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2013

2013 4月10日 SpecialEdition 本当にウサギのトヨタとカメのアウディ? 
2013 3月19日 SpecialEdition 2013年のSuper GT
2013 3月6日 SpecialEdition 2013年のGT300戦力分布図
2013 2月21日SpecialEdition カメさんに勝つため トヨタが編み出した勝利の方程式

4月10日
SpecialEdition本当にウサギのトヨタとカメのアウディ? トヨタはシルバーストーンへ2012年バージョンを投入

Photo:Sports-Car Racing

●2013年のLMP1カー
 今週末シルバーストーンにおいて2013年のWECが開幕する。2013年のLMP1カーのルールは少々複雑だ。基本ルールは、ガソリンエンジンとディーゼルエンジン、さらにガソリンハイブリッドとディーゼルハイブリッドは総て車重900kgだ。リストリクターの大きさも3.4リットルのガソリンエンジンは43.3mm×1、3.7リットルのディーゼルエンジンは45.8mm×1だ。燃料タンクの容量も、ガソリンエンジンが75リットル(2012年73リットル)、ディーゼルエンジンは60リットル(2012年58リットル)だ。

 しかし、昨年トヨタとアウディのワークスチームが走らせたハイブリッドカーが、圧倒的な速さを披露したため、プライベートチームとワークスチームの間の性能調整が求められた。同時にガソリンエンジンとディーゼルエンジンの間の性能調整も行われ、取り敢えず、レギュレーションとは別にブルテンによって、リストリクター径と車重は発表された。
 簡単に記するが、トヨタに代表されるワークスチームのハイブリッドのガソリンNAエンジンのリストリクター径が基準となったようで43.3mm×1。アウディに代表される総ての3.7リットルのディーゼルターボエンジンは45.1mm×1。プライベートチームのノンハイブリッドの3.4リットルのNAガソリンは44.4mm×1(基本的な性能調整値では43.73mm×1)に拡大された。
 燃料タンクの容量もガソリンエンジンのプライベートチームに限って5リットル大きな80リットルタンクの使用が許される。
 トヨタに代表されるガソリンハイブリッドとアウディ等ディーゼルエンジンは、15kg重い915kgの車重が義務つけられ、HPDやレベリオン/トヨタの様なノンハイブリッドのNAガソリンエンジンは890kgまで軽量化が許される。

 元々批判が大きかったディーゼルターボエンジンの巨大なリストリクター径は縮小されたが、パワーが削減されて燃費が向上するにも関わらず、燃料タンクの容量はガソリンエンジン同様拡大されている。
 そのため、一般的に2013年のWECは、速いトヨタが先行して周回を重ねても、先に給油のためピットに入る。逆にアウディは速さではトヨタに負けるかもしれないが、トヨタより数周余計に走った後ピットに入ると考えられている。
 つまり、一般的に2013年のWECはウサギのトヨタとカメのアウディによるレースが展開されると考えられている。

Photo:Sports-Car Racing

●レースウィークに入った後も性能調整を行う
 このような構図が見込まれる理由は、性能調整を見直した結果だが、実際にそうなるとは考えられない。
 巨大過ぎたリストリクターが縮小されたアウディのディーゼルエンジンは、一般的にはパワーが減ると考えられている。アウディ自身2013年バージョンの3.7リットルディーゼルターボエンジンは490馬力しか発生しないと発表している。本当に490馬力であるか?少々疑問だが、様々な開発によってアウディは速さを増しており、3週間前に行われたALMSセブリング12時間の場合、2012年より約2秒も速い予選タイムを記録している。それどころか、決勝レースでは2012年より約4秒も速いラップタイムで走行しており、圧倒的な戦闘力を披露して、LMP1カーにとって最後のセブリング12時間で優勝している。
 トヨタは、燃費を向上させるだけでなく、より一層速さを追求することによって成功を勝ち取ろうと考えているようだ。と言うより、それしかアウディに勝つ方法はないだろう。トヨタもまた、アウディと同程度の割合で速さを向上させている。しかし、速さのアップ率が同じである場合、リストリクターが小さくなって燃費の向上が見込めるアウディの方が有利となる可能性がある。

 また、性能調整に自信を深めたFIAは、レースウィークに入った後の性能調整についても意欲を見せている。つまり、予選で速さを披露した場合、決勝レースの前にリストリクターの縮小やハンデウエイトの搭載を要求される可能性がある。
 もちろん、決勝レースにおいて、明らかに1スティントあたりの周回数に差があると判断された場合、次のレースにおいて、燃料タンクの容量を変更することとなるだろう。ALMSセブリングに参加した際アウディは、2リットル小さい58リットルの燃料タンクの使用を義務つけられている。58リットルは2012年と同じ容量だが、WEC開幕戦シルバーストンでも、ディーゼルのアウディは58リットル、ガソリンのトヨタは68リットルタンクを義務つけられる可能性が高い。
 アウディとトヨタは、共にルマンで勝つことを最優先としてプログラムを進めている。つまり、その前の2つのレースの結果によって、課せられる性能調整を見越して、ルマンで最良の性能調整値を獲得することが、成功への第一歩と考えられる。

