■本吉さんにお聞きします!番組終了と“石塚ホレイショ”の誕生について ――まずは、「CSI:マイアミ」の終了についてどう思われますか? 本吉:「CSI:マイアミ」は類い希な番組だと思うんです。スピンオフなので、ベガスとの差別化を図ろうとした結果なのかもしれませんが、「CSI:マイアミ」はバカバカしいところに惜しみなくお金をかけますし、科学捜査モノでありながら科学捜査そっちのけでストーリーをグイグイ引っ張っていくスゴイ番組です(笑)。もうこんな番組には二度と巡り会えないんじゃないかと感じています。楽しみながら、誇りを持って番組作りをしてきたので、終了が残念でなりません。 ――“石塚ホレイショ”がここまで化けると予想していましたか? 本吉:はい、予想してました!(一同笑い) 石塚:当初はホレイショも普通の刑事に見えたんです。ところが、第2シーズンの#4「餌食」で、「俺は繊維の神様!」なんて自ら“神”になっちゃいまして(笑)。これ以降、僕もホレイショを “神”という視点で見るようになりました。まさにこれが、ホレイショというキャラクターの役作りの原点ですね。 ■ホレイショって本当にぶっ飛んだキャラクターです! ――ホレイショってどんなところが“神”なんでしょうか? 阪口:僕が参加したのは第7シーズンからなので、すでに“神”になったホレイショしか知らないわけですが(笑)、参加当初は、人を殺すことにまったく躊躇しないホレイショの姿に驚きました。とんでもない警察官がいたもんだなと思いましたよ。 浪川:ホレイショの言ったことはすべて現実になる。これはまさに“神”ですよね。時空を超えられるホレイショは、もはや人間じゃないです。人間界になじんでいるのが不思議なくらいです(笑)。今日、収録したエピソードでも、ホレイショは到底人間業とは思えない救出劇を当たり前のように繰り広げてました(笑)。 石塚:ホレイショは千里眼なんですよ。みんなが必死で手がかりを探しているというのに、突如現れて「う〜ん?これは〜?」と決定的証拠を指し示すんですから。 阪口:それって、裏を返せば、マイアミCSIチームが無能だってことになりません!?(一同笑い) ――ホレイショの行動には矛盾もありますが、吹替版で補おうという考えはなかったのでしょうか? 本吉:「ホレイショだから、ま、いいか?」って感じですね(笑)。とにかくホレイショっておかしいんですよ(笑)。ホレイショ役のデヴィッド・カルーソさんの演技も本当に独特で、原音のセリフにも“妙な溜め”があるんです。だから、ホレイショに普通の日本語のセリフをアテると不自然になっちゃうんです。 ■“プチホレイショ”と化しているウルフもおかしなキャラです ――ウルフというキャラクターも面白いですよね? 石塚:キャラクター作りという点では、浪川君もウルフをずいぶん作り込んできたんじゃ? 浪川:一時期は徹底的に嫌われましたよね、ウルフ。(一同笑い) 本吉:ウルフの面白さが突出し始めたのは、ホレイショの「燃えろ、全部燃えちまえ!」という名ゼリフが飛び出した、第5シーズンの#6「危機一髪」のエピソードだと思います。この中で、サンテリアという宗教の呪いに怯えたウルフが、「呪いだ! アレックス、呪いだよ〜!!」と本気でビビるんです。普段は虚勢を張って生意気なことばかり言っているのに、あの時の小心者ぶりといったら(笑)。このシーンで、ウルフっておかしなキャラだと確信したんです。このままいけば、いつかきっとみんなに好かれるキャラになるだろうって。 浪川:当時、アレックスだけが唯一ウルフの話を聞いてくれる相手だったんです(笑)。 ――ウルフって、痛い目に遭ってもオイシイところをさらっていくキャラですよね? 浪川:そうなんですよね。ネイルガンで撃たれたり、拷問されたり、竜巻に吹き飛ばされたり。竜巻の時は、さすがに「死んだか!?」と思いました(笑)。 ――浪川さんは初見でウルフ役を演じているという噂ですが? 浪川:初見じゃないですよ! 何を言ってるんですか! 家ですり減るほどDVDを見て練習してから収録に臨んでいます! 阪口:いや、アフレコの最中、マイクに拾われないくらいの小さな声で「誰が犯人なの? どうしてこうなったの?」って僕に聞いてきますから(笑)。 浪川:それは、肝心な部分だけは、台本を指で押さえて見ないようにしてるからです!