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色んなものをパクってますが、許して下さい。
case『起』
『case』                      脚本 阿傘 唯

Case1

 ある日の事、僕は何ともなしに、校内をぶらついていた。
もうほとんどの生徒は下校し、あたりには人影はまばらだ。部活にも結局どこにも所属することなく、(でもすこし漫画研究会には興味があったが)ただ毎日を何となく過ごしていた。妹の美樹も、どこの部活にも入らなかったようだ。
『お兄ちゃんだってどこもはいってないじゃん。』と、いつも僕のことをけしかけ、都合の悪い事は人のせいにする。昔から変わらず、わがままな娘だよな…。 そんなことを考えながら、ふと窓のそとを眺めていた。
「あれ?まだ校内に残っている子がいたんだ?」
ふと呼ばれ、ふりかえってみると、先月別の学校から移ってきた、確か名前は…。
「あ、ふふ。やっぱりまだ名前が浸透してないのね。やっぱり覚えにくいのかしら。」
僕が名前を思い出せずにいる事が伝わったらしく、先生が先回りした。
「私の名前は、月野日彩音つきのひあやね。あんまり聞かない名字でしょう。」
そういって、ふふ、と笑い、先生は自己紹介した。この笑い方は癖らしい。
「ああ、そういえばそんな名前でしたね。先生も、お帰りですか?」
「ううん。まだこの学校に赴任したばかりだし、やることも多くて…。知らないかもしれないけど、学校の先生って意外と遅くまで仕事ってあるものなのよ?」
「へえ、そうなんですか。楽そうな仕事に見えたけど、そうでもないんですね。」
僕はだいぶ偉そうなことをいいながら、話を切り上げ、階段を降りようとする。
「あ、ちょっとまって。あなた2組の阿傘さん見なかった?」
唐突に他人の名前を出され、少し面喰ったが、阿傘、阿傘…。誰だっけ?
「ほら、あなた同じクラスでしょ?阿傘七海あがさなつみさん。先週クラスに転入してきた女の子。」
ああ、確かにそんな子がうちのクラスに転入してきたな。こんな時期にめずらしいとは思ったけど。
「あの子に渡したい書類があったんだけど、さっき渡しそびれちゃってね。まだすぐ近くにいるんだと思うんだけど…。」
少しドジっ子な感じのする先生だとは思ったがそのまんまドジっ子ですか。僕が黙っていると、
「お願い。すぐ近くにまだいると思うから、この書類を阿傘さんに渡してくれない?先生これから夕方の職員会議なのよ。」
やっぱりこの展開か…。
「いいですよ。これ、渡すだけでいいんですよね。」
「あら何、それ以外にも何かしようと考えていたの?」
「考えてません。確認しただけです。」
ふふ、と笑って少し意地悪を言ってみた小悪魔的な顔をしている。こんな事やってるから教師は教育委員会からバッシングを受けるんじゃないのか?僕は少し不満げな顔をしながらも「じゃあ、すぐ渡して僕も帰ります。」と言い、階段をおりた。
今日は美樹の奴に、帰りに「とらのあな」で声優の神谷なんたらのアルバムを買ってきてと頼まれてたんだっけ…。自分で買えばいいのに、「いいじゃん。帰り道なんだから。」なんて、押し付けられてしまって…。兄としての威厳なんてまるっきりなしだな…。 ともあれ、ええと、阿傘七海?だっけか。相変わらず名前を覚えるのは苦手だな…。ともかくその子を探して、書類を渡して、それからとらのあなに行って、神谷なんたらのCDを、と…。頭の中で、これからの事を考えながら階段を一番下まで降りると、急にめまいに襲われた。
「っと…。またいつものこれか…。あいかわらず慣れるってことは無いよな…。」
10秒ほどその場に立ち尽くし、めまいが過ぎ去るのを待つ。いつからだったか…。このめまいが当たり前のようになったのは…。そんな事を考えているうちに、めまいから回復し、すぐに下駄箱へ向かう。
「あれ、そういえば、まだ校内にいるのかも知れないよな…。」
僕は「阿傘七海」と書いてある下駄箱を探した。まだ校内にいるようならば、靴があるはずだ。
「あれ?靴があるってことは、まだ校内のどこかにいるってことか。」
慌てて外に出ていかなくて良かったが、しかしどこに寄り道しているのだろう。一度先生の所に戻ったほうが良いかな…。いやでも、職員会議があるって言ってたから、まずいか…。そんな事を考えていたら、急に携帯が鳴りだした。
「っと…。誰だ?忙しい時に…。」
げ、美樹だ。出来れば出たくないが、そうも言っていられない。後が怖いから。「はい、僕だけど。」
「あ、お兄ちゃん?今日頼んだ事忘れてないでしょうね?」
「ああ、神谷なんたらのCDだろ?忘れてないよ。ちょっと先生から用事頼まれてて、それが終わったらとらのあなに買いにいくから。」
「神谷なんたらじゃなくて、『神谷浩史様』でしょ!?ほんっとにいつも人さまの名前覚えられないんだから、馬鹿兄貴!しかも神谷様の名前を忘れるなんてどういうつもり!?あの、洗練された淫靡なまでの淫賄な声の良さが、お兄ちゃんには分からないわけ?」
『淫靡』やら『淫賄』という漢字が読めないんだが…。そもそもこんな単語って存在するのか?
「ねえ、聞いてるの?お兄ちゃん?」
「へーへー。聞いていますよ、お嬢様。」
「ならよろしい。じゃあ、その先生の用事ってのが終わったら、すぐに神谷様のCD買いにいってよね?やん、もう、早く神谷様の声に包まれたい♡」
なんだか聞きたくもないような声色になっている妹の電話を切り、あたりを見回してみる。
「うーん。どこから探すか…。探してるうちに、入れ違いになって学校から出られても困るし…。」
どう探そうか思案しているうちに、日が暮れそうだ。
「しょうがない、あんまりやりたくないけど…。」
僕はその場で目を閉じ、頭の中である『記号』とある『風景』を思い浮かべ、深く瞑想した。いつからか、そういえば、あのめまいが始まった頃とおなじくらいか、僕には普通の人には無い、いわゆる『特殊能力』みたいなものが備わっていた。もちろん、誰も僕以外そのことは知らないし、これからも誰にも伝えるつもりはない。どうせ伝えたところで変人扱いされるだけだろうし、そこまで便利に、いつでも使える能力といったわけでもない。要するに『ムラ』があるのだ。発揮したいときに、発揮できない『特殊能力』なんて、当然誰も信じないだろう。そんなことは、この能力に気がついた子供時代から、とっくに分かっていた事だった。
「ん…。今日はうまくいきそうかな…。」
頭のなかで『記号』と『風景』がうまくイメージ出来てきている。こういうときは、調子が良い時が多い。まあ、うまくいかないときもあるけど。
徐々に、『記号』と『風景』がはっきりとイメージされてきて、だんだんとこのふたつがひとつに折り重なってゆく。
「ん…と…。これは…。」
ひとつに重なった『それ』はだんだんとある『形』に代わってゆく。
「これは…。ん…?トイレットペーパー…?」
不意に目の前の空間がはじけ、トイレットペーパーが転がりだす。
「はあ…。やっぱりか…。」
この能力の欠点は、『記号』と『風景』がうまく合致し、イメージした対象になんらかの関わりのある『形』としてイメージが出来るまでは良いのだが、そのあとに実際にイメージした『形』が具現化してしまう点にある。今まで成功した時も、必ず、「どんなものでも」具現化してしまう、というかなりデンジャラスな能力なのである。だからこそ、あまり使いたくない。なぜなら、イメージされる『形』(=具現化される物)は自分で決めるのではなく「対象者の思念」により決まるからだ。この答えには、ずいぶん前から自分なりに模索し、気が付いていた。だからこそ「あまり使いたくない能力」なのだ。しかも、毎回必ず使えるわけではないし…。ようするに「ポンコツ能力」だと自分で名付けている。
「でも、トイレットペーパーということは…。」
僕は具現化してしまい、床に転がっているトイレットペーパーを拾い上げながら、一番近くの女子トイレを探すことにした。この学校では1階には女子トイレ、二階は男子トイレ、三階は職員用トイレ(男女別)といったように分けられている、めずらしい学校だ。なんでも数十年前、職員による女子トイレの盗撮で、逮捕者が出、新聞マスコミにも大きく取り上げられた事があるらしい。それ以降、改修工事を経て、今の形となったわけだ。
「ここか…。でも、どうしよう…。」
1階にしか無い、女子トイレの前まで来たはよいが、そこからどうしてよいか分からず、立ち尽くしていたところ…。
「んもう!何でトイレットペーパーがないのよ!校務員さんは何をやっているのかしら!女子トイレに予備まで置いてないなんて!あぁ、もうどうしよう!」
