金属加工メーカーに勤務していた亀井充さん(仮名、38)は、正社員として3度のリストラ経験がある。もともと研究開発職だったが、「仕事が遅い」「使えない」などと言う上司とそりがあわず、退職を余儀なくされた。同業他社に転職すると、今度は「丁寧に仕事をする必要はない」と責められて辞め、その次の職場では工場勤務を命じられた後に、工場が閉鎖されるという憂き目にあった。独身の亀井さんは、1年間ほぼ毎日ハローワークに通う時間があるものの、職は見つけられずにいる。亀井さんは言う。
「自分に問題があるのかもしれないが、自分ではそれが分からない。いつの間にか辞めてくれという話がまとまっていて、そうなるともう逆らえないんです」
日本IBMの労働組合である「JMIU日本アイビーエム支部」の石原隆行書記次長は、「現在のリストラは、巧妙で組織的なのです」と明かす。
「特定の人を“座敷牢”に隔離して追いこむようなことはしません。年度ごとに業績評価を行い、下位15%程度を自動的に辞めさせる仕組みを作ります。それに沿って、毎年淡々と進めていくのです」
日本IBMでは、'08年10月から社員1万6000人中1000人超を削減するリストラ策「リソースアクションプログラム」を進めた。このプログラムでは、リストラ対象者に、上長や理事、役員から執拗に面談が実施され、PBCと呼ばれる業績評価をもとに、退職を迫った。
「初回の面談で『4点セット』が配られます。それは、業績が悪くPBC評価が下がるという通告、『特別セカンドキャリア支援プログラムの案内』と題した紙、再就職斡旋会社のパンフレット、今後も1週間に1度程度の面談を行うという通告の四つです。面談の後は、低評価を予告するメールが届きます」(石原氏)
メールのCCには、ラインの上長や人事部長、役員の名前が記載されている。進退の状況はすべて会社に把握されているというわけだ。そして、首尾良く“人減らし”に成功すると、それを実行した上司自身の「評価」にもつながる。ラインの上長には何人達成するというノルマが課せられているのである。
こうしたリストラ策は、「全世界を対象に最適なリソース(人材)を低いコストで調達する」という米IBMの計画の一環として行われたもの。「総人件費が一定なので、人件費の高い日本は、その分、人の数を減らすことになる。人件費の安いインドや中国のエンジニアとの競争を強いられるのです」(石原氏)
個人の能力ではどうしようもない要因によって、クビを切られる時代になったというわけだ。しかも、こうしたリストラは外資系企業特有のものではなくなっている。前出の城氏は、こう話す。
「国内の大手企業でも、過去の成績に基づいて粛々と進めていくことが多い。評価A以上は残す、評価B以上はなるべく残す、評価Cだったら半分は切るといった基準で見て、そのなかで、置き換えが利く人材かどうかを決めていくのです」
では、図らずもリストラの対象者に選ばれてしまったら、どうすればいいのだろうか。労働問題に詳しい山内一浩弁護士は、こうアドバイスする。
「整理解雇なのか、合意退職なのかをはっきりさせることが基本です。整理解雇の場合は、解雇を回避する努力が尽くされたか、人選などが合理的か、事前協議は尽くされたか、解雇しなければならない経営状態にあるかという4要件を満たさなければ、解雇は有効になりません。合意退職の場合は、労働者の合意が必要ですから、『辞めません』と言い続ければいいのです」
一方、城氏は、転職を視野に入れてスキルを磨いておくことも必要だと語る。
「海外の安い人材に代替できるようなルーチンな仕事ではなく、付加価値の高い業務スキルを身につけることが大切になるでしょう。キーワードは『交渉』。各部とのネゴや顧客とのコミュニケーションが求められる仕事は、置き換えがしにくいことから会社に残りますし、転職後に生かせるスキルになります」
30代のリストラ時代を生き抜く術を身につけておきたい。
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