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ラジオの将来 暮らし守るインフラに 04月07日(日)

 政府と民間放送業界が検討を進めてきたラジオのデジタル化計画が頓挫した。

 巨額の経費がかかることから、業界が二の足を踏んだ。日本民間放送連盟(民放連)は先日の理事会で、全局一斉の形では実施しないことを決めている。

 デジタル化を前提にしてきた電波行政も宙に浮いた形になった。政府は新たな対応を迫られる。

 この機会をとらえ、ラジオの将来についてあらためて考える。

   <聞く人が減る中で>

 新聞、テレビ、インターネットなど数あるメディアの中でいま、ラジオの存在感はまことに薄い。NHKの調査では、NHK、民放を合わせたラジオ全体の週間接触率(聴取率)は36・5%。1週間の間に少しでもラジオを聞いた人は10人のうち4人もいない、という結果である。

 経営も厳しい。民間ラジオ局の年間広告収入は1246億円(電通調べ)。この10年で3割以上減った。総額は雑誌の半分、ネットの7分の1である。

 デジタル化の経費は全局合わせて1200億円程度と見込まれていた。広告収入に匹敵する額が必要になるのでは、業界の腰が引けるのも無理はない。

 デジタル化すると混信が減り、音質も良くなるという。文字、画像の配信など多様なサービスができるようになるともいう。

 ただし受信機の買い替えが必要だ。デジタル化は国民負担が避けられない政策でもあった。

 政府、業界はデジタル化のメリット、デメリットをしっかり説明しないまま計画を進めてきた。デジタル化は棚上げ、ラジオは買い替えなくて大丈夫、と言われても、ピンとこない人が多いのではないか。一連の経緯には電波行政の国民不在ぶりものぞいている。

   <震災で再び注目が>

 東日本大震災ではラジオがあらためて見直された。停電でテレビが見られなくなり、インターネットや携帯電話が通信集中などにより通じにくくなる中、ラジオは被災した人々に安否や細かな生活情報を提供し続けた。

 総務省の調査では、被災者に対し道路網が寸断された震災直後に役立ったメディアを聞いたところAMラジオが60%でトップ、次いでFMラジオの39%だった。

 震災のあと岩手、宮城、福島3県では、臨時災害FM局がたくさんできた。地域の人々に情報を伝えるため、市町村が主導して開局した例が多い。

 広告収入がなく、地元住民がボランティアで関わっている場合がほとんどだ。政府は電波使用料の免除、運営市町村への交付税措置といった支援策をとってきた。

 復興には時間がかかる。東北3県の災害FM局の多くが恒久的なコミュニティーFMへの衣替えを目指している。政府は引き続き後押ししてもらいたい。

 コミュニティーFMは市町村など狭い範囲を対象とする局で、1992年に制度化された。長野県内では95年の「FMぜんこうじ」を皮切りに7局が開局している。災害の時には力を発揮してくれるだろう。大事にしたいメディアの一つである。

 ラジオの強みは小回りが利き、きめ細かな配慮ができるところにある。阪神大震災のときは関西在住の外国人向けのラジオ局、関西インターメディア(愛称FMCOCOLO=こころ)が開局した。英語、中国語、韓国・朝鮮語、タイ語など14の言葉で、ニュースや生活・娯楽情報、大使館からのお知らせを提供した。

 FMは届く範囲が狭い半面、放送設備は小さくて済む。京都市では特長を生かして、日本初のNPO法人運営のFM局が10年前にスタートしている。

 総務省は地域ラジオの開局をもっと後押しすべきだ。電波の有効活用や放送局の経営を重視する旧来の電波行政から抜け出して、暮らしを守るインフラを強化する発想に転換するときだ。

   <時代が求める役割>

 テレビがなかったころ、ラジオは政府が国民に直接働きかけ、国民を統合するメディアとして使われた。1928年に始まったNHKのラジオ体操は、当時の逓信省が計画し国の費用で普及させた事業だったという。

 45年の昭和天皇の玉音放送は敗戦を国民に告げ、戦後体制への地ならしをした。ラジオには戦争の歴史も刻み込まれている。

 社会がラジオに求める役割はこれからも変わっていくだろう。市民参加の番組がもっとあってもいい。政府も放送業界も時代の要請に敏感であってほしい。

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