3 ドブ川は川なのか
「ドブ川」とは何であろうか。
多摩川をドブ川と呼ぶ人はいないが、渋谷川をそう呼ぶ人はいる。
自宅の近所を古ぼけた水路が通っているとき、これは間違いなくドブ川といわれる。私たちはこれらをどういう基準で使い分けているのだろうか。
ドブ川という言葉にははっきりした定義はないが、ぼんやりとしたイメージはある。それはだいたいこのようなものだろう。
・開放的で自然な感じの川→川
・閉鎖的で落ちたら怖い感じの川→ドブ川
・ドブ川の小さいもの→ドブ
渋谷川がドブ川と呼ばれることがあるのはその形状が閉鎖的だからで、多摩川の場合は河原があって開放感があるためにそう呼ばれないのだと考えることができる。昔はドブは「溝」という字をあてていたことからも分かるように、「ドブ」とは人工的な溝を指し示しているものとみてよい。
実際は、さらにここに「水の量と汚さ」という観点が加わる。
・きれいで水の量が多い→川
・汚くて水の量が多い→ドブ川
・水の量が少なくて清濁がわからない→ドブ
人々はこれらの要素をフィーリングで判断して、「ドブ川」とか「ドブ」と呼び習わしていると考えられるが、このようにあいまいに捉えられていることがドブ川の実体を分かりにくくしているともいえる。ドブ川を訪ね歩く身としては、ここのところの定義をはっきりさせたい。
そこで法律ではどう分類しているのか調べてみた。ドブ川は人工的な手がかなり入った川なので、法律でどのように分類されるかによって存在の仕方がまるっきり変わってしまうからである。水の流れている場所を法律別に分類するとこうなる。
①河川法に基づく「河川」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(一級河川、二級河川、準用河川)
②下水道法に基づく「下水路」扱いの川・・・・・・・・・・・・(都市下水路)
③農業用水条例や工業用水条例に基づく「用水路」・・(農業用水など=一種の上水道)
④道路法に基づく「側溝」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(道路のわきの側溝=道路の施設の一部)
⑤その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(普通河川など)
こうしてみると川というものが縦割り行政で管理されていることがあからさまになってしまうのだが、ドブ川探索は縦割り管理の隙間を楽しむ行為なのでそれは別によい。それよりも困るのは①の考え方がややこしいことである。
河川法は河川の法律といいながら、治水上重要な河川しか対象にしていない。つまり一級河川(国が管理する川)、二級河川(都道府県が管理する川)の2種類である。
その他の川は河川法では管理しない川ということになるが、そこそこ大きくてほったらかしにできない川もあるので、そのような川を「準用河川」として市役所に管理させている。「準用」とは、「河川法では関知しないけど、準じて似たような感じで管理してくださいね」といったほどの意味である。
さらにこの下に準用河川にもしてもらえなかった「普通河川」というものが存在する。前出の分類では⑤の「その他」にあたる。世間一般に「ドブ川」と呼ばれているものの多くはこのカテゴリーに入る。
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普通河川は名前は「普通」だが、実際は一級にも二級にも準用河川にもなれなかった最底辺の河川である。これは急行や準急が走る鉄道路線における「普通」、特上寿司や上寿司がある寿司屋における「並」寿司のポジションと同じとみてよい。
普通河川はどの法律の分類からもこぼれ落ちてしまった隙間的な川であるが、川である限り水があふれたり護岸が壊れたりするので、そういう時は市役所が直す。たいてい幅が狭く、水は少なくて汚く、変な藻が生えている。くさいし子供が落ちたら危ないから、といった理由でフタをされて暗渠にされることも多い。
ドブ川のエッセンスはこの普通河川にある。都会では下水道の普及もあって昔の目黒川のような真っ黒なドブ川にはなかなかめぐり合わないが、郊外の普通河川には昔ながらの古いドブ川が残されている。都会の親水公園化されたこぎれいな川とは対極をなす「古典派ドブ川」といえる。古典派ドブ川を探すコツは三つある。
①下水道普及率が低い
②水はけの悪い低地である
③昔からの古い住宅地である
特に①は有力な手がかりになる。
古典派ドブ川を探したいときは、その地域の市の下水道普及率を調べて、低い場所から順番に回るとよい。ちなみに国土交通省が発表する全国の河川の水質ワーストランキングなどを見てもまったく役に立たない。一級河川しか対象にしていないからである。国土交通省も私のような物好きのために水質ランキングを発表しているわけではないのであるが、古典派ドブ川を探したいのなら、下水道普及率を見るのが一番手っ取り早い。
全国の下水道普及率(平成21年度末 日本下水道協会のページ)
(追記)
ドブ川雑記帳30 公共溝渠と普通河川と水路はどう違うのか(上):普通河川について詳しく知りたい方はこちら。