(cache) NHK講座‐第6回
NHK講座第六回
NHK講師宮本 聖二先生 講義サマリー

   NHK講座6回目のテーマは、『未来を伝えるために“戦争アーカイブス”の取り組み』。NHKが所有する数多くの番組や情報を管理するアーカイブスが、未来へ向けた情報発信の在り方を提示し続けている。今回は戦争証言をキーワードに、ライツ・アーカイブスセンター(現知財展開センター)に所属して戦争証言プロジェクトのCP(チーフ・プロデューサー)を務めている宮本聖二さんにご登壇いただいた。 

    宮本さんは、1981年にアナウンサーとしてNHKに入局し、初任地の鹿児島放送局、鳥取放送局を経て、沖縄放送局時代にディレクターへと転身。1994年には、報道局にて「ニュース11」のデスク、2000年には現在も放送中の「おはよう日本」のCPも務めた。2008年より現職に就き、2011年に発生した東日本大震災以降は、東日本大震災証言プロジェクトのCPも兼任している。 

    今回の講義では、NHKが誇る数多くの番組や情報を所有・保管する「知財展開センター」の取り組みの一つである、デジタルアーカイブスサービスについてご説明いただいた。 

    NHKでは過去に制作された映像や音声のコンテンツを、体系的に保存し、活用・公開している。その保管のための施設が埼玉県川口市にある「NHKアーカイブス」。ここには、1981年以降の、約545万項目のニュースと78万もの番組が保管されている。この保存されたコンテンツは、「NHKアーカイブス」などの番組で放送される他、番組制作者がその中から必要な映像を取り寄せて、新しい番組を作るために役立てている。また、全国のNHKの放送局などに「番組公開ライブラリー」という、アーカイブスが保管する番組およそ7000本を無料で視聴できる端末がある。さらに公開の一環として、過去の番組から教育に活用できるものを選んで学校に提供する「ティーチャーズライブラリー」、研究者がコンテンツを閲覧して研究に生かす「学術利用」も行われている。いまは、「アーカイブス」は、単なる「コンテンツの貯蔵庫」とではなく、「知財の提供源」として、活用・公開を進められている。 

    そして、宮本さんが大きく関わっているデジタルアーカイブスサービスも、このNHKアーカイブスの公開の取り組みの一環だ。 

    今回は、宮本さんがCP(編集責任者)を務めている戦争証言アーカイブスについて大きく取り上げられた。4年前に「戦争証言プロジェクト」が発足、「証言記録 兵士たちの戦争」と「市民たちの戦争」という二つの番組を制作しながら、その過程で収集した戦争体験者のインタビューから、番組放送後に改めてインターネット用の「証言動画」を作成してサイトで公開しようというもの。番組は、NHK全国の地域放送局などの若手の番組制作者が、兵士として戦争を体験した人、一般市民として戦争を体験した人たちに取材し、制作する。「戦争証言アーカイブス」は、番組制作のために収集した証言を未放送の部分も含めて体系的に保管し、関連コンテンツとともに、インターネットを通じて公開するという試みで、誰もがいつでも視聴できる。 

    このアーカイブスは、戦争証言が「社会の共有財産」となることをねらいとし、2007年にスタートしてから5年の月日が経った。長い時間を経て、戦争を体験した人々の証言がますます貴重なものとなる今において、重要度の高いメディアになりつつある。しかし批判を受けたこともあるという。それは「なぜ、もっと早くプロジェクトを始動させなかったのか?記憶が薄れないうちから戦争証言を集めることができたのではないか?」というものだ。宮本さんは、人々が戦争体験を語り始めるには時間が必要だったという。 

    戦争を生き残った人々は、同じ部隊で従軍した人々を中心に「戦友会」などを組織して、戦死者の慰霊や遺骨収集などに取り組んできた。多くの場合、戦友会に所属した人々は、戦時中の上下関係が存在することに加えて、当時のことはあまりにも悲惨な経験であるため、口にすることを避ける傾向が強くあったようだ。しかし、歳月が経過したことで、戦友会の構成員も減少、多くの元兵士の人々は高齢になってきたこともあり、「体験について口を閉ざしたまま、寿命をまっとうしていいのだろうか?」という疑問を抱き始めるようになったそうだ。こうして戦後60年以上たった現在、人々が体験を赤裸々に語り始めることになったのだという。 そこには、現地の人々への虐待や略奪、補給の拙さなどから発生した人肉食や指揮命令系統の崩壊で起こった同僚や上官の殺人と言った過酷な体験が語られていた。 

