GOD EATER ~RED・GODDESS~ (真王)
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かすむ希望
極東支部に戻った第一部隊のメンバーの表情に明るさはなかった。
スタングレネードを全て消費してプリティヴィ・マータを撒くことに成功し、ヘリで無事帰投することはできたが…誰も安堵などしていなかった。
帰投するなりアリサは医務室に運び込まれた。
やはりまだ錯乱状態らしい…。今は薬を投与され眠っている。
サクヤの表情は目に見えて暗く、見ていて痛々しかった。
ソーマは腕を組んで壁に背中からもたれ掛かり、何やら思い詰めた表情だった。
コウタの顔からもいつもの明るさは消え去り、黙ってソファに座っていた。
第一部隊にヒバリから、「リンドウの腕輪の生命信号を確認するビーコンからの発信が途絶えた」と伝えられたのはこのすぐ後であった。
この日から彼らの運命は、大きく動き出した…。
「教官!俺達も、リンドウさんの捜索に向かわせてください!」
「何度も言わせるな…それについては正規の部隊が動いている。経過を待て」
ブレンダンがツバキに詰め寄るが、ツバキはそれを突き返す。
「しかし!人数が多い方が、発見の可能性が…!」
今度はタツミが食い下がる。
「くどい!」
またも跳ね返すツバキ。すると次はカノンが…。
「リンドウさんは命の恩人なんです!だから今度は私たちが…!」
「くどいと言っている!!」
ツバキの張り上げた声に、第二部隊が肩を落として黙り込む。
「…ツバキさん、支部長がお呼びです」
その時ヒバリがツバキに声をかける。
「わかった。しばらく頼む」
「了解しました」
ツバキはさっさとエレベーターに乗って役員区画へ行ってしまった。
「なんでなんだよ…ツバキさん…リンドウさんのことが、心配じゃないのかよ…」
タツミが拳を握りしめて呟く。すると、後ろから事の一部始終を見ていたゲンが、第二部隊に話し掛けた。
「おい、てめぇら…あいつの目の前で何人死んだか…教えてやろうか?」
「あ…」
カノンがゲンの言いたいことを理解する。
ツバキはリンドウと同じくらい長い年月を戦っている。数々の戦いを経験した彼女は、その分人の死も経験しているということだ。
「ましてや血を分けた弟だ…飛び出したいのはあいつの方だろうに…」
エントランスに沈黙が訪れる…。
ツバキは支部長室へ向かうため、廊下を歩いていた。
頭の中に、第二部隊の言った台詞の数々が流れ続ける。聞きたくなくて、苦しくて…ツバキは壁に、苛立ちを乗せた拳をぶつける。
「………」
それから少しして、ツバキは支部長室へと向かった。
場所は変わってエントランスへ。
スミカはよろず屋で、一昨日のミッションで消費したアイテムの補充をした後、ソファに座って考え込んでいた。
(同一区画に二つのチーム…一度に大量に現れた大型アラガミ…アリサの行動と錯乱…)
ソファに座って黙りこくってたスミカの前に、いつの間にかリッカが来ていた。
リッカは自販機で買ってきたと思われるジュースを二本持っていて、片方をスミカに手渡した。
「隣座るよ?」
リッカはスミカの隣に座ると、スプリングを開けてジュースを飲みはじめる。
少し沈黙が続いた後、リッカが口を開く。
「リンドウさん…まだ見つかってないんだって…」
リッカが捜索班からの報告をスミカに伝える。
「そう…」
力無くスミカは答える。そして再び沈黙…。
やがてジュースを飲み干したリッカが立ち上がると、スミカに辛そうな顔を向ける。
「捜索班は、ちゃんと探してくれてるけど…あまり期待しないでね…彼らの仕事は主に、腕輪と神機の捜索だから…」
「………」
リッカの言葉を黙って聞いているスミカ。
リッカは少し心配そうな瞳でスミカを見たが、やがて整備場へ戻って行った。
立ち上がり、近くの壁の前に立つと、
ズドゴッ!!!