予想どうり、女子トイレにいたようだが、やはり紙が無いのか…。この能力は「対象者の思念」により形が決まる。予想はしていたが、はたしてどうすべきか…。
「あれ?そこに誰かいる?」
やば、気配を気付かれた!
「すいません!どなたか知りませんけど、トイレットペーパーが切れてしまって、持ってきてもらえませんか?」
女子トイレの個室から、大きな声でトイレットペーパーを求める女子。そこにたまたま通りかかった、トイレットペーパーを持ち歩いていたクラスメイトの男子。こんなシチュエーションがはたしてあるのだろうか。
「すいません!聞こえてますか?」
「あ、はい!たまたまトイレットペーパーを持ってるんですが…。」
「え?あ、そうなんですか…。すいません、それ持ってきてもらえます?」「え?あ、えーと。中に入るんですか?」
「すいません!今外に取りに行ける状態ではなくて…。その、中に入って上から投げてくれませんか?」
うーん。脳裏に数十年前の事件を苦虫をすり潰したような顔で話していた教頭先生の顔が思い浮かんだが、今は非常時らしい。もし見付かったとしても、この子がきっとフォローしてくれるだろう。
「わ、わかりました!いまから入って、投げますよ?」
満を持して女子トイレに入り、声のする個室に向かう。うわ、女子のトイレってこうなってたんだ…。当然初めて見るけど、女子用に改修工事してあるだけあって、結構きれいな作りになってるんだな…。なんか男子トイレとは大違いな気が…。 あんまり見て回るものではないので、目的の声のする個室の前に行く。
「いいですか?投げますよ?」
声のする個室に向かいトイレットペーパーを投げる。
「はい!えっ、あ、きゃ!」
なんだか取り損ねたような声がしたが、気にせず忍者のようにすばやく女子トイレから出る。
ふう…。誰にも見られて無いよな…。
 程なくしてトイレが流される音が聞こえ、女子トイレから黒髪のさらさらヘアーの女の子が出てきた。
「あなたですか?紙持ってきてくれた人。」
「あ、はい。」
「すごく助かりました。一時はどうなる事かと…。」
丁寧な敬語で話し出した女の子…。たしかに先週転校してきた子だ。
「あの、どうかなされましたか?」
「あ、その、これ…。月野日先生から渡してくれって頼まれた書類…。」
「あ!なんかもらい忘れてたと思ったけど、これの事ですね、きっと。良かった~。これで二度すっきりしちゃいました。」
何と合わせて二度なのかあえて聞かないとして。
「あ、わざわざこれを届けにきてくれたんですか?」
「うん。先生はこれから職員会議だっていうから、代わりにね。」
「あ、そうなんですか。わざわざありがとうございます。」
黒髪のさらさらヘアーをたなびかせて、少し大げさに頭を下げる女の子。美樹もこのくらい礼儀をわきまえてくれればいいのに…。
「あの、少しいいですか?」
「ん?何?」
「どうしてトイレットペーパーを持ち歩いてたんですか?ポケットティッシュじゃなくて。しかも新品のものを裸で一個だけ。」
「う…。えーと、それは…。」
なんか妙に鋭い子だな…。
「しかも、書類を届けるつもりだったなんて。まるで私がトイレットペーパーが無くて困っていたのを初めから知っていたみたいに。」
「う…。」
まずい…。なんか疑われてる…。
「もしかして…。のぞき?」
「断じて違います!」
「じゃあ、ストーカーとか。」
「それも違います!」
「私が困っているのを立ち聞きして紙を用意しあたかも偶然を装って登場し一目ぼれさせてしまおう作戦、とか?」
「よく噛まずに言えました!それも違う!」
「じゃあなに?超能力者とでもいうの?」
「え!あっ、う…。」
ついどもってしまった…。
「じゃあ、その超能力者さんは、どうやって私が困っているのを察知したの?私がトイレ中なのを透視したとか?」
「結局のぞきか!」
あれ?この子、超能力を否定しないのか?ていうか透視能力なんて便利なものがあったら、あんな事にも、こんな事にも使えるではないか!あー、なんてうらやましい…。じゃなくて、けしからん能力だ!
「あなた、さっきからなにぶつぶつ言っているの?さては私の裸でも想像していたでしょう。」
「その飛躍的な思考に心から敬意を表します!」
「うん。ぜひ最敬礼でお願い。」
べつに敬礼するなんて一言も言っていないが…。というかすでに、敬語ではなくなってるし。なんなんだこいつは。あまり関わりたくないぞ。美樹といい線いってるんじゃないのか?
「冗談はこのくらいにしておいて、まあいいわ。書類ありがとうね。」
阿傘は踵を返し、帰ろうとする。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったわね。わたしは阿傘七海。あなたは?」
「君の名前なら、さっき先生から聞いた。僕は名前が無いんだ。」
「名前が無い?それどういう意味?」
「意味も何も、そのままの意味だよ。名前が無いんだ。」
「?良く分からないけど、この学校って名前ない人とか平気で在籍できるのね。」
そう。僕には名前が無い。この学校には僕しかいないけど、でも今の日本ではそこまで珍しい事ではないはずだ。たしか人口の0.5%くらいの人には名前が無いって社会の授業で習ったし。
「名前が無いと、不便じゃない?」
「そうでもないよ。僕は『僕』って自分のことを呼べばいいし、周りの人も『きみ』って呼ぶから、違和感もないしね。」
美樹は『お兄ちゃん』と呼ぶし、うちには両親も親戚もいない。
「ふーん。ならあたしが名前付けてあげようか。助けてもらったお礼てことで。」
「いや、嫌な予感がするからいい。」
「なによ、遠慮なんてしなくていいんだから。あたしと、あなたの中出しょ?」
「それだと何かイケナイ漢字になってる!それを言うなら『あたしと、あなたの仲でしょ?』だ!しかも『仲』ってさっき出会ったばかりだし!」
なんて突っ込むところが多い奴だ。突っ込むこっちの身にもなれってんだ!
「感じ男て生にしなくて好いじゃん。」
「おまえ、わざとやってるだろ。」
ちなみに↑は『漢字なんて気にしなくて良いじゃん』。
「んー。じゃーねー。」
「お願いだから聞いて!」
なんてマイペースな女なんだ。非常に疲れる。
「『神谷浩史』って名前でどう?」
「おまえもあの洗練された淫靡なまでの淫賄な声の良さの信者か!」
「うわ、まるで○○が○○されているが如くの○○な表現ね。」
「○○には何が入るのか、ぜひ教えて下さいお願いします!」
「あなたってまさか、そっち系の人?」
「まさかの、そっち系の単語だった!」
「あなたさっきから、少しうるさいわ。削ぐわよ。」
「どこをどんな風にですか!?」
「あー、もうホントうるさい。そうねぇ…。」
う…。どこを削ぐのか本当に考えているのかと思ったがそうではなかった。
「『唯』(ゆい)って名前でどう?唯一の『唯』。あなたは、他の誰でもない、『唯一のあなた』なんだから。」
…。意外にまじめな答えが返ってきて、正直唖然としてしまった。しかも、それなりにまともな理由つきで。本当は根はいい奴なのかもしれない。
「あと『唯一のあたしの下僕』っていう意味で。」
前言撤回、やっぱり嫌な奴。
「ねえ。いいでしょ、唯?」
もうその名前で呼んでるし。
「いいのか、よろしいのか、はっきりしなさいよ!」
「選択権なし!?」
「当たり前じゃない。せっかくあたしが付けてあげた名前なんだから。」
なんていう奴だ。こういう奴には、変に逆らわない方が得策かもしれない…。
「じゃ。決定ね。」
「ああ、それでいいよ。もともと呼ばれ方なんて気にしてなかったし。」
僕が諦めた事に満足したのか、阿傘はまるで少女のように喜んでいた。
「さあ、用事も済んだ事だし、帰りましょう、唯。」
「え?」
「帰らないの?」
「いや、帰るけど…。寄るとこあるから…。」
「なに?拘置所?」
「仮出所の身で女子トイレに侵入するか!」
「じゃあ、どこよ。」
「『とらのあな』だよ。『とらのあな』。」
「ああ、『○○のあな』ね。」
「その部分はぜひ隠さないでください!」
「じゃあ、あたしもそこに寄ってから帰るわ。」
「なぜに!?」
「『神谷浩史』のCD買わなくちゃいけないし、ついでだもの。」
やっぱりこいつも洗練された淫靡なまでの淫賄な声の良さの信者ではないか!
「あの声のお寒い感じがまたいいのよね。」
違ったみたい。じゃあなぜ買う!?
「ほら、はやく行きましょうよ、唯。」
すでにその名前で呼びなれたのか、満足そうに先を行く阿傘。はぁ、なんだか面倒なことになりそうだが…。