3月19日
SpecialEdition 2013年のSuper GT

Photo:Sports-Car Racing

●FIA GT3カーは2013年のFIAルールが基本 開幕戦はGTA独自のBOPによってレースを実施
 現在GT300の主流となっているFIA GT3カーは、2013年のSuperGTに参加する場合、2013年のFIAのルールとBOPを基本とすることが発表された。事実上昨年と基本的に変わらないと考えて良いだろう。しかし、困ったことに、2月に行われる予定だったFIAのBOPテストが、雪によって不可能となってしまった。現在のところ、統一したカタチでFIAのBOPテストが行われる可能性は少ないため、FIA自身、暫定的なBOPルールを公表する方針だ。しかし、このBOPは、幾つかのGT3レースが開催された後発表されると考えられている。今年、2013年バージョンのGT3カーが走るレースシリーズの中で、最も早く開幕するのはSuperGTだ。そこでGTAは、独自のBOPを発表して、岡山で行われる開幕戦を行うことを決定した。

 GTAによる独自のBOPは、4月の第1週に発表されるが、開幕戦の数日前にルールを発表されても、レーシングチームは対応するのが難しいため、開幕戦の約2週間前に開幕戦のBOPを公表されると考えられている。ルールとして承認を得ると4月第1週をなるのだろう。それでも対応出来ないレーシングチームが存在する可能性があるが、現在のところ、唯一の解決策だろう。

 FIA GT3カーは、性能調整を前提として作られている。そのため、元々クルマに備えられているアイテムであっても、使用を認められない場合がある。これらの使用を認められないアイテムの代表は、フロントフェンダー上のスリットだった。LMPカーでは常識的なアイテムだが、もちろん、フロントタイヤハウス内の空気を吸い出して、揚力を現象する効果を持つ。2011年以降メルセデスSLS AMG GT3に取り付けられ、2012年以降アウディR8ウルトラにも設けられていた。ところが、2012年まで、フロントフェンダー上のスリットの使用は認められなかったことから、メルセデスとアウディは、スリット上にカバーを被せていた。
 ところが、2013年のポルシェ997GT3Rのフロントフェンダー上には、カバー無しのスリットが設けられている。

 ポルシェ997GT3Rのフロントフェンダー上のスリットは、元々2013年の難問の1つだったが、FIAのBOPテストが実現出来なかったことから、昨年使用を拒否されたメルセデスとアウディを含めて、今後使用の可否が問われることとなるだろう。
 GTAが暫定的なBOPを設けて開幕戦を行った後、正式なルールの内容が気になる項目の代表だ。

Photo:Sports-Car Racing

●GT300マザーシャシー構想
 以前から検討されていたGT300のマザーシャシー構想は、いよいよ今年実現する見込みだ。マザーシャシー構想は、当初FRとミッドシップの両方のシャシーレイアウトが可能な統一モノコックを使って、それに様々なエンジンとボディを組み合わせようというプランだ。1つのモノコックによって、様々なカタチだけでなく、違うシャシーレイアウトが可能となるが、シャシーだけでなくボディも、ロードカーと違って、被せられるだけの事実上のカバーに過ぎない。つまり、現代版シルエットフォーミュラだ。
 現在のGT300マシンの中で最も違い存在は、aprプリウスだ。aprの場合、10年前に開発したMRS以降、カローラ、そして現在のプリウスも、基本的に同じ前後のフレームとサスペンションを使って、真ん中のフレームだけが、新たに作られている。
 GT300マザーシャシー構想は、真ん中のフレームを共通として、それに組み合わせる前後のフレームを新しく作るプランだ。

 FRとミッドシップに同じモノコックを使うと、FRの場合プロペラシャフトが通るセンタートンネルが必要であるため、実際には、少々辻褄が合わなくなってしまう。センタートンネル付きのモノコックをミッドシップで使うとしても、ミッドシップの場合、モノコックの後ろにエンジンが取り付けられるため、クラッシュした際、エンジンがモノコックを直撃してしまう。モノコックの後方に燃料タンクを設けるのであれば、通常のミッドシップ同様モノコック後方にも充分な剛性を実現しなければならない。
 このように、既にDTMとGT500の統一モノコックで発生したのと同様の問題が存在するため、もしGT300マザーシャシー構想が実現しても、実際にマザーシャシーを使ってGT300マシンを開発するコンストラクターは少ないと考えられていた。
 既にaprプリウスと無限CRZが存在するため、ミッドシップJAF-GT300マシンの開発を望むレーシングチームは、aprか無限から、パーツを購入すれば良い。わざわざ、センタートンネル付きのモノコックを使ってミッドシップカーを作る理由はない。

 ここら辺の現実的な問題が存在するため、GTAはマザーシャシーを使ってFRのJAF-GT300マシンを作ろうとしている。日曜日GTAは、具体的に、トヨタFT86のボディを組み合わせたFRのJAF-GT300マシンを、今年中に完成させと発表した。
 少々疑問を感じた方々が居ると思う。この今年中に完成するマザーシャシー構想1号車は、具体的に、誰が開発と製作資金を負担して作られるのか?現在のところ、明らかとなっていない。GTA自身が、マシンを開発する資金を捻出出来るとは考えられないため、誰かがマシンを購入するか? そうでなければ、資金を負担するスポンサーを見つけなければならない。

