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-100K その2
熱は温度が高いものから低いものへ流れるのが普通。
だがどうしてなんだ?
いやいや実はそうではない例もある、その事を説明するのがこの連載記事の目的である。それが負の温度なのである。熱力学では絶対零度が温度の下限であると習ったことはないだろうか。それでは負の温度は熱力学と矛盾するのだろうか。いや急いで結論を出さないで欲しい。じっくりと行こう。
さて負の温度の話であるが、実は負の温度の物質は熱いのだ。火傷するほどに熱い。それどころか灼熱の鉄よりも熱く、どんな高い(正の)温度の物質でも温めてしまうのだ。すると負の温度っというのは正の温度の上にあるわけか。まあそう言えなくもない。本当にSFのネタに使えそうな話だが、ちゃんとした科学的根拠があるのだから驚きである。

ところでこの記事、4回程度のシリーズになる予定である。これが第二回目なので、残り二つの記事で負の温度の正体を暴こうというわけだ。私自身一気に説明してしまいたいのだが、やはり面白い話はじっくりといった方がいいだろう。今回は通常の熱力学または統計力学で負の温度にお目にかからない理由を説明しておきたい。突飛な話をいきなりするよりも基本に立ち返っておくのが近道になる事は多々ある。なぜ通常は負の温度を考えては駄目なのかという事を理解しておけば新たな可能性が見えてくるであろう。
統計力学の知識がない読者はここから少しきつい。読んでもらった人全てにわかるように説明したいのだが数式を使わない説明が思い浮かばないので勘弁してほしい。
と一応ことわりを入れておいて....
突然であるが分配関数を使って考えたい。これもまた説明をしだすと更に記事が10回くらい増えるので統計力学をやった事がない読者は読み飛ばしてもらしかないだろう。分配関数Zは次の式で与えられる。
Z=Σn e-En/T
この関数の性質などは知る必要がない。兎に角この関数が統計力学の全てなのだ。ここでは温度T[K]とエネルギーEnがeの肩に乗っているのがZだな・・・と分ってもらえればそれでよい。さて分配関数というのは 可能なエネルギーEnに関して和をとりなさいというわけだ。例として古典的粒子の場合には可能な運動エネルギーの値を
E1=1 [J]
E2=2 [J]
E3=3 [J]
......
E∞=∞ [J]
と取ってeの肩に乗せて和を取ってやればよい(エネルギーが連続なら和は積分になるが本質は変わらない)。運動エネルギーは上限がないから、Eには無限大が入ることもできる。それでも分配関数はE=∞の時に
e-∞/T = 0
となるので答えが発散したりはしない。可能なエネルギーの値を任意にいれて和をとっても分配関数はしっかりと定義されているというのが統計力学で習う事だ。
さてこの議論実は温度Tが負だと困った事になる。何故ならT<0の場合には
e-∞/T = e∞/|T|=∞
となって発散してしまうからだ。統計力学が潰れてしまう。だから負の温度を導入したらまずいのだ。ところが、この議論少し修正すればT<0でも分配関数が定義できるのだ。上の文章の赤い線の箇所をもう一度読んで欲しい。分配関数には「可能なエネルギー」の値を入れて和を取るのだ。その際理論的には統計系が取りうるエネルギーの上限がないため、E∞=∞という値も分配関数に代入される。その時に分配関数が発散しないためには温度が正でなければならないと言うのが通常の物質の場合に当てはまる温度が正でなくてはならない理由なのだ。
だがまてよ。取りうるエネルギーの上限がないというのは本当だろうか? そう思う読者もいるだろうが、通常粒子を加速すればエネルギーはいくらでも増えてゆくから理論的なエネルギーの上限は無限大でよい。しかしそうでもない場合もあるのだ。粒子の運動エネルギーは加速すれば増えるが、世の中には運動エネルギーが無視できるような熱力学的な系もあるのだ、つまりエネルギーの上限が決まった物質だ。そういった系の具体例は例えばスピン1/2の系に磁場をかけたようなものがある。エネルギー状態は二準位しかないためこういった系にはエネルギーの上限が存在する。すると
E≦有限な上限
となるのでもう分配関数の値が発散する心配はない。こういった系では温度が負になっても何の問題も起きない。なぜならEには上限があるのでe-En/TはTが負であっても発散する事はないのだ。Eの上限が∞大だったらこうはいかないのである。
なんとなく分ってもらえただろうか。エネルギーの上限があるなら温度が負でも分配関数が発散しないので負の温度の可能性があるというわけだ。そして実際そういう系はあるということを説明するのが次回である。マイナス温度なのに熱い物質・・・そんなわくわくする話が生まれてくる背景には分配関数が定義できるような少しばかり特殊な系を考える必要があるわけである。とはいっても全く不可能な話でもないというところがいいのである。次回から数式もっと入ってきます。科学だから無理に数式を避ける必要もないのだが。
だがどうしてなんだ?
