アメリカは「対等な日米関係」に興味なし
スタンフォード大学・ダニエル・スナイダー氏に聞く(下)
――安倍首相の歴史観からすると、中国に対し強硬姿勢に出る可能性はありますか?
歴史問題が影響してくる可能性はある。米国は、軍事および安全保障の見地から同盟国を支援する努力は惜しまない。しかし米国は、日本が過去の戦争にまつわる問題を蒸し返そうとする動きを少しでも見せた場合には、日本が引き起こした問題について支援するほどの寛容さは持ち合わせていない。
野田氏は、鳩山氏や菅氏と比べて歴史問題に距離を置いていた。李明博大統領の竹島上陸は極めて挑発的で、かつ不要だった。しかしこれは、何ヵ月も静かな取り組みを続けた上での行動でもあった。李政権は、慰安婦、そしておそらくは、強制労働に従事させられた朝鮮人への補償問題を処理するための、新たなアプローチを打ち出そうとしていたのだ。
李明博政権は、韓国の憲法裁判所から、この問題に対処する新たな枠組みを構築するよう迫られていた。野田氏は当初、これら韓国側の取り組みを拒絶するという対応をした。その結果、日韓関係の雲行きが極めて悪化した。その後、日本の外務省がいくつかの案を提示したが、それは韓国からすると、不十分で遅きに失した対応だった。野田首相と李明博大統領との間には、個人的に強い敵意が存在していた。
米国人は歴史問題を注視している
安倍氏はこうした経緯を理解している。安倍政権は発足当初から、韓国の新政権に接触しようと働きかけているが、これは何らかの形で関係改善を図る必要があると認識していることの現れだ。
だが、トラブルはいとも簡単に発生しうる。たとえば、安倍政権、もしくは、閣僚の誰かが、「慰安婦に関する河野談話を見直したい」との意向を表明する場合などが考えられる。
さらに危険なケースとしては、日本政府が、1995年の村山談話について、その中身を事実上後退させる方向に“踏み出す”ことを目指すような、新しい談話を発表する場合などが考えられる。安倍氏はかつて、そうした発言を行ったこともある。もちろんそれは表現の仕方に負うところも大きいだろうが、そのプロセス自体が曲者であり、日韓関係をいとも容易かつ突然に悪化させかねない。
米国人はこの歴史問題を注意深く観察しており、安倍首相に対してかなりの警告を発している。米国政府内の人たちは皆、安倍首相に現実的な対応を期待している。これまで安倍首相は、現実的な政策よりもイデオロギーを優先するような見解を繰り返し述べてきたが、米国はそんな安倍氏を期待していない。