Photo:Sports-Car Racing

●2014年のGT500マシンは、3車そろって、8月の鈴鹿1000kmの金曜日に公開シェイクダウン
 2014年にDTMとの提携を控えたGT500については、DTM側より、GT500と同じ2リットルターボエンジンの使用を打診されている。しかし、DTM側も、2012年に新しいルールに移行した後、当初同じマシンの3年間の使用を義務つけたにも関わらず、たった2年で2014年から、GT500と同じモノコックに切り替え、その後エンジンも変更するとなると、メーカー自身は問題なくても、実際にクルマを走らせるレーシングチームの大きな負担が予想される。
 現在DTMは、北アメリカでのシリーズの実現についても計画を進めているため、ITR自身はルールの統一を優先したいようだが、クルマを走らせているレーシングチームの立場となれば、当初ルールで約束した3年間ルールが1年目で破られる等、今後DTMルールが世界展開する上で、大きな問題となりそうな課題が次々と発生する状況となっている。
 GTAにとって、DTMが2リットルターボエンジンを使用するのが、2016年の前か後か、気になる状況だろう。

 当初DTMと同じモノコックを使用するハズだったGT500は、ホンダがミッドシップカーであるため、フロントエンジンでもミッドシップでも可能なモノコックを開発して使用することとなった。どこまで実現するのか?確認出来ないが、2014年にはDTMも同じモノコックを使用する方針だ。メーカー主導のカテゴリーと言うより、現実的には話し合いに参加しているメーカーでなければ参加出来ないカテゴリーであるため、ここら辺が強みのカテゴリーだ。
 このフロントエンジンだけでなくミッドシップでも使用可能なモノコックは5月に完成する。その後各メーカーにデリバリーされるが、8月には3メーカーが揃ってテストを開始する予定だ。現在GTAは、鈴鹿1000kmの週の金曜日(8月15日)に3メーカー揃って公開テストを実施する計画を立てている。と言っても、3つのメーカーは、事前にテストを行うことを求めているし、現在のところGTAは鈴鹿サーキットへ何も連絡していないため、その方針と考えるべきだろう。

 2014年のGT500は、ニッサンが、現在と同じGTRをベースとして、ホンダがNSXをベースとすることだけが判明している。現在のところ、GTAでさえ、トヨタが何をベースとして2014年のGT500マシンを作るのか?判らない状況であるようだ。
 現在のGT500は、完全にGT300に人気の座を奪われた状態であるため、人気を復活させる内容であることが重要だが、残念ながら、この内容だけでは、人気のGT300に太刀打ち出来るとは思えない。

Photo:Sports-Car Racing

●韓国でのSuperGTが実現するために必要なこと
 今年GTAは、5月に韓国のヨンナムでSuperGTのエキシビジョンレースを実施する。当初日本から陸路トランスポーターによって機材を運び込むことを計画していたが、最終的に陸路韓国へ向かうトラックは、メーカーのサポートカーの数台(5から8台)だけと考えられている。ほとんどの機材は、マレーシア遠征同様コンテナによって運ばれる。
 また、ヨンナムは陸の孤島であることから、以前から、ホテルや交通機関等インフラの問題が指摘されていた。そこでSuperGTは、近くの飛行場までチャーター便を2便飛ばして、チーム関係者やメディアを運ぶ一方、ホテルを借り切って、ホテルとサーキットの往復には、チャーターしたバスを運行する。食事については、サーキット内で昼と夜の食事を提供することも決定した。

 既にGT500とGT300のシード権を持つ各15台のチームの参加を発表している。マシンの開発をメーカーが行っているだけでなく、GT500のレーシングチームの大多数は、何らかのカタチで活動にメーカーが関与している。そのため、ヨンナムでのエキシビジョンレースについて、GT500チームの参加について問題はないようだ。しかし、メーカーの関与が少ないGT300の場合、ほとんどのレーシングチームが、韓国遠征を計画してなかったようだ。

 岡山テストの際、韓国遠征についての説明会が開催され、GTAは「シードチームにとって、韓国遠征は、自由参加ではなく、義務である」と宣言して、大多数のGT300チームから反発を受ける事態に陥った。韓国の主催者は、遠征費用の一部を提供するだけで、遠征費用の多くはレーシングチームの負担となるため、韓国遠征を辞退したいレーシングチームは少なくない。しかし、もし、韓国遠征を辞退した場合、何らかのペナルティを課すとGTAは発言している。
 困ったことに、韓国へ持ち込む機材のカルネの申告が2週間後であるため、じっくりと話し合う時間も無い。
 GTAは説明しなかったが、韓国の場合、メディアへビザの取得が義務つけられるため、カルネとビザの点を考慮すると、多くのメディアは、行きたくても、韓国へ行くことは出来ないだろう。ビザ無しで韓国へ行くメディアも現れることだろう。

 現在のところ、GTAとレーシングチームの話し合いは合意に達していない。このような問題が発生しないよう、本来GTエントラント協会が存在しているハズだが、GTエントラント協会から、この点についての説明はなかった。現在GTエントラント協会はGTAと共に沖縄の公道レースを計画しているが、今回の問題を解決出来ない場合、沖縄でも同様の問題が発生する可能性が高い。

 韓国で行われるSuperGTへは、日本のレーシングチームだけでなく、韓国のレーシングチームの参加が望まれる。現在ヒュンダイジェネシスをベースとしたGTマシンがGT300への参加を計画しているが、少々速さが足りないようだ。そこで初音ミクBMWのメンテナンスを請け負っているファインが、マシンの開発に協力しているようだ。しかし、少々時間が足りないかもしれない。