いやいや実はそうではない例もある、その事を説明するのがこの連載記事の目的である。それが負の温度なのである。熱力学では絶対零度が温度の下限であると習ったことはないだろうか。それでは負の温度は熱力学と矛盾するのだろうか。いや急いで結論を出さないで欲しい。じっくりと行こう。
さて負の温度の話であるが、実は負の温度の物質は熱いのだ。火傷するほどに熱い。それどころか灼熱の鉄よりも熱く、どんな高い(正の)温度の物質でも温めてしまうのだ。すると負の温度っというのは正の温度の上にあるわけか。まあそう言えなくもない。本当にSFのネタに使えそうな話だが、ちゃんとした科学的根拠があるのだから驚きである。
ところでこの記事、4回程度のシリーズになる予定である。これが第二回目なので、残り二つの記事で負の温度の正体を暴こうというわけだ。私自身一気に説明してしまいたいのだが、やはり面白い話はじっくりといった方がいいだろう。今回は通常の熱力学または統計力学で負の温度にお目にかからない理由を説明しておきたい。突飛な話をいきなりするよりも基本に立ち返っておくのが近道になる事は多々ある。なぜ通常は負の温度を考えては駄目なのかという事を理解しておけば新たな可能性が見えてくるであろう。
統計力学の知識がない読者はここから少しきつい。読んでもらった人全てにわかるように説明したいのだが数式を使わない説明が思い浮かばないので勘弁してほしい。
と一応ことわりを入れておいて....
突然であるが分配関数を使って考えたい。これもまた説明をしだすと更に記事が10回くらい増えるので統計力学をやった事がない読者は読み飛ばしてもらしかないだろう。分配関数Zは次の式で与えられる。
Z=Σn e-En/T
この関数の性質などは知る必要がない。兎に角この関数が統計力学の全てなのだ。ここでは温度T[K]とエネルギーEnがeの肩に乗っているのがZだな・・・と分ってもらえればそれでよい。さて分配関数というのは 可能なエネルギーEnに関して和をとりなさいというわけだ。例として古典的粒子の場合には可能な運動エネルギーの値を
E1=1 [J]
E2=2 [J]
E3=3 [J]
......
E∞=∞ [J]
と取ってeの肩に乗せて和を取ってやればよい(エネルギーが連続なら和は積分になるが本質は変わらない)。運動エネルギーは上限がないから、Eには無限大が入ることもできる。それでも分配関数はE=∞の時に
e-∞/T = 0
となるので答えが発散したりはしない。可能なエネルギーの値を任意にいれて和をとっても分配関数はしっかりと定義されているというのが統計力学で習う事だ。
さてこの議論実は温度Tが負だと困った事になる。何故ならT<0の場合には
e-∞/T = e∞/|T|=∞
となって発散してしまうからだ。統計力学が潰れてしまう。だから負の温度を導入したらまずいのだ。ところが、この議論少し修正すればT<0でも分配関数が定義できるのだ。上の文章の赤い線の箇所をもう一度読んで欲しい。分配関数には「可能なエネルギー」の値を入れて和を取るのだ。その際理論的には統計系が取りうるエネルギーの上限がないため、E∞=∞という値も分配関数に代入される。その時に分配関数が発散しないためには温度が正でなければならないと言うのが通常の物質の場合に当てはまる温度が正でなくてはならない理由なのだ。
だがまてよ。取りうるエネルギーの上限がないというのは本当だろうか? そう思う読者もいるだろうが、通常粒子を加速すればエネルギーはいくらでも増えてゆくから理論的なエネルギーの上限は無限大でよい。しかしそうでもない場合もあるのだ。粒子の運動エネルギーは加速すれば増えるが、世の中には運動エネルギーが無視できるような熱力学的な系もあるのだ、つまりエネルギーの上限が決まった物質だ。そういった系の具体例は例えばスピン1/2の系に磁場をかけたようなものがある。エネルギー状態は二準位しかないためこういった系にはエネルギーの上限が存在する。すると
E≦有限な上限
となるのでもう分配関数の値が発散する心配はない。こういった系では温度が負になっても何の問題も起きない。なぜならEには上限があるのでe-En/TはTが負であっても発散する事はないのだ。Eの上限が∞大だったらこうはいかないのである。
なんとなく分ってもらえただろうか。エネルギーの上限があるなら温度が負でも分配関数が発散しないので負の温度の可能性があるというわけだ。そして実際そういう系はあるということを説明するのが次回である。マイナス温度なのに熱い物質・・・そんなわくわくする話が生まれてくる背景には分配関数が定義できるような少しばかり特殊な系を考える必要があるわけである。とはいっても全く不可能な話でもないというところがいいのである。次回から数式もっと入ってきます。科学だから無理に数式を避ける必要もないのだが。
コメント
はじめまして
記事読ませて頂きました。僕は今大学3年生で、ちょうど前期の統計力学で負の温度についてやったところです。授業では、スピン系のエントロピーを求め、そのエネルギーについての偏微分から温度を求めました。そのときの話では、負の温度の領域は実際は冷たくはなく、熱力学的非平衡状態であるということに軽く触れただけでした。しかしながらとても興味があります。その3、その4期待しています。早く読みたいです。よろしくお願いします。
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記事の感想を書いて下さってありがとうございます。書いた日をみると2006年となっていて、もう2年も経ってしまうのですね。 自分の中では「面白いかもしれない」と思い記事にしてはみるものの、やっぱいたいして面白くないかも・・・・と熱が冷めてしまうことが多く、これもそういった記事の一つだったのでしょう。 だいぶ前の記事なのでその頃私がどこを目標にして4回の連載にしようと思ったのか思い出せません。 宮川さんの催促がなければ書き出すことはなかったでしょうが、もう少し詳しく説明した記事を書いてみたいと思います。 来週いっぱい仕事が忙しいのですが、再来週あたり時間を見つけられると思います。 期待しないでお待ちください。