◇毎日新聞論説委員・中島哲夫
今週始めの4月1日、私の勤め先のパソコンに、北朝鮮の小学生たちの写真が送られてきました。
日本の主な新聞社やテレビ局は北朝鮮の国営報道機関と契約し、先方が宣伝の目的で送ってくる写真をチェックしています。ニュース価値があると判断すれば新聞やテレビで紹介するし、そうでない場合でも北朝鮮の実情を推測するヒントにはなるのです。
さて、小学生の写真は4枚で子どもたちは新入生。制服は紺色の上着と男子がズボン、女子はスカート。校庭に並んだ1年生の後ろにはお母さんたち。朝鮮式の「チマ・チョゴリ」を着た女性の先生もあちこちに見えます。
教室で子どもが机の上に本を広げ、手を挙げている場面もあります。
この写真だけを見て「北朝鮮は変な国」と思う人はいないでしょう。
でも、この学校は北朝鮮でも特別に恵まれた地域にあります。貧しい地方には栄養状態が悪いせいで重い病気になる子どもや、道に落ちた食べ物の切れ端を拾って食べる子どもさえいるそうですから、とんでもない差別です。
そして、新入生の写真が届いたのと同じ日に送られてきた8枚の写真は、全く異質のものでした。それは北朝鮮を支配している朝鮮労働党の重要な会議の写真で、自信満々の若い最高指導者・金正恩第1書記をはじめ大勢の有力幹部たちが集まっています。
この会議で幹部たちは「今後も核兵器をどんどん作り、強くしていく」という、怖い方針を決めたのでした。
同じ日に届いた2種類の写真にはどんな狙いが込められていたのでしょうか? 「わが国の子どもたちは幸せだ。苦しんでなどいない」という宣伝と、日本や韓国、アメリカを脅す狙いがあったのは間違いないでしょう。
こんな恐ろしい集団に引きずられている国民たちはとても気の毒ですが、今のところ打つ手はなさそうです。
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関西と九州で事件などの取材を10年、次に国際ニュースを18年担当。韓国とアメリカで12年暮らした。北朝鮮でも7回取材した。ただし、国際派というより農村出身の自然愛好派。