 また、ヨンナムのSuperGTと同じ日に、ニュルブルクリンク24時間レースが開催されているため、レーシングチームによっては、ドライバーが居ないチームが少なくないらしい。そこで、2人ではなく1人のドライバーだけでの参加もGTAは認めた。

Photo:Sports-Car Racing

●セパンとの開催契約締結 タイでのSuperGTシリーズ開催
 韓国へ行ったSuperGTのコンテナは、日本へ戻らず、そのままマレーシアへ送られる。セパンで行われるSuperGTは人気のイベントだが、これまでセパンの主催者であるJPモータースポーツとの間で正式な開催契約は結ばれてなかった。1月末GTAの板東社長自身がマレーシアへ行き、今年の開催契約を締結した。しかし、複数年契約ではなく、2013年の1年だけの契約となった。セパンのSuperGTは、JPモータースポーツが主催者となった後人気のイベントに成長したが、JPモータースポーツとGTAの双方にとっても、他の選択肢があるらしく、最終的に1年契約となった。

 GTAにとって、他の選択肢と考えられるのは、2014年からタイでSuperGTタイシリーズが開催されることだ。2014年春までに新たなサーキットの完成も見込まれるため、GTAは、マレーシアでなくタイでの開催を本気で検討しているようだ。

Photo:Sports-Car Racing

●アジアンルマンシリーズ富士は、SuperGTのポイントも与えられる しかし、同日鈴鹿でスーパー耐久とWTCCが開催
 9月に開催されるアジアンルマンシリーズ富士スピードウェイは、計画通りGT300マシンが参加した場合、SuperGTのポイントも与えられることとなった。通常のSuperGTと違って、優勝しても8ポイントが与えられるだけだが、タイトル争いを行うようなトップチームの総てが、アジアンルマンシリーズ富士へ参加ことだろう。
 GT300チームがアジアンルマンシリーズ富士に参加する場合、2013年のアジアンルマンシリーズ自体はミシュランタイヤのワンメイクだが、SuperGT同様、自身が契約しているタイヤの使用が可能だ。また、GT300チームは、SuperGTのウエイトハンデの搭載義務が無い。しかし、アジアンルマンシリーズで獲得したポイントに応じたウエイトハンデが、残りのシリーズでは課せられる。

 なかなかエントリーが集まらないアジアンルマンシリーズだが、少なくとも富士スピードウェイで行われるレースだけは、たくさんのエントリーで賑わうこととなるだろう。しかし、アジアンルマンシリーズとGTAは、大きな問題に直面することとなった。
 困ったことに、アジアンルマンシリーズ富士と同じ9月22日、鈴鹿サーキットでWTCCとスーパー耐久が開催されることとなってしまった。WTCCとは関係ない話しだが、GT300とスーパー耐久には、名前は違う場合が多いだろうが、事実上同じチームも参加している。片方のシリーズは、黒子としてメンテナンスを請け負っているチームも存在する。多数のドライバーも両方のシリーズに参加している。そのため、当初の目論みと違って、たくさんのレーシングチームが、参加を確定出来ない状況に陥っている。

Photo:Sports-Car Racing

*注:Sports-Car Racing Vol.21においてGT3カーの特集記事が掲載されます。

3月6日
SpecialEdition 2013年のGT300戦力分布図

Photo:Sports-Car Racing

●2013年のGT300は2012年より2秒速い
 1月末ゲイナーチームのメルセデスSLS AMGが岡山で走った時、その場に居合わせた総ての人間が、「大変な事が起こった」と思った。ゲイナーチームの面々も同様だっただろう。なぜなら、非常にコンディションが良かったと言っても、ゲイナーメルセデスは、昨年のGT300より約2秒速いラップタイムを記録したからだ。
 SuperGTの場合、速さに応じて、性能調整を行うことによって、拮抗したレースを実現しているため、早過ぎる場合、何らかのハンデを課せられる可能性がある。1月末の時点で本格的なテストを行っているGT300チームは、他に存在しなかったため、ライバル達と比べて、このラップタイムが本当に速いか?誰にも判らなかった。しかし、無駄な波風を立てる理由はないため、取り敢えず、ラップタイムの公表は取り止めた。
 ちなみに、昨年のSuperGTでもメルセデスSLS AMG GT3は走っている。2012年モデルから2013年モデルへの変更点も僅かであるため、同じクルマでも、トップチームが走らせると、こんなにも速いのか! と誰もが驚いた。

 その後、幾つかのチームが、ニューマシンのテストを開始した。そして先週鈴鹿において、今季初めて、トップチーム同士の合同テストが実現した。鈴鹿にやって来たGT300チームは、無限とARTAの2台のホンダCRZ、Cars TokaiのマクラーレンMP4-12C GT3、NDDPのGTR GT3、そしてゲイナーチームのメルセデスSLS AMG GT3だ。無限とARTAのホンダCRZがJAF-GT300で、マクラーレン、GTR、メルセデスはFIA GT3カーだ。まだ、JAFやGTAだけでなく、FIA自身が今年のレギュレーションを発表していない。そのため、特にFIA GT3カーは、今後発表されるルールと合致しない内容があったかもしれない。しかし、これまで謎に包まれていた、今年のGT300の戦力分布図を、推測出来る絶好の機会となった。
 これらのGT300マシンが、同時に走ったのは2月28日だった。ゲイナーメルセデス、NDDP GTR、マクラーレンは翌3月1日も走っている。残念ながら、1日午後雨が降り出したため、ドライコンディションだった28日、そして1日午前中、大まかながらも、速さを比較することが可能となった。

