【ＢＯＸ】八重樫、２階級制覇！五十嵐との流血乱打戦勝利

９回、八重樫（左）の左フックが五十嵐の顔面をとらえる

　◆報知新聞社後援　ワールドプレミアムボクシング　トリプル世界タイトルマッチ　▽ＷＢＣ世界フライ級戦　○八重樫東（判定　３―０）五十嵐俊幸●（８日、東京・両国国技館）　ＷＢＣ世界フライ級６位の挑戦者・八重樫東（３０）＝大橋＝が因縁の日本人対決を制し、２階級制覇を達成した。チャンピオンの五十嵐俊幸（２９）＝帝拳＝を相手に序盤から積極的にパンチを出し３―０の大差判定勝ち。ミニマム級に続く世界王座奪取に成功した。世界再挑戦のＷＢＣ世界スーパーフェザー級１０位の三浦隆司（２８）＝帝拳＝は、同級王者ガマリエル・ディアス（３２）＝メキシコ＝を自慢の左で４度ダウンさせ９回ＴＫＯ勝ち。悲願の王座獲得に成功した。

大橋会長（左）らジムの面々と喜ぶ八重樫

　右拳を突き上げ、八重樫が勝利の雄たけびを上げた。３人のジャッジが、５、７、９ポイント差をつける圧勝劇。緑色のベルトを手に「これ、夢じゃないですよね…」と言う八重樫に大橋秀行会長が手助けし、頬をつねって「夢じゃないぞ」と伝えた。

　白地のトランクスが真っ赤に染まる流血戦を制した。初回から姿勢を低くし、ガードを固めて長身の王者の懐に飛び込んだ。身長差で６センチ、リーチで９センチも上回りスピードと左のカウンターを武器にする王者を、接近戦で追い詰め、かき回し惑わせた。体を激しくぶつけ合う乱打戦で、五十嵐が両目の上、八重樫は右目上を切った。

　因縁があった。王者との対決は、０４年アテネ五輪の日本代表選考会で対決した０３年以来。大学時代は４戦４敗。「タイトルよりも五十嵐に勝つ。男のプライドをかけた」。“アマ時代の亡霊”をプロのリングで、５度目の対戦で消し去った。昨年６月に井岡一翔（井岡）とのＷＢＣ・ＷＢＡミニマム級統一王座戦での世紀の王座陥落から、ウエートを２階級上げて返り咲きを決めた。

　「絶対に勝てない」と覚悟した試合の１か月半前に光明が差した。大橋会長の現役時代のライバルで元ＷＢＣ世界ライトフライ級王者・張正九（韓国）のＤＶＤを見てサウスポー対策のヒントを得た。下から飛び込んで、左右のパンチで潰す“張スタイル”で勝負をかけた。４、８回の公開採点でともに３―０で上回って勝利を確信。フィジカルトレーナーの土居進氏の指導で作った「疲れても動ける体」で最終ラウンドでも腕と足を一度も止めず王者を圧倒。「最終ラウンドはＫＯも狙った」と、八重樫は腫れた目に笑みを浮かべた。

　両肩や膝など多くのけがに悩んだ３年前、大橋会長から「もう辞めた方がいい」と引退勧告を受けた。八重樫は「可能性をすごく感じた。３０歳でももっともっとできるんだと分かった」。将来的な野望、３階級制覇へ向け走り出す。

　◆帝拳ジムの日本人対決　五十嵐対八重樫戦で２度目。「外国人選手と戦ってこそ世界タイトルマッチ」の方針を持つ。過去、唯一の日本人対決は１９７２年、ＷＢＡ世界フライ級王者の大場政夫（故人）が挑戦者に花形進を迎えた３度目の防衛戦。また、同一ジムの所属３選手がトリプル世界戦興行にそろって出場したのは初の試み。

　◆八重樫　東（やえがし・あきら）１９８３年２月２５日、岩手・北上市生まれ。３０歳。黒沢尻工高でボクシングを始め、拓大を経て０５年３月にプロデビュー。１１年１０月、ＷＢＡ世界ミニマム級王者ポンサワン（タイ）をＴＫＯで下して王座奪取。昨年６月、ＷＢＣ王者・井岡一翔（井岡）との２団体王座統一戦に敗れ、フライ級に転向。身長１６１センチの右ボクサーファイター。プロ戦績は１７勝（９ＫＯ）３敗。家族は妻・彩さん（２９）、長男・圭太郎くん（７）、長女・志のぶちゃん（２）、第３子が９月に誕生予定。