Case2

 僕には『特殊な能力』がある。頭の中にある『記号』と、ある『風景』をまずは思い描く。『記号』や『風景』はその都度違い、それが僕の思い描いているものなのか、『対象者』が思い描いているものなのか、はたまた別の何かなのかは、まったくわからない。ただそうやって思い描かれる『記号』と『風景』がある程度はっきりと頭の中にイメージできれば、第一段階はクリア。
 次にその『記号』と『風景』が徐々に重なり、混ざり合い、一つの『形』に形作られてゆく。そのかたちがだんだんとイメージされて、第二段階がクリア。
 この『形』は『対象者』がイメージしていたものを表している事は、何度かやってきた中で分かっている。ということは、『記号』や『風景』も『対象者』のイメージより出てきているのだと推測されるが、今まで確認できた事はなかった。
 そして、第三段階。これがやっかいだ。イメージだけで終わってくれればよいものの、律儀にも、そのイメージした『形』を現実の世界に『具現化』して下さる。なぜ、そんな現象が起こるのか。今までだって何度も考えてきた。本当は『具現化』なんてされていなくて、夢か幻だと、最初は信じようとしていた。しかし、本当に『具現化』はされていた。それが『どんなものでも』である。

 6年前、僕が近所の公園で遊んでいると、あたり一面にパトカーのサイレンの音が響いてきた。周りにはあっという間にやじ馬で埋め尽くされ、昼下がりの公園には、まるで見えない、ある種異様な光景に見て取れた。当時まだ小学生だった僕は、何が起きているのか全く分からず、ただ茫然とその一部始終を眺めていた。後で、聞いた話だが、そのときは何だか誘拐事件が起こり、当時小学生の低学年の女の子が連れ去られ、身代金を要求されたらしい。両親はすぐにお金を用意し、指定された公園にお金を持ってきたが、警察が後をつけているとばれ、犯人はそのまま逃亡してしまったという事だった。後に、そこから遠く離れた山荘で、誘拐された少女のバラバラ死体が発見され、当時ニュースで大きく取り上げられてたっけ。僕は、その公園にたたずんでいた。
 大きく取り乱している母親らしい人が、涙ながらに誰かの名前を叫びながら、地面に突っ伏していた。僕は、なんだかその母親が可哀そうになって、あのとき、あの『特殊能力』を使ったんだ。うまくいくか分からない。これを使うと、めまいがひどくなるし、最近はあまり成功することも少ない。でも、困っている人が目の前にいて、しかもそれが、僕にはいないお母さんで、僕までなんだか寂しい気持ちになったから。
 『記号』と『風景』が頭の中に映し出されていく。これは何の記号だ?『σ』?なんだこの記号?あと…、この『風景』は?地底の奥深くから、大空の遥か遠くまで、巨大な火柱が轟々と鳴り響き立っている。いったいここはどこだ?そんなわけも分からない『記号』と『風景』が徐々に一つに重なって行く…。
うん、今回は久しぶりにうまく行きそうだぞ。さて、どんな『形』が出てくるのか…。
「え?女の子?」
イメージされた『形』は小学校低学年生くらいの女の子だった。次第にその女の子のイメージが、頭の中で鮮明になってくる。次の瞬間、空が割れた。
どさっ!
空から女の子が降ってきた。いや、実際には「降ってきた」というより、「突然現れた」と言った方が良いのだが、周りのやじ馬たちは、そんな事にも気を止めず、警察やマスコミが騒いでいる方に視線を集中させていた。
「え?綾子!?」
地面に突っ伏していた母親が、こちらも倒れている女の子に気付き、大急ぎで駆け寄ってくる。
「綾子!?無事だったの!?」
驚いた様子で、周りにいた警察もマスコミも、やじ馬までこぞってこちらに押し寄せてきた。
「良かった…。綾子、無事だったのね…。」
母親は泣きながら、その場に崩れてしまった。警察が寄ってきて、女の子の様子を伺う。
「ん?お母さん、この子良く似ていますが綾子さんでは無いようです。」
「え?」
母親は困惑した様子。
「たしかに服装は誘拐された時の服装にそっくりですが、綾子さん、たしか右腕に大きな火傷の後がある、とおっしゃっておりましたよね。」
「ええ…。たしかに火傷の後が…。っ!無い!火傷の後が…!」
「それにお顔も良く見てください。眠っておりますが、どことなく似ているだけで、我々が預かっている綾子さんの写真とも、違うようですが…。」
「はい…。確かに、どことなく雰囲気は似ていますが、この子は…、私の娘ではありません…。」
母親はまた、その場で大きく突っ伏して、泣き崩れてしまった。
「君、この女の子のお兄さん?ごめんね、びっくりさせてしまって。今、このあたりはすごく危険だから、その子と一緒にお家へ帰りなさい。あー、そこの君!この子供ふたりを、自宅まで届けてあげて!」
刑事さんは、ちかくにいた警官に指示し、僕たち二人を連れ、家まで送り届けてくれた。
「うーん。あいかわらずこの子は起きないねえ。」
女の子は、あんなに騒がしいなかでもまったく目を覚ますことなく、警官におぶられて家まで来た。
「じゃあ、本当にこの辺は今物騒だから、あまり子供だけで外にでたら駄目だよ?」
そう言い残して、警官は女の子を僕に託し、去って行った。
「う、ううん…。」
それとほぼ同時に女の子が目を覚ました。
「あれ…?ここどこ…?」
「うん。僕のお家だよ。」
「あれ?あなただあれ?」
「僕は『僕』。名前が無いんだ。」
「ふうん、そう。あれ?私の名前は?」
「君も名前が無いの?」
「うん…?そうなのかな…?なんかあったような、なかったような…。」
あたりをキョロキョロと見回している。
「君、お父さんとお母さんは?」
「お父…さん…?お母さん…?何も思い出せない…。」
「そうなんだ。僕もお父さんとお母さんの事、覚えていないよ。」
「あなたも?」
「うん。ぼくたちって似ているね。」
「うん。ふふっ。」
女の子はやっと笑顔を見せてくれた。でも、これからどうしよう。
「この家って、あなたの家?」
「うん。そうだよ。」
「一人で住んでるの?」
「うん。一人で住んでる。」
「すごいね。私よりちょっとだけしか年上に見えないのに。」
「そうかな。いつのまにか一人で住んでたよ。」
「私、これからどうしよう…。」
「僕と一緒に住む?お家広いから、部屋もたくさん余ってるよ。」
「え?いいの?」
「うん。僕も一人で住むより、たくさんで住んだ方が楽しいと思うし。」
「あなたってやさしいんだね。」
「そうかな…。」
「うん。じゃあ、私ここに住む!あなた名前が無いんでしょ?なんて呼んだらいい?」
「呼び方なんてなんでもいいよ。」
「じゃ、『お兄ちゃん』って呼んでもいい?」
「お兄ちゃん?うん。別に何でもいいよ。」
「じゃあ、お兄ちゃん。改めてよろしくね。」
こんないきさつで、少女と一緒に暮らすことになった。この少女はいったい何者なのか。あの母親がイメージした『形』が『具現化』したものであることは確かなのだが、それでもあの母親の娘ではないらしい。刑事も「そっくりだ」とは言っていたが、所々本人とは違う箇所が多々あったみたいだ。
 今思えば、母親が『イメージ』し『具現化』したものが、オリジナルと全く同じものであるはずが無い、ということは想像出来たのだが、あの頃の僕には、まだそこまでの考えができる年ではなかったのだ。「現実」と「イメージ」がまったくイコールになることなんて、あり得ないのだから…。

Case3 

「ねえ、この街ってなんか不思議な感じじゃない?」
歩いていると、唐突に阿傘は言う。
「何が?僕には普通の街に見えるけど。」
何の変哲もない、一般的な街だと思うが。人だけは多いけど。
「そう?私には、合わないのかな、この街の雰囲気。」
「たしか、まだ引っ越してきて1週間くらいだったよな?」
「うん、そうよ。」
「じゃあ、まだ新しい土地に慣れていないだけなんじゃないの?」
僕も初めてこの街に来た時は、人の多さに、めまいが酷くなったものだ。
「うん…。そうなのかな…。」
なんだか珍しく、しおらしくしている。ぷっ(笑)。さっき出会ったばかりなのに「珍しく」なんてもう付けている自分が、すこし可笑しかった。
「何ニヤニヤしているの?また人を犯そうとか考えてる?」
「前科ありが前提!?僕ってどんな人間!?」
「超能力者で、のぞき魔で、ストーカーで、そっち系で、前科ありの人?」
「それらは全て否定済みだ!」
「あら、『超能力者』の部分は、たしかまだ、否定していなかったと思うわよ。」
う…。やっぱり変な所に鋭い…。こいつこそ、超能力者なんじゃないのか?
「ほら、やっぱり否定しない。あなたって、面白いわね。」
お前に『面白い』なんて思われても、ぜんぜん嬉しくねーよ!
「でも…。まあ、いいわ。人にはそれぞれ事情があるもんね。」
「?」
もっと突っ込んでくるかと思ったが、意外にもすんなり引いたな…。
「それにしても、本当に人が多いわね。」
この時間は帰宅ラッシュの時間でもあるので、駅にも近いこの道路は人でごった返している。よくもまあ、こんなに人が多くいるもんだ。僕が昔住んでたとこなんて、あまり人なんて住んでいなかったのに。『あまり人なんて』だけど…。
 そういえば、あの家は今どうなっているのだろう…。
「あなた、兄弟は?」
ふいに、阿傘は質問してきた。
「え?ああ、妹が一人いるけど。」
家族構成でも掴んで、脅しをかけるつもり…なわけないか。
「何人家族なの?」
「妹と2人だけだよ。両親も親戚もいないし。」
「じゃあ、何かあった場合、妹さんの対処だけ怠らなければ良いってことね。」
家族構成を掴んで、何かするつもりだ!こいつ…あなどれん…。
「何かあった場合ってなんだよ。」
おそるおそる、聞いてみることにした。
「私と、あなたが、付き合う場合、とか。」
「え?付き…何?」
声が小さくて聞こえなかった。付き…何だろう。まさか!付き…刺す!?
「あ、ほら、付いたわよ『○○のあな』。」
「『とらのあな』だ!もういいかげん、○○を使うのはやめてください!」
突っ込みを入れることに全力を注いでしまい、つい、何て言ったのか聞きそびれてしまった。
「あなたは、ここで何を買うの?」
「ああ、おまえとおなじ『神谷浩史様』のCDだよ。」
「まあ!『神谷浩史様』って!やっぱりあなたBL思考全開の、そっち系の人だったのね!」
しまった!つい美樹が話していた内容そのままにしゃべってしまった!くそ!美樹の刷り込み恐るべし!
「いや、断じて違う!これは妹が欲しがっているもので…。」
「何?妹さんまで、BL思考全開の、そっち系のあなたのモノを欲しがっているというの!?」
「何の話だ!ていうか、あなたのモノってなんだ!」
「それを私に言わすつもりなの!?とんだ凌辱恥辱公衆面前プレイだわ!」
「卑猥な言葉のオンパレードになっちゃった!頼むから、その飛躍した妄想をやめてくれ!」
もう嫌だ…。誰かこの場から僕を救い出してくれ…。
「まあいいわ。あなたと妹さんとの関係は黙っていてあげる。」
「一般的な純粋な兄弟です!」
あ…。でも、血は繋がっていない。だって美樹は僕が『具現化』した『形』なのだから…。
「どうしたの?急に考え込んで。」
「ああ…。妹の美樹とは、血が繋がっていない事を思い出してな。」
「だからって××な事や、∴∴な事を、公衆の面前でやっても良いという法律は、まだ制定されていないわよ!」
「公衆の面前でやってないし、そういう法律が今後制定される予定もない!」
「なら、人にばれない所でやっているってことね!この凌辱シスコンめ!」
疲れる…。こいつには口で勝てる気がまったくしない…。なんか頭痛くなってきた…。
「ふん!男の子なんてみんなそうなのよね!」
なんだかご機嫌ナナメに勝手になられているが、ほっておいて、さっさとCD買って帰った方がよいだろう…。 
 3階にある声優コーナーで目的のCDを買い、(やっぱり阿傘も買うんだ…)、店を後にした。
「じゃあ、僕はこっちだから。」
「あら、そっち系じゃなくて、こっち系だったのね。」
「そうじゃなくて!僕の家はこっちの方角だから!」
最後まで人を、なじってくるんだな、こいつは。
「うん。じゃあ、また明日ね、唯。」
くるっと踵を返し、阿傘は反対の方角へと歩いていった。
「阿傘七海か…。」
僕は、めずらしく人の名前を、すらっと口に出し、一人つぶやいた。こんなことは初めてかもしれない。今まで、何度も人の名前は、なかなか覚えられなかったのに…。

