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ノートで「体験したこと」がおもしろくなる

 なぜ、ノートに記録することで、旅や散歩がより楽しめるようになるのか。その理由のひとつは、「ちゃんと残るから」です。記録を読み返せば、時間が経って印象が薄れても、外でした体験をはっきりとした手触りをもって感じられる。つまり、よりしっかり心に刻んでおくことができるわけです。

 「アレがなんとなくよかった」と、ぼんやりした印象を振り返るより、見聞きした内容やディテールをはっきり思い出せるほうが楽しい。これは映画でも本でも同じでしょう。だから、愛読書は座右に置いておきたくなるわけです。

 感動したことをずっと記憶していられればいいのですが、ごぞんじの通り、私たちの記憶というヤツは、まったく当てになりません。昨日の晩ごはんは思い出せても、一昨日の晩ごはんとなると思い出せない。一方で、怖かったことや恥をかいたことなど、忘れたいことは、ずっと覚えていたりします。特別な体験であっても案外、忘れるものです。

 海外に行ったことが一度や二度のうちは、記録しなくても、新鮮な旅の記憶として、ありありと残ることもあります。しかし、何年も経ったり、同じ国に行ったり、また同じ季節に似たような体験をしたりするうちに、「あの国は……あれ、何年前だったっけ?」「誰と行ったんだっけ?」ということになってしまう。

 仕事でも「大事な用件をコロッと忘れていた」ということはないでしょうか。取引先を訪問して、肝心の提案書を出さずに帰ってきたとか。このように、「絶対に覚えておかなくちゃ」ということでも人はあっさり忘れる。「こんな貴重な体験を忘れるものか」と思ったとしても、やはり「いずれ忘れてしまう」と考えておくべきでしょう。大切な体験を、記憶には任せておけない。だから「記録」するわけです。

 もちろん、体験したことを何もかも記憶しておくことはできませんが、写真や文章をほんの少しでも残しておけば、当時の印象や感覚をかなり呼び戻すことができる。これは、僕が新聞記者として働いていたときに学んだことです。メモの取れない立ち話での情報交換であっても、終わってからキーワードだけでも残しておけば、数日後でもそのときの会話を再現できるのです。

 また「記録」すると、頭にも残りやすくなります。きっと体験を思い出して文章化したり、写真を選んだり、またそれらを見返したりすることを通じて、同じ体験を何度も反芻することになるからでしょう。体験したことを「記録」すれば、忘れにくくなる。忘れてしまっても、記録が残っていれば、情報を呼び戻せる。だから、体験がキラリと光る思い出として残るわけです。

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奥野宣之

1981年大阪府生まれ。同志社大学文学部でジャーナリズムを専攻後、雑誌や新聞の記者を経て、独自の情報整理術を公開した『情報は1冊のノートにまとめなさい』で著作デビュー。同書はシリーズ累計50万部以上のベストセラーになり、ノート本ブームをつくり出した。趣味は(できればクルマのいない静かな道をのんびりと)歩き回ること。近所の散歩に加えて、関西の史跡や古墳めぐり、出張ついでの日本各地の博物館、人物記念館めぐりを続けている。たまに野鳥観察や山歩き、鉄道旅行、街での写真撮影、食べ歩きなどもする。ノートに人生を記録する「ライフログノート」の提唱者としても注目を集め、NHK「クローズアップ現代」やTBS「はなまるマーケット」など、さまざまなメディアでも紹介されている。

 


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