内閣府障がい者制度改革推進会議 御中
代表 李幸宏
学生無年金障害者訴訟全国連絡会
会長 吉本哲夫
在日無年金問題関東ネットワーク
代表 田中宏
連絡先 BYK03200@nifty.ne.jp
在日無年金障害者の早期救済を求める意見書
新政権による、障がい者制度改革推進本部と同推進会議の設立に大きな感銘を 受け、強い期待を抱いております。課題山積ではありますが、当事者が少数で ある在日無年金障害者問題についても、遅滞なく取り組みを推進してくださる よう、改めて以下のようにお願い申し上げます。
障害基礎年金(第30 条四の①)は、無拠出で支給され障害者の生活の維持に 欠くべからざる極めて重要な所得保障となっています。無年金障害者問題を障 害者権利条約に照らすと、前文(i),(p),の理念に反し、第5 条の平等原則と第 28 条相当な生活水準及び社会的な保障の規定に明らかに違反しています。障害 者権利宣言にも、障害者は、経済的社会的保障を受け、相当の生活水準を保つ 権利を有するとし、その享受にいかなる例外も認めてはならないと謳われてい ます。近時、国連人権規約委員会から規約違反との勧告がなされ、2010 年4 月 7 日にも日本弁護士連合会より人権侵害性を指摘され救済措置をとるよう勧告 がなされました。
障害を負った経緯、無年金となった経緯にかかわらず包括的な無年金障害者問題 の解決を図るべきですが、並行して個別の取り組みも可能な限り進めるべきです。 過去の国籍要件によって生じた在日無年金障害者は、2004 年に制定された「特 定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律」の対象からも排除され、 附則第2 条の今後の検討事項に止まったままです。なんら合理的理由のない差別 です。抜本的解決がなされるまでの間、在日無年金障害者を対象に加え支給を開 始して下さい。
本件当事者は、1981 年12 月31 日までに20 歳到達した者であり、現在49 歳 以上です。高齢化が著しく重度障害者の平均寿命から考えても早期救済が喫緊の 課題です。所得保障における無年金障害者の問題を取り上げる専門部会において は、是非とも重要な課題として位置付け、緊急に着手して下さるようお願い申し 上げます。
〈提言の趣旨〉
包括的な無年金障害者問題の解決を進めるとともに、解決実現までの間、「特 定障害者に対する特定障害給付金の支給に関する法律」の改正において、同法 の附則第2条に基づき、在日無年金障害者の救済を早急に図って下さい。
以上
在日無年金障害者問題
■この問題の経過
1952 年4 月、対日平和条約の発効によって日本が主権回復した。その発効に先立って、日本政府は当 時の在日外国人の90%余りにあたる旧植民地出身者(以下、「在日」とする)の「日本国籍」を剥奪し 外国人とした。1959 年に制定された国民年金法には、「国籍要件」が課され、米国籍者のみを任意加入 とし、米国籍者以外の外国籍者を排除した。1982 年、難民条約批准に伴い国民年金法の「国籍要件」を 削除し、すべての外国籍者を強制加入の対象とした。その結果、1982 年1 月1 日以降に20 歳の誕生日 を迎える重度障害者は、たとえ短期の留学生であっても、日本に居住する限り、年金保険料を法定免除 され20 歳前障害者対象の無拠出制障害基礎年金(国民年金法第30 条四の①)が支給されている。
しかし、国籍要件削除時に外国籍で既に20 歳を超えていた重度障害者(現在48 歳以上)は、無年金 のまま放置されている。そのほとんどが、在日コリアンの2 世3 世であり、日本で生まれ育った者であ る。障害を負ったのが1952 年4 月以前であり、当時、日本国籍者であった者もいる。また、国籍条項 削除時に60 歳を超えていた外国籍高齢者も加入する機会がなかったため無年金となっている。無年金 障害者のほとんどの両親が無年金高齢者である。
■日本人の場合は?