 あたりは、もうすっかり暗くなっていた。道路はまだまだ帰宅ラッシュのサラリーマンでごった返していたが、駅から離れてしまうと、もう、まばらな人影しかない。
「あれ?お兄ちゃん?」
家路に着く為、角を曲がったところで、美樹とばったり会った。
「よかった。あまりに遅いから、もう『とらのあな』に直接行こうかとおもってた所だよ。」
「ああ、ごめんな。何だか色々と立てこんじゃって。はい、これ。」
僕は頼まれていたCDを美樹に渡した。
「お!やったぁ!やん♡神谷様にさっそく会えちゃった♡」
美樹はうれしそうに飛び跳ねて喜んだ。まだまだ、こういうところは子供なんだよな…。
「お兄ちゃん、早く帰ろ!美樹、おなかペコペコ!」
「へーへー、お嬢さん。今日はロールキャベツだぞ。」
「やったー!あとキムチ炒飯も作って!」
「はいはい。」
僕たちは二人そろって、家路についた。

 この家に引っ越してきたのは2年前。前住んでいた街で『ある事』に巻き込まれ、住んでいた家を飛び出して、この街に移ってきた。ちょうど僕は前の学校を卒業した後だったので、そのままこっちの学校に1年生として最初から入学する事が出来た。美樹は途中で転校という形になってしまったので、さんざん文句ばかり言ってたっけ。でも仕方が無い。『あんなこと』に巻き込まれたら、遠く、この街くらいには離れないと『やつら』に見付かってしまうかもしれないから。
 この家。実は僕が『具現化』したものだ。いや、実際には僕には『形』をイメージすることは出来ない。この家の『形』をイメージしたのは美樹なのだ。
『ねえ、美樹。僕たちは、この新しい街にこれから住む事になるんだけど、どんなお家に住みたい?』
『え?うーん、美樹はねー。』
僕は瞑想し、『記号』と『風景』を頭に浮かべ、美樹のイメージしている『形』を頭に思い浮かべた。
次の瞬間空が割れ、「そこ」に家があった。これが今住んでいる僕らの家だ。
「お兄ちゃーん!お風呂湧いたよー!」
美樹の声で、昔の事を思い浮かべていた僕は、はっと現実に意識を戻した。
「うん。先入るね!」
2階の自分の部屋から少しだけ顔を出し、少し大きな声で僕を呼んだ美樹に対し、僕も返事をする。
「うん、ちょうど良い湯加減だな。」
少し大きめのバスタブに、ゆったりと足を伸ばしながら入浴する。
そうか、もうこの街に引っ越してきて2年になるのか…。
そんな事を、考えながらゆっくりと湯船につかる。
「お兄ちゃん?私もはいるね?」
突然風呂場の戸が開き、美樹が入ってきた。
「ちょっ!何やってんだよ!」
僕は驚きのあまり、大きめのバスタブに溺れそうになってしまった。
「何って?せっかくお風呂沸かしたんだから、沸かし立てに入れば節約できるじゃん。」
「だからって一緒に入る事はないだろう!」
「え~。兄弟だし、いいじゃん。」
「兄弟でも駄目!お兄ちゃん、もう少しで出るから、外で待ってなさい!」
「でももう脱いじゃったし…。」
「いいから、もっかい着て部屋で待ってなさい!」
「ちぇっ…。兄貴のばか…。」
ふう…。ようやく美樹は風呂場から出ていってくれた。兄弟といっても血が繋がってないし、たとえ繋がっていたとしても、この年で一緒に入るのは色々とまずいだろ!
「はあ…。なんだか今日は疲れる事ばかりだったなぁ…。」
先生からの頼まれごと、トンデモ女子生徒とのやり取り、美樹のおつかい…。今日は久しぶりに能力も使ったし、そりゃ疲れるわけだ…。風呂場を後にし、部屋に戻らずに僕の着替えを覗こうとしていた美樹を無視し、僕は今日の疲れを取る為に、早めに就寝についた…。