 テストであるから、絶対的なデータは公表しない。ラップタイムは、ゲイナーメルセデスとマクラーレンが1分58秒台半ば、NDDP GTRが1分59秒台前半、無限CRZが1分59秒台後半、ARTA CRZは2分00秒台半ばだった。
 CRZ勢が少々遅れているように思えるかもしれないが、無限CRZは今回の鈴鹿テストが今年の初テストで、ARTA CRZは、もてぎでシェイクダウンした直後とのことであるから、3台のFIA GT3カーとCRZ勢のラップタイムは大きく変わらないと言えるだろう。
 昨年の鈴鹿1000kmの予選の際GT300のポールポジションは、無限CRZが記録した2分02秒130だ。現在このタイムが鈴鹿のコースレコードだ。つまり、今年のGT300マシンは、既にコースレコードより3秒も速いタイムで走っている。いくら暑い8月と涼しい3月の差があっても、驚異的なレベルアップだ。大メーカーが精力的に開発しているGT500の場合、昨年の8月より約2秒のタイムアップだ。優秀なレーシングチームの努力によって、GT300の進化のスピードが非常に速いことが判る。

Photo:Sports-Car Racing

●速さには大きな違いが!
 2台のCRZはブリヂストン、NDDP GTRとマクラーレンがヨコハマ、ゲイナーメルセデスがダンロップタイヤを履くため、開発の度合いだけでなく、タイヤの違いを考慮すると、2013年のGT300は、JAF-GT300でもFIA GT3でも、比較的速さが整っているように思える。しかし、これは、モニターに提示されるラップタイムについてだけ言える話しだ。
 問題は最高速度に大きな差があることだ。空力セッティング等チームのテスト項目に違いがあるため、絶対的な速度は公表しないが、CRZ勢はバックストレートにおいて238〜244km/h程度、NDDP GTRが242〜245km/h程度、ゲイナーメルセデスが244〜248km/h程度であるのに対して、マクラーレンは余裕で260km/hオーバーの最高速度を記録している。一緒に走行していたGT500マシンの最高速度が255〜262km/h程度であるため、GT500と同じか、GT500を超える最高速度を発揮している。

 ゲイナーメルセデスとマクラーレンは、ほとんど同じ1分58秒台半ばのラップタイムを記録したが、最高速度はマクラーレンの方が12km/h以上も速い。マクラーレンは走り出したばかりであることから、今後セッティングが進んだ場合、特に長いストレートが存在する富士スピードウェイで、マクラーレンはとんでも無い速さを発揮する可能性があるだろう。
 逆にラップタイムは大きく変わらなくても、CRZやGTRは、特に決勝レースで辛い闘いを強いられるかもしれない。

Photo:Sports-Car Racing

●2013年のFIA GT3カーのルールは未発表! BMWはトランスアクスルの採用を延期、ポルシェはワイドボディを使用
 FIAは2月4日から8日にフランスのクレルモンフェランにあるミシュランのテストコースを使って、2013年のGT3カーのBOPテストを行う予定だった。特に2013年の場合、ロードカーから大きく変更したクルマが何台か存在するため、非常に重要なテストと考えられていた。ロードカーから大きく変更したクルマとは、ポルシェ、BMW、カマロ、GTR、ベントレーの5台だ。
 ポルシェは、2年前に997型から991型にモデルチェンジしているが、何と既にロードカーが存在しない997型をベースとして、新たに2013年バージョンの997GT3Rを作ってきた。2013年の997GT3Rは、2012年のGTEバージョンの997GT3RSRのパーツを使って、幅2mのワイドボディを持ち、同様に997GT3RSRのフロントサスペンションを使って、大きなフロントタイヤを履く。
 BMWは、トランスミッションをリアに移動してトランスアクスルとしたZ4 GT3を用意した。
 レイターが作ったカマロは、ロードカーとまったく違うプッシュロッドサスペンションを装備していた。
 ベントレーについては判らない。しかし、元々車重が2.1トンもあるため、大々的な改造が盛り込まれているのだろう。
 これらの4台と比べれば、控えめな内容に思えるが、GTRはボディ、エンジン、そしてギア比を変更している。

 GT3カーとはロードカーをベースとして、ギア比の変更すら許されない、あくまでもロードカーの発展型と判断している方々にとっては、少々違和感を感じる出来事であるかもしれない。
 日本のSuperGTがそうであるように、速さを整えるために行われたプランであるらしいが、当然ながら、これらのクルマは、議論の中心だった。そこでクレルモンフェランのBOPテストの中心と考えられていた。
 残念ながら、2月初めクレルモンフェランは雪に見舞われた。そのため、BOPテストは、ほとんど行うことが出来なかった。