当然、日本人にも国民年金法制定時に、既に高齢であった者、20 歳以上の重度障害者はいた。それら の日本人には、無拠出制の福祉年金が支給されている。沖縄の日本返還時、中国残留者の日本帰国時な どの場合にも、無年金者が生じないように、必要な経過措置が執られた。その一方で、在日の国籍要件 削除時だけは、同様の経過措置を執らなかったため、無年金者が生じた。
■今も続いている深刻な実態
2002 年の坂口試案によれば、日本においては約2 万人の在日無年金高齢者及び約5 千人の在日無年金 障害者がいると推察されている。しかし、実態調査すらされていないため、正確な当事者の数は確認で きていない。高齢者も平均寿命を超えており、障害者はさらに寿命が短いため、毎年かなりの人数が死 亡している。全国で約半数の自治体に在日外国人無年金者のための特別給付金が支給されている。実施 自治体調査では、毎年死亡による対象者減が数百人に上る。今なお、救済されない在日無年金者が現存 し、厳しい生活を強いられている。
■裁判の結果に対する厚生労働省の問題のすりかえと民主党の取組みへの期待
これまで、在日コリアン無年金障害者による裁判が3 件提訴され、3 件とも最高裁で敗訴が確定した。 平成21 年4 月27 日付け厚生労働省年金局の「年金受給権を有しない在日外国人障害者を巡る問題に係 る検討のための論点」には、「○保険料拠出を原則とする年金制度の中で、保険料拠出のなかった者に 年金制度から給付を行うことをどう考えるか。○最高裁において、国民年金創設時に国籍要件を設けた ことや国籍要件撤廃時に経過措置を設けなかったこと等について、違憲性や違法性はないとの判断が示 されている中で、更なる措置の必要性についてどう考えるか。」という記述があるが、在日無年金障害 者問題は、無拠出制年金を受給できていない者への救済を求めているのであり、論点を誤っている。ま た、「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律」によって救済された学生主婦無年金障 害者も最高裁において、同様に敗訴している。少なくとも、特定障害給付金からさえも排除することに 合理的理由はない。同法附則第2 条の速やかなる実現が嘱望される。
これまで、御党議員の熱心かつ着実なお働きのおかげで、過去2 回も救済法案が上程され、一歩一歩 解決への道程が築かれている。民主党政策INDEX にも2007 年以降連続明記されている。また、無年金 障害者問題を考える議員連盟は、御党議員が中心になってこれまでこの問題に活発に取り組んでいる。 当事者の高齢化が進み、経済環境も更に厳しくなり、一日も早い救済の実現のため政権交代に心から期 待してきた。また、この問題解決を毎年日本政府に要望している韓国政府も、政権交代による局面の打 開に大変注目している。
【 在日無年金障害者問題と障害者権利条約の関係 】
前文(i),(p),の理念に反し、第5 条の平等原則と第28 条相当な生活水準及び社会的な保障の規定に明ら かに違反しています。
< 参考 >
障害者の権利に関する条約
前文
(t) 障害者の大多数が貧困の状況下で生活している事実を強調し、また、この点に関し、貧困が障害 者に及ぼす悪影響に対処することが真に必要であることを認め、
(p) 人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的な、種族的な、原住民 としての若しくは社会的な出身、財産、出生、年齢又は他の地位に基づく複合的又は加重的な形態の差 別を受けている障害者が直面する困難な状況を憂慮し、
第五条 平等及び差別されないこと
1 締約国は、すべての者が、法律の前に又は法律に基づいて平等であり、並びにいかなる差別もなし に法律による平等の保護及び利益を受ける権利を有することを認める。
第二十八条 相当な生活水準及び社会的な保障
1 締約国は、障害者及びその家族の相当な生活水準(相当な食糧、衣類及び住居を含む。)についての 障害者の権利並びに生活条件の不断の改善についての障害者の権利を認めるものとし、障害を理由とす る差別なしにこの権利を実現することを保障し、及び促進するための適当な措置をとる。
2 締約国は、社会的な保障についての障害者の権利及び障害を理由とする差別なしにこの権利を享受 することについての障害者の権利を認めるものとし、この権利の実現を保障し、及び促進するため の適当な措置をとる。この措置には、次の措置を含む。
【 在日無年金障害者問題と障害者の権利宣言との関係 】
宣言2及び7に反しています。
< 参考 >
障害者の権利宣言
1975年12月 9日 国連総会決議3447(第30回会期) 2 障害者は、この宣言において掲げられるすべての権利を享受する。これら の権利は、いかなる例外もなく、かつ、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、 政治上若しくはその他の意見、国若しくは社会的身分、貧富、出生又は障害 者自身若しくはその家族の置かれている状況に基づく区別又は差別もなく、 すべての障害者に認められる。
