企画特集1【再発見 森の魚たち 山の水族館の挑戦】
(4)温根湯 息吹き返した
■にぎわい波及、経済効果も
「おんねゆ温泉 山の水族館」のリニューアルは、地元経済にも好影響をもたらした。
水族館が寄り添う温根湯温泉は明治時代に開かれ、林業の盛んな地域にある温泉観光地としてにぎわってきた。約60キロ離れた層雲峡と、知床や網走、阿寒湖方面を結ぶバスツアー客らが立ち寄った。
しかし、札幌や旭川から伸びた高速道路網は、温根湯近くに達しなかった。北見市留辺蘂総合支所に残っている資料では、観光客は1994年度以降、98年度の94万人をピークに減少傾向。いま、温泉街には空き店舗も目につく。
そうした中、昨年7月に水族館は生まれ変わった。爆発的な集客力は、温根湯温泉地区の観光客入れ込みに息を吹き返させた。昨年7〜9月は約30万4600人と、前年度同期に比べてほぼ倍増したかたちとなった。
「人気の高まりは道内のお客さんが支えてくれた」。おんねゆ温泉観光協会会長で、老舗の温泉旅館「大江本家」の大江友広社長(54)は、水族館への道外からの客はゴールデンウイーク以降に増えるとみている。「旅行業者にも知られてきた。魅力があれば、温根湯に滞在してくれる」。後押ししようと、水族館のファンクラブ設立も検討中だ。
北見市が札幌のシンクタンク「北海道二十一世紀総合研究所」に委託した試算では、リニューアルによる市内への経済波及効果は最大で約25億円が見込まれている。水族館の出口に直結している物販店の売り上げは従来の約4倍に伸び、市内の印刷会社には、土産品に貼る値札づくりの注文が増えた。
温根湯温泉地区を貫く国道39号沿いの和洋菓子店「ふじや菓子舗」は、水族館の写真を包装に使った「白花かすてら」を製造、物販店に卸している。リニューアル後は、「足りなくなりそうだから早く持ってきて」と売り場から催促が飛んでくるようになった。
「遠軽町丸瀬布まで伸びてきた高規格道路は温根湯を通らない。札幌方面からの観光客が減ることを心配していた」と経営者の藤田俊博さん(76)。「いいかたちで水族館が新しくなってくれた」と胸をなでおろす。
山の水族館では、温泉地周辺ならでの取り組みも実施している。おんねゆ温泉郷の源泉近くのビニールハウスに水槽を並べ、けんかして傷ついた魚や、稚魚などを温泉で育てる「湯治場」を設けている。水温は25度ほど。温泉の中で過ごす魚たちは大きく育つ傾向があるそうだ。
温泉効果と成長の因果関係は科学的にはっきり分かっておらず、北大水産学部の足立伸次教授(魚類繁殖学)は「適温の範囲内なら、高めの方が成長が早くなる。ただ、温泉の効果については研究データがそろっていないのでは」と言う。「このあたりの温泉は成長を早める」と誇らしげな山の水族館主任、佐藤圭一さん(33)は、「温泉と成長」の解明に取り組むつもりだ。
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朝日新聞北海道報道センター
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