福島第1汚染水漏洩 消えた水、不可解な状況 高い線量、確認困難
産経新聞 4月9日(火)7時55分配信
東京電力福島第1原発の地下貯水槽から汚染水が漏洩(ろうえい)した問題で、東電は8日、汚染水の移送完了が当初の11日から数日遅れるとの見通しを明らかにした。漏洩の発覚から3日が経過したが、今も正確な流出量や流出箇所の特定はできていない。地下施設ということもあり真相解明には時間がかかるとみられるが、調査が進む中、不可解な状況も明らかになってきた。(原子力取材班)
【表で見る】 汚染水漏れ公表の経緯
◆わずか1メートル
東電は、5日に漏洩を公表した2号地下貯水槽から漏れ出た汚染水の量について、最大で120トンと推計している。汚染水は土壌に染みこんでいると考えられるが、一方で、これだけの量が漏れ出ていたとすれば、説明がつかないような状況も生まれている。
その一つが、汚染水の漏洩を検知するために設置されている「漏洩検知孔」の水位が異常に低い点だ。
地下貯水槽は粘土質のシートの上に、2枚のポリエチレンシートを重ねた3層で漏水を防ぐ構造になっている。漏洩検知孔はこのうち、粘土質シートとポリエチレンシートの間に穴の開いたパイプを差し込んで作られている。2枚のポリエチレンシートで漏洩があれば、パイプ内に水が入り漏洩を検知できる仕組みだ。
しかし、東電が漏洩検知孔内の水質を調べるため取水を試みたところ、水位は1メートルもなく「取水が困難なほど水位が低い」(東電)状態だった。
それに対し貯水槽の水位は約5・5メートルもある。東電の尾野昌之原子力・立地本部長代理も「大量に漏洩していれば、検知孔の水位は貯水槽の水面と同じレベルにまで上がるはずだ」と首をかしげる。
◆薄まる濃度
3枚のシートには放射性物質を取り除く効果はないとされているが、シートを通過するごとに塩分や放射性物質の濃度が下がっているのも不可解な点だ。
貯水槽に入れられた汚染水は塩分濃度が約1500ppmで、放射性物質濃度は1立方センチ当たり約30万ベクレル。それが、漏洩検知孔で採取された汚染水は塩分が約500ppm、放射性物質が数千ベクレルにまで下がっていた。粘土質シートの外側にあるドレン孔で採取された水の濃度はさらに薄かった。
ドレン孔には地下水も流入するため薄まったと考えられるが、漏洩検知孔は2枚のシートに挟まれており、流入した汚染水が他の水と混じる可能性は低い。
◆隙間から?
こうした中で、東電が示した一つの仮説が、漏洩検知孔の差し込み部分からの汚染水流入−だ。
漏洩検知孔はポリエチレンシートに丸い穴を開ける形で差し込まれている。汚染水を入れた重みでポリエチレンシートが伸び、差し込み口に隙間ができて汚染水が流れ込んだというのだ。汚染水の濃度変化については「工事の施工段階で雨水などが入っていた可能性がある」としている。
一応の説明はつくが、汚染水の大量流出を否定するための、こじつけの印象は否めない。
現場を確認すれば真偽は判明するが、汚染水が入っていたため線量は高く、確認は困難な状況。東電は差し込み部分からの汚染水流入を防ぐため、貯水槽を従来の95%から80%の量に減らして運用することにしている。
【用語解説】地下貯水槽の汚染水
原子炉の冷却に使われて発生する高濃度汚染水は、放射性セシウムを取り除いた後、塩分を取り除いて再び原子炉の冷却に使われる。地下貯水槽にためられているのは、除去された塩分が濃縮された廃水。セシウムは除去されているが、ストロンチウムなどは残っており、タンクなどに保管する必要がある。東電は約60種類の放射性物質を除去できる「多核種除去設備(ALPS=アルプス)」の試験運転を3月30日から始めており、地下貯水槽の汚染水も順次、浄化する予定だった。
最終更新:4月9日(火)10時50分