【岩渕】
くらし☆解説、きょうのテーマは、「身近な大問題 アスベスト被害に関心を」です。
後藤千恵解説委員です。

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アスベスト・・。以前、大きな問題になって、怖いなと思った記憶はあるんですが、今もまだ、問題が続いているんですか? 

【後藤】
続いているというよりも、この問題、これからますます、大きくなってくるとみられているんです。こちらで説明します。
 
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アスベストは繊維状の天然の鉱石で、石綿(いしわた、せきめん)とも呼ばれています。
耐火性、断熱性、絶縁性、防音性など優れた特性をたくさん持っています。しかも、繊維状なので加工もしやすい、値段も比較的安いということで、3000もの製品に使われてきました。
 
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その8割以上はビルや住宅の建材として使われています。たとえば、こうした屋根のスレート材とか、鉄鋼への吹き付け材、タイルなどの床材、配管の保温材などとして使われてきました。
 
【岩渕】
このアスベストがこれからさらに大きな問題になるというのはどうしてなんですか?

【後藤】
理由は二つあります。

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一つは、健康被害がどんどん広がると見られていること、そしてアスベストの新たな飛散の恐れがあることです。
 
【岩渕】
はじめの健康被害の広がり・・、これは、どういうことなんでしょう?

アスベストを含んだ建材は、そこにあるだけでは悪さはしないんですが、それを切ったり、砕いたりするときに、非常に細かい粉じんとなって飛び散ります。
 
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それを吸い込みますと、その粉じんが長い間、身体にとどまって、肺がんや中皮腫と呼ばれる悪性のがんなどを引き起こすことがあるんです。中皮腫の原因の大半はアスベストだとされています。その特徴は、発症するまでの潜伏期間が長いことです。肺がんの場合は15年から40年、中皮腫は20年から50年といわれています。
中皮腫の場合、作業現場などで大量の粉じんを吸いこまなくても、夫の作業服を洗濯した家族、アスベストを扱っている工場の近くに住む人、そういった人たちからも発症する人が出ています。中皮腫は発症から5年後の生存率が1割にも満たない予後の悪い病気で、患者さんは大変、苦しい闘病を強いられます。呼吸ができず、息苦しくなって、「水の中に顔をつけられているような感じだ」と話す患者さんもいました。
 
【岩渕】
これまでに、どのくらいの方が被害を受けているんでしょうか?

【後藤】
 
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こちらは中皮腫で亡くなった方の数を示したグラフです。去年は1258人、ここ数年、毎年1000人を超える方が亡くなっています。平成7年からこれまでに亡くなった人は全国でおよそ1万5千人に上っています。
 
【岩渕】 すごい数ですね。

【後藤】
問題は今後亡くなる人がぐんと増えてくると見込まれていることです。専門家の中には、2000年から2040年までにおよそ10万人が中皮腫で死亡するという試算をしている人もいます。
 
【岩渕】どうしてそんなに増えるんでしょうか?

【後藤】
理由は、使われてきたアスベストの多さ、そして発症するまでの潜伏期間の長さです。
 
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こちらはアスベストの輸入量を示したグラフです。高度経済成長期、そしてバブル経済の頃、年間20万トンから30万トンが使われてきました。平成16年に製造・販売が原則禁止されるまでの50年あまりの間に使われた量は全国でおよそ1000万トンに上ります。中皮腫や肺がんが発症するまでの潜伏期間がほぼ40年と長いことを考えますと、今後、この年代、この年代、それぞれの年代にアスベストを吸い込んだ人たちがこれから次々と発症し始めるという心配が高まっているんです。
 
【岩渕】
怖くなってきます。これほど被害が広がる前に何とかできなかったのでしょうか?

【後藤】
まさにそこが今、問われています。実はきのう、首都圏で建設現場で働いていた人など330人あまりが起こした裁判の判決が出されまして、東京地方裁判所は国の対策が不十分だったことを認めて、10億円あまりの賠償を命じる判決を言い渡しました。
 
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判決は「遅くとも昭和56年以降は、作業員の防塵マスクの着用を、罰則をつけて徹底させる必要があった」としています。命に関わる問題をないがしろにしてきた国の責任、厳しく問われるべきだと思います。
 
【岩渕】
もう一つの問題。「新たな飛散の広がり」というのはどういうことなのでしょう?

【後藤】
 
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実は、これまでに日本中で使われ続けた1000万トンにも上るアスベスト。その多くがまだビルや住宅の中に残っています。そして、あと10年もすれば、高度経済成長期に作られた建物が老朽化して解体のピークがやってくる。その際にアスベストの粉じんが飛び散って新たな被害を広げることが心配されているんです。

大地震で多くの建物が壊れるという事態もありえます。実は、17年前の阪神・淡路大震災の際に、がれきの撤去作業にあたった人の中で、アスベストを吸い込んで中皮腫を発症した人も出ています。中にはがれき撤去のアルバイトを2カ月しただけで発症した人もいました。
 
【岩渕】
解体するとき、アスベストはかなり、飛び散るものなんですか?

【後藤】
<VTR>
こちらは10年ほどの前の解体作業の映像なんですが、アスベストは髪の毛の5千分の1ほどのごく細かい繊維なんです。建物を解体するとき、目には見えない細かい粉じんとなって飛び散りますので、何も対策を取っていないと気づかないうちに吸い込んでしまう恐れがあります。
 
【岩渕】
何か、対策は取られているのでしょうか?

【後藤】
 
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環境省は、ビルの解体などに伴うアスベストの飛散を防ぐための120ページにも及ぶマニュアルを作って業者に対策を求めてはいます。ただ、厳しい罰則がないこともあって、徹底されていないのが現状なんです。実際に東日本大震災の被災地では、解体工事の現場でアスベストが検出される例が相次いでいて、去年11月には、仙台市中心部にあるビルの解体現場で、十分な対策を取らずに作業が行われ、基準の13倍から36倍のアスベストが検出される事態も起きています。
 
【岩渕】
何かいい方法はあるのでしょうか?

【後藤】
 
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環境省は、対策の強化に乗り出そうとしています。解体工事の際の対策、今は解体業者任せになっているんですが、法律を改正して、今後、アスベスト対策が必要なビルなど解体する場合には、工事の発注者側にも、責任を負ってもらう方針です。解体の前に自治体に届け出ることを罰則付きで義務づけたり、アスベストの濃度測定を業者に指示することを求めたりできないか、検討しています。
 
【岩渕】
十分な対策を取らずに解体工事をすれば、私たちが加害者になってしまうかもしれないんですね。

【後藤】
はい。そうなってはいけませんし、たとえば、地震に備えた防災用品の中に防じんマスクも準備しておくとか、解体工事の現場には不用意に近づかないとか、自分でアスベストから身を守る心がけも必要になってくると思います。

【岩渕】
アスベストはまさに、私たちに身近な大問題。私たち一人一人が関心を持ち続けなければならないんですね。