(笑) ■カリーはブレないキャラ!? デルコはブレブレだけど愛されキャラ!? ――カリーもウルフに負けず劣らず見た目が変化していますよね? 宮島:確かにカリーも、第1シーズンから見るとずいぶん顔や体型が変わりましたね。カリーに限らず女性キャラは、「あ、お直しした!?」って疑いたくなる時期があったり(笑)。 本吉:ずいぶんシーズンを重ねてからですが、カリー役のエミリー・プロクターさんが、捜査官の役だからあえて感情を出さないように演じていると話すのを聞いて、納得しましたね。「表情が変わらないのは、役作りの一環なんだ」って。 宮島:そう、本当に表情が変わらないんです。だから、どうしても棒読みっぽくなりますよ(笑)。 自分の演技が下手なのか!? 石塚:表情もそうだけれど、キャラクターとして立ち位置が一番ブレていないのもカリーだね。デルコなんて、ブレるブレないどころか、しばらく消えたし(笑)。 ――そうそう、デルコには出戻りの経験がありますよね? 阪口:そうですよ! 第8シーズンなんて、デルコは半分くらい登場してませんでしたから(笑)。カリーと違ってデルコはブレブレです。 本吉:そうそう。ほかの番組に(デルコ役のアダム・ロドリゲスが)出稼ぎに行ったりね(笑)。 石塚:でも、戻ってくると言うか、戻って来られるところがスゴイよね。おそらく、ホレイショ役のデヴィッドさんに好かれていたんだと思いますよ。
デヴィッドさんが来日した時、「もう一人連れてくるなら誰ですか?」ってご本人にお聞きしたんです。カリーと答えるかと思ったんですが、デヴィッドさんの返答は「デルコ」。かなりデルコを気に入ってるんだなと感じました。 ■ナタリアは本当にキレイになりました! ――ナタリアはあまり変わっていない気がしますが。 藤:いや、ナタリアも結構変わったと思います。最初出てきた時は髪もバサバサで、正直言って今よりもオバサンっぽかった(笑)。 阪口:そうですか? 僕が参加した第7シーズンからで言えば、一番変わっていないのがナタリアだと思いますけど。 藤:確かに第7シーズンくらいからは安定してきたかも。撮影のライティング効果も、以前より今の方が格段に良くなってますし(笑)。みんなキレイに映るようになったと思います。 宮島:カリーもぼんやりした映りがキレイ(笑)。 本吉:ナタリアは捜査なのに白いパンツを履くし、派手なワンピースを着ていたこともありましたよね。あれには度肝を抜かれました。 藤:一時はマジシャン(?)みたいな服装の時もあった気が……。 ■印象に残るエピソード&キャラクターについても話しましょう! ――印象に残っているエピソードやキャラクターは? 本吉:第4シーズンの最終話「止まった時間[後編]」ですね。ホレイショの妻マリソルの殺害を指示したアントニオ・リアズ役で若本規夫さん、パーク捜査官役で小林清志さんがゲストで来てくださって。あのアフレコ現場は壮絶でした。若本さんと小林さんの共演には興奮しましたし、感激しました。 浪川:あの時、チーフ(運昇さん)が気を遣っているところを初めて見ました(笑)。犯人役相手に「ここにどうぞ」って席を譲ったり(笑)。 阪口:本吉さん、脱獄囚のジャック・トラー役で立木文彦さんがゲスト出演された時(第9シーズンの#22「非常事態発生」)もテンションが上がってましたよね? 本吉:立木さんの大ファンなんで(笑)。第9シーズンの最終話だったので、立木さんには打ち上げにもお付き合いいただいて。この時も本当に嬉しかったですね。 浪川:何か“エピソード”や“キャラクター”じゃなくて、ボイスキャストの話になってるし(笑)。 藤:大塚芳忠さんが演じたロン・サリスも印象深いですよね。 石塚:ロン・サリスと言えば、ジュリアも濃いキャラクターでしたね。ジュリアとのシーンはやっていて面白かったです。ジュリア役の幸田直子さんも大好きですし。ホレイショ的にはマリソルが運命の人なんでしょうが。 阪口:僕は今シーズンの初回「私は死なない」に登場したランディ・ノース(吹替は飛田展男さん)が印象に残っています。あのエピソードは、本当に心に痛かった……。「ランディに救いはないのか?」って。 宮島:そうそう、「知能化弾」はいいエピソードでした。思わず泣きそうになるくらい。