私のことは気にしなくていい。自分の身が危なくなったら遠慮なく逃げて。二週間のブランクはさすがに大きいから、アリサにはなるべく無理はしないでほしいんだ…」
「………わかりました」

アリサは少し悩んだが返事をして、今日のミッションが開始された。









アナグラへと向かう帰投ヘリの中で、スミカとアリサはミッションにおける、反省と改善点について話し合っていた。

「どうだった?久しぶりの任務は」

スミカが向かいの椅子に座ってるアリサに尋ねた。

任務についてのブリーフィングでスミカが指示した通り、アリサは一切攻撃参加をせず、敵味方それぞれに対する距離感を掴む練習をしていた。

「やはりと言うか…あまり以前の様に動けなかったですね…案の定、距離感も鈍ってましたし…」
「…やっぱり間合いを保つという点では、ブランクが効いたね」
「…そうですね…ついつい後ろに下がって、結局スミカさんとの距離が広がってしまいました…」
「味方とアラガミ、それぞれの距離感はどの戦術においても重要だから、次のミッションでも今日と同じ目標でやってみようか?」
「はい!またお願いします!」
「あと、神機の遠近切り替えのタイミングについてだけど………」

話が途切れることもなく、ヘリはアナグラに到着した。

二人は神機を保管庫エリアに持って行く間や、食堂で食事をしている時など、空いている時間をたっぷり使って話し合っていた。

………ちなみに、スミカに用事があったコウタは、一度も声をかけれずに一日を終えるという淋しい思いをしていた。





時間はあっという間に過ぎていき、もう少しで就寝時間になるという頃…自分の個室の前まで来ると、スミカはアリサの方を向く。

「じゃあ、明日も頑張ろう」
「はい、お休みなさい…スミカさん」
「ああ、おやすみアリサ」

そしてスミカは自室のドアを開けて、部屋の奥へ消えて行った。

アリサはドアが閉まる瞬間まで、スミカの後ろ姿を微笑みながら見つめていた。

自室のベッドに潜り込んだアリサは、スミカのことを思い浮かべる。

優しい笑顔で自分を励ましてくれたり…戦闘中にさりげなく自分をカバーしてくれたり…ミッションが終わった後に、自分の今後の方針について一生懸命話し合ってくれた、スミカのことを…。

(スミカさんは…自分のこともあるのに、私の力になろうと頑張ってくれてる……それなのに私は…)

アリサは自分の弱さと不甲斐なさに打ちのめされ、一刻も早く強くなりたいと感じる。

(でも駄目…焦らずに一歩ずつ強くなるって…スミカさんと約束したんだから…)

アリサは目を閉じて、自分とスミカの間で交わした約束を改めて確認した。

(スミカさんは私のことをしっかり守ってくれた…それだけの力を持っていたから…私もいつか…彼の背中を守る力を………今はまだ無理でも必ず…スミカさんに恩返しが出来るくらい強くなってみせる…)

アリサは、自分を救ってくれたスミカにいつか必ず恩を返す決意をした。

そして、久しぶりの任務で疲労した身体は、アリサの意識をあっという間に眠りの海に引きずり込んだ。