官邸に戻り、執務室へ入ると、時折するように、掌に余るほど大きなグラスにごく小量のコニャクを注ぎ、何も考えずにあおった。肉と血がかすかに焼ける感覚。息を一つ吐く。大丈夫、頭と胴は切り離されておらず、内臓はまだ野原に広げ回されることなくこの腹にある。これほど強固な事実はない。そして、やはり時折とりつかれる思いに沈んでゆく。首のたるんだ皮膚をつまむ。

　もうじきなのではなかろうか。剣がこの胸板を貫き、首が胴を見失って転げ落ちる瞬間が、すぐそこまで来ているのではなかろうか。内閣、陸海空軍、秘書、運転手。志しだいで誰にでも権利は生まれる。それが行使されるかどうかの段階まで事態が進行していないと、どうして言い切れるだろうか。

　筆頭秘書官に促されて部屋を出る。どこへ、行くのだったろうか、と一瞬考えようとし、すぐに停止する。覚えておくのは手応えと血しぶきと叫びだけでいい。一分後にどこにいて誰と会い、何をしているか、いま考えるべきことではない。

　長い廊下の角を曲がる。カメラのフラッシュが群舞する。不安はない。何も間違っていない。墓を決めておかなければ、と思う。

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