7 障害者は、経済的社会的保障を受け、相当の生活水準を保つ権利を有する。 障害者は、その能力に従い、保障を受け、雇用され、または有益で生産的か つ報酬を受ける職業に従事し、労働組合に参加する権利を有する。
【 在日無年金障害者問題と条約関係整備法との関係 】
国民年金法制定時あった国籍条項は、難民条約批准に伴い削除されました。しかし、sの際、難民条 約関係整備法によって、救済せず放置することを法で定めたという事実を看過することは、障害者の権 利条約批准の際にも、同様の事態を招く恐れがあります。
< 参考 >
☆「難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律」(1981 年)
附則第五項「施行日前に生じたものに基づく同法による福祉年金不支給又は失権については、なお従前 の例による」
【 在日無年金障害者問題と特定障害給付金法との関係 】
2004 年12 月、特定障害給付金法が制定されましたが、その対象はいわゆる学生主婦無年金障害者に 限定されました。在日無年金障害者の救済は附則第2 条に止まっています。
なお、「検討」には、通常年限が明記されますが、この附則には年限がありません。検討をポーズし ているだけという、異常なまでの執念的差別を看過することは、この国に住む、すべての障害者にとっ て、全体の水準を引き下げる危惧があります。
なお、障害者権利宣言に照らせば、いかなる例外も認めてはならないと重ねて主張すべきと思われます。
< 参考 >
☆「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律」(2004 年制定)
附則(検討)第二条 日本国籍を有していなかったため障害基礎年金の受給権を有していない障害者そ の他の障害を支給事由とする年金たる給付を受けられない特定障害者以外の障害者に対する福祉的措 置については、国民年金制度の発展過程において生じた特別な事情を踏まえ、障害者の福祉に関する施 策との整合性等に十分留意しつつ、今後検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に 基づいて所要の措置が講ぜられるものとする。
勧告書
(別紙)申立人らの身上、年金の不支給の状況、生活の状況及び年金の不支給に対する心情
障害者問題と無年金障害者
― 学生無年金障害者訴訟を通して ―
東京無年金障害者をなくす会幹事
精神保健福祉士
菊池 江美子
1.無年金障害者の救済措置はとられてきたのか?― 学生無年金障害者訴訟への背景
- 1981 年国際障害者年 ⇒ 社会参加実現への気運の盛り上がりと所得保障の必要性の確認/ 無年金障害者の顕在化へ
- 1986 年障害福祉年金を障害基礎年金に引き上げ⇒ 障害年金制度が障害者の所得保障の主柱に
- 1989 年年金法改正 国会付帯決議:「学生時の障害無年金の対策等障害者の所得保障の充実について、障害者の『完全参 加と平等』を促進する見地から、今後総合的に検討すること」
- 1994 年年金法改正:国会付帯決議「無年金である障害者の所得保障については、福祉的措置を含め(すみやかに)検討 すること」※(カッコ内は参議院)
★ 無年金障害者の救済(障害者の所得保障確立)の必要性が認められ、解決すべきと約束されても、その救済措置はとられ ず、国民年金法制定後現在に至るまで40 年間放置してきたことになる
( 1998年1月集団による審査請求運動スタート 2001年7月全国9地裁に一斉提訴 30名による訴訟運動スタート)
※ 裁判の経過は、添付の「判決の経緯」を参照
2.学生無年金障害者訴訟を通して見えてきたこと
< 裁判での争点 >
①学生無年金障害者の救済を求める
学生の任意加入制度には重大な欠陥があった(学生のたった1%強のみが任意加入)。法の欠陥・不備で生じた無年金。ゆ えにその間違いを認定し救済せよ。今後同様の無年金障害者を生じないよう法改正・法整備を図れ。
②「初診日問題」の解決を求める
形式的な初診日主義に陥らず、法の趣旨に合わせ柔軟な法解釈を行い救済せよ。今後も同様の問題が生じないよう、実態 (精神障害や内部障害の疾患の特性)に応じた法の運用の適正化を図れ。
- 「国民年金法」を相手に障害者の所得保障問題の解決の意義を訴えたが、「保険原理」の壁をうち壊すことができなかった
- 社会保険としての年金制度に障害者の所得保障問題の解決のすべてを求めることの限界が見えた
- 裁判の成果も活かし、過渡的な救済措置(初診日認定の運用の確実な見直し,「特別障害給付金」の支給対象拡大・支給額 のアップ・提出書類の簡略化など申請手続きの見直しなど)を急ぐことと同時に、障害者にとっての所得保障システムの確 立への本格的な着手を急ぐこと!
