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情景描写と取材
 小説を書くにあたっては、必ず情景描写というものが必要になります。漫画やアニメ、ドラマのように、説明しなくともどんな場所にいるか、どんな季節なのか、といった情報を伝えることが、文字だけの世界では出来ません。
 登場人物が話している場所がどこにあるか。それによっても雰囲気が全然違ってきます。同じ台詞でも、例えば夜の廃校舎と夜の川辺などでは、なんとなく怖い雰囲気なのとロマンチックなのとで違ってきます。
 できるだけ、書き手と読み手の思い描いている背景が同じになるようにしないと、小説の印象が違ってきます。なので、必要な情報はしっかりと入れていかなければなりません。
 情景描写には季節|(月日)、時間、場所、天候などが挙げられますが、それらを一気に詰め込んでしまうと、逆に分かりづらくなってしまいます。そのため、情景描写の取り入れ方には案外苦労するものです。

 私は情景描写を取り入れるのが結構苦手で、とりあえず季節と時間、場所くらい書いて終わらせてしまいます。それだと、いろいろと情報が少なすぎて、書き手と読み手の認識に違いがでてきますよね。
 もう一つ、情景描写というと、どうしても視覚だけに頼ってしまいます。視覚のみで書くのは、案外楽なのです。想像上でいろいろと設定できますし、インターネットで資料をひろって、写真を見ながら書いていく、ということもできるからです。
 しかし、情景描写は別に視覚だけではない、ということが、いろんな小説を読んでいると分かると思います。たとえば、お祭りの会場だと、屋台のいいにおいがあったり、花火や太鼓の音が聞こえたりといったことが挙げられます。
 このように、情景描写は五感を駆使して描くことで、よりリアリティある情景を、読み手に与えることができます。

 ところが、視覚以外の情報というのは、なかなか描くのが難しいものです。前述の通り、視覚による描写はいろんな手段で簡単に書くことが出来ますが、他の五感、例えば嗅覚や聴覚といったものを使うとなると、実際に書こうとしている場所に近い現場に行って、体感してみる必要があります。
 短編「夕焼けクローバー」という作品を書くに当たって、舞台となる「河川敷」がどのようなものか、それを確認するため、自転車で近くの川に行ってみることにしました。たいしたことはないですが、「取材」というものですね。
 実際はクローバーが河川敷にどのように生えているか、階段などはどういう風にあるのか、などの確認をしたかったのですが、いざ現場に行ってみると、いろんなことに気が付きます。
 川の土手では桜の木が並んでいますし、春なので花びらも散っている。生えている雑草の中にも、タンポポやオオイヌノフグリといった、自分でも知っている草花が生えている。桜の木の下では3人の親子が花見をしていましたし、釣竿を持った少年や大人が河川敷のそばを歩いている。川と反対側は、最初は建物があったのに、徐々にそれが田んぼに変わっていく。しばらくすると大きな国道が走る橋があるし、遠くからは電車が走る音がする。土手の道路は、トラック一台がぎりぎり通れる幅で、自転車も何台か通っている。空き缶などのゴミは落ちているし、それを近所の人が拾ったり、草を刈ったりして清掃活動がされている。工事中の看板も見える。クローバーは、雑草の中にも小さな集団をつくっている。
 よくよく考えれば当たり前の情報もあるのですが、それがいざ情景描写を書こうとなると、案外抜けているものです。

 後は、これらの情報を小説に盛り込んでいくのですが、これを一気に書き並べ立てると、後半どんな情景だったか忘れてしまうのではと思います。情景描写ばかりだと、読むほうも読みにくいでしょうし。
 私の場合、まずは絶対に頭に入れておいて欲しい情報は最初に入れています。具体的には、人物がどこにいるのかの「場所」、それがいつなのかの「時間」、そして「季節」ですね。
 その後に、台詞をはさみながら「天気はどうなのか」「周囲の状況はどうなのか」などを随所に入れていきます。時間が経ったり、移動したりすると変わるものもありますから、それも時々入れていきます。
 こうして、おそらく今まで作った小説で唯一取材を行った小説、「夕焼けクローバー」が出来ました。
 とにかく時間の進行をゆっくりするために、上記の情報を随時にがんがん取り入れた形となり、「これは入れすぎかな」とも思いましたが、案外この情景描写の取入れが良かったみたいです。感想でも情景描写についてのことが書かれていました。

 何でもそうですが、やはり実際に体験してみることが大切なのでしょう。たとえこの地球上にない異世界を描くとしても、読者が想像しやすいのはリアルにある世界観です。情景描写を書くのに困ったら、イメージに近い場所に行ってみること。是非とも、「情景描写取材」をやってみてください。


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