「CSI:マイアミ」ではないほかの番組を見ているかのような……。 阪口:そう! いい話過ぎて、もはや「CSI:マイアミ」じゃない! みたいな(笑)。 浪川:あ、思い出しました、印象に残ったキャラ。今シーズンの#10「裏庭」に出てきたデラレンゾ! 阪口:それって、キャラクターっていうより“名前が”でしょ(笑)。「デラレンゾ、出られなかった」みたいなアドリブを自分で言って自分で笑っちゃいましたよ。会話相手のウルフ(浪川さん)を笑わせるつもりだったんですが、彼は全然動じなくて。完全に僕の負けでした(笑)。 ――日本語版ならではの“隠れキャラ”がいるって噂がありますが? 浪川:“隠れキャラ”、確かにいます! ■「CSI:マイアミ」の吹替に欠かせない“警察無線”にはロマンがあります! ――ガヤだけでなく、運昇さんが無線役(警察無線)をされたこともありましたよね? 本吉:1回だけありましたね。シーズン7。「是非やらせてくれ」と運昇さんがおっしゃったので。 阪口:確か何パターンも演じてましたよね? 某アニメで演じている博士の声のパターンとか(笑)。 本吉:そうそう! ミキサーは「こんなの使えない!」って真剣に怒ってました(笑)。 石塚:いやあ、無線って素晴らしいですよ。無線が入るとものすごく臨場感が出る。あれに命を賭けているメンバーもいて「無線大賞」を決めて表彰したこともあったくらいです。 本吉:実は、無線のセリフは細かく決めていない場合もあるんです。そんな時は無線を演じる役者さんが自分でセリフを考えてくるんですが、その内容がとても面白くて。 石塚:マイアミの地図を買ってきて「◯◯通りで◯◯発生。◯◯に急行してください」なんてセリフを全部自分で考えるわけだから本格的ですよ。 本吉:無線同士で愛の告白をしたこともあったんです!「結婚してください」「了解!」って(笑)。結構前のシーズンですけど、OAにちゃんと使いましたよ。 宮島:でも、無線役の役者さんも辛いですよ。せっかく時間をかけて考えてきても、面白くないと「それつまんない」って本吉さんにバッサリと切り捨てられますから(笑)。 本吉:だから無線役の方は何パターンも考えてくるわけですよ。「これはやり過ぎ」って却下すると、まったく毛色の違うパターンを聞かせてくる。これは職人技です。“無線”は「CSI:マイアミ」の伝統芸ですね。 ――レギュラー陣でも無線役をされることはありますか? 阪口:運昇さん以外は、みんなほとんど毎回やってますよ。僕は比較的少ないですけど。 宮島:そう言えば、今日のアフレコでの“浪川無線”も妙に気合い入ってた! あんな浪川君、ほかの仕事でも見たことないくらい(笑)。 阪口:レギュラー陣で一番無線がうまいのは藤さんでしょうね。 ■忘れられない名場面、そこには必ずホレイショがいる! ――これまでで、特に忘れられない名場面はありますか? 本吉:第3シーズンの#7「津波大パニック 無法地帯」のワンシーンですね。あのエピソードは何から何まで素晴らしいんですが、終盤、ホテル爆破の情報を入手したホレイショが、中に囚われた男性の救出に向かうんシーンがあるんです。 浪川:あの時、爆弾は待ってくれるものなんだって初めて知りました(笑)。 阪口:爆弾を待たせられるんですよね。何せホレイショは“神”だから(笑)。 浪川:ホレイショは元爆発物処理班なのに、爆発が起きそうな現場に行っても、爆弾の解除はせずに、やたらと女性を助けるんですよね。ホレイショは言うなれば“女性処理班”です(笑)。 石塚:僕も最初は、マニアックな爆発物処理のスキルを見せつけてくれる、そんなキャラだとホレイショのことを思ってたんですけどね。それがいつの間にやら……。 阪口:今や銃撃戦専門ですよね。 石塚:いつからホレイショは人を殺すようになったんでしょうね。今となっては、「今シーズンは何人殺した?」ってな具合で(笑)。 ――第9シーズンは、過激なホレイショの姿が満載でしたが。 浪川:特に第9シーズンのホレイショはすさんでましたよね。相手の行く手を阻もうと車で轢いたり、トレーラーから投げ飛ばしたり、車内に閉じ込めて拷問(?)したり。 石塚:あのシーズンは、視聴者の方からも「やり過ぎ」だって言われました。僕は「あのシーズンは凶悪犯が多かったから」って言い訳して回ってました(笑)。