Case4 

 今日も良い天気。朝ご飯を、ハムエッグ、味噌汁、自家製の漬物と炊きたてのご飯を二人分用意し、準備完了。そろそろ美樹を起こしに行くか…。
「美樹―!朝ご飯出来たぞー!」
2階の部屋に階段から声を掛ける。…返事がない。
「美樹?まだ寝てるのか?」
声を掛けながら、部屋のドアを開ける。
「ムニャムニャ…。」
「はぁ…。やっぱりまだ寝てる…。」
美樹は、お気に入りの抱き枕に全身抱きつきながら、幸せそうな顔で寝ていた。
「美樹!朝だぞ!早く朝飯食わないと、遅刻するぞ!」
美樹の肩に手を掛け、前後に揺さぶる。
「ムニャ?神谷様?」
なんだまだ夢でも見てるのか?どうせ昨日遅くまでCDを聞いていたのだろう。「ほら、はーやーくー起-きーろ!」
抱き枕をひっぺはがそうと、腕に力を入れる。その拍子に、体制が大きく崩れてしまった。
「うわっ!」
抱き枕を離さない、美樹と共に、二人してベットから転げ落ちてしまった。
「ん!んんっ!」
僕が下で、美樹が上で、二人で重なり合う形。しかも唇同士がくっついたままの形になってしまった。その形のまま、美樹が目を覚ました。
「あ、お兄ちゃん、大胆なんだから。」
「これは違う!美樹が、抱き枕を離さないから!」
僕は顔が真っ赤になりながら、妹に言い訳をしている。
「本当に?ケーカクテキ犯行ってやつじゃないの?」
「本当に違うから!そんなことより、早く飯食わないと遅刻するぞ!」
僕は、あわてて置いてあった目覚まし時計を取りだし、美樹に見せた。
「あ!ホントだ!早く準備しなきゃ!」
そう言って美樹は僕にかまわず、パジャマを脱ぎだす。
「だーっ!いきなり着替えるな!」
「だってパジャマで学校行ったら怒られるよ?」
「そうじゃなくて!わかった、お兄ちゃん先に食べてるからな!」
僕は、あわてて美樹の部屋を後にし、転げるように階段を下りた。むむう…。美樹の奴、もうそろそろ年頃の女の子なんだから、ちょっとはデリカシーを覚えてもいい頃なのだが…。昨日も一緒にお風呂に入ろうとするし…。
 六年前、美樹を『具現化』してから、ずっと二人だけで暮らしてきたから、たった二人だけの家族だから、いつまでも自立出来ないのかも知れない。でも、それは僕だって同じことだ。同じ境遇のこの子がいたからこそ、僕は『あちら側』に行かなくて済んだのだから。だからこそ、まだ、『人間』として、生きることが、出来る。
「お兄ちゃん、豆乳が無いじゃん。」
「あ、そっか。悪い悪い。」
僕は、冷蔵庫から、最近美樹がハマっているという豆乳のパックを取りだし、テーブルに置いた。
「あ~、明日から中間テストだよぅ。ヤだな~。」
「美樹はもう、どこの高校受けるか決めたのか?」
「もち、お兄ちゃんと同じとこ。」
「お前なら、もっと良いとこ行けるんじゃないのか?」
「嫌だよ~。美樹友達いないし、男子はウザいのばっかだし。」
確かに美樹はかわいらしい部類には入るだろうから、言い寄ってくる男子は多いだろう。しかし、女子の友達もいないのか?
「おまえ、あいかわらず、友達づくりしてないのか。」
「え~、だってあの子たち、なんだかキモいんだもん。」
ウザいとか、キモいとか、言われている同級生たちが少し可哀そうになってきた…。
「それにね、美樹、お兄ちゃんさえいてくれたら、それだけで満足だよ?」
「え?」
ちょっとドキッとしてしまった。
「あ、お兄ちゃん顔赤くなってる!」
「え?そ…、そんなことないよ!」
そう言いながらも、自分で赤くなっているのがわかる。
「もう、お兄ちゃんは相変わらず、美樹のことが大好きなんだから♡」
なんだか、恥ずかしくてその場に座ってられず、食器を片づけだした僕。妹にまでからかわれるなんて…。なんて威厳のない兄貴だ。
「っと、そろそろ出ないと本当に遅刻だ。美樹、支度して。」
「はーい。」
食器の洗い物を手早く済ませ、美樹と共に家から出る。駅まではまだ人はまばらだが、駅に近づくと、さすがに通勤、通学客でごった返してくる。
「じゃあね、お兄ちゃん。」
駅で下りのホームに向かう妹に手を振り、僕は上りのホームに向かう。あいかわらずの混雑だ。この街にはなんでこんなに人がいるのだろう。程なく電車が到着し、人ごみの流れに沿って、車内に吸いこまれる。
「あれ?おはよう。同じ電車だったんだね?」
ふいに声をかけられ、振り向くと、肌色のスーツを着た女性に声を掛けられた。ええと…。たしか…。
「んもう。また忘れちゃった?月野日彩音つきのひあやね。やっぱ覚えにくいかしら。」
ああ、そうだった。たしかそんな名前。覚えにくい名前、というよりは、単に僕の覚えが悪いだけだけど。
「昨日の書類、阿傘さんに渡してもらえた?」
「あ、はい。まだ校舎にいたので、渡しておきました。」
「うん。ありがとうね。あなたに頼んでよかったわ。ふふっ。」
また特徴的な笑い方をして、先生は満足そうだった。
「私ね、まだ赴任してきて一ヶ月でしょ?なかなか頼みごとが出来る生徒がいなくて、困っていたのよ。」
だからってこれからも僕に頼みごとが集中するのも嫌なんだが…。
「あなたって、なんだか物事を頼みやすいオーラみたいなものが出ている気がするのよね。」
「はあ。」
そんなオーラがあるのなら、すぐにでも吹き飛ばしたい所だが、なるほど…。『頼みやすいオーラ』か…。美樹や阿傘も、その僕のオーラを感じているのかもしれない。
「ねえ。生徒資料で調べたのだけれど、あなたってご家族は妹さんだけなんでしょ?」
先生まで僕の家族構成を気にしている。まあ、先生なら普通なのか…?
「ご両親もいないし、『名前もない』ってことは、やっぱり『あれ』に関わってしまった人なのよね。」
先生のいう『あれ』に関わった人達とは、きっと、『人口の0.5%の人達』の事であろう。
「本当に、今の世の中で、あんな事が起こりえるものなのね。未だに信じられないわ。」
きっとそう。先生だけではなく、誰だって信じられないだろう。あんなことが起こるなんて。でも、現実を生きている人間は、それを受け入れながら、今を生きている。本当、人間の適応力というものはすばらしい。こんな『事実は小説よりも奇なり』的な事が、現実に起こったとしても、人間はすぐに適応することが出来るのだから。
 『あの事件』が起きた後も、世界はだいぶ混乱したが、すぐにそれに対する新しい法律が制定され、今の一見平和な世の中が維持されている。みんな懸命にこの現実に立ち向かって生きているのだ。
「もう10年になるのよね…。だって平成が終わって、いまは『龍碌10年』(りゅうろくじゅうねん)ですものね…。」
そう。あの日、世界には大事件が起こった。それまでの歴史は覆され、中には歴史を否定する学者まで多く現れた。でも、人類はそこを乗り越え、新しい世界法律を制定し、それぞれの国で、乗り越えた日を『元年』とし、人類は再出発をしたのだ。日本では『平成』がおわり『龍碌』という新しい年号で再出発を果たした。
「あの影響で、世界にはあなたみたいな、『名前の無い人』が現れてしまったのよね。」
先生は、寂しそうな顔で話を続けている。
「私の知り合いにも、あなたのように名前の無い人がいるけど、名前が無い以外、どこをどう見ても、普通の人なのよね…。」
僕は適当に相槌を打つ。
「なのに、『レントゲンには映らない』し、『血液型も存在しない』し、『どこを探しても家系が見付からない』しで、なんだか色々と大変そうだったわ。」
僕もそうだ。たぶん美樹もそうなんじゃないだろうか。確かめたわけではないけど。
「今までの『常識』が大きく狂ってしまったわよね。うちの父は物理学者だったんだけど、あのことがあって以来、『もはや、この世に物理学は、何の意味もない』とかなんとか言っちゃって、大学も辞めて、毎日ぶつぶつ一人で何をやってるのか…。お母さんも毎日心配してて、未だに私に電話で相談してくるのよ?もう、私だってどうしてよいか分かるはずないのにね?」
先生の所も、色々とあるんだな…。当然、と言えば当然だが。
「っと。ごめんね。なんか愚痴っぽくなっちゃって。あなたの方が、大変なはずなのに。なんだかあなたって、こういう事話しやすい感じがするのよね。」
それも頼みやすいオーラと関係しているのだろうか…。
「ねえ。あなた、名前考えたら?」
ふいに先生が、僕の答えを求めてきた。
「あ、えっと。実はちょうど昨日、阿傘さんに名前を付けてもらったというか、勝手に付けられたというか…。」
「へえ、そうなんだ。よかったじゃない。名前ないと何かしら不便だからね。で、なんて名前を付けてもらったの?」
「ええと、たしか『唯』(ゆい)とか。『唯一の唯』という字だそうです。」
「へえ、良い名前じゃない!へぇ、あの阿傘さんがねぇ…。」
そう。新しい世界法律では、『名前が無い』人間に対し、自分で名前を付けることが許されていない。自分とは関わりの無い『第三者』にしか、名前を付けてもらうことが許されていないのだ。なぜ、そんな法律なのかはわからないが、それでも偉い人たちが作った(なんでも世界に名だたる学者の集団も、新しい世界法律の作成に携わったらしい)法律なので、別に不満を感じた事はないが、それゆえに今までは、僕は僕の事を『僕』としか呼ぶ事が出来なかった。美樹からは、『お兄ちゃん』という名前をもらい、阿傘からは『唯』という名前をもらった。法律上、第三者に名付けてもらえるのであれば、いくつでも名前は付けられるらしい。なんだかややこしい法律だよな、考えてみれば…。
「でも、よかったわね。名前が付いて。唯君?」
まだちょっと、新しく付けられた名前に恥ずかしさがあるのだが、じき慣れるだろう。
「あ、そろそろ着くわね。」
そうこうしているうちに、電車は学校近くの駅に到着した。
「じゃ、先生は自治会の会長さんの所に寄ってから、学校に行くから。教頭先生に押し付けられちゃったのよ。」
先生と別れ、僕はそのまま学校へと向かった。

 この学校は、生徒数1000名の、都内では有名なモンスター学校だ。クラスは各学年10組まであり、約30名ほどクラスに生徒が在籍している。僕が在籍しているのは2組。転校してきたばかりの阿傘も同じ2組だ。僕は、この大きな学校の自分のクラスに向かい、少し速足で歩いていた。あれ?あの後ろ姿は…。
「おっす。お前も今来たのか?」
「?ああ、なんだ、唯か。あやうく後ろ回し蹴りをかます所だったわ。」
「声掛けただけで、アンディー・フグですか!」
「だって、女の子に後ろから声を掛けてくる男性なんて、ろくな人間、いないじゃない。」
いや、先生だったらどうすんだよ…。
「阿傘、おまえさ…。」
「七海って呼んでくれなきゃ、嫌。」
なんでいきなりフラグ立ってんだ?
「え、だって…。それじゃまるで…。」
「あなた、新しい世界法律くらい知ってるでしょ?」
そうなのだ。世界法律では、『自分の名前を命名した人物は、その人物の名前の呼び方を強制させる権限を持つ』といったものがある。なんでこの新しい世界法律とやらは、こんなにも『名前』にこだわるのかは、分からんが…。
「う…。な…、七海さん…。」
「ちがうでしょ?『七海』よ。」
「う…。」
なんでこう威圧的なんだ、こいつは…。
「な…。ナツミ。」
「なんでカタカナ言葉なのよ。ほら、もう一回。『七海』。」
「…七海。」
「はい。よくできました。これからそう呼ぶのよ。」
くそう…。こいつには一生勝てる気がしないのはなぜだろう…。
「あ、ほら。始業の鐘が鳴ってる。早く行こ!」
七海は僕の手を取り、掛け出した。

