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長期金利の決まり方……将来の「予想」が大事

作成: 2000年 9月
改訂: 2006年 1月

長期金利は、企業の設備投資や個人の住宅投資を大きく左右するなど、経済の動向と密接な関わりがあります。住宅ローン(固定金利型)を借りておられる方や長期の国債で貯蓄をされている方にとっては、大変身近なものでもあります。
では、この長期金利は、どのようにして決まっているのでしょうか。

目次

長期金利と短期金利の決まり方の違い

まず、長期金利は、短期金利とは決まり方が大変違う、ということにご注目下さい。

短期金利の代表は、「無担保コールレート(オーバーナイト物)」ですが、これは日本銀行の金融調節によってコントロールされています。また、オーバーナイト物より少し長い短期金利(1週間や1か月の金利)もオーバーナイト物に強く影響されています。つまり、短期金利は、基本的にその時点の金融政策の影響下にあるのです (注)

(注) やや技術的になりますが、厳密に言えば、短期金利(特に、長めの短期金利)についても、金融政策では直接コントロールできない部分(個々の借入主体の信用状態や、投資主体の流動性に対する選好度合いによって、資金の貸し手が要求する上乗せ金利<=リスクプレミアム>)は存在しています。しかし、ここでは、議論を簡素化するため、この部分については捨象して話を進めることにします。

これに対して長期金利は、その時点の金融政策の影響も受けはしますが、それとは別の次元で、長期資金の需要・供給の市場メカニズムの中で決まるという色合いが強く、その際、将来の物価変動(インフレ、デフレ)や将来の短期金利の推移(やこれに大きな影響を及ぼす将来の金融政策)などについての予想が大切な役割を演ずる(詳細は後述)、という特徴があります。

なお、新聞等で長期金利の動きが報じられる時は、債券、特に長期国債(満期までの期間が10年弱のもの)の値動きがしばしば取上げられます。これは、債券を売る(供給する)ということは長期資金を調達(需要)する、債券を買う(需要する)ということは運用(供給)するということなので、債券「相場」の動きが、長期金利の動きをそのまま表すからです。債券「相場」が値上がりすれば長期金利は低下、値下がりすれば長期金利は上昇というように、長期金利も「相場」として動くということです。

▽債券の価格と長期金利(=債券の利回り)の関係は?

債券の価格と利回りには、価格が上昇(下落)すると利回りは下落(上昇)するという関係があります。
これを10年物国債を例にとり、具体的にみてみましょう。

利回りとは、投資の結果得られる収益が、投資した元本に対してどのくらいになるかを年率%で表わしたものです。
債券の場合、利息収入(インカムゲイン)のほか、購入価格と売却(償還)価格の差から得られる売買(償還)差損益(キャピタルゲイン、キャピタルロス)を考慮して計算されます。

10年物国債
 額面金額  100円
 表面利率  2.0%

サラリーマンの山田氏は、額面金額100円、表面利率2.0%の国債で資金運用をしようと考えました。
以下の各ケースで、運用利回りについて大まかに計算してみましょう。

(1)仮に、国債の相場(価格)が100円であれば、山田氏は、毎年2円の利息を手にすることができます。また、10年後の満期には100円の元本が戻ってきます。この投資による運用利回りは、年2%となります。

投資収益(1年当たり)...利息 2円

 運用利回りは100円投資して1年で2円の収益なので、2%

(2)例えば、額面金額100円の国債の相場が95円に値下がりしているタイミングで購入すれば、毎年2円の利息を手にすることができるほか、10年後の満期時には国債は額面どおり100円で償還されるため、山田氏の購入価格である95円との差額である5円が値上がり益(キャピタルゲイン)として手に入ることになります。

投資収益(1年当たり)...利息 2円
値上がり益        5円/10年=0.5円
合計 2.5円

 運用利回りは95円投資して1年で2.5円の収益なので、2.6%

(3)例えば、国債相場が値上がりして105円となっている時点で購入してしまうと、毎年2円の利息を手にすることができるのは(1)や(2)の場合と同じですが、10年後の国債の償還時には額面金額の100円しか戻ってこないため、山田氏は購入価格である105円との差額5円の値下がり損(キャピタルロス)を被ることになります。

投資収益(1年当たり)...利息 2円
値下がり損        ▲5円/10年=▲0.5円
合計 1.5円

 運用利回りは105円投資して1年で1.5円の収益なので、1.4

以上、(1)、(2)、(3)でみた国債(購入時)の価格と運用利回りを整理すると、

図

となります。

債券の価格が高くなれば利回り(長期金利)は低くなる、逆に価格が低くなれば利回り(長期金利)は高くなる関係がお分かり頂けたでしょうか。

長期金利を左右する「予想」

では、長期資金の需要・供給は、具体的にはどういった要因に影響されて、長期金利を形成するのでしょうか。

いろいろな要因がありますが、重要なものの1つが将来の短期金利の推移や物価変動(インフレ、デフレ)、長期資金を投じて行う設備投資の収益などについての「予想」なのです。「予想」がどのようにして長期金利を左右するのか、1つの例をお示しします。