    また、一人のインタビューを収録するのに費やす時間は平均して2~3時間。長い時は6時間にも及ぶ。その内容は番組の構成上必要な話にとどまらず、小さい頃の暮らしぶりから、学校時代、入営・入団したころから戦場での体験、あるいは捕虜体験、さらに戦後の暮らしに及ぶ。これらすべてが、貴重な個人による戦争の時代のオーラルヒストリーとなる。番組では、インタビューのうち番組に最も必要とされる部分が使用され、長時間収録したインタビューのうち長い人でも数分しか番組では紹介できない。しかし、サイトでは時間に関係なく、貴重な話だと思われる部分はすべて紹介できる。また、サイトでは、地図や年表、組織やキーワードといったインターフェースで検索もでき、利用者は自分の様々な関心に応じて、コンテンツを次々に見て行くことがき、戦争への理解をいっそう深めることができる。結果、「戦争体験者の証言を聴いていると戦前、戦中、戦後といずれの時代の証言においても、バックボーンのどこかに戦争のことが必ず含まれていることがわかる」と宮本さんは述べていた。 

    講義の終盤に宮本さんは、戦争体験を伝えること、戦争証言を残すことの意味について、次のように述べた。「戦争体験を記録するという事は、失われていこうとする「記憶」を留めるということです。そして、こうしたデジタル技術を使えば、単に文章で残すのではなくて、表情として、声として、言葉として残すことができる。それを次の世代が記憶することによって、語ってくださった体験者の方そのものが、歴史につながっていくことができるわけです。語ることによってつながっていく。今度は、次の世代、あるいは、私とか皆さんの世代が聴くことによって、今度は私たちがその歴史というものにつながっていくんじゃないかというふうに思います」。 

    最後にデジタルアーカイブスサービスの今後の展開をお話しいただいた。現在、今回の講義のメイントピックであった『戦争証言アーカイブス』の他に、デジタルアーカイブスサービスとして『東日本大震災アーカイブス』というサイトも運営している。これは、東日本大震災の被災者の体験談や、関連するニュース映像を地図上で視聴できるというサイトである。宮本さんは次のように述べて、講義を締めくくった。「地域の防災であるとか、あるいは学校での防災教育に使っていただこうというふうに思っています。学校や地域で歴史や事実を学んでほしいと思っています。NHKというのは、皆さんに受信料をお預かりして番組を作るわけですから、放送でそれを還元していくということを続けてきました。しかし、放送を通してだけでなくて、“息の長い貢献”がインターネットを利用することによってできるというふうに思っていますし、これからもしたいと思っています」。

NHKアーカイブス公式ツイッター

講師:宮本 聖二先生
1981年、アナウンサーとして入局。鹿児島局、鳥取局を経て沖縄局でディレクターに転身。沖縄戦、沖縄現代史、米軍基地関連の番組制作に広く携わる。2008年から戦争証言プロジェクトチーフプロデューサーを務める。そのほかの代表作は「ネクスト~世界のテレビ番組~」(2006~2008)など。

ピックアップ動画

第6回講座動画

宮本 聖二先生





宮本 聖二先生





宮本 聖二先生

 
D-PLUSレポート

私自身、高校生の時に授業の一環で祖父母に戦争体験について聴く機会があった。その時には、高校生ながらに、今自分たちが生きる世界とは、全くもって異次元の世界であり、異次元の常識がそこにはあるように感じたのを覚えている。そのような感覚を今回の講義を通しても感じていた。戦争証言アーカイブスのようなサービスがあって、私たち自身も初めて身内の人以外から幅の広い証言や体験を知ることができる。これは、証言者にも同様で、このようなサービスがあって、初めて発信しようという心持ちになる。この関係性が過去の歴史とまだ見ぬ未来をつなぎ合わせていると感じる講義だった。(山田裕規)

受講生インタビュー

産業社会学部 3回生

産業社会学部 3回生 
白井 寛人さん

  過去の出来事においての話をインターネットという新しい技術に乗せて、発信するという仕組みづくりが非常に興味深いなと感じました。戦争に限らず、様々なトピックから、その時代を生きた人の声を聞いてみたいと思いました。

映像学部 1回生

映像学部 1回生
斎野 孝さん

  戦争を知らない若い世代にとって、今回授業で取り上げたようなコンテンツは次世代にとって非常に重要であると感じました。自分は戦争のことをそれなりに知っているつもりでしたが、コンテンツを通じて初めて知った事実も多くありました。

 

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