 この学校では1時限の授業が2時間あり、一日3時限制をとっている。つまりは、一日6時間の授業ということだ。朝の9時から始まり、昼休み1時間を挟み、午後4時半にはHRを最後に生徒は解放される。その後、ほとんどの生徒は部活動か同好会の活動があるが、僕はどこにも所属はしていない。漫画研究会には少し興味があるが、手続きとか面倒そうなので、保留にしたまま、時が過ぎてしまっていた。
「あれ、そういえば、阿…、じゃなかった、七海。」
「なあに?唯。」
「おまえさ、そろそろ部活とか入らないのか?」
「うーん…。そうねぇ…。そろそろ考えてもいい頃かしらね…。」
「入るなら、早めに担任に入部届け出した方がいいぞ。」
「唯は、どこかに入っているの?」
「ううん、僕は帰宅部。」
「奇タク侮ってどんな部活なの?」
「なんだか奇妙なオタクが侮蔑されてるような部活になってる!」
また漢字を勝手に変換しやがって!
「何の部活にも入っていないって意味だ!」
「あら、そうなの。友達いないのね。」
「あ…。うぐ…。」
良い突っ込みを入れてやろうとしたが、事実を突かれ、口ごもってしまった…。
「じゃあ、私と何か部活に入らない?」
「え?」
意外な提案に正直びっくりしてしまった。僕が、部活?
「嫌?私と部活するの。」
「ん?別に嫌とかじゃないけど。」
「嫌?私と××するの。」
「それは嫌です!いや、もしくはスゴイしたい事なのかも!?いや、それよりも××にはいったい何が!?」
「唯ってやっぱり、エロ河童だったのね。」
「エロ河童はやめてください!せめて人でいさせて!」
あぁ…。だんだん僕という人間が、僕という人間の尊厳が、ないがしろにされてゆく…。
「でも、この学校の部活って面白そうなのが無いのよね…。モンスター学校のくせに。」
僕は漫画研究会に興味があったが、馬鹿にされそうなので黙っておこう…。
「じゃあ、やっぱり帰宅部にすれば?」
「うーん…。」
なんだか本気で悩んでるみたいだ…。僕なんて、めんどくさそうだから、まあいいか、くらいにしか考えていなかったけど。
「あ、そうだ!入りたい所が無ければ、作っちゃえばいいんだ!」
「へ?作っちゃえばって…。何を?」
「あなたとの子供。」
「既成事実だけはやめてあげて!」
「冗談よ。同好会よ、同好会。」
あ、そういう事か…。この学校では、部活の創設申請はかなりハードルが高いが、同好会に限って言えば、わりと簡単に作ることができる。一人でも作れるし、活動費も学校から出される。あとは、顧問の先生さえいれば、書類一枚提出で完成だ。
「でも、作るったって、活動内容は?」
「そうねぇ、普通の同好会を作ったっておもしろくないし…。」
僕はいたって、普通の同好会に期待したいのだが。
「あなたは、どんなのが良い?」
「僕はまだ、同好会に入るなんて言ってないよ。」
「そんな事言うと、あなたの部屋の本棚の、上から2段目の、辞書と辞書の間に、逆さにいれてタイトルが解らないようにしてある、巨乳特集雑誌の事、みんなにばらすわよ。」
「なぜその事うぉ!?」
あまりにビックリしてしまい、変な日本語になってしまった…。ていうか、こいつこそ本物の超能力者なんじゃないのか!?
「あら、適当に言ってみただけなのだけれど。私って、カンがするどいのよね。」
カンで済まされるレベルか!一字一句、間違えることなく合ってるぞ!今度違う場所に隠そう…。
「分かったよ。僕も入るから。」
「あら、『是非その同好会に入会させて下さい、七海様』でしょ?」
「…ぜひそのどうこうかいににゅうかいさせてくださいなつみさま。」
「お経読むみたいに言わないでくれる?まあいいわ、でも、活動内容か…。」
七海はまた考え込む。どうせ、ろくな活動内容じゃないだろ…。
「ユニセフ募金を集める活動とか?」
「まともか!」
「ユニセフ募金を搾取する活動とか?」
「超非人道的!てか捕まる!」
「ユニセフ募金という名の下、実はこっそり中身を頂いて、欲しかった時計を買っちゃうとか?」
「言い方変えただけで、中身変わっちゃいねえし!」
「じゃあ、どうユニセフ募金を利用すれば良いのよ!」
「趣旨変わってる!?てかユニセフから離れて、心が痛いから!」
あぁ…。世の中の恵まれない子供たち…、本当にすまん…。
「唯も文句ばかり言ってないで、ちゃんと考えてよね?姑じゃないんだから。」
あぁ…。世の中の姑のみなさん…。本当にすまん…。
そんなこんなのやり取りがありながら、結局同好会の活動内容が決まらないまま、(この後もあれやこれやで、話がめちゃくちゃになったのだが、あえて伏せておこう…。というか封印しておこう…。)、一日の授業が終わりを告げた。

Case5 

「さて、授業も終わったし、帰るか。」
今日は、先生からの頼まれ事も、美樹からの頼まれ事も無い。余計な所には寄らずに、まっすぐ家に帰ろう。
「うーん…。うーーん…。」
七海はまだ、どんな同好会にするのか、思案中みたいだ。結局今日は一日中、あんな感じだったな。声を掛けたら、また何を言われるか分からないから、今のうちにそっと下校しよう。僕は、思案中の七海に見付からないよう、そっと教室を出た。
「さて、今日の晩御飯は何を作ろうかな?」
どうせ、美樹もまっすぐ家に帰って、部屋に閉じこもって自由な時間を過ごしている事だろう、美樹曰く、『この時間の為に、私は生きてるのよ』だそうだ。部屋に閉じこもり、ネットをやったり、一人ファッションショーをやったり、好きな声優の声を聴いて妄想にふけったり…。こういった時間が何ものにも代えがたい喜びの時間らしい。こいつは将来ニートになっても、たぶん幸せに生きていけるのだろう。
 まあ、僕も、何だかんだ言って、美樹が幸せならばそれでいい。たぶん、それが僕にとっても一番幸せな事なのだろうから。なんだろう…。美樹は僕が『具現化』したからなのか。以前にも感じた事があったが、これが「親」のような愛情なのだろうか。もちろん、僕には子供なんていないから、(親もいないから)、「親」の感情なんて分からないし、分かるはずもないのかもしれないけど、たぶん、いやきっと、間違えていないと、そう思う。だからこそ、美樹の幸せを、心から、願うんだ。僕は。きっと。
 そんな事を考えながら、帰路に立っていた所、何か違和感がした。
ん?なんだ?なんか鳥肌が…。?ん?付けられてる?そういえば、急に周りに人影が無くなったけど…。
次の瞬間、喉元に冷たい物が当たっていた。
「おまえ、声は出すなよ。」
当たっていたのは刃渡り15センチほどのナイフ。瞬間、僕は血の気が引いた。
「そのまま歩け。」
言われるがまま、僕は、まっすぐ歩く。変な汗が、体中から噴き出してくる。
「そこを右だ。そこの倉庫を開けろ。」
指示の通りに、古ぼけた倉庫の前に行き、ドアノブを回した。
「よし、そのまま入れ。」
僕は、真っ暗やみの倉庫に入って行った。
不意に、明りが付いた。気が付けば、もう喉元にナイフは当てられていない。
「な…何なんですか…。いったい…。」
大きな声を上げたつもりだったが、恐ろしくてまったく声が出ず、ヒューヒューと風が通るような弱々しい声で、僕は言った。
「『あちら側』の者だ、とでも言えば理解できるか?」
「!?」
何だ?今、『あちら側』っていったか?って、え?この声…?
「なんだ。『あちら側』では通じないのか?」
!やっぱり!この声は、男の声じゃない…?
「お前の妹の方にしておけばよかったか。」
「!!美樹には手を出すな!」
自分でもびっくりするぐらいの声で、僕は叫んでいた。
「なんだ。ちゃんと喋れるじゃないか。」
「『あちら側』の人間が何の用だ!もう、僕たちには関係のないことだ!」
「関係ない事はないだろう。ともすれば、中心グループの一角にもなり得たお前たちが。」
「それは、昔の話だ!美樹にはその頃の記憶も、もう無い!」
「それはおまえが記憶を消去したからだろう、『具現化使い』。」
「その名で呼ぶな!僕はこの能力が嫌いなんだ!」
そう。『具現化使い』とは、昔の僕の『名前』。名前の無い僕は、ある人物に、そう名付けられ、その人物に従ってきた。
「名付けの主人を殺せば、その名も返上されるってか。因果な世界法律だよな。」
「く…。」
そう。僕は、名前を、くれた、あの人を、この手で、殺した。
「あの後、『死神使い』…ああ、今は『美樹』だったか…。あいつまで連れ出して、逃げてくれたおかげで、グループは解散、『計画』は台無しになったんだよな。」
「あの『計画』自体が、そもそも間違っていたんだ!」
そう。あの『計画』が、全てを、壊して、しまった。
「おまえだって、最初は賛成していたではないか。」
「あの時は…、あの時は、どうかしてたんだ!」
「そんな言葉で全てが許されると思っているの?『お兄ちゃん』。」
「!!」
そんな…。まさか…。
黒装束に身を包んでいた、そいつは、次の瞬間、マントを脱いだ。
「やっぱり…『美樹』…。」