皆さんの手許に、10年位は使わずに取っておこうと思っているお金があって、これを10年満期の債券に投資するか、それとも1年物定期預金を10回繰り返すか、を思案している時のことをお考え下さい。

なお、ここでいう10年の債券については、今売られている10年国債のように、10年間の毎年の利息が確定している、つまり、発行されてから他の金利がいくら上下してもその債券の利息は不変、そういうもの(固定金利の債券)を想定して下さい。

まず、現在、債券の利息は年2%で、1年物定期預金金利が1%とします。どちらに投資するかを決めるに当たっては、途中で換金しなければならない時の手軽さや金融機関店舗までの距離なども関係するでしょうけれども、大きな要因の1つが10年間の利息はどっちが多いか、であることは間違いないですね。ここではこの点に絞って考えることと致しましょう。
ここまでポイントを絞ってもまだ色々なケースが考えられますが、次のような2つのケースだけを取り出して比べてみましょう。

(1) 今後10年間は大したインフレも起こらず、世の中の金利は安定していて、1年物定期はほぼ間違いなく2%以下で推移すると予想される場合(物価安定予想のケース)
(2) 今後インフレが始まって、1年物定期預金金利も数年後には例えば7%位まで上がると予想される場合(インフレ昂進予想のケース)

さあ、皆さんは、どちらの場合に債券で貯金しようと思いますか。(1)の物価安定予想のケースなら、ほぼ間違いなく、毎年、債券の利息(2%)の方が定期預金の利息より多いですね。他方、(2)のインフレ昂進予想のケースでは、定期預金の利息(もしかしたら7%)の方が債券の利息より多い年もありそうですね。そうなれば、(1)の場合の方が債券がよく売れる(=長期資金の供給が多くなる)でしょう。

つまり、物価安定予想が支配的な時の方が、債券がよく売れて高い値がつく、すなわち、長期金利は低いのです。逆に、インフレ昂進予想がある時は、債券が売れないから値が低い、すなわち長期金利は高いのです。

▽長期運用と短期運用の更新はどちらが得?

手元の余裕資金10万円を10年間運用したいサラリーマンの山田氏。
10年物債券への投資か1年物定期預金を毎年更新するか、さあ、どちらが得なのでしょうか?
(なお、ここでは税金などのコストおよび利息の再投資は考えません。)

【債券投資の場合】 債券の満期は10年後。債券の表面利率は年率2%で、毎年2千円の利息が手に入ることが確実。満期には投資元本の10万円が戻ってくるほか、10年間を通じてトータルで2万円の利息が得られることになります。

図

【定期預金の場合<その1>】 1年物定期で運用。毎年満期が来るごとに1年物定期で更新するため、毎年預け入れ利率は変動。ただし、この先、低インフレ、金利の低位安定が予想される場合。

図

【定期預金の場合】<その2> 1年物定期で運用。毎年満期が来るごとに1年物定期で更新するため、毎年預け入れ利率は変動。ただし、この先、高インフレ・高金利になることが予想される場合。
図

このように、長期金利は、今後の長期間にわたるインフレ、デフレや短期の金利に関する予想(金融の専門家は「予想」の代わりに「期待」という言い方をします)などに大きく左右されます。「インフレ期待は長期金利を高くする」、「物価安定期待は長期金利を低くする」、「設備投資の期待収益率が上がれば長期金利も上がる」ということです。

ここで大変大事なことは、長期金利というものは、(2)のインフレ昂進予想のケースのように(まだインフレになっていないのに)「予想」(期待)が変化した時点で「直ちに」変動するということです。すなわち、長期金利には、将来の変化を先取りする性質があるのです。

ですから、長期金利をコントロールしようとする場合、そうした試み自体が人々の「予想」(期待)を変えるか変えないのか、慎重に見極めなければなりません。

また、長期金利の動きをよく見て、それが将来のどういう変化を先取りしているのか、どういう「期待」を「市場」が持っているか、を考えることが大切であるとも言えるわけです。

▽長期金利の決定要因

図

* なお、上述の山田氏の例では、特に、「将来のインフレ率についての予想」という要因に着目して説明しています。

終わりに

「予想」が長期金利の決定に重要な役割を果たしていることはこれまでの説明で概ね理解して頂けたと思いますが、実はこれ以外にも「リスクプレミアム」のほか、さまざまな要因が長期金利に影響を及ぼしています。例えば、借入主体の将来の支払能力に対する不確実性が強まる場合には、その分より高目の(信用)リスクプレミアムが付加されて長期金利は上昇することになります。

また、長期金利については、財政再建との関係で議論されることが少なくありません。この点については、以下の資料が参考になると思います。

  • 「わが国経済と財政について」(2004年10月22日、財政制度等審議会 財政制度分科会 歳出合理化部会及び財政構造改革部会合同部会における福井総裁発言要旨)
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