 その結果、FIAは2013年のGT3カーのBOPを決定出来なくなってしまった。日本のSuperGTやドイツのADAC GTマスターズ等ある程度独自にルールを運用しているシリーズも、FIAのGT3カーのBOPを基本としてルールを決めているため、現在、世界中のGT3カーが走るレースシリーズは、2013年のルールを発表出来ない状況に陥っている。
 先週鈴鹿で走ったマクラーレンの異様な速さも、BOPが発表されてないため、当然のことであるかもしれない。

 既にBMWは、トランスアクスルの採用の先送りを発表している。ドイツ独自のルールで行われるVLNシリーズではトランスアクスルカーが走るらしい。現在GT3カーのカスタマーチームに対して、5月20日のニュルブルクリンク24時間が終了した後トランスアクスルカーへのアップデイトパーツをデリバリーすることをアナウンスしている。
 SuperGTは、この時期韓国のヨンナムでエキシビジョンレースが行われ、そのままマレーシアへ遠征する予定となっている。マレーシアから日本へ戻ると、2週間後にSUGOのレースが控えているため、SuperGTでZ4 GT3を走らせるStudieは、韓国へ行くか? 日本でアップデイトするか? 困った課題を突きつけられてしまった。
 第一アップデイトパーツはタダではない。約1,000万円の投資が必要だ。シーズン半ばからしか使えないのであれば、レーシングチームにとっては、例え優秀なアイテムであっても、非常に費用対効果が低い選択となってしまう。

 当初ポルシェは、2012年に売れ残った3台の997GT3Rをアップデイトして販売すると思われていた。しかし、RSRのパーツを活用した大々的な改造であることを宣伝した結果、何と11台の新車の997GT3Rがデリバリーされた。数が合わないが、997GT3Rはカレラカップカーと同じホワイトボディを使うため、カレラカップカーのホワイトボディを使って作られたクルマもあるだろう。
 ポルシェは、FIAのBOPがどうであっても、幅2mの2013年バージョンの997GT3Rの使用計画に変更はないようだ。もちろん、2010年以降の997GT3Rからのアップデイトが可能で、世界中で数十台のアップデイトカーが作られると予想される。
 既に世界中に11台もデリバリーしただけでなく、アップデイトカーの存在を考えると、参加を拒否することは出来ない。
 日本でもタイサンが新車の997GT3Rを購入しただけでなく、ディレクションとKTRがアップデイトカーを走らせる

  現在のところ、世界で最も早く開幕するメジャーなGTシリーズはSuperGTだ。SuperGTに続いてADAC GTマスターズが開幕するが、この2つのGTシリーズは、どのBOPを採用して、レースを行うこととなるのだろうか?
 あるいは、来週岡山で行われるSuperGT公式テストにおいて、BOPを決定するのだろうか? しかし、テストで遅く走れば、実際のレースでは、有利なBOPを獲得出来るかもしれない。それでは、本当の性能調整は不可能だ。
 今年のWECは、レースウィークに入った後、例えば予選での速さによっても性能調整を行う方針だ。現在の状況を考えると、WECの様な、大胆な性能調整を実行する勇気が必要であるかもしれない。

Photo:Sports-Car Racing

*注:Sports-Car Racing Vol.21においてGT3カーの特集記事が掲載されます。

2月21日
SpecialEdition カメさんに勝つため トヨタが編み出した勝利の方程式

Photo:Sports-Car Racing

 2週間前トヨタは2013年バージョンのTS030のシェイクダウンテストを行った。今週ポールリカールで行われるテストは、2013年バージョンのTS030にとって2回目のテストであって、もちろん、開発途上のマシンだ。これから行われる開発によって、様々な部分に手を加えられることとなる。昨年正式発表前にトヨタのLMPカーは盗撮されたこともあって、当初トヨタは、走行テストを公開するのを躊躇った。しかし、中国の旧正月明けの混雑した飛行機によってマルセイユまで駆けつけた日本人を哀れに思ったようで、トヨタは、走行テスト初日に限って、条件付きながら、取材を認めてくれた。
 もちろん、走行テストの取材を交渉したメディアだけでなく、走行テストの取材を申し込んでいる人間が居ることを知らずに、早々とマルセイユを後にしたメディアも少なくない。あくまでも、トヨタの好意によって許された、限定的な取材と判断してもらいたい。
 走行テストの取材を許可して頂いたトヨタとTMGの方々のご好意に対して、感謝の意を表明いたします。

●最良の空力性能のために選ばれたスポーツカーノーズ
 2013年バージョンのTS030は、昨年登場したTS030を進化させたものだ。2012年と違って、最初から電気モーターはリアに設置することが決まったため、フロント部分に電気モーターを設置する場合避けられない、ノーズ床下の形状についても、最良の空力性能を発揮出来る様、慎重に空力開発が行うことが可能となった。この部分はモノコックの一部だ。つまり、2013年バージョンのTS030は、2012年バージョンのTS030とは違う、完全に新しく開発されたモノコックを持っている。