壁をぶち抜くぐらいの鉄拳が打ち付けられた。
スミカの怒りが比例するようにひびの広さが大きい。
「私とあろうものが・・・」
スミカは自分自身に怒っている。
リンドウを救えなかった自分自身に。
しかし八つ当たりしてもどうにもならないのでスミカはエントランスを後にした。
(壁直せよ・・・)
見てた万屋はそう思った。
スミカはラボラトリ区画にある医務室で、現在療養中のアリサの様子を見に来た。
医務室の前まで来ると、扉越しにアリサの声が聞こえてきた。
「見ないで…もう放っといてよ…来ないで…私なんか…私なんか…!!!」
「鎮静剤を!クッションは交換しておけ!」
ツバキの声も中から聞こえてくる…どうやらアリサの面倒を看護婦と一緒に看ているようだ。
「ああ…ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ………パパ…ママァ…私…違う!!…違うの!!!」
「私だ、わかるか?アリサ!」
「そんな、そんなつもりじゃなかったの!!違う!私じゃない!!私のせいじゃない!!!」
スミカはアリサの変わり様に呆然としていたが、意を決して医務室の扉に手をかける。
「ああ、君か…」
「!」
スミカが振り向くと、無精髭を生やし、タバコを口にくわえた男がこちらに近づいてきた。
髪も長く、見た目はかなりルーズだが、胸に留められた医師免許がその腕を証明していた。
「極東支部の新型君…確か『スミカ=グレン』君だったかな?」
「あなたは…?」
「私の名はオオグルマダイゴ。アリサがロシアにいた頃から、彼女を看ている主治医だ」
そしてオオグルマは、スミカが医務室の中に入ろうとしているのを見て話を続けた。
「今は、会わない方が良いだろうな…薬が切れるとあの調子だ。日を改めたほうがいいぞ」
「イヤァァァァ!!」
アリサの絶叫がまた廊下に響き渡る。
「彼女だって、今の様子はあまり見られたくないだろうしな…」
オオグルマは申し訳なさそうにスミカに言った。
そしてスミカは、残念だが仕方がないと頷いて、その場を離れた。
スミカはそれから任務が終わった後、面会出来るときは必ず医務室を訪れるようにした。
アリサに何があったのか、『あの時』一体何があったのか…それが知りたかった。
リンドウは未だ見つかっていない。スミカは事の真相が知りたかった。
だがしかし、それ以上にアリサのことが心配だったのだ。
あれほど冷静で、落ち着いたアリサがああまで変貌したら無理もない。
面会が許されたのは、その二日後のことだった。
だが、『面会』と言っても、実際は「医務室に入ることが許されただけ」のようなものだった。
何せ顔を合わせるとアリサはいつも、点滴を受けながら眠っていたのだから…。
面会五日目…今日もスミカは見舞いにやってきた。アリサは案の定、寝息を立てている。
スミカは近くにある椅子を引いて、そこに腰掛ける。
「アリサ……」
「話し掛けても無駄だよ」
「!」
スミカが驚いて振り向くと、医務室の扉の前にオオグルマが立っていた。
「効果の高い鎮静薬が届いたんでね…当分意識は戻らないはずだ」
オオグルマはアリサが眠っているベッドの側まで来ながら言った。
「…そうですか」
そしてスミカは、そろそろ医務室を出ようと思い、さよならの挨拶の代わりにアリサの左手を握った。
「!?」
その瞬間、スミカの頭に見たことのない映像が次々と映し出された。スミカはまるで、自分がその映像を本当に「見て」いるかのような感覚を覚えた。
(これって…!?)
スミカがわけがわからず混乱していたら…。
「…あれ…ここは…私…どうして…?」
なんと、しばらく眠ったままだと思われたアリサが、突然目を覚ました。
「意識が…回復しただと…!?まさか…し、失礼する!」
アリサの回復にオオグルマは驚き、すぐに医務室を出て行った。
「今…あなた…の…」
そう言って、再び目を閉じるアリサ。スミカは自分の手とアリサ、オオグルマが出て行った扉を順番に見つめた。
「………」
オオグルマは休憩スペースへ歩きながら携帯電話で話をしていた。
「………はい…ええ、まさか意識を取り戻すとは…」
オオグルマは驚きを隠せずに言うと、話相手の声が耳に流れる。
『原因はわかっているのかね?』
「詳しくはわかりませんが…」
『まさか…新型の?』
「ええ…例の…『新型同士の感応現象』が起きたのではないかと…」
『そうか…』
「はい…どうします?隔離しますか?」
切羽詰まった声でオオグルマが言うが、話相手はそれを否定する。
『………いや、彼女にはまだ生きていてもらおう…いざという時の「保険」、としてね…』
「そうですか…では暫くはこのまま…はい!じゃあ、私はこれで…」
そしてオオグルマは電話を切ると、医務室を見て呟いた。
「フン…面倒な事になりそうだ…」
一方医務室
(感応現象?それにオオグルマと話している相手・・・ならリンドウを落としいれようとしたのは・・・)
リンドウが行方不明になってから8日…アリサを除いた第一部隊は、ツバキに呼び出された。