3.無年金障害者問題の意味すること
★ 障害者施策において欠けてはならない視点とは
日本の多くの障害者像(実態)は、『稼得収入等での経済的自立は困難。その上無年金状態で、家族扶養に依存せざるを得 ない。このような不安定な経済基盤=生活基盤のなかで、諸サービスにつながれず、「自立」に主体的・意欲的に取り組めな いで社会的に孤立している。』
← あくまでもこれをモデルに!
★ プライドを持って「障害」と共存しながらの社会的な成長と社会の中での自分らしい「自立」への取り組み=当たり前の権 利の享受と義務の行使(⇒社会的存在価値)を可能とするには生活の安定(←所得保障)が基盤にあることが前提条件!
★ それでも、これ以上「無年金障害者問題」を放置するのか?!
※当面する緊急の課題・・・「年金制度の国籍要件を完全撤廃させる全国連絡会」との共同で「特定障害者に対する特別障害給 付金」支給対象拡大の早期実現を求めて
学生無年金障害者裁判一覧
地裁名 | 地裁判決 | 高裁判決 | 最高裁の状況 |
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①札幌地裁 | 2005.7.4 敗訴 (身体3名精神1名) |
札幌高裁 2007.3.30 敗訴 |
最高裁 2008.10.31 敗訴 |
②盛岡地裁 | 2006.3.27 勝訴 (精神1名) |
仙台高裁 2007.2.26 勝訴 |
最高裁 2008.10.15 勝訴 |
③東京地裁 (身体) |
2004.3.24 勝訴 (身体3名) うち1名勝訴確定 |
東京高裁 2005.3.25 敗訴 |
最高裁 2007.9.28 敗訴 |
④東京地裁 (精神) |
2006.10.27 勝訴 (精神2名) |
東京高裁 2006.10.26 敗訴(うち1名) 東京高裁 2006.11.29 勝訴(うち1名) |
最高裁 2008.10.10 敗訴 |
⑤新潟地裁 | 2004.10.28 勝訴 (身体2名) |
東京高裁 2005.9.15 敗訴 |
最高裁 2007.9.28 敗訴 |
⑥京都地裁 | 2005.5.18 敗訴 (身体1名精神1名) |
大阪高裁 2007.2.27 敗訴 |
最高裁 2008.10.6 敗訴 |
⑦大阪地裁 | 2006.1.20 敗訴 (身体8名精神2名) |
大阪高裁 2008.4.25 敗訴 |
最高裁 2009.3.17 敗訴 |
⑧岡山地裁 | 2005.8.23 敗訴 (身体1名) |
広島高裁 2006.10.19 敗訴 |
最高裁 2008.10.6 敗訴 |
⑨広島地裁 | 2006.3.3 勝訴 (身体2名) |
広島高裁 2006.2.22 敗訴 |
最高裁 2007.10.9 敗訴 |
⑩福岡地裁 | 2006.4.22 勝訴 (精神1名勝訴確定) |
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