 6年前、僕が『具現化』した女の子を、僕は『美樹』と名付けた。なぜ、その名を付けたのか、今でも自分でよく分からないが、なんとなく懐かしい、心が落ち着く名前だった。
 その後、二人での生活が始まったが、平和な日々はすぐに終わる。
10日後、僕らは『あちら側』の人間に、その特異性を見込まれ、拉致されてしまった。あの日、僕が美樹を『具現化』するところを、偶然見ていた『あちら側』の人間がいたのだろう。捕まった僕らは、体中、隅から隅まで調べ上げられた。
 数週間後、様々な検査から解放された僕らは、すでに、肉体的にも、精神的にも、ぼろぼろだった。
「これがデータです。」
白髪混じりに白衣の男が、リーダーらしき人物に書類を渡す。
「へえ、これおもしろいじゃん。」
まだ若く見える、リーダーらしき人物は、ニヤッと笑い、僕を見た。
「そう怖がらなくてもいいよ、坊ちゃん。おい、なんか食わせてやれ。」
数週間ぶりにまともな食事を与えられ、むさぼるように、僕らは食べた。
「本当は、拉致なんて、姑息な手は使いたくなかったんだがな。」
「でもボス、こっちももう時間がないんでさぁ。」
スキンヘッドの男が言う。
「わかってるよ。だから許可したんじゃねえか。」
ようやく目の前の食事を終え、僕らは少し落ち着いてきた。
「なあ、お前。お前って、物を具現化する能力があるんだってな。」
リーダーの男が言う。
「で、そっちのお嬢ちゃんが、死神を操る能力。」
え?死神?何を言ってるんだ、こいつ。美樹が死神なんて…。
「おや?この坊主は、お嬢ちゃんの能力の事、知らないようだぜ?」
!なんでわかったんだ?僕が考えている事。
「さあ、なんでわかっちゃったんでしょうか?」
!!また!?…これってもしかして…。
「ピンポーン!大正解~!」
またしても、心を読まれた。
「俺の名前は『心円使い』(しんえんつかい)。ま、簡単に言えば、心が読める超能力者ってとこだ。」
超能力者!僕以外にもいたなんて…。
「君~。超能力者が自分だけなんて、ちっぽけな思考の持ち主だねぇ。」
しょうがないじゃないか!こんな変てこな能力、他の人にもあるなんて思わないし。
「あれ~。まだ君、自分の事が『人間』だなんて、本気で思ってるの?」
何を言ってるんだ、こいつは。
「はい、これ。君たちのレントゲン写真。普通の人って、こんなレントゲンの映り方すると思う?」
レントゲン写真…。たしかに、僕は今まで病気に罹った事もないし、健康診断にも言った事がないから、初めて見るけど…。
「体の中、真黒でしょ。これね、普通の人間が撮ったら、骨とか臓器とか、きちんと白く映るわけ。でも君たちのは、真黒。『まるでそこにはそんなもの存在していないかのように』。」
「!」
存在していない?僕も、美樹も?何を言っているんだ?
「まあ、今すぐ理解しろって言っても無理な話か。」
リーダーの男…『心円使い』はそう言って、椅子から立ち上がった。
「おまえ、まだ名前が無いんだろ?」
心円使いはニヤッと笑い、聞いてきた。
「そうだな…。おまえは今日から『具現化使い』という名を授けよう。」
何勝手に決めてるんだ、こいつ。そんなの従うわけ…。
!?あれ?口が勝手に…。
「わかった。僕は今日から『具現化使い』だ。」
!口が勝手に動いた!なんで?
「はっ、おまえまだ『世界法律』の事知らないのか。」
『世界法律』?なんだそれ?
「『名前の無い』人間に、名前を付けたものには、どうあがいても逆らえないって法律さ。ま、この法律は『人間じゃなくても』適応するけどな。」
なんだ、その法律は?たかが法律なのに、勝手に口が動くのか?
「なんだ、実際に体験したのに、まだ信じられないのか?じゃあ、そこの嬢ちゃんに…、そうだな…、『死神使い』と名付けてみろよ。」
!誰がそんな事を、美樹に…!!
「お兄ちゃん…?」
ずっと、おとなしくしていた美樹が、僕の顔を覗き込む。
「美樹…。今日からお前は、『死神使い』と名乗れ。」
!また、口が勝手に…!
すっと、美樹が立ち上がった。
「はい。お兄ちゃん。私は、今日から『死神使い』と名乗ります。…あれ?お兄ちゃん、あたし口が勝手に…。」
「ほらな?これでわかっただろ?」
本当だ…。これが『世界法律』…。
「さあ、余興はこれぐらいにして、さっそく働いてもらうぞ?『具現化使い』と『死神使い』。」
これ以降、ぼくらは『あちら側』の人間として、様々な悪事に手を染めた…。


「『美樹』…。でもどうして君が…?」
「私はもう、『美樹』ではない。今は『斬月使い』だ。」
「『斬月使い』?」
「そう、あのときお兄ちゃんが、『もう一度私を具現化した時』、お兄ちゃんとは別の人に、名付けてもらった名前。」
「その『別の人』ってのが、逃げた僕らを追っている親玉か。」
なるほど。『美樹』…いや、今は『斬月使い』を使って、『命名者』としての特権を使い、自分の素姓を敵にばらすことなく、僕らを追い詰めるつもりか。
しかし…。
「『美樹』。お前は僕が『命名者』として、おまえに命名した権利もまだ残っているはずだ!ならば、こんなことはやめて、僕らの事を見逃せ!これは、命令だ!」
僕が、美樹の『命名者』ならば、『世界法律』により、僕の命令には絶対のはずだ。
「それはもう効かない。だって、『美樹』という名は、もう捨てたから。」
「捨てた?そんな事はできないはずだぞ?」
そうだ。たしか『名前の無い』人間は、第三者からいくらでも名前を付けてはもらえるが、勝手にその名を捨てる事はできなかったはず・・・。
「でも、そういう能力のある超能力者がいたら、どうかしら?」
!…そうか、たしかにそんな能力があっても不思議じゃないな…。
「ともかく、戻ってきてくれるの?くれないの?」
くそ…。せっかく美樹の記憶も消去して、こちらの生活にも慣れてきたってのに…。
「私、お兄ちゃんを傷つける真似、したくない。もちろん『美樹』もよ。」
「おまえに、僕を付けさせた奴は、あの時のグループの奴か?」
僕は、聞いてみた。少し、気になる事があったからだ。
「そんな事聞いてどうするの?私が答えるわけ、ないじゃん。」
という事は、『その当時グループにいたかどうか答えるな』と命令されているはずだ…。
「その男は、この近くに潜伏しているのか?」
「だから、その人がどこに潜んでるか、なんて言えるわけがないじゃん。」
その人…?ということは『男』ではない…?『近くに潜んでるか言えない』ということは、意外に近くにいる、ってことか…。そのとき、なにかが、閃いた。
「おまえ、学校では何を専攻してるんだ?」
「はあ?そんな事を聞いてどうするの?…まあ、物理だけど…。」
!やっぱり!
①当時のグループにはいなかった可能性
②男ではない
③意外に近くに潜んでいる
④物理学
これらによって、導き出され、しかも何かしら、僕と美樹の動向を掴める人物…。
 僕の顔色を見て、何かに感づいたのか、『斬月使い』は身構えた。
「ふん。僕が逃げ道を確保していない、とでも本気で思っているのか?」
僕は言った。
「なに?そんな馬鹿な。お前は、ここには初めて来たはずだぞ?そんな用意ができるものか。」
そう言いながら、落ち着かない様子だ。いいぞ、そのまま…。
僕は、目を閉じないように注意しながら、相手の目を凝視しながら、心で『記号』と『風景』をイメージした。最近は目を閉じなくても、心でイメージする方法をつかんでいた。
良いぞ…。『斬月使い』…。お前もイメージしろ…。
『僕がこの場を逃げ出せる方法』とは何なのかを…。
徐々に『記号』と『風景』が重なり『形』が出来上がって行く…。
ん…?これは…?
「はっ!まさか!しまった!」
ふん、もう遅い…。
次の瞬間、空間が割れた。
と同時に、手榴弾のようなものが転がってきた。なるほど、これが…。
「しまっ…!」
『斬月使い』が言い終わる前に、まばゆい閃光があたりを照らし、すごい勢いで煙に包まれた。
「く…、催涙弾…!」
『斬月使い』は自分がイメージしてしまった催涙弾をもろに受け、ひるんでいる。
「よし!今だ!」
僕は、勢いよく入ってきたドアとは『逆の方向』に走った。
「ふん、ばかめ!そっちは行き止まり…!?」
そこにはドアがあった。
「まさか…!?」
そう、これも『斬月使い』が勝手にイメージしてしまった非常口。最初から、そんなものはもちろん存在していなかったが、今『具現化』されたんだ。
「くそ…。」
涙ながらにも、まだ追いかけようとする『斬月使い』。
僕は、急いでドアを開け、外に出る。
そこには、エンジンをかけっぱなしのバイクがあった。ふん、想像力(この場合は本当に『創造力』だな…なんて考えられるほど、すでに余裕な気分だった)豊かなやつだ…。
「くそ!そんなものまで!」
だから、おまえが想像したんだって、この『逃走経路』を。
僕は、すぐに目の前にあるバイクにまたがり、倉庫を後にした。
行先は、決まっている。