脱獄囚が何人もいたから、ホレイショも強硬な手に出るしかなかったんだって。 浪川:それにしても、ホレイショがやってることって、全然科学捜査と関係ないですよね? 阪口:“神”はめったに白衣を着ないですからね(笑)。 本吉:ホレイショの暴走と言えば、第5シーズンの#9「自爆」では、道路封鎖を破って原子力発電所に向かっているトラックを銃で撃って止めるという荒技もありました。本当にあれは科学捜査の域を超えてましたね。なぜホレイショがやる? って話で(笑)。 ――ホレイショの振る舞いの様式美だけでも、名場面になりますよね? 本吉:そうですね。仁王立ちとか、王子座りとか、サングラスの着け外しとか、爆発が起きても背を向けたまま決して振り返らないとか(笑)。確かに、ホレイショの様式美だけでも名場面が出来上がってしまうのが「CSI:マイアミ」です。 石塚:ホレイショの様式美が、女性誌の「CREA」で取り上げられたこともありました。あれには正直言って驚きましたね。「ホレイショのこと、カッコイイって本気で思う人もいるんだろうか?」って。 阪口:日本には時代劇の文化があるから、ホレイショの様式美も受け入れられやすいのかもしれませんね。 ■ファイナル・シーズンの見どころ、ファンに向けてのメッセージ ――ファイナル・シーズンの見どころは? 本吉:ファイナル・シーズンですから、いろいろな楽しみ方をしてもらいたいです。「こんなのあり得ない!」って突っ込みながら見るも良し、ホレイショの勇姿をかみしめるのも良し。ホレイショの勇姿と言えば、第17話(デルコ役のアダム・ロドリゲスの監督エピソード)のラストシーンが素晴らしいです。様式美とかそういうことじゃなく、純粋にホレイショがカッコイイ。グッときました。 阪口:先ほどもお話ししましたが、ファイナル・シーズンは良質なエピソードが多いと思います。どのエピソードにも、加害者・被害者どちらの視点で見ても共感できる点や同情できる点があり、スッと感情移入できるんです。僕はこのファイナル・シーズン、好きですね。 藤:#11「地獄へ堕ちろ」には、ナタリア役のエヴァ・ラ・ルーさんの娘さんがチラっと出演しているんです。ナタリアとしては、母娘共演を果たしたことになりますし、第9シーズンの危険な日々と比べて落ち着いた生活を送っていますし、ファイナル・シーズンは特に楽しいシーズンだったんじゃないかと思います。 ――番組の終了につき、何かメッセージはありますか? 本吉:とにかく、19話で終わってしまうのが本当に残念です。まだ解決していない事件もあるし、シリーズの完結を意識した作りになっていないところもありますし。カイルやジュリアなど、過去の登場人物のその後ももっと見てみたかったですね。 浪川:原音に対して忠実に、できる限り向こうの役者さんに合わせるのが基本という吹替の風潮の中で、「吹替版ならではの楽しさを追求したい」「向こうの役者さんの演技を超えた演技をしてみたい」と思わせてくれたのが「CSI:マイアミ」でした。この番組のような吹替版の作り方は、非常に貴重なんじゃないでしょうか。僕も吹替キャストとして、さまざまな挑戦をさせてもらいました。これほど、思い切った吹替をやらせてもらえる番組はなかなかないと思います。だからこそ、最後まで視聴者の方に印象に残る吹替版をお届けできるようがんばっていきたいです。是非みなさんには、「CSI:マイアミ」の吹替版の功績を後世に語り継いでいただきたいです。 宮島:番組は終わってしまいますが、ファンのみなさんの力が集まれば、もしかすると番組の復活もあり得るんじゃないかと思ってるんです。ホレイショは死んでませんし(笑)。 藤:私も“マイアミの奇跡”が起きて、番組が復活してくれることを願っています。 石塚:僕はある意味、10年の区切りで良かったんじゃないかと思うところもあります。惜しまれて辞めるのもいいかな、と。アニメじゃありませんから、演じる向こうの役者さんたちも歳をとります。役者として次のステップに移行する時期としても、10年は一つの節目になるような気がします。 いかがでしたか? ディレクター、そして吹替キャストのみなさんが、どれだけ「CSI:マイアミ」とホレイショをはじめとするキャラクターたちに愛情を注いできたのか、それが存分に伝わってくるお話をたくさんうかがうことができました。 |