8月15日、ソウル。南北離散家族が半世紀ぶりの再会を果たしたその日、会場を包んだ声を忘れることができない。
なんと表現すればいいのだろうか。フロアに並んだ各テーブルで家族同士が抱きあって号泣している。それぞれの「アイゴー」の声がドーム型の高い天井に昇っていき、そこで「ワーン」という声の総体となって、私たちのいるフロアに降ってくるのだ。悲鳴のようにも聞こえた。
私は厳粛な気持ちにさせられた。「なぜ半世紀ものあいだ放置したのか」。1000万人ともされる離散家族から為政者に向けられた怨嗟の声のようにも感じた。
私がやや大げさなまでにそう思ったのは、今回の相互訪問から漏れた人も含め、離散家族の幾人かを事前に取材したからだ。皆、北にいる子どもを案じながら亡くなった親のことなど、無念の思いを語ってくれた。
もしかしたら、私の受け止め方は思い入れが過ぎるかもしれない。確かに、今回ソウルにやってきたのは、学者や芸術家などエリートばかりで、北の宣伝臭がなかったわけではなかった。故金日成主席と金正日総書記に対する礼賛も続いた。
にもかかわらず、離散家族の再会が実現してよかったと実感したのは、実は、ホテルの部屋で行われた個別対面の際、ある70歳代の男性がテレビや新聞のカメラが並ぶ前でやおら立ち上がり、「金日成大元帥さま、万歳!」と叫んでみせた時のことだ。この瞬間、男性はズボンのチャックが全開だった。息子らが慌てて駆け寄って閉める。何かほのぼのとした肉親の情が感じられ、その場の雰囲気がやわらいだ。
一方で、こうした離散家族の一世に「老い」が忍び寄りつつあることに改めて気づかないわけにいかない。
南北の間ではその後、離散家族をめぐる協議が続けられているが、第2回の再会はまだ実現していない。私は、焦りにも似た気持ちで話し合いの行方を見つめている。
(2000.10.05 民団新聞)
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