2006年4月26日、新聞やテレビは一斉に大手食品メーカ「敷島製パン」の健康保険組合事務長の横領に対する名古屋地裁の判決を報じていた。実に横領額は19億円、横領したお金を貢いだ愛人は17名と言う。驚くべき事件だから報道が騒ぐのは当然であろう。
元事務長松林正明被告に対して名古屋地裁の伊藤新一郎裁判長は「自分勝手な動機に基づき、欲望の赴くままに横領を繰り返しており、情状酌量の余地はない。健保制度の根幹を揺るがしかねない犯行で、従業員や社会の衝撃も大きい」として、懲役11年、罰金3000万円を言い渡した。
いくら事務長だからといって、実に19億円が横領されるまで気がつかない健康保険組合は責任を取らされないのか?と疑問に思った人もいるだろうが、私はこれを「男女共同参画の問題」と感じた。
「女性関係」というスキャンダルが時々、起こる。時には女性の側からマスコミなどにたれ込みがあり、それで発覚することもある。そして「女性問題」は男性にとって致命的な打撃を与え、社会から葬り去られる。
そういう時、社会の論調は、
「女性はバカだから、「事の善悪」を判断できないのは当然で、判断はすべて男性の責任だ」
という確信に満ちている。たとえ相手の女性が社会的にしっかりしている人でも、もちろん成人でもこの論調は変わらない。
このようないわゆる「女性問題」というのは
1) 「何も知らない女性」を男性が騙して愛人にする。
2) 男性がお金を貢いで愛人にする。
という場合がほとんどである。
でも、こんな事で男女共同参画などと言えるだろうか?あまりにも当然であるが、女性も一人の社会人であり、善悪の区別も道徳も知っているはずである。そして男女共同参画なら「知らなければならない」ことである。
今回の事務長の事件で言えば、19億円の17人の愛人に貢いだのだから一人1億円になる。「マー、良いわねー」と言わないで欲しい。真面目な話をしようとしているのだから。そして、「女性は社会の道徳を知らず、妻子ある男から1億円をもらって愛人になっても社会から糾弾されない。女性だからそのくらいは良い。」と女性自身が確信しているように見える。
ところで、
疑問―1:税務署はこの17人の愛人から「贈与税」を取っただろうか?
疑問―2:愛人がセックスでお金をもらったとすると売春にはならないのだろうか?
疑問―3:男女が独立した存在なら、セックスではなく、なにもしないのにお金をもらうのは「詐欺」のようなものではないか?
疑問―4:検察はなぜ17人の愛人を逮捕しないのだろうか?
疑問―5:マスコミはなぜ17人の愛人の名前と顔写真をださないのだろうか?
疑問の1に対するコメント
17人の愛人が贈与税を払っていたかは報道されていないのでわからないが、おそらく愛人は自主的には申告していないだろう。もちろん金品を受け取ったのだから贈与税を払うべきだ。そして事件が明るみにでて、愛人が贈与税を申告していなければ「脱税」だから名前を公表するべきである。
疑問の2に対するコメント
売春防止法の第二条には「この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。」とある。この事件の場合、「不特定」ではないから売春ではない。でも、売春の定義を変える方がよい。男女共同参画なのに「お金をもらって特定の相手と性交する」のを犯罪にする方が良い。
疑問の3に対するコメント
男女が独立した大人だとする。男同士の場合「なにもしないのに相手からお金を受け取る」ということは絶対にしない。法的には犯罪にはならないが「私のプライドから言って、何もしないのに金品を受け取る訳にはいきません」という倫理観があるからである。しかし女性の場合は違う。なにもしないのに金品を受け取って良いと思っている場合が多い。その理由は「女性だから」という。
疑問の4に対するコメント
検察は愛人を逮捕すべきである。いくら「愛人が女性でバカだ」と言っても、1億円近い金品をもらい続けるのは公序良俗に反し、刑法の詐欺罪「他人を欺罔し錯誤に陥れさせ、財物を交付させるか、または、財産上不法の利益を得ることによって成立する犯罪 (刑法246条)。10年以下の懲役に処せられる。」からである。
疑問の5に対するコメント
マスコミは「女性蔑視」である。「愛人は男に騙された」という受け止め方であり、従ってこの種の事件では、どちらかというと愛人は被害者であり、犯罪人ではないという立場である。でも、未成年ならすこし別だが、立派な大人の女性なら行為に対する責任はある。妻子ある男性から1億円近い金品を受け取ることが倫理に悖る行為である事ぐらいは社会的に糾弾して良い。
愛人事件、女性問題が跡を絶たないが、私はこの種の事件ほど男女共同参画を進める上で困るものはないと思う。事件そのものも、そして事件の処理の仕方も明らかな女性蔑視だからである。
今後、次のようにしたらどうだろうか?
1) 愛人事件や女性問題は、男性が暴力をふるったという場合を別にして女性も本人の意志で愛人になったのだから、男の名前が報道されるときには必ず女性の名前も報道する。
2) 売春防止法、刑法を改正し、愛人事件の行為自体を犯罪にする。
3) 不当に受け取った金品は愛人が弁済する(この事件の場合、愛人が健康保険組合に対して弁済責任を負う)。
愛人の名前を報道すれば女性の方はかなり神経質になるだろう。公表しても人権問題にはならない。倫理に悖るのだから。男性の場合、すこしでも倫理に悖れば法律で罰せられる前に報道される。女性も同じ方が良い。
不当に受け取った金品を返済する義務を負えば、「もらったお金はどこから来たのか?」を知らなければならない。「わたし、なーんにも知らないのよ」というわけにはいかなくなる。
かくして世に「愛人事件」は激減するだろう。それは女性の希望なのだろうか?
男女共同参画とは、男性と女性が共に独立した人格として誇りを持つ存在でなければ成り立たない。アメリカやヨーロッパのように結婚しても女性が従属的であり、夫の給料の一部を「生活費」として妻が支給を受けるという状態では独立した人格とは言えない。
幸い、日本では結婚したら夫の収入は妻に全額渡る。特に給与が銀行振り込みになっていて、預金通帳を妻が持っている事が多いが、男女共同参画には全く望ましい。家庭は家計を一つにし、男女が共に財産を共有するのが本当である。結婚というのは妻が性を提供するから、その代わりに生活費をもらうのではない。
そして結婚していない男女の交際もまた、お互いに対等で独立した人格であることを前提に、基本的には女性が金品をもらったら犯罪であるという社会風土を作ることが男女共同参画の第一歩ではないだろうか?
おわり
武田邦彦
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