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    ヤマトシジミにおける福島第一原子力発電所事故の影響の論文への
    質問等につきまして

     福島第一原子力発電所事故のヤマトシジミへの影響の論文に関しまして、インターネットまた直接の問い合わせによりさまざまなご意見をいただきました。 非常に多くの方々に興味を持っていただきまことにありがとうございました。寄せられましたいくつかの疑問点、また論文中では記すことができなかった実験の 詳細等につきまして、 以下の通り回答および補足させていただきます。ヤマトシジミにおける放射線影響の研究はまだ始まったばかりにすぎません。 この研究につきましては今後継続して調査していかなければならないと考えております。 この研究が先駆けとなり福島第一原子力発電所事故の生物、生態への影響が今後より詳しくさまざまな形で調査されていく事を望みます。

    この度の震災により被災された多くの方々に心よりお見舞い申し上げます。
    琉球大学 理学部 大瀧研究室 関連研究者一同

  1.    1. 東北地方においてもともと斑紋異常が多いのではないか?
    東北全体において異常率が高いという事実はありません。北限個体の色模様異常に関する論文(1)においても記述されてお りますように、 ヤマトシジミの野外個体において観察された斑紋異常個体の異常発生は、生息域の最北限である青森県の深浦町(福島第一原子力発電所より約370km北方) というごく限られた地域のみで観察された非常に特別な現象です。 同様にヤマトシジミの最北限である青森県八戸市においては異常個体の出現は観察されておりません。これらの北限個体群の斑紋異常につきましても現在研究が 進行中です。
  2.    2. 北限個体の異常と福島個体の異常の違いは何か?
    北限個体群で出現する異常は、これまでの研究により決まった色模様変化が出現することがわかっています(表現型可塑 性)。 これは実験室内でのコールドショック(低温処理)によっても再現され、3種類のパターンに大別出来るものです。福島地方の個体ではコールドショックとは全 く異なった多様な色模様の異常個体が出現しています。 さらにコールドショックでは出現しない翅以外の様々な形態異常も出現しています。
  3.    3. 飼育方法が不十分なため異常が出現したのではないか?
    ヤマトシジミの飼育法について記載した論文(2)において報告してありますように、私たちの飼育システムでは、平常時に おける死亡率(異常率)は10%未満となっています。 従来、この飼育システムでは福島地方の蝶で観察されたような色模様異常、形態異常等の異常個体は出現していません。
  4.    4. 原発北部や西部についてのサンプリングが行われていないのはなぜか?
    当初の実験デザインでは会津や仙台を含む、福島第一原子力発電所を囲むような形で採集を計画しておりました。しかしなが ら、サンプリングの進行状況や天候、また捕獲した母蝶を生きたまま持ち帰る必要性のため、 発表されているようなサンプリング地点、サンプル数を得ることで精一杯であり、そのため白石市が調査の最北地となっております。
  5.    5. 翅サイズの小型化は寒さのためではないか?
    一般的に昆虫の体サイズは外気温の低下に伴って大型化することが知られています。 それに反して福島地方の蝶では翅サイズ(体サイズ)の小型化が観察されています。また、調査の最北地である白石市の個体ではサイズの縮小は観察されていま せん。 さらに翅サイズの縮小は放射線照射実験および内部被爆実験においても観察されており、放射線によりサイズの縮小が生じた可能性が強く疑われます。
  6.    6. 照射実験では照射の間全く世話をしなかったのではないか?
    照射実験では、2日または3日おきにコンテナの清掃、食草の交換、補充を行っています。これは対照群についても同じで、 全く同一のタイミングで行っています。 また、飼育環境に関しましては明期-暗期:16L-8D、温度条件:27±1℃となっています。そのため得られた結果は飼育環境の 違いによるものではありません。
  7.    7. 昆虫は放射線に強いと言われているが?
    一般的に、昆虫は放射線に強いといわれています。それは不妊虫を作る場合に、個体へ短時間に高線量の放射線照射を行う実 験に由来するものです。 今回の実験では幼虫期の非常に若齢の時期からサナギ期まで、長期間にわたる低線量の照射実験を行ったことに加え、放射性物質の混入した食草による影響につ いても検証しました。このような研究事例は他になく、従来の放射線照射実験とは全く実験条件が異なります。さらに、放射線への感受性は種により大きく異な る可能性が考えられます。 今回の実験結果がヤマトシジミに特異的であるのか、また他のチョウや昆虫にも適用されるものであるのか、今後研究していかなければならない部分であると考 えております。

引用論文
(1) Otaki JM, Hiyama A, Iwata M, Kudo T: Phenotypic plasticity in the range-margin population of the lycaenid butterfly Zizeeria maha. BMC Evol Biol 2010, 10:252.
(2) Hiyama A, Iwata M, Otaki JM: Rearing the pale grass blue Zizeeria maha (Lepidoptera, Lycaenidae): Toward the establishment of a lycaenid model system for butterfly physiology and genetics. Entomol Sci 2010, 13:293-302 .

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