 ノーズ床下の空力開発を自由に行うことが可能となって、新たにモノコックのデザインが行われたことによって、より少ないドラッグで、より大きなダウンフォースを生み出すことが出来るよう、精力的に空力開発は行われている。
 ポールリカールに持ち込まれたTS030は、後に述べる理由によってルマンバージョンだった。そのため、昨年話題となった、本来のリアウイングの両側に“ホイールアーチ”と呼ばれるエクストラリアウイングは設けられていない。
 また、昨年登場したTS030の場合、最初に走ったテストバージョンはスポーツカーノーズだった。その後姿を現したレースバージョンは、ノーズ左右に大きな開口部を設けたフォーミュラノーズだった。一般的にフォーミュラノーズの場合、大きな空気の圧力を取り入れることが可能で、ノーズ床下のディフューザーの効果を高めることが出来るだけでなく、コクピット左右のサイドポンツーン内にレイアウトされるラジエターを効率良く冷やすことも可能となるため、結果として前面投影面積を小さく出来る。

 ところが、クルマの中で最も空気の圧力が大きいノーズ部分に大きな開口部を設けるため、どうしてもドラッグが大きくなってしまう。もし、ノーズ左右に大きな開口部を設けなくても、ノーズの床下で大きな空力性能を発揮出来るのであれば、ノーズ左右の開口部を塞ぎたいと考えるデザイナーは少なくない。TMGのエンジニア達も同様の考えを持っていたようで、2013年バージョンのTS030はスポーツカーノーズとするのを前提として空力開発が行われている。
 今回ポールリカールに持ち込まれたシャシーは、ルマンスペックであったことから、もちろんスポーツカーノーズを備えていた。しかし、今後登場するハイダウンフォーススペックもスポーツカーノーズとなる可能性が高い。
 ここら辺の状況については、現在開発中のマシンであるため、今後の開発次第で、ハイダウンフォーススペックは、スポーツカーノーズでなくフォーミュラノーズとなる可能性もあるだろう。現在のところ、誰にも判らない。

Photo:Sports-Car Racing

●リアウイングエクステンション?
 2009年FIAは、クルマの速さを削減する目的で、リアウイングの幅を1.6mに制限した。そして総てのLMPカーは、リアのダウンフォースの減少に苦しむようになった。リアウイングの失速を覚悟して、リアウイングに大きな迎え角が設けられる様になったことから、1.6mリアウイングを取り付けたLMPカーは非常にナーバスな操縦性に苦しむようになった。その結果、高速でのスピンを防ぐため、2011年にエンジンカウルの上に垂直尾翼の設置が、2012年には4つのホイールアーチ上に開口部の設置が義務付けられた、リアのダウンフォースの確保は、空力開発の重要なテーマとなっている。
 前後の4つのホイールアーチ上に開口部の設置を義務付けたルールの目的は、床下に溜まった空気を吸い出して、クルマが空を飛ぶことを防止することだ。特にリアのホイールアーチの効果は大きいだろう。つまり、この4つのホイールアーチ上に開口部を設けるルールが登場した時から、FIAは、リアウイングの能力を復活させる方法を検討していた様に思える。

 昨年8月に行われたWECシルバーストーンから、TS030のリアウイングの左右に、リアウイングに見えるアイテムが追加されている。シルバーストーンの際WECは、このアイテムを“ホイールアーチ”と公表している。もちろん、その目的は、1.6mのリアウイングの左右に、合法的にリアウイングを追加することだろう。
 “ホイールアーチ”が登場した時から、トヨタの暴挙ではなく、FIAが、リアのダウンフォースを増強するための意図が見え隠れしていた。トヨタとFIAのどちらが編み出した名前であるか?判らないが、そうして“ホイールアーチ”は登場した。

 もちろん、本来のリアウイングの両側にウイング状のアイテムを追加するため、翼端板が4枚となる等、ドラッグの増大も無視出来ない。そのため、2012年に“ホイールアーチ”を使ったのはトヨタだけだった。
 しかし、既にFIAは“ホイールアーチ”合法化に向けて動いており、2013年、疑問を集めた“ホイールアーチ”の名前ではなく、“リアウイングエクステンション”と称して、FIAは正式に1.6mリアウイング左右の追加ウイングを認めた。
 既にアウディの2013年バージョンのR18は“リアウイングエクステンション”を取り付けてテストを行っている。
 間に合うのであれば、HPD勢とレベリオンローラも、“リアウイングエクステンション”を使うことだろう。

Photo:Sports-Car Racing

●エンジンパワーは変わらず  電気モーターの出力も現状維持      なめらかに作用するブレーキ
 TS030には、非常にコンパクトな3.4リットルV8ガソリンNAエンジンが搭載されている。重さは100kg以下で530馬力を発生する非常に優秀なNAガソリンエンジンだ。このスペックだけでも、非常に優秀だ。2012年ホンダは、ルマンまで570馬力、その後600馬力とアナウンスしているため、トヨタの発表値は非常に控えめだ。2013年のTS030の3.4リットルV8エンジンは、最高出力は2013年と同等に抑えて、中間トルクを増強するため排気システムを変更している。もちろん、信頼性の向上も大きなテーマとなっている。

 昨年から現在に至るまでトヨタは、TS030のリアに設置された電気モーターの出力を発表していない。昨年関係者から200馬力とのコメントを得たため、当方はSports-Car Racing Vol.20において150kwと記載している。150kwは、アウディと同じ出力であるため、何らかの話し合いが行われた?と当方は考えていたほどだ。その後200馬力ではなく200kwであるらしいことが判明した。200kwとは約300馬力であるから、アウディの1.5倍で、ハイブリッド作動時のTS030の速さも容易に納得出来る。