Case6

 僕は具現化されたバイクに乗り、学校へ向かう。ちなみに僕は、バイクの免許を持っていないし、乗るのも初めて。じゃあ、なぜこんなにも何年も乗りこなしたような、そんな乗り心地なのか。きっとそれも『斬月使い』が『僕が颯爽とバイクに乗り、逃亡する』風景をイメージしたから、であろう。
正直、試してみるまでは、こんなにうまくいくとは、思わなかった。
『催涙弾』、『非常口』、『バイク』、そして『乗りこなす僕の技術』。
分かっているだけでも、いっぺんに四つも具現化されたのだ。『形』として『斬月使い』に想像されたものが『逃走経路』だったわけだから、『どんなもの』でも具現化してしまう僕の能力では、それら4つの現象が、一度に具現化されてしまったわけか…。あいかわらず、よくわからない能力だな…。
「『具現化使い』、か…。」


 あのとき、僕の最初の仕事は、あの誘拐された子(たしか、綾子ちゃんだっけ?)の母親に会いに行き、『もう一度美樹を具現化してみる』といった内容だった。
「同じ人間の同じイメージから、同じものを『具現化』ってできるのかねぇ?」
要するに、『心円使い』の『実験』に付き合わされる羽目になったのだ。もしも、うまくいかなかったら、美樹はどうなってしまうのだろう…。いや、『美樹』はもういない。今いるのは『死神使い』だ。名前なんてどうでもいい。大事なのは、あの子そのものなんだから…。
 いろいろなルートを使い、あの母親の住んでいる住所を探し当てた。『死神使い』は今頃、何をしているのだろう…。心配だ。なんか嫌な事をさせられていないだろうか。
 僕は、早く仕事を済ませ、『死神使い』の元に戻る為、迷わず、インターホンを押した。
「ごめんくださーい。」
まったく人の気配がしない。たしか、『綾子ちゃん』はあれから5日後、バラバラ死体で発見されたと、ニュースで言っていた。まだ、あれから1ヶ月くらいしか経っていないのに、もう世間的には、あの事件は、昔の事件として忘れ去られている。
「誰かいませんかー。」
何度、インターホンを押しても、誰も出てこない。留守か…?
そのとき、家の中で物音を聞いた気がした。
「あれ?誰かいるんですか?」
声を掛けながら、ドアノブを回してみる。
「あ、鍵あいてる。」
僕は、ゆっくりと中に入る。なんだろう、何だかすごく緊張する。嫌な予感がする。
「すいませーん、誰かいますか?」
耳を澄ますと、奥で水道が流れる音が聞こえる。洗濯中?
「すいません。入りますよ?」
僕はなぜか、靴を脱がずに、家へ上がる。なんだろう、とても嫌な予感が…。
水道の音がする方へ進む。その音は、脱衣所の奥から聞こえる。
「お風呂…?」
僕は、ゴクっと喉を鳴らし、そのままお風呂場へ進んだ。
そこは、赤の、空間、だった。
「ひっ!」
僕は、つい、その場に尻もちを着いてしまった。
そこには、もうすでに絶命しているであろう、全裸の男の人と、まだ少し息がある、女の人が横たわっていた。
「だ…大丈夫ですか…?」
どう見ても、大丈夫なわけがないが、それ以外話す言葉が見当たらない。
「綾子、綾子、綾子、綾子、綾子、……………。」
ほとんど聞き取れないくらい、小さな声で、呪文のように、子供の名前をよんでいるその女性は、あの母親だった。ということは、こっちが父親?
「あの、救急車を…。」
僕は、尻もちをついた姿勢から、立ち上がろうとしたが、足がガクガク震えて、うまく立てない。
「綾子、綾子、綾子、綾子、綾子、……………。」
母親は、相変わらず、娘の名前を、呪文のように、唱えている。そうか。これが、無理心中ってやつか。子供心ながらに、ニュースで聞いた事がある単語を思い出していた。
きっともう、この母親も助からない。血の量がそれを物語っている。
僕は、意を決して、その場で瞑想した。
『記号』と『風景』が浮かぶ、が、うまくイメージに集中できない…。
くそ…。落ち着け、落ち着け。集中するんだ、集中、集中、集中、…………。
いつもより、ずいぶん時間がかかり、ようやく『記号』と『風景』が重なりだした。
よし…!もう少しだ…!
僕は、さらに集中し、『形』をイメージしていく…。
「よし!」
次の瞬間、空間が割れた。
そして、娘の名前を、呪文のように唱え続ける、母親の、お腹の上に、まるで、最初から、そこにいたように、その子は、微かな寝息を立て、存在していた。
「ああ…。綾子…!」
母親は、その瞬間、大きく目を開き、そして、絶命した。


 僕は、新たに『具現化』した美樹(同じ『美樹』という名でいいのか少し悩んだが)をおんぶし、足早に家を後にした。見付かっては面倒なことになる。たとえ、足跡やら指紋やらが、警察により採取されたとしても、僕の身元は分からない。
「本当に、僕は、幽霊だったりしてね…。」
僕は、走りながら、少し自虐めいた笑いをし、グループの住処へ急いだ。
「へえ、やっぱり『具現化』には制限がないみたいだな?」
住処に戻ると、さっそく『心円使い』は興味の眼差しを向けた。
「本当に、こいつは『死神使い』そっくりじゃねえか。」
住処に戻るころには、目を覚ましていた『美樹』は、やはり記憶が無い。
「それで、この子に『美樹』って名付けたわけだ。ふーん、その名前になんか執着でもあんの?」
『心円使い』は聞いてくる。
「いや、分からないけど、なんだか懐かしい感じがするんだ。」
また僕の意思とは関係なく、口が勝手にしゃべりだす。
「ま、別にどうでもいいけど…。」
それにしても、『死神使い』と『美樹』は瓜二つで、まったく見分けがつかない。どうしたものか…。
「じゃあ、死神ちゃんには右手にこのブレスレット、美樹坊には左手にこのブレスレットね。ほら、これでどっちがどっちだかわかるだろ?」
「わぁ、私アクセサリーもらうの初めて!」
『死神使い』が言う。
「うん。私も初めてだよ?」
『美樹』が言う。
「私たちって、双子みたいだね?」
「うん、私もそう思ってた。」
さっそく二人は、仲良くやっているらしい。そうか、もともとあの母親の『想像』した娘なのだから、正確も瓜二つ。仲良くなるに決まっている。
「はは、気に行ったみたいだぜ?こいつら。」
ケラケラと笑う、『心円使い』にも、もうだいぶ慣れた。最初に思っていたほど、嫌な感じはしない…。いや、これも『命名者』になせる技なのか?
「よし、実験も成功したし、最終段階に入るか!」
周りにいる取り巻きから「うおー!」との掛け声が、住処にこだましていた…。


「よし、着いた!」
学校に着いた僕は、バイクから飛び降り、まずは2組の教室に向かった。
「あれ?唯?どうしたの、慌てて。」
ちょうど帰る準備をしていた七海を見つけ、僕はそのままの勢いで、両肩を強く掴んだ。
「七海、月野日先生見なかったか?」
「え?月野日先生?何?同好会の顧問を頼みに行くの?」
「いや、そうじゃなくて、あー、もう!見てないの?」
「何よ、そんなに慌てて。」
僕は、焦っている。いつ『斬月使い』に追いつかれるか分からない。いきなりナイフを喉元に付きつける奴だ。生徒にも平気で、手を出しかねない。
「いいから!見たか、見てないか、教えて。」
「嫌。」
拒否られた。
「まずは、あなたが『どうしてそんなに焦っているのか』答えなさい。」
「だから、そんな暇は…。」
否定しようとした矢先、意識とは違い口が勝手に動いた。しまった!七海は僕の『命名者』だった!
「早く月野日先生の居場所が分からないと、僕の命も、七海の命も、他の生徒の命だって危ないんだ!」
げ!勝手に口が!こんな事急に言われて信じる奴がいるわけないだろ!
「あら、そうなの。ならいそがなくちゃ。」
信じる奴いた!しかも目の前に!
心の中で、でっかい声で、突っ込んでしまった!
「こっちよ。」
七海は僕の手を引き、階段を上がって行った。
「どうして、僕の言う事、信じてくれるの?」
階段を駆け上がる中、どうしても聞いてみたかった。
「どうして?だって、あなたの言う事だから。」
答えになってない!
「ふん。なんか不満そうな顔。」
心を読まれた。まさか『心円使い』?
「あなたに付けた名前。『唯』っていうのは、『ウソはつかない』っていう意味も込めて、名付けたの。だから、唯の言う事は本当の事。」
う…。そんな言われ方したら、何も言えなくなるじゃないか。
「あと、『唯一の下僕』っていう意味もあるから、下僕がご主人様に、嘘つけるわけないじゃない?」
こいつは、直感で『命名者』の権限まで理解してるのかもな…。ありえる…。
そうこうしているうちに、物理化学教室に着いた。
「ここよ。月野日先生の担当してる教室。」
物理…、か。父親と同じ道を進んでいたんだな…。
「七海はここで待ってて?」
「うん。わかった。」
意外にもすんなり、引いてくれた。こんなことは、七海と出会ってから初めてかもしれない。いや…?そんな事もないか…?
僕は、そんなどうでもいい事を考えながら、ふうっと息を吐いて、教室に入る。
「失礼します。」
少し、緊張した声で、ドアを開いた。
「あら、唯君。そろそろ来る頃だと思っていたわ。」

                ⇒next 「case『承』」to be continued
この小説は「case『起』、case『承』、case『転』、case『結』」の4部作です。長いのでいっぺんにアップ出来ませんでした。
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