 2013年バージョンでも200kwと推測される電気モーターの出力は変わらない。しかし、より確実な作動を求めて、様々な工夫が盛り込まれているようだ。確実な作動の意味は、突然ターボが効く様な、いわゆるドッカンターボではないと言うことらしく、なめらかに電気モーターによるアシストが加わることを目的としているようだ。昨年TS030のテストが始まった時、タイトコーナーから脱出する際、TS030は大きくパワースライドを演じた。2013年のTS030は、この様なアトラクションを演じることなく、素晴らしい加速性能を披露している。

 フロントでもリアでも、一方の車軸に電気モーターを備えて、電気モーターによって駆動と回生を行うハイブリッドカーの場合、ブレーキング時に、フットブレーキのみの車軸と、フットブレーキだけでなく電気モーターによる回生が行われる車軸の間でバランスを取ることが非常に難しい。この問題は、4輪に電気モーターを備える場合であっても変わらない。そのため、昨年登場したTS030は、テストが開始された後、しばらくの間、ブレーキングの際、非常にナーバスな動きを見せていた。場合によっては、どちらか一方のブレーキから白煙を吹き上げるシーンも目撃された。

 ハイブリッドにとって避けられない課題だが、トヨタは良好なブレーキバランスの実現に取り組んで、アケボノブレーキの助けを借りて、自然なフィーリングのブレーキを実現するため、精力的に開発に取り組んだ。そうして、非常にスムーズなブレーキシステムの実現に成功したようだ。
 たった1日しか走行テストを観察することは出来なかったが、2012年の初期のテストの様な白煙を吹き上げるシーンは皆無で、どのコーナーへアプローチする場合でも、非常にスムーズなブレーキングを可能としただけでなく、ターンインの際、ドライバーは子細なブレーキコントロールまで行っているようだ。非常に大きな進歩と言えるだろう。

Photo:Sports-Car Racing

●2013年のTS030は速いのか?    ウサギさんが成功する方程式
 では、2013年のTS030は速いのだろうか? 昨日の走行テストを観察する限り、2013年のTS030は非常に速く走ることが出来る。レースでなくテストであるため、本来とは違う部分もあることから、ラップタイムの公表は行わない。しかし、少なくとも、2013年のTS030は遅いクルマではない。トヨタファンは、昨年10月のWEC富士の感動を再び期待しても良いだろう。

 ところが、昨年から今年にかけて、様々なレギュレーションが変更されている。そのほとんどは、クルマの安全性ではなく、クルマの速さに関わる項目で、トヨタの様なハイブリッドLMP1カーの場合、車重を15kg増やされる。アウディに代表されるディーゼルエンジンカーは、これまで非現実な程巨大なリストリクター径が与えられていたが、ほんの少しだけリストリクターは縮小される。少しだけディーゼルエンジンのパワーは減るが、同時に燃費が向上するため、優劣は判らない。

 当然ながら、トヨタの様なガソリン3.4リットルNAエンジンの方が、燃費は悪く、しかも、リストリクターが小さくなっても、アウディの様なディーゼル3.7リットルターボエンジンより出力は小さいことだろう。そのため、トヨタがアウディに勝つには、出来る限り速く走って、余分な燃料補給の時間を稼ぎ出さなければならない。トヨタは、常に全力で走る真面目なウサギさんであることが、成功の条件だった。
 ところが、2日前WECは、困ったレギュレーションの実施を決定した。

 従来ルマン以外のサーキット行われるWECの場合、何らかの問題が発生した際、2台のセイフティカーが導入された。つまり、トップを走っているトヨタは、セイフティカーが導入された際、最大半周のリードが帳消しになるだけだった。ところが、2日前に決まったルールによると、ルマン以外のサーキットで行われるWECの場合、セイフティカーは1台のみとなった。
 と言うことは、セイフティカーが導入された場合、トップを走っているトヨタは、最大1周のリードが帳消しとなってしまう。レース序盤により速く走って、早い段階でアウディを周回遅れとしなければ、WECの役員が都合の良い時にセイフティカーを導入した場合、あっという間にレースは振り出しに戻されてしまうのだ。ウサギさんのトヨタにとって、大変な問題が発生してしまった。

  たった1日だけ公開されたテスト走行の際、少なくとも我々は、トヨタのトラブルを1度も目撃することはなかった。細かなトラブルや手違いはあったのかもしれないが、走行を中断する程の手違いではなかったのだろう。
 そしてトヨタは、6人のドライバーの名前が記入されたTS030によって、21日から24時間レースを想定した長距離耐久テストを実施する。予定によると33時間程度の連続走行が想定されているようだ。
 たった1台しか存在しない2013年バージョン、しかも、たった2週間前にシェイクダウンテストを行ったクルマによって行われる長距離耐久テストであるから、トラブルが発生し易い部分を判定するためのテストと勘違いしてしまうが、TMGは、多くのスペアパーツをポールリカールへ持ち込んでいない。つまり、昔行われた長距離耐久テストの様に、壊れ易い部分を判定するのでなく、完全にレースを想定したテストを行うようだ。
 ウサギさんであることを義務付けられたトヨタにとって、壊れたら直すのでなく、カメさんを圧倒する速さで走って、しかも、絶対に壊さないで走ることが成功する条件と判断したのだろう。

*注:Sports-Car Racing Vol.21において